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東洋医学の原典 『黄帝内経』は健康で元気な人間生活を実現したいという強い願いの歴史

東洋医学の原典 『黄帝内経』は健康で元気な人間生活を実現したいという強い願いの歴史
瀬戸 郁保 鍼灸師・登録販売者・国際中医師

執筆者
瀬戸 郁保 鍼灸師・登録販売者・国際中医師

1970年神奈川県箱根町出身。青山学院大学経営学部卒業後、日本鍼灸理療専門学校にて学び、鍼灸師・按摩指圧マッサージ師免許を取得。さらに北京中医薬大学日本校(現・日本中医学院)で中医学・漢方薬を学び、国際中医師を取得。2004年東京の表参道に源保堂鍼灸院を開院し、その後漢方薬店薬戸金堂も併設。『黄帝内経』『難経』などの古医書を源流にした古典中医鍼灸を追究しながら、併せて漢方薬や気功など、東洋医学・中医学を幅広く研究し、開業以来多くの患者様のからだとこころの健康をサポートしてきている。さらに現在は東洋遊人会を主宰し、後進の指導にもあたっている。(株)薬戸金堂の代表取締役。著書に『長生きをしたければ、「親指」で歩きなさい』(学研)がある。

これまで東洋医学・中医学のお話をさまざまな角度からしてきましたが、その中でよく引用している書物の名前に、『黄帝内経』というものが多くあったと思います。この『黄帝内経』は、東洋医学・中医学の原典ともいえる書物で、ここが東洋医学・中医学の出発点になっています。『セゾンくらしの大研究』を読まれている読者の方々の中には、東洋医学・中医学に興味を持っていて、私が書いている記事だけではなく、いろんなところで『黄帝内経』が引用されているのを見てきたことと思います。

これほどまでに『黄帝内経』が引用されているのは、現代にも十二分に通用する価値があるばかりではなく、もっともっと深掘りすることでさらに現代の私たちの生活に活かされるべき内容があるということにその根拠があります。古来から続く私たちの生活や身体そのものは、大きく変わることなく、現代にも養生のヒントがたくさんあるからなのであります。単に古いというその希少性だけではなく、生きた生活の智慧の宝庫だからこそ、『黄帝内経』は今日も活用されているのです。 

読者の方からも、『黄帝内経』とは何ですか?という質問も多いようなので、ここで改めて『黄帝内経』についてより詳しくお話をしてみたいと思います。

『黄帝内経』はいつ、どこで、誰が書いたもの?

『黄帝内経』はいつ、どこで、誰が書いたもの?

まず、『黄帝内経』が書かれた場所ですが、これは古代中国ということになります。東洋医学については、以前書いたものがありますのでそちらも参考にしてくだされば、よりわかると思います。 

そして次に書かれた時代です。

『黄帝内経』という書物の名前が最初に出てきたのは、前漢時代の『七略』という書物の中といわれていますが、残念ながらこの『七略』自体は現存していません。そこから時代が降って後漢時代になって著された『漢書』の中にも『黄帝内経』の名が出てくるのですが、これは現存する証拠のひとつとなっています。そういったことから考えてみると、『黄帝内経』が書かれた時代は、今からおよそ2000年前と推定されています。2000年前というと、日本ではまだ弥生時代ですが、それと比較するとその古代中国の成熟ぶりがわかるかと思います。その時代に、すでに医学というものを体系化しようとしていたことにも驚嘆しますが、そしてさらに、その記述内容が現在にも通用するというところがさらなる驚きを増しているのではないかと思います。 

そして、次に誰が書いたのか?というと、書名にある「黄帝」が著したということになっているのですが、これは黄帝という名前を借りただけで、一人の人物が書いたものではないと推測されています。記述の仕方、文章の構成などから、世代を越えて、何年もの間に、何人もの医家達が治験を積み上げながら書き足していったものと考えられています。

「黄帝」とは?

「黄帝」とは?

『黄帝内経』は、黄帝とその数人の重臣医官との問答形式で書かれています。そこで、そのスタイルから黄帝が著したものという意味が込められて、『黄帝内経』という名前になりました。

前述したように、黄帝が一人で書いたものではないのですが、では、『黄帝内経』の「黄帝」とは、実在の人物なのでしょうか?これには諸説あります。実物の人物であったという説もありますが、しかし、それよりも、もっと大きな意味での中華民族の始祖、開祖のことを指しているというのが定説になっています。

黄帝の姿形は人間なのですが、人間よりも格が高く、古代中国の君主といっていい存在で、弓矢などの道具を発明したり、東洋医学の骨子を作ったともされています。某大手製薬会社から出ている栄養ドリンクに、「○○○○黄帝液」という、「黄帝」の名前が冠せられたものがありますが、これは、この商品に漢方薬に使われる生薬が含まれていることから、この黄帝にあやかったものであります。

『黄帝内経』には二種類ある?

本やインターネットから引用するときには、『黄帝内経』と一言でまとめてしまいますが、実は、『黄帝内経』は二つの系統の書物に別れています。その2つの系統とは、『素問(そもん』と『霊枢(れいすう)』です。


『素問』は身体の成り立ち(東洋医学の生理学・解剖学)や自然界と身体との関係、養生のお話、病気のことなど、主に身体と疾病に関係することが網羅されています。

一方の『霊枢』は、『素問』よりも臨床的な内容が多くなり、『素問』に比べると鍼の話も多くあります。

『黄帝内経』は、基礎医学的なことは『素問』で学び、より実践的な内容を『霊枢』で学んでいくという構成にあります。つまり、この2つの『素問』と『霊枢』の両方をマスターすると、東洋医学の体系を身につけることができるということになります。一般の方が読むインターネットの記事でここまで細かく分ける必要はありませんが、より正確を期すために分ける場合もあります。

『素問』と『霊枢」は、それぞれ9巻ずつあります。そして、その9巻の一巻一巻にはそれぞれ9編の章に分かれています。これは、古来中国から由来する数にまつわるお話と関係します。

古来から現代に至るまで、中国では最高の数字が9になります。こういった背景から、「9」という数字には、永遠という意味もあるようです。現代でも、9月9日は重陽の節句と称して、一年の中で最もめでたい日のひとつとなります。

もうお分かりかと思いますが、『黄帝内経』の『素問』と『霊枢』はそれぞれに9巻で9編ありますので、とても価値がある古医書であるという意味が込められているわけです。さらに、9巻×9編=81編となりますが、9がかけ合わさっている81はとても強力な数と考えられています。

『黄帝内経』の写本は日本にある?

『黄帝内経』の写本は日本にある?

前述してきたように、『黄帝内経』は2000年も前に著された総合医学書です。おおよそ完成を迎えるまでに、多くの人達の手によって受け継がれ、改訂されながら続いてきました。しかし、いくら慎重に、大切にしてきたとはいえ、当初は紙がなく、細い竹に書かれていましたので、それらが伝承される間には、散逸したり、順番がバラバラになったりと、さまざまな困難がありました。それでも、中国の王朝は医学の書物をとても大事にしていたので、その後の王朝において、国の政策として完成版を制作してきました。特に宋の時代に本格的にまとめられたものが今日では定番となっています。 

実は、『黄帝内経』の伝承について、日本が登場してきます。

この『黄帝内経』の解説書で最も古いもので、『黄帝内経太素』というものがあります。隋・唐の時代の医家である楊上善(ようじょうぜん)が解説したものですので、600年代に書かれたと推定されています。残念ながらこの『黄帝内経太素』は、中国本土では失われていました。

ところが、なんと、この『黄帝内経太素』の写本が、19世紀に京都の仁和寺で発見されたのです。東洋医学・中医学発祥の地である中国で失われた書物が、巡り巡って日本にあるというのはとても奇跡的なことではないかと思います。この貴重性から1952年には仁和寺所蔵の『黄帝内経太素』は国宝に指定されています。

結び

東洋医学・中医学の原典である『黄帝内経』は、さまざまな歴史の洗礼を浴びながら、今日まで受け継がれてきました。これは、多くの人々が病に苦しむ中で、多くの医家達が、なんとか健康で元気な人間生活を実現したいという強い願いの歴史であります。そしてまた、歴代の中国王朝が医学を尊んできたこと、それが人民を治める皇帝の役割でもあったという証左でもあります。

成熟した現代の文明社会において、高血圧や糖尿病、脂質異常といった生活習慣病が増えてきていますが、これらは私たちの日々の生活の不具合によって生じているものです。それだけではく、がんや認知症といったものも、私たちの日常生活や精神活動の乱れがその原因の根底にあるといわれています。そういった中で、現代医学ではカバーしきれない範囲が広がり、ここ数年ますます東洋医学・中医学が見直されてきています。それによって、『黄帝内経』の基本に根ざした生活・暮らしが活かされるようになってきています。この傾向は、これからさらに続くと思われ、それとともに古代に書かれた『黄帝内経』の価値が注目されてくると思います。

また、『黄帝内経』に著された東洋医学・中医学の内容は、科学的にも証明されつつあり、まさに“温故知新”で東洋医学・中医学も前進しています。今後も『黄帝内経』を原点にした東洋医学・中医学に注目していただき、それを実践していただき、健康で明るい人生を送っていただきたいと願っています。

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