相続において代償分割の方法をとることが決まった際には複数の相続人のうち1人が、ほかの相続人に対して現金を支払わなければなりません。相続財産の内容によっては支払う金額が高額になる可能性もあります。代償分割を行う際にすぐに用意できる現金がない場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
今回は「代償分割で現金がない場合にどうするか」について取り上げます。一般的な不動産売買と違い、親族間売買はともすれば贈与に関する脱税疑惑がかけられる場合があるので、対処方法を事前に知っておきトラブルを回避しましょう。
1.代償分割の現金がなくても乗り切れる!6つの対処方法
代償分割を行うケースでもっとも多いのが、不動産を相続人のうちの1人が引き継ぎ、ほかの相続人に対して持ち分に応じた現金を支払うといったものです。しかし不動産の評価が高い場合やほかの相続人の数が多く、代償分割を行うだけの現金がない場合も想定されます。
そのような時に考えられる対処方法は以下の6つです。
1-1.分割支払いにする
代償分割は一括で支払うことが原則ですが、分割で支払うこともできます。そのためには相続人全員の合意が必要になります。合意にあたっては分割で支払うことや、支払方法などの内容を遺産分割協議書に明確に記載しなければならないことも、あわせて覚えておきましょう。
1-2.ほかの資産を現金の代わりにする
現金ではなくほかの財産で支払う方法もあります。相続財産とは別の不動産や、不動産を相続した方が保有している株式など、現金の代わりとして認められるケースもあります。この場合は代わりに提供する財産の価値が、現金で支払う場合と同じでなければならず、相手の合意が必要です。また財産の評価額も正確に算出する必要がありますので、専門家に相談し評価額を算出してもらうようにしましょう。
1-3.不動産担保ローンを利用する
不動産担保ローンとは、投資用の物件を購入する際に利用するものですが、この不動産担保ローンを代償金の支払いの資金準備に利用することも可能です。相続の際に引き継いだ不動産を担保にすることで、まとまった金額を借り入れることもできるでしょう。
借り入れた金額をもって、ほかの相続人に代償金を支払い、自身はその後不動産担保ローンの返済を続けていく形になります。不動産担保ローンではまとまった金額を借りることができる反面、利息がかかります。また不動産担保ローンの金利は通常の住宅ローンと比べて高めに設定されています。利用するにあたっては必ず返済計画を立て、無理なく最後まで返済できるかを確認してからにしましょう。
1-4.現物分割や換価分割を検討する
現物分割とは「土地の分筆」のことで、相続した不動産の土地を境界で分ける方法です。換価分割とは相続した不動産を「売却」し、その売却代金を相続人同士で分割する方法です。
現物分割を行うことで相続した不動産をそのまま利用することができますが、均等に分けることが難しいため、どの部分を誰が相続するかで揉めるケースも多く見られます。分筆を行う際の測量や、分筆後は所有権の移転登記などといった費用負担を誰が行うかもあわせて充分な話し合いが必要です。
1-5.土地を分筆する
土地の分筆については上記で紹介した現物分割の方法です。土地の分割や換価分割については、できるだけほかに手段がない場合に活用するようにしましょう。
1-6.生命保険を活用して生前対策する
不動産の所有者が生きているうちに生命保険に入り、その死亡保険金をもって相続人間の差額を解消することができます。つまり代償分割分を生命保険で用意する考え方です。あくまでも生前対策の一つですので、相続が開始した後では利用できない点に注意してください。
2.現金がない時に行う代償分割の注意点
代償分割を行う際に現金がない場合、上記で紹介したいずれかの方法で対応しなければなりませんが、その際に注意しておくべき内容について解説します。
分割払いで滞納されるリスク
相続人全員の合意があれば、分割払いで支払うことができることは上記で述べたとおりですが、分割払いにしてしまうと何らかの理由で支払いが遅れるといったケースが考えられます。遅れてもきちんと支払ってもらえれば良いのですが、支払うだけの資金がなくなった場合やそもそも支払う気持ちがなくなったなどの理由であれば支払ってもらえない可能性があります。
もちろん相続人全員が合意しており、遺産分割協議書にもその内容が記載されているのであれば、最終的には強制執行によってお金を回収することができますが、全額を回収できるとは限りません。最悪の場合、未払分を全く回収できないことも考えられます。
分割払いを認めるのであれば、その後に起こりうる「滞納リスク」について充分に注意しておくべきです。
譲渡所得課税が発生するケース(不動産など現金以外資産交付)
代償金として現金の代わりにほかの資産で支払った場合、譲渡所得税が課税される可能性があります。
譲渡所得金額は「代償分割時の時価-(取得費用+譲渡費用)」で求められ、譲渡所得(利益)が発生した場合は譲渡所得税がかかります。また譲渡所得については、ほかの所得と合算しない分離課税制度が採用されている点も覚えておきましょう。
さらに代償金として現金の代わりに土地を譲渡する場合であれば、土地を受け取った側に所有権移転登記や不動産取得税などの費用が発生する点にも気を付ける必要があります。
建物の取得費から控除する減価償却費
現物分割や現金の代わりに不動産を受け取る場合、その取得費から建物部分の減価償却費を控除する必要があります。減価償却費は「建物の取得費×0.9×償却率×経過年数」で求められます。償却率については建物の構造によって異なりますので、詳細は国税庁のWEBサイトにて確認してください。
遺産分割協議書に明記する
代償分割を行う際には、遺産分割協議書にその内容を明記しておく必要があります。もし代償分割を行う旨の内容が記載されていなかった場合、代償分割によって支払ったお金や財産について「贈与」とみなされる可能性があります。
贈与とみなされた場合、その金額や財産の価値によっては贈与税の課税対象となってしまいます。そのためにも代償分割を行うことについて、遺産分割協議書にきちんと明記しておくようにしましょう。
3.代償分割時の相続税計算方法
代償分割を行った際の相続税の計算方法は、代償金を支払った方と代償金を受け取った方で異なります。
(1)代償金を支払った方の課税価格
相続によって取得した財産の価額-交付した代償金額
(2)代償金を受け取った方の課税価格
相続によって取得した財産の価額+交付をうけた代償金額
そして、この課税価格に基づいた相続税率を乗じて求めた額が最終的な相続税額です。
(相続税の計算例)
相続人が子どもAとBの2人で相続財産が不動産のみの場合、Aが不動産を相続しBに対して代償金を支払うケースを想定します。
不動産の相続税評価額:3,000万円(代償分割時の時価:4,000万円)
AがBに対して支払う代償金額:1,500万円
Aの相続税評価額
3,000万円-1,500万円=1,500万円
Bの相続税評価額
1,500万円
ただし代償金の金額が代償分割時の時価を基に決定された場合のそれぞれの評価額は以下のようになります。
Aの相続税評価額
3,000万円-{1,500万円×(3,000万円÷4,000万円)}=1,875万円
Bの相続税評価額
1,500万円×(3,000万円÷4,000万円)=1,125万円
4.遺産分割せず不動産を共有相続した場合の対処法
相続財産に不動産がある場合で遺産分割を行わず相続人全員の共有名義にした場合、その後の運用や売却を円滑に進めることが難しくなります。共有名義のものを売却するには、共有名義人全員の合意が必要になるため、1人でも反対する方がいれば売却できないからです。
代償分割を行うにしても、不動産を相続した方はほかの相続人に対して現金で取り分を支払う必要があり、まとまったお金が必要です。
セゾンファンデックスの「遺産分割ローン」は共有持分の買い取りの際に利用できる住宅ローンです。不動産を共有名義で相続した後に、ほかの相続人の共有持分を買い取るときに利用できます。複数人で相続した自宅に1人で住むケースなどに有効です。
一般的に親族間売買においては、銀行からの融資が受けにくいという実態があります。その点セゾンファンデックスの「遺産分割ローン」は、不動産の担保価値を最大限に評価する柔軟な審査を行っており、親族間売買にも利用いただけます。
相続における共有持分の買い取りに悩んでおられる方は、ぜひセゾンファンデックスの「遺産分割ローン」の利用をご検討ください。