企業経営において、必要なタイミングで十分な資金を確保することが欠かせません。一般的には銀行融資や増資による資本調達がよく知られていますが、実は自社が保有している「資産」を有効活用して資金を得る「アセットファイナンス」も有効な選択肢です。
アセットファイナンスとは、不動産や設備、売掛金、在庫といった保有資産を現金化することでキャッシュフローを改善する手法です。本記事では、公認会計士・税理士の立場から、アセットファイナンスの仕組みや主な種類、導入時の注意すべきポイントをわかりやすく解説していきます。
アセットファイナンスとは

アセットファイナンス(Asset Finance)とは、企業が保有する資産を活用し現金化することで資金を調達する方法です。
一般的な融資とは異なり、「資産を担保に入れる」「売却してリースバックする」「将来の売上債権を譲渡する」などの方法で資金化するため、企業の財務内容や将来性だけでなく、保有資産の価値そのものに着目した調達手法といえます。
アセットファイナンスの主な特徴は次の通りです。
・金融機関の通常の審査を経ずに調達できる場合がある
・資金化までのスピードが比較的早い場合もある
特に短期的な資金需要や、通常の融資枠が限られている中小企業・ベンチャー企業にとって有効な手段となり得ます。
アセットファイナンスの主な種類

アセットファイナンスにはさまざまな手法があり、資産の種類や経営状況によって適切な手法を選択することが求められます。ここでは代表的なアセットファイナンスの種類をご紹介します。
(1)不動産担保融資・セールアンドリースバック
不動産担保融資は、企業が保有する土地や建物を担保に提供し、金融機関やノンバンクから融資を受ける手法です。担保評価額に応じて比較的大きな資金調達が可能ですが、返済できない場合には担保物件を失うリスクが伴います。
一方、セールアンドリースバックは、企業が保有する不動産や設備をいったん売却し、同時にリース契約を締結してそのまま使用し続けるスキームです。
メリットには以下の点が挙げられます。
・資産を手放さずに利用を継続できる場合がある
ただし、長期的にはリース料の負担が生じるため、キャッシュフロー計画を慎重に立てる必要があります。
(2)売掛債権ファイナンス(ファクタリング)
売掛金などの未収債権を資金化する手法です。売掛先からの入金を待たずにファクタリング会社に債権を譲渡することで、早期に資金化できます。
ファクタリングには以下の2種類があります。
・3社間ファクタリング:売掛先に通知し、リスクが低く手数料が安くなる
特に成長過程の企業や急な資金ニーズが発生した際に有効ですが、手数料が高めであることや信用調査が必要な点には注意しましょう。
(3)在庫ファイナンス(Inventory Finance)
販売予定の在庫を担保に資金を調達する手法です。特に流通・製造業など、一定規模の在庫を持つ業種に適しています。ただし、在庫評価や管理体制によっては、金融機関の審査が厳しくなるケースもあるため、在庫管理の透明性や正確性が求められます。
(4)売却・リースバック以外の資産流動化(ABL)
ABL(Asset Based Lending)は、売掛金・在庫・機械設備・不動産など企業が保有する複数の資産を担保にし、金融機関から融資を受ける手法です。
財務内容だけでなく、保有資産の評価が資金調達のポイントとなります。
アセットファイナンスの選び方

アセットファイナンスは資金調達手段として有効ではありますが、企業ごとに適した手法は異なります。以下のポイントを踏まえて、自社に最適な方法を選ぶことが重要です。
(1)資産の種類と評価額を把握する
まず、自社が保有する資産を棚卸しし、以下の点を明確にする必要があります。
・市場価値や評価額はいくらか
・売却や担保設定による事業運営への影響はないか
(2)資金ニーズの性質を整理する
以下の点を整理することで、売却型・担保型・リースバック型など適したスキームを絞り込むことができます。
・短期か長期か
・返済余力は十分か
(3)コスト・リスクを比較する
アセットファイナンスは通常の借り入れに比べて手数料やリース料などの負担が大きくなることもあります。
また、資産を手放す・担保に入れることで、将来の経営に制約が生じるリスクも考慮すべきです。
目先の資金ニーズだけでなく、中長期的なコストや事業への影響も考慮し、慎重に判断しましょう。
アセットファイナンスを活用するポイント

アセットファイナンスを効果的に活用するためには、以下の点を意識することが重要です。
(1)計画的な資金繰り管理
アセットファイナンスは資金化スピードが速い場合もありますが、常に有利な条件で調達できるとは限りません。
急場しのぎで多用すると、コスト負担や経営リスクが高まる恐れもあります。
定期的に資金繰り計画を見直し、早めに準備・検討を始めることが大切です。
(2)事業運営への影響を最小化する工夫
たとえば以下のようなケースです。
・売掛債権の譲渡が取引先との関係に悪影響を与えないか
事業運営への影響を事前にシミュレーションし、最小限に抑える工夫が必要です。
(3)信頼できるパートナー選び
アセットファイナンスは、取引相手の信頼性や条件交渉の巧拙によって、結果が大きく変わります。
実績や評判、手数料、契約条件などを比較し、信頼できる金融機関や事業者を選んで取引を行うことが成功のポイントです。
アセットファイナンスで眠った資産を有効活用する!
アセットファイナンスは、企業が保有する資産を単なる「固定資産」「売上債権」として眠らせるのではなく、積極的に事業成長に活用していくための有効な資金調達手法です。
・設備
・売掛金
・在庫
・その他の流動資産
これらは一見すると、「使い道が限られている」「現金化しづらい」と思われがちですが、
適切な手法を選べば、「すぐに使える資金」として事業を後押しする力になります。
特に中小企業やベンチャー企業など、「新たな借入枠を確保するのが難しい」「資本調達では経営権が薄まるリスクを避けたい」といった状況でも、アセットファイナンスは現実的かつ柔軟な選択肢となり得ます。
一方で、アセットファイナンスはあくまで資金調達手段の一つです。目先の資金繰りだけを解決するために安易に利用してしまうと、リース料や手数料負担、将来の事業制約など、新たなリスクを生みかねません。
・必要な金額や調達スピード
・調達コストや契約条件
・事業運営への影響
これらを総合的に判断し、経営ビジョンと整合した資本戦略を描くことが、アセットファイナンス活用の成否を分けるポイントとなります。
公認会計士・税理士として多くの企業の資金調達や財務戦略を支援してきた立場からも、「自社の保有資産を見直し、眠れる価値を未来の成長資金へ変える」視点こそが、持続的成長への第一歩だと考えています。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。