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遺族年金の男女差を改善する改正か|現在の受給者への影響は?

遺族年金の男女差を改善する改正か|現在の受給者への影響は?
藤田 春菜

執筆者

金融ライター

藤田 春菜

2級ファイナンシャル・プランニング技能士。金融機関に約7年間勤務したのち、金融専門Webライターとして執筆を開始。カードローンやクレジットカード、資産運用全般に関する記事を執筆。投資歴は約7年で、投資信託をはじめ個別株や暗号資産などに投資をしている。

遺族年金の男女差をなくす改革案が2024年7月に示されました。現在遺族年金を受け取っている方は、自分に影響がないか気になるのではないでしょうか。

配偶者と死別した場合、遺族年金は生活を大きく支えてくれる支援制度です。その遺族年金が改正されるとなると、多くの方に影響が及ぶことが予想されます。

しかし、遺族年金の改正は現在の就労状況や家庭環境に即したものであり、時代に合わせた改正といえます。さらに、改正されたとしても経過措置があり現在の受給者へは影響がありません。

本記事では遺族年金の改正前後の違いを解説します。そのうえで、配偶者と死別した場合に実際にどれくらい遺族年金を受け取れるのかをシミュレーションします。遺族年金に頼らない生活設計を立てる方法も解説しているため、ぜひ参考にしてください。

なお、本記事は2024年10月時点の最新情報を記載しています。ただし、2024年10月時点で遺族年金の改正はまだ検討されている段階で、可決していない点はご留意のうえでお読みください。

2024年10月現在の遺族年金の概要

2024年10月現在の遺族年金の概要

遺族年金は国民年金・厚生年金の被保険者または被保険者であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族の所得を保障するための年金です。2024年10月時点での遺族年金の概要を確認しましょう。

遺族基礎年金

遺族基礎年金は、子のいる配偶者や自ら生計を維持することができない子に対して、生活の安定を図ることを目的とする給付です。生計維持要件等に該当しないで、受給権を有さない父または母と生計を同じくする子は支給停止されます。

以下は遺族基礎年金の概要です。

【遺族基礎年金】

支給要件①から④に当てはまる方が死亡すると支給対象となる
①国民年金の被保険者
②国民年金の被保険者であった者で日本国内に住所を有し、60歳以上65歳未満である者
③老齢基礎年金の受給権者(保険料納付済期間等が25年以上である者に限る)
④保険料納付済期間等が25年以上である者※1
支給対象者死亡した者に生計を維持されていた次の遺族に支給される
①子のある配偶者
②子(生計を同じくする父母がある間は支給停止)
年金額(2024年度)※2816,000円(老齢基礎年金の満額と同額)+ 子の加算額
子の加算額:第1子・第2子は各234,800円、第3子以降は各78,300円

※1.①②については保険料納付済期間と保険料免除期間を合わせた期間が3分の2以上あることを条件とする。2026年3月31日までの経過措置として死亡日の属する月の前々月までの1年間に保険料の滞納がない場合は要件に限らず支給される。
※2.1956年4月2日以降生まれの方の場合

参照元:遺族年金制度等の見直しについて|厚生労働省

国民年金には寡婦年金があります。国民年金の被保険者期間が終了する60歳から、老齢基礎年金の受給開始年齢である65歳到達までの5年間を保障するつなぎの給付として扱われます。

遺族厚生年金

遺族厚生年金は20代から50代に死別した配偶者に対する支援制度です。子の有無は関係ありません。夫は妻と死別しても就労して生計を立てることが可能であるという考えで、男性の受給要件は女性と比べて非常に厳しく設定されています。そのため、受給要件の男女差が大きな課題となっています。

共働き世帯が多くなっている現在の実態にそぐわない制度として、改正が行われる場合は大きく変革される部分です。

以下の表は遺族厚生年金の概要です。

【遺族厚生年金】

支給要件①から⑤までに当てはまる方が死亡すると支給対象となる
①厚生年金保険の被保険者
②厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に死亡したとき
③1級・2級の障害厚生年金の受給権者
④老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が25年以上である者に限る)
⑤保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が25年以上である者※
支給対象者死亡した者に生計を維持されていた次の遺族のうち、最も優先順位の高い者が受け取ることができる。なお遺族基礎年金を受給できる遺族はあわせて受給できる。
①子のある配偶者、または子
②子のない配偶者
③父母
④孫
⑤祖父母
年金額(2024年度)死亡した者の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額

※①②については、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの被保険者期間について、保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あることを条件とする。

参照元:遺族年金制度等の見直しについて|厚生労働省

また、遺族厚生年金の受給要件は以下のようになっています。

【遺族厚生年金の受給要件】

死別時の遺された配偶者の年齢
30歳未満支給なし5年間支給
30歳以上55歳未満一生涯支給
55歳以上支給される※55歳から59歳までは支給停止
18歳以下または障害のある20歳未満の子がいない夫婦の受給要件

上記の表からわかるように、55歳未満で妻と死別した男性は、遺族厚生年金を一切受け取れません。一方、女性は30歳以上で夫と死別すると遺族厚生年金を、一生涯受け取れます。このように、受け取れるかどうかは男女間で大きな差があります。

また、夫が死亡した時点で40歳以上だった妻に65歳までの間、年間60万円程度が上乗せして支給される中高齢寡婦加算もあります。なお、妻が40歳以下でも子が18歳に達して遺族基礎年金を受給できなくなったときは、65歳になるまで中高齢寡婦加算を受け取れます。

参照元:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構

遺族年金の改正が検討されている理由

遺族年金の改正が検討されている理由

子のない夫婦が20代から50代で配偶者と死別した場合の男女差が、現行の遺族年金の問題とされています。妻は30歳以上であれば一生涯、遺族厚生年金が支給されるのに対して、夫は55歳未満だと支給されません。

夫の年齢が55歳以上だったとしても60歳になるまでは支給されず、男女差が大きいといわれるのも仕方のない状況となっています。なぜこのような男女差が生じるかというと、現行の遺族年金は「男性が主たる家計の担い手である」という考え方を元に給付設計しているためです。

今後は夫婦ともに就労する共働き世帯が一般化していくことが想定されるため、遺族年金についても社会の変化に合わせて見直す必要があります。実際、厚生労働省の調査では、共働き世帯は1980年で614万世帯だったのが2022年には1,262万世帯に増えています。

また、中高齢寡婦加算や寡婦年金も同様に男女差があるため段階的に廃止する方向性です。

参照元:遺族年金制度|厚生労働省
    図表1-1-3 共働き等世帯数の年次推移|厚生労働省

改正後に予想される遺族年金の概要

改正後に予想される遺族年金の概要

遺族年金は若年者にとっては生命保険代わりに、高齢者にとっては老後生活を安定させる役割となっています。

しかし、社会情勢が変化しているのに合わせて、遺族年金制度も変革を求められています。改正するとなれば遺族厚生年金が大きく変わることが予想され、養育する子がいない場合の男女差が是正される流れです。

以下で予想される改正内容を確認します。

遺族基礎年金

離婚をはじめ、両親の決断で子の家庭環境は容易に変化してしまいます。配偶者に遺族基礎年金が発生しない場合、子の生活の安定を図ることが難しくなることがこれまでの課題でした。遺族基礎年金は本来、子の生活の安定を図ることが目的で、子の選択によらない事情で停止されることのないような措置を講ずるようになっています。

例えば、父が死亡して元配偶者である母に引き取られた場合、離婚した妻に遺族基礎年金の受給権はないため、支給が停止されます。このようなケースの支給停止規程の見直しを検討する方針です。

また、男女差が問題となっている寡婦年金は、段階的に廃止する方向で進められています。

遺族厚生年金

20代から50代に死別した、子のない配偶者に対する遺族厚生年金を見直します。改正後は子がいない夫婦で配偶者が死亡したときに60歳未満の方への支給は、性別に関わらず5年間です。養育する子がいる世帯や高齢期の夫婦の一方が死亡した世帯については、現行制度の仕組みを維持します。

とはいえ、今も男女の就労環境や収入には差があるため、妻の受給期間の短縮は20年程度かけて行います。なお、遺族厚生年金を受給中の方は影響を受けません。また、中高齢寡婦加算は段階的に廃止していきます。

さらに、5年間の遺族厚生年金の受給額を現行制度より増やす配慮措置や、年収850万円未満の方しか受け取れない収入要件の廃止も検討しています。また、配偶者と子以外に遺族年金を支給する必要性についても検討が必要です。父母や祖父母は、すでに自分の老齢年金を受け取っている可能性が高く、その状態でさらに遺族年金を支給する必要があるのかどうかが論点となっています。

改正前後の遺族年金シミュレーション

改正前後の遺族年金シミュレーション

遺族年金の改正で受給額に影響があると予想される主なケースをシミュレーションします。

なお、遺族年金が改正されても、すぐに給付がなくなることはありません。20年程度の時間をかけて段階的に改正していく方針のため、本記事のシミュレーションは段階的な改正が完了した時点のシミュレーションとしてご覧ください。

【シミュレーションの前提】

・死亡した配偶者の死別時の報酬比例部分は50万円・会社員
・受取人は配偶者で、遺された配偶者は70歳で死亡
・配偶者は1956年4月2日以降生まれ
・子がいる場合、子の人数は1人
・寡婦年金は加味しない

妻が25歳・子が5歳のケース

まずは改正しても影響がないケースをシミュレーションします。このケースでは、子がいるため遺族年金が改正されても無関係です。配偶者が若くして亡くなった場合、遺族年金はあまりもらえないと考えるかもしれません。しかし、厚生年金の加入期間が短かったとしても300月(25年間)働いたとみなして年金額が計算されます。

そのため、このようなケースでも遺族年金は十分に受け取れます。中高齢寡婦年金は元々支給要件に合致しないため、受け取れません。

年金の種類金額
遺族基礎年金(816,000円 + 234,800円) × 13年 = 13,660,400円
遺族厚生年金(500,000円 × 3/4) × 45年 = 16,875,000円
合計30,535,400円

妻が30歳・子が5歳のケース

年金の種類改正前改正後
遺族基礎年金(816,000円 + 234,800円) × 13年 = 13,660,400円(816,000円 + 234,800円) × 13年 = 13,660,400円
遺族厚生年金(500,000円 × 3/4) × 40年 = 15,000,000円(500,000円 × 3/4) × 40年 = 15,000,000円
中高齢寡婦加算612,000円 × 22年 = 13,464,000円廃止
合計42,124,400円28,660,400円

このケースでは子が18歳に達してから妻が65歳になるまでの22年間、中高齢寡婦加算を受け取れます。しかし、改正で中高齢寡婦加算が廃止されるため、その分、受給額が減ります。

妻が40歳・子が10歳のケース

年金の種類改正前改正後
遺族基礎年金(816,000円 + 234,800円) × 8年 = 8,406,400円(816,000円 + 234,800円) × 8年 = 8,406,400円
遺族厚生年金(500,000円 × 3/4) × 30年 = 11,250,000円(500,000円 × 3/4) × 30年 = 11,250,000円
中高齢寡婦加算612,000円 × 15年 = 9,180,000円廃止
合計28,836,400円19,656,400円

このケースも子が18歳に達してから妻が65歳になるまでの15年間、中高齢寡婦加算を受け取ります。改正後は中高齢寡婦加算が受け取れない分、受給額が減ります。

死別時に妻が35歳で子がいないケース

年金の種類改正前改正後
遺族厚生年金(500,000円 × 3/4) × 35年 = 13,125,000円(500,000円 × 3/4) × 5年 = 1,875,000円

子がいない場合は年齢に関わらず一律5年間の有期給付となります。そのため、改正前は死亡するまで遺族厚生年金を受け取れるのに対し、改正後は5年間しか受け取れず、大幅に減額されます。

死別時に妻が40歳で子がいないケース

年金の種類改正前改正後
遺族厚生年金(500,000円 × 3/4) × 30年 = 11,250,000円(500,000円 × 3/4) × 5年 = 1,875,000円
中高齢寡婦加算612,000円 × 15年 = 9,180,000円廃止
合計20,430,000円1,875,000円

子がいない場合は性別に関わらず5年間の有期給付となるため、遺族厚生年金は大幅に減額されます。さらに中高齢寡婦加算も廃止となるため、改正前後で受け取れる遺族年金は約1,800万円も異なります。

夫が40歳で子がいないケース

年金の種類改正前改正後
遺族厚生年金支給なし(500,000円 × 3/4) × 5年 = 1,875,000円

改正前は妻と死別した夫が55歳未満の場合、遺族年金の支給はありませんでした。しかし、男女差の是正を図るために子がいない場合は5年間遺族厚生年金を受け取れます。そのため、約200万円を受け取れます。

遺族年金に頼りきらない生活設計をする

遺族年金に頼りきらない生活設計をする

シミュレーションからわかるように、改正後に受給額が大幅に減ってしまうケースがあります。そのため、遺族年金が改正されて受け取れる金額が少なくなっても生活できるように準備しておかないといけません。

また、配偶者が厚生年金加入者でない場合は遺族厚生年金の支給がないため、死別後に生活が困窮する可能性が高まります。配偶者と死別しても生活できる保障を自力で作れるよう、以下の方法を検討しましょう。

将来の教育費や生活費を予想する

将来的にかかる費用を予想するのは非常に重要です。将来かかる費用を把握できると、必要なタイミングまでにどのくらい貯蓄しておくと対応できるか、精神的にも金銭的にも準備しやすくなります。

2021年度に文部科学省が調査した結果によると、各校種の学習費総額は以下のとおりです。なお、学習費とは学校教育や学校外活動のために支出した経費をいいます。

【小中高の平均学習費】

公立私立
小学校352,566円1,666,949円
中学校538,799円1,436,353円
高校(全日制)512,971円1,054,444円
合計1,404,336円4,157,746円
参照元:令和3年度子供の学習費調査の結果について|文部科学省

また、2023年度の国公私立大学の授業料と入学料の合計の平均額は以下のとおりです。

【国公私立大学の平均額】

国立公立私立
入学料282,000円374,371円240,806円
授業料535,800円536,191円959,205円
年間合計817,800円910,562円1,200,011円
4年間の合計2,425,200円2,519,135円4,077,626円
参照元:国公私立大学の授業料等の推移|文部科学省

例えば、子どもが小学校から大学までオール私立の場合、大学卒業までに約800万円かかります。仕送りなどを含めると約1,000万円程度はかかると考えておく必要があるでしょう。

先ほどの「妻が40歳・子が10歳のケース」のシミュレーションでは、改正前は3,000万円弱受け取れる計算でした。しかし、改正後は2,000万円程度にとどまります。もしオール私立であれば教育費だけで受け取れる遺族年金の半分を占めることになります。

これまでは遺族年金で十分に生活できていたにもかかわらず、何の対策も取らなければお金が足りなくなる場合もあるでしょう。そのため、無駄な支出がないか、今より収入を増やせないかなども確認し、家計のバランスを整えることが重要です。

また、貯蓄しやすいタイミングを考えて、そのタイミングでより多くの資産を貯められるようにしましょう。具体的には、結婚してから子どもが産まれるまでの間や、住宅費や教育費などの大きな支出が落ち着きやすい50代などのタイミングが挙げられます。

生命保険や個人年金の受給額は十分か確認する

現時点で契約している保険商品の保障額で、生活するのに十分か確認しましょう。備えるべきリスクや必要な保障額は家族の人数や年齢、就業形態などによって異なります。そのため、結婚や出産をしたとき、子どもが独立したときなどのタイミングで保険の見直しを検討すると良いでしょう。

また、生命保険文化センターの2021年度の調査では、世帯主が万が一の場合の家族の必要生活資金の最高額は、末子が小・中学生のケースで年間417万円でした。この場合の生活資金の必要年数は約17年で、6,800万円程度の生活資金が必要となります。このように遺族年金だけで生活資金を賄うのは困難なため、家族の状況によって保険を見直すことが重要なのがわかります。

参照元:2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査第Ⅲ部 世帯属性からみた加入実態と生活保障意識-1.ライフステージ別にみた生命保険の加入実態、生活保障意識|公益財団法人生命保険文化センター

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資産運用で現金を増やすことを考える

資産運用でお金を増やすことも検討しましょう。預金金利は低く、現金を貯めるばかりではなかなか増えないためです。NISAやiDeCoといった税制優遇制度を使えば、お金を増やしながら節税もできます。

遺族年金が改正されても問題のない生活設計を立てることが重要

現行の遺族年金は男女差が大きく、現在の社会情勢に合わない制度となりつつあります。遺族年金の改正で男女間の不公平感は和らぐことが期待できます。しかし、改正前後で1,000万円以上受給額が少なくなるケースもあり、損をするのではと考える方もいるでしょう。

実際には改正案が可決されたとしても、20年程度の時間をかけて段階的に制度を変えていく方針となっています。そのため、現行制度で遺族年金を受け取っている方には改正の影響はありません。

とはいえ、今後、改正の影響を受ける方が出てくることが予想されるため、現在の保険の内容や働き方で遺族年金の減額分を補えるかどうかをチェックすると良いでしょう。また、普段から家計の収支を整えて最適化しておくと、不測の事態に備えられる可能性が高まります。

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