建設業における職人の人手不足は年々深刻になっています。しかし、具体的になぜ人手が不足しているのか、今後取るべき対策がわからないなど疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、建設業における職人の人手不足の現状や課題、今後取るべき対策方法を解説しますので、ぜひ参考にしてください。
(本記事は2023年9月12日時点の情報です)
- 建設業の労働者のうち3割以上が55歳以上と高齢化が深刻化
- 職人の人手不足解消の対策方法は、雇用条件改善や生産性向上など
- 人材確保で先行投資が必要な場合は、事業資金の融資がおすすめ
建設業界の職人不足の現状と今後直面する問題
近年深刻になっている建設業界の職人不足ですが、まずは現状と今後直面する問題を見ていきましょう。
建設業界で職人が減少している現状
建設業界の職人不足の現状として、国土交通省の「建設業を巡る現状と課題」によると、建設業就業者数(令和4年平均)は479万人で、ピーク時(平成9年平均)から約30%減っています。
また、建設業界の各職種の就業者数の推移を見ると、技能者・技術者・管理的職業・事務従事者・販売従事者どれを取っても減少傾向にあることがわかります。
さらに、建設業就業者は55歳以上が35.9%、29歳以下が11.7%と高齢化が進行しており、若手入職者の確保・育成や技術承継が大きな課題です。
2024年問題に伴う懸念事項
建設業界における2024年問題とは、「働き方改革関連法」が適用開始される2024年4月までに建設業界が解決しなければならない労働環境問題のことです。具体的には以下の点が挙げられます。
- 時間外労働の上限規制
- 原則として月45時間、年360時間が上限となります。
- 特別な場合でも年720時間を超えることはできません。
- これにより、従来の長時間労働を前提とした工期設定や人員配置の見直しが必要となります。
- 割増賃金の引き上げ
- 月60時間を超える時間外労働に対して、割増賃金率が25%から50%に引き上げられます。
- これにより人件費の増加が見込まれ、企業の収益に影響を与える可能性があります。
- 年次有給休暇の取得義務化
- 年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、5日以上の取得を企業が義務付けられます。
- 建設現場の人員配置や工程管理にさらなる工夫が必要となります。
これらにより、作業量が減少し、労働者の収入・企業の収益も減少、ひいては労働者の離職や企業の倒産の可能性が考えられます。そのため、建設業界に属する企業・労働者にとって大きな懸念事項といえるでしょう。
参照元:厚生労働省|働き方改革関連法等について – 法の概要・時間外労働の上限規制
2025年問題でさらなる人手不足の深刻化も
2025年問題とは、従業員の高齢化に伴い2025年に大量の退職者が出るため、これまで以上に人手不足が深刻化していくと予測されている問題のことです。建設業界においては特に以下の点が懸念されています。
- 団塊の世代の大量退職:
- 1947年から1949年生まれの「団塊の世代」が全て75歳以上となります。
- 建設業就業者の約3分の1を占める55歳以上の労働者の多くが退職年齢を迎えます。
- 技術継承の危機
- 熟練技能者の大量退職により、長年培ってきた技術やノウハウの喪失が懸念されます。
- 例えば、高度な左官技術や木造建築の伝統工法などが失われる可能性があります。
- 労働力不足の加速
- 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2025年の生産年齢人口(15〜64歳)は、2015年と比べて約716万人減少すると予測されています。
- 建設業界では、すでに深刻な人手不足に直面していますが、この傾向がさらに加速する可能性があります。
- 社会インフラの維持管理需要の増加
- 高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が進み、維持管理・更新の需要が増加します。
- 一方で、それを担う熟練技能者が不足するというミスマッチが生じる可能性があります。
これらの課題に対応するため、建設業界では若手人材の積極的な採用・育成、技術の継承システムの構築、そしてAIやIoTなどの先端技術の導入による生産性向上が急務となっています。
建築業で人手不足が生じている原因
建設業で人手不足が生じている原因は、以下のとおりです。
- 労働者の3割以上が55歳以上と高齢化が進んでいる
- 他の業界と比べて給与水準が低い
- 建設業界に対して3K労働のマイナスイメージがある
- 建設業の需要が増えている
順に解説します。
労働者の3割以上が55歳以上と高齢化が進んでいる
国土交通省が公開している「建設業を巡る現状と課題」によると、建設業就業者は、55歳以上が35.9%、29歳以下が11.7%と高齢化が進行していることがわかります。
このことから、若年層の就業者数が少ないことや今後高齢層の退職が増えることが予測され、人手不足の原因といえるでしょう。
他の業界と比べて給与水準が低い
人手不足の原因として、他業界と比べて給与水準が低いことも挙げられます。建設業全体では上昇傾向にあるものの、生産労働者は製造業と比較して低いのが現状です。
建設業界に対して3K労働のマイナスイメージがある
建設業界に対して「3K」労働というマイナスイメージがあることも、人手不足の原因のひとつです。一般的に3Kとは「キツイ・汚い・危険」の厳しい労働環境のイメージを指します。
多くの方にとって、今もなお3Kのイメージが先行していることから、新規の求職者の応募もあまり多くなく、人手不足の一因となっています。
建設業の需要が増えている
建設業の人手不足は問題になっていますが、建設投資は年々増加傾向にあることから、建設業の需要は伸びています。
そのため、建設業の需要に対して、人材の供給が追いついておらず、業界全体として人手不足は深刻な問題になっていることがわかります。
参照元:厚生労働省|令和4年度(2022年度) 建設投資見通し 概要
建設業で確実に人材確保する方法は?
人手不足が深刻化する建設業界において人材を確保する方法は以下のとおりです。
- 雇用条件の改善を行う
- 建設業のイメージアップを図る
- 適切な工期設定にする
- 働きやすい環境をつくる
- 多能工を育成する
- 教育体制を整える
- AIなどを導入し生産性を高める
順に解説します。
雇用条件の改善を行う
雇用条件の改善を行うことは、人材確保のために有効です。雇用条件の改善は、人材確保のための重要な施策です。具体的には以下のような取り組みが効果的です。
- 給与体系の見直し
- 固定月給制の導入:日給制から固定月給制に移行することで、収入の安定化を図ります。
- 業績連動型賞与:会社の業績に応じた賞与を支給し、モチベーション向上につなげます。
- 労働時間の適正化
- 週休2日制の導入:土日休みを基本とし、ワークライフバランスの向上を図ります。
- 残業時間の上限設定:月45時間、年360時間を上限とする等、具体的な目標を設定します。
- 福利厚生の充実
- 社会保険完備:健康保険、厚生年金、雇用保険等の加入を徹底します。
- 有給休暇の取得促進:年間取得率80%以上を目指す等、具体的な目標を設定します。
- キャリアパスの明確化
- 昇進・昇格基準の明確化:技能レベルや資格取得に応じた昇進制度を整備します。
- 教育訓練制度の充実:年間教育計画の策定や、外部研修への参加支援を行います。
- 働きやすい職場環境の整備
- 現場の安全対策強化:最新の安全装備の導入や、定期的な安全講習の実施を行います。
- 休憩施設の改善:空調完備の休憩所設置や、清潔なトイレの整備を進めます。
これらの取り組みを総合的に実施することで、既存社員の定着率向上と新規人材の獲得につながります。
厚生労働省では「労働者の処遇改善」や「働き方改革の推進」を掲げており、工期の適正化や適正な利潤を確保できるような価格設定を推進しています。
また、建設業の職人の方の給与は日給制が一般的ですが、固定月給制にすることで、安定して働くことができるでしょう。途中で独立せず定年まで勤め上げたい人材を増やすことができれば、離職防止に繋がります。
建設業のイメージアップを図る
前述したように、建設業界全体に3Kなどマイナスイメージがあるため、イメージアップを図ることが重要です。
具体的には、重機のイベントを実施したり、YouTubeなどで3Kを払拭できるような会社紹介動画を発信したりすることが挙げられます。
(例)
- 社会貢献活動の実施:地域の清掃活動や防災訓練への参加
- 学校との連携:建設現場見学会や職業体験の受け入れ
- デジタル技術の活用をアピール:VR・AR技術を使った現場紹介
- 女性活躍の推進:女性技術者・職人の活躍事例の紹介
適切な工期設定にする
時間外労働の削減や週休2日制などを考慮し、より良い労働環境を整備するためには、建設業の受注者が適切な工期設定にすることが重要です。
(例)
- 適正工期の算定方法:工種ごとの標準作業時間を基にした算定例
- 天候や地域特性を考慮した余裕期間の設定方法
- 発注者との交渉のポイント:適正工期の必要性を説明する際の具体的なアプローチ
国土交通省「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」においても、建設工事従事者の長時間労働を前提として不当に短い工期とならないよう、適正な工期で請負契約を締結するという考え方が示されています。
参照元:国土交通省|建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン(第1次改訂)
働きやすい環境をつくる
時短勤務やフレックス制の導入、事務所やトイレなどの衛生面の改善などにより、さまざまな人が働きやすい環境を整えることも人材確保において大切です。実際に現場で働く職人に耳を傾け、真に職場に求めていることを把握した上で、環境づくりを行うとより効果的でしょう。
(例)
- ICT技術の活用:遠隔操作可能な建設機械の導入
- ダイバーシティの推進:外国人労働者の受け入れ体制整備
- メンタルヘルスケアの充実:定期的なカウンセリングの実施
- 子育て・介護支援:短時間勤務制度や在宅勤務の導入
多能工を育成する
多能工とは、複数の専門的な工事をひとりで担う職人のことです。ひとりでさまざまな工事をカバーできるため、人手不足の解消につながる観点で注目が高まっています。
近年では、多能工養成訓練を行う施設を開設する会社もあり、今後は一層多能工を育成する流れが加速するでしょう。
(例)
- 多能工育成のための具体的なトレーニングプログラム
- 多能工の給与体系:スキル習得に応じた昇給制度
- 多能工育成による生産性向上の具体的な数値例
- 多能工と専門工の適切なバランスの取り方
教育体制を整える
建設業界の現状として、研修制度が整っていない会社が多いため、教育体制を整えることも重要です。
例えば、業務に不可欠な資格・免許の取得を会社が支援する資格支援制度の導入などにより、従業員のモチベーション・技能向上を期待できるでしょう。
(例)
- OJT(On-the-Job Training)とOff-JTの効果的な組み合わせ方
- eラーニングシステムの導入:時間や場所を選ばない学習環境の提供
- メンター制度の導入:経験豊富な職人による若手の指導体制
- 技能競技会の開催:社内での技能向上の機会創出
AIなどを導入し生産性を高める
AIやICTなどの導入により生産性を高めることも、人手不足解消のために重要です。
AI
昨今、注目が高まっているAI(人工知能)は建設業においても導入が一部ですでに進んでおり、単純作業の自動化・効率化や施工現場の画像認識などに活用されています。
ICT
ICT(情報通信技術)はInformation and Communication Technologyの略で、IT技術の中でも主にコミュニケーションや情報共有の技術のことです。
具体的な活用例として、工事の図面や工程をタブレット端末で確認・共有したり、映像システムを用いて遠隔から工事の指示を行うことなどが挙げられます。
BIMツール
BIMとは、ビルディングインフォメーションモデリングの略で、工事の初期段階で仮想空間上に建築物を構築し、設計・施工ミスを減らすことです。コスト・工期削減が見込めるため、大手ゼネコンなどで導入・活用が進んでいます。
職人不足対策の資金が足りないときは「事業者向け不動産担保ローン」
人材不足解消方法はさまざまありますが、人材確保に先行して投資が必要な面もあり、資金面で悩まれる事業者様も多いです。ただし、銀行からの追加融資は審査のハードルが高く、思うように融資を受けられないこともあるかもしれません。
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おわりに
建設業では職人不足の傾向が特に顕著です。建設業でも今後ますます高齢化が進み、人材確保は企業にとって重要な課題となるでしょう。
人手不足が深刻化する前に対策を取り、早期から若年層をはじめとする人材確保を進めることが大切です。人材確保にあたっては、一定の先行投資が必要な場合もあるため、「セゾンファンデックスの事業者向け不動産担保ローン」などの事業性融資も検討すると良いでしょう。