「65才以上でも雇用保険に加入できる?」「複数の企業で条件を満たせば加入できるって本当?」「年金を受け取っていても退職時に給付金をもらえるの?」など、65才以上の方が加入できる雇用保険について気になっている方も多いのではないでしょうか。結論からいうと、65才以上の方も雇用保険に加入するのがおすすめです。
このコラムでは、65才以上の方を対象とした雇用保険の適用基準や退職時の給付金について解説します。また、複数の企業で勤務されている65才以上の方限定の雇用保険制度もありますので、複業をされている方は必見です。65才以上の方限定の雇用保険制度については、申請方法も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
1.65才以上の雇用保険適用基準
平成29年1月1日以降、下記の基準を満たすことで65才以上の方も雇用保険に加入できるようになりました。
- 1週間の所定労働時間:20時間以上
- 雇用の見込み:31日以上
ここでは、それぞれの基準ごとにどのようなケースが雇用保険適用の対象になるのかを解説していきます。働き始めたときの雇用見込みが31日未満でも、雇用保険に加入できる可能性がありますので、ぜひ確認してみてください。
1-1.週に20時間以上働く
雇用保険の加入条件として、週に20時間以上働く必要があります。週休2日として、1日平均4時間以上働いていれば、条件を満たせます。一時的に1週間の勤務時間が多くなっても、所定労働時間を週20時間未満として契約している場合は、雇用保険に加入はできません。所定労働時間とは、就業時間から休憩時間を引いた時間のことです。
所定労働時間は、雇用契約書や就業規則に記載されています。65才を迎え引き続きお仕事をすることになった場合は、所定労働時間を確認して雇用保険の対象になるかどうかをチェックしましょう。
1-2.31日以上の雇用見込みがある
雇用保険に加入するには、雇用見込みが31日以上あることが必須条件です。「31日以上の雇用見込み」とは、雇用から31日に達する前に離職することが確定している場合を除いた全てが対象となります。例えば、下記のようなケースに該当すれば、雇用保険適用の基準の一つを満たすことになります。
- 雇用契約に期間の定めがない場合
- 雇用契約期間が31日以上の場合
- 雇用契約書に31日未満の雇い止めが明記されていない場合
- 継続的に31日以上勤務している場合
31日以上の雇用見込みがあるかどうかは、契約書を確認してください。契約期間が31日以上あるという旨が記載されていれば、雇用保険適用の対象となります。契約期間が未定あるいは、契約書に31日未満の雇い止めが明記されていない場合も、雇用保険適用の対象です。
また、働き始めたときの雇用見込みが31日未満だったとしても、雇用保険に加入できる可能性があります。例えば、継続的に31日以上勤務している場合や、31日未満雇用見込みであった契約が更新され、雇用が延長された場合などが該当します。
2.65才以上の方が支払う雇用保険料
65才以上の方も雇用保険に加入すると、保険料を支払うことになります。実際に支払う雇用保険料は、事業の種類や賃金によって変動するのが特徴です。雇用保険料を求める際は、下記の式が用いられます。
雇用保険料率×賃金総額
雇用保険料率は、下記の業種ごとに設定されます。
- 一般の事業
- 農林水産、清酒製造の事業
- 建設の事業
雇用保険料率は、毎年見直されます。各年度の雇用保険料率は、厚生労働省が毎年発表していますので、以下のサイトからご確認ください。
参照元:厚生労働省「雇用保険料率」
平成24年度より、雇用保険料率は徐々に引き下げられてきましたが、令和4年度の秋から引き上げられる可能性があります。原因は、新型コロナウイルスによる雇用調整助成金の給付増加や、雇用保険の積立金の減少といわれています。雇用保険料は給料だけではなく賞与にも関わりますので、最新の情報を確認するようにしましょう。
雇用保険料の算出に必要な賃金総額とは、事業主が労働の対償として労働者に支払う全ての賃金のことです。月給はもちろんのこと、賞与や通勤手当なども含まれます。一方、役員報酬や退職金などは、賃金に含まれません。「賃金とするもの」と「しないもの」の区別を知りたい方は、以下のサイトを参考にしてみてください。
3.65才以上の方限定の雇用保険制度
65才以上の方限定の雇用保険制度があることをご存知でしょうか。「雇用保険マルチジョブホルダー制度」と呼ばれ、令和4年1月1日から施行されました。通常は、一つの事業所での労働条件が下記に該当する場合のみ、雇用保険が適用されます。
- 1週間の所定労働時間:20時間以上
- 雇用の見込み:31日以上
しかし、65才以上の方の場合、2つの事業所での勤務時間を合計し20時間を超えれば、加入条件の一つを満たせます。ただし、所定労働時間を合算できる事業所は、2社に限られています。つまり、3つ以上の事業所で雇用されている場合でも、2社の所定労働時間しか考慮できないということです。さらに、それぞれの企業での1週間の所定労働時間が、5時間以上20時間未満である必要もあります。
また、それぞれの事業所での雇用見込みが31日以上あることも必須条件です。1週間の所定労働時間と雇用見込みの2つの条件を満たす場合、65才以上の方でも雇用保険の被保険者になれます。雇用保険マルチジョブホルダー制度は、事業主が主体となって手続きをすることはありません。2つの事業所で勤務されている方が雇用保険の被保険者になるには、ご自身で事業主に申し出る必要がありますので注意しましょう。
参照元:厚生労働省
4.雇用保険マルチジョブホルダー制度適用までの手順
雇用保険マルチジョブホルダー制度は、適用を希望する方がご自身で手続きを行う必要があります。ここでは、制度適用までに必要な手続きを順番に説明していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
4-1.必要書類を入手する
雇用保険マルチジョブホルダー制度の手続きを行う際は、必要書類を入手しましょう。具体的には、下記の書類を用意することになります。
- 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届
- 個人番号登録・変更届
- 被保険者資格士取得アンケート
これらの書類は、厚生労働省のホームページあるいはハローワークから入手できます。必要書類のうち、雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届のみ企業ごとに1枚必要です。雇用保険マルチジョブホルダー制度を利用する際は2つの企業を登録することになるので、2枚用意すれば問題ありません。
2社分の雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届を入手できたら、申出人記載事項に記入しましょう。
4-2.企業に必要書類の記入を依頼する
雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届が用意できれば、勤務先で必要事項を記入してもらいましょう。雇用保険マルチジョブホルダー制度の申出をした場合、企業は速やかに準備を行うことになっています。
企業は、雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届への記入の他、下記のような確認書類を用意してくれます。
- 賃金台帳
- 出勤簿
- 労働者名簿
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 雇入通知書
これらは、雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届とともに、ハローワークに提出する必要があります。雇用保険マルチジョブホルダー制度を申し出ると「企業に良く思われないのではないか」と不安に思われる方もいるでしょう。しかし、そのような心配をする必要はありません。
企業は雇用保険マルチジョブホルダー制度の申出者に対し、不利益な取り扱いをすることを禁止されています。また、必要書類の用意を依頼したにもかかわらず企業が準備を行わない場合は、ハローワークから確認してもらえます。困ったときは一人で抱え込む必要はありませんので、ハローワークに相談するようにしましょう。
参照元:厚生労働省
4-3.ハローワークで手続きを行う
必要書類が全て揃ったら、 住居所管轄のハローワークで手続きをしましょう。ハローワークには、下記の書類を提出します。
- 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届
- 確認書類
- 個人番号登録・変更届
- 被保険者資格士取得アンケート
- 本人確認資料
- 個人番号を確認できる資料
雇用保険マルチジョブホルダー制度の場合、書類を郵送しても手続きを進められます。郵送の場合、ハローワークに書類が到着した日が申出日になります。申出日から雇用保険が適用されますので、簡易書留など送達記録が残る方法で送付し、書類の到達した日時が分かるようにしましょう。
資料に不備がないか心配な方は、ハローワークに出向くのがおすすめです。ハローワークに出向き書類を提出すれば、その場で不備がないか確認してもらえます。
4-4.ハローワークから受け取った資料を保管する
ハローワークでの手続きが完了すると、下記の資料が交付されます。
- 雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届
- 雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得通知書(本人通知用)
- 雇用保険被保険者証
- 被保険者資格喪失時アンケート
雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届以外の書類は、離職時に必要となりますので、大切に保管しましょう。企業には、事業主通知用の雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得通知書が交付されます。書類に記載されている申出・資格取得年月日から雇用保険料の納付義務が発生しますので、確認するようにしてください。
5.65才以上で退職された方が受給できる雇用保険
65才を超えて退職した方は、失業保険の代わりに高年齢求職者給付金を受給できます。高年齢求職者給付金は、一時金として支給されるのが特徴です。雇用保険の被保険者であった期間に応じ、基本手当日額の30日分または50日分の高年齢求職者給付が支給されます。
基本手当日額は、原則として離職前の6ヵ月間に支払われた賃金を基に算出可能です。6ヵ月間に支払われた賃金の総額を、180で割った金額の50%~80%が基本手当日額となります。65才以上で退職された方は、雇用保険の被保険者であった期間が1年を超えるかどうかにより、基本手当日額の何日分を受け取れるかが決まります。詳しくは、下記の表をご覧ください。
被保険者であった期間 | 基本手当日額 |
1年未満 | 30日分 |
1年以上 | 50日分 |
2つの企業で勤めている方が一方を退職し、他方は勤務し続けている場合でも高年齢求職者給付金を受け取れます。1社のみ離職した場合は、勤務し続けている企業から発生している賃金は考慮されません。2つの企業を同時に離職した場合は、合計の賃金を基に高年齢求職者給付金の額が決定します。
ただし、65才以上で退職された方が受給できる高年齢求職者給付金を受け取るには、条件があるので以下のコラムをご覧ください。受給するための条件だけではなく、手続きの手順や給付制限について解説しています。
65歳以上でも失業保険はもらえる?高年齢求職者給付金の対象や手続きについて解説
6.高年齢求職者給付金は年金との併給が可能
高年齢求職者給付金は、年金を受給している方でも受け取れます。また、高年齢求職者給付金によって年金が減額されることもありませんので、65才以上の方にとってメリットが大きい制度です。ちなみに、失業保険と呼ばれる基本手当は、年金と併給はできません。年金は基本的に65才以上の方が受給でき、基本手当は65才未満の方だけが受け取れますので、問題は生じにくいでしょう。
ただし、下記の条件に当てはまる方は、65才を迎える前に年金を受給できる仕組みがありますので要注意です。
- 昭和28年4月2日〜昭和36年4月1日に生まれた男性
- 昭和33年4月2日〜昭和41年4月1日に生まれた女性
65才になる前に退職し、基本手当の受給を希望する場合は、一時的に年金を受け取れなくなってしまいます。退職時の年齢が65才を超えるかどうかによって、受け取れる給付金の種類や、年金の受給可否が異なります。老後の生活に関わることですので、どれくらいの金額を受け取れるかを退職前に確認しておくことがおすすめです。
おわりに
雇用保険は、65才以上の方でも加入できます。1社にお勤めの方で雇用保険の条件を満たしている場合は、企業が主体となって手続きを進めてくれますので、申出の必要はありません。ただし、雇用保険マルチジョブホルダー制度を利用する場合は、ご自身で手続きをしないと加入できないので注意しましょう。
年齢問わず雇用保険料を支払う必要はありますが、65才以上の方は退職時に高年齢求職者給付金を受給できます。高年齢求職者給付金は年金を受給している方でも受け取れますので、65才以上の方も雇用保険に加入し、メリットを享受しましょう。