肺は、呼吸を通じて酸素を取り入れて二酸化炭素を排出する役割を担っており、胸部左右にひとつずつあり、心臓が左側にあるため、左肺は右肺よりも少し小さい構造になっています。
肺に形成される肺がんは、肺そのものから発生したタイプで悪性腫瘍のものを原発性肺がんといい、通常肺がんといえば原発性肺がんを指しています。
肺がんは、早期発見することができれば手術の完治が期待できる治療法ですが、発見された時には進行している場合も多く、手術以外に放射線治療や抗がん剤治療、さらにこれらを組み合わせた治療が選択されます。
今回は、肺がんの発症原因や主な症状、受診目安や検査、治療方法などについてお話しします。
肺がんの初期症状
肺がんは、早期には症状が見られないことも多く、がんが進行して初めて症状が出ることもあります。主な症状としては、咳や痰、血痰(痰に血が混じる)、胸の痛み、動いたときの息苦しさや動悸、発熱などが挙げられます。
ただし、いずれの症状も肺炎や気管支炎などの呼吸器の病気にも共通するものであり、「この症状があれば必ず肺がん」と断定できる症状はありません。
また、このように症状がないまま進行し、医療機関での定期的な検診や、ほかの病気の検査で偶然見つかることもあります。
万が一、腫瘍が脳や骨などに転移すると、頭痛やふらつき、背中や肩の痛みなどの症状が表れることもあります。
肺がんは胃がんや大腸がん、あるいは乳がんなどと比較して早期発見が難しく、発見された際にはすでにかなり進行している状況であることが多いため、定期的な検査と早期発見が重要です。
肺がんは、腫瘍が認められる患側はもちろんのこと、その反対側の肺実質やその他の臓器である脳、骨、肝臓、副腎、リンパ節などに転移しやすいと考えられています。
転移形態は、肺で構成されたがん細胞が血液やリンパ液の循環に乗じて、他臓器に移動して増殖するために引き起こされますが、特に肺では多くの血管やリンパ管が構造的に張りめぐらされて存在するため、悪性腫瘍が他の臓器に波及しやすいと考えられます。
どのぐらいの方が肺がんになる?
肺がんの原因
日本人の2人にひとりががんになるといわれる時代ですが、年間約80,000人が肺がんになり70,000人が死亡する、がんの中で最も死亡数が多い病気です1)。肺がんは一般的に喫煙歴と深い関係にあることが多く、喫煙は肺がんの発症率を高めます。
肺がんは、通常では肺細胞の遺伝子に傷がつくことで発生すると考えられており、細胞に傷をつける原因はさまざまですが、最大の原因としてたばこの影響が指摘されています。
喫煙者は非喫煙者と比べて男性で約4倍、女性では3倍近く肺がんになりやすいといわれており、喫煙行為を始めた年齢が若ければ若いほど、また喫煙量が多ければ多いほど肺がんを発症するリスクが高くなります。
大気汚染
呼吸器系悪性腫瘍のひとつである肺がんの原因はタバコだけではなく、いわゆるPM10やPM2.5などを始めとする大気汚染物質もその発症リスクになると考えられています。
職業的に石綿などに曝露せざるを得ない状況や大気汚染が肺がんを発生するリスクを高めるといわれていて、世界保健機関によると、年間でおよそ120万人の死亡が大気汚染という原因が影響して肺がんが引き起こされていると推測されています。
職場による汚染
職場での受動喫煙(周囲に流れるたばこの煙を吸うこと)も肺がんのリスクを2~3割程度高めることが知られてきました。
実際のところ、職場や両親、兄弟、近い親戚などに肺がん発症者がいると、本人も肺がんを罹患する危険性が高くなる理由は解明されていません。
例えば、家族の誰かが喫煙していると他の家族もたばこの煙を吸う機会が多くなる、あるいは同居者や職場同僚などの受動喫煙などの影響もあって同様の生活習慣を共有していると肺がん発症リスクが高まるといわれています。
肺がんの治療方法
肺がんの受診目安とは?
肺がんで最も多い症状は咳と痰です。
原因がわからない咳や痰が2週間以上続く場合、あるいは血痰が出る場合、発熱が5日以上続く場合には、早めに身近にある呼吸器内科など専門医療機関を受診しましょう。
長く続く咳や血痰などの気になる症状がない場合も定期的に健康診断を受けることが大切です。
長引く咳(2週間以上)や血痰、5日以上続く発熱などがある以外にも、いつもと違う体調の異変に気づいたら適切なタイミングで専門医療機関を受診するようにしましょう。
肺がんの検査とは?
肺がんが疑われるときは、まず、胸部X線検査を行い、明らかな異常が見られた場合には胸部CT検査を行い、がんが疑われる病変の有無や場所を調べます。
これらの検査で異常が見つかった場合には、肺がんが疑われる部位から細胞や組織を採取する病理検査を行い、がんの場合はどのような種類のがんなのかについての診断を確定します。
組織や細胞を採取するために最も多く行われているのは気管支鏡検査です。時には、経皮的針生検や胸腔鏡検査などを行うこともあります。胸部CT検査で見つかった病変が小さく、病理検査が難しい場合には、経過観察になることもあります。
また、がんの病期や広がりを調べるために、胸腹部の造影CT検査や脳のMRI検査、PET検査、骨シンチグラフィなどを行いますが、実際にどの検査をどのタイミングで行うかは、必要に応じて担当医が判断することになります。
肺がんはどのような治療をしますか?
肺がんに対する治療方法を決定する際には、その組織型やがんの進行度(ステージ)、全身状態、年齢、合併症などを総合的に検討します。
手術治療を行う適応は、Ⅰ期、Ⅱ期の非小細胞肺がん、あるいはⅠ期、ⅡA期の小細胞肺がんという風に比較的早期のがん病巣が対象とされており、手術によって悪性腫瘍を切除しきることができると判断された場合に実施されます。
実際に、手術ができるかどうかについては、術前の全身状態をいろいろな検査結果に基づいて評価し、術後の順調な回復を目指すために術前には1ヵ月以上の禁煙が指示されます。
これまでの一般的な手術方法としては、胸部の皮膚表面を20cm程度切開して、肋骨間からアプローチする開胸手術が実施されてきましたが、近年では胸腔鏡を挿入してモニター画面を見ながら進める低侵襲手術が広く普及しています。
また手術をしない方法として放射線治療があり、がん細胞に放射線を当てることにより病巣を消滅させる効果がある治療法です。がん自体の進行抑制として積極的に施行されるケースもあれば、末期がんに伴う身体症状の緩和を目的として実施される場合もあります。
また身体が治療に耐えられる程良好で、抗がん薬を投与できると判断される場合には、放射線治療と同時に化学療法を併用して実施することがあります。
この場合には、放射線治療と抗がん薬治療を同時期に施行したほうが、時期を分けて使用するよりも治療効果が上がると考えられていますが、急性の副作用が出て治療を継続できない状態になる可能性も指摘されています。
薬物治療では、薬剤を点滴や内服で体内に投与して、がんの増殖を抑制して病巣進展を遅らせる効果を期待して行います。
体内に投与された薬物は全身を循環するので、肺実質以外の他の臓器に転移を認める際にも効果的ですし、手術や放射線治療などと組み合わせてがんの再発や転移を予防することを目的として実施されるケースもあります。
その治療効果は、X線検査やCT検査などの画像検査、あるいは簡便に血液検査で判定できる腫瘍マーカーなどを測定して判定することが多いです。
通常では、肺がんの薬物療法で主に投与される薬剤としては、大きく分類すると細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬が知られています。
現実的に、どの薬剤を実際に投与するかは肺がんの組織分類、病期、全身状態などを総合的に考慮して個々の背景によって判断されることになります。
肺がんの症状が改善しない場合は、呼吸器内科専門医に相談しましょう
肺がんは、早期発見により充分に治療が可能な病気です。
万が一、検診や人間ドックで肺がんの可能性を疑われた場合は、可能な限り早期的に精密検査を受けることをおすすめします。
肺がんでは、慢性的な咳嗽、痰(特に血痰)、胸痛、呼吸困難などの症状が認められることが知られていますので、このような症状を自覚した場合には早期的に呼吸器内科専門医を受診して、精密検査を受けるように相談しましょう。
今回の記事の情報が参考になれば幸いです。
【引用文献】
1)一般社団法人日本呼吸器学会HP|呼吸器の病気(肺がん)
DOI https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/e/e-01.html