AさんとBさんはフリーランスとして働いている友人同士です。2人の年収はどちらも1,000万円弱と変わりませんが、BさんはAさんと比べ、税金を120万円以上多く支払っていることがわかりました。2人には一体どんな差があるのでしょうか。本記事では、フリーランスで働く人にとって効果的な節税方法について、税理士法人メディア・エスの田中康雄税理士がわかりやすく解説します。
年収は同じはずなのに納税額に差が…一体なぜ?
フリーランスは1人で稼ぐという働き方になるため、全般的に経費は少なくなる傾向にあります。こうしたなか、フリーランス歴が長いAさんと、フリーランスに転向したばかりのBさんとでは、大きく収入は変わりませんが納税額に120万円以上の差があります。なぜBさんよりAさんの納税額はそんなに少ないのか。原因を探っていきます。
Aさんはデザイナー、Bさんはライターとしてフリーランスで仕事をしています。年収はそれぞれ1,000万円弱で、ともに外注などの大きな経費はありません。また、AさんもBさんも扶養の配偶者がおり、Aさんは賃貸マンション、Bさんは持ち家に住んでいますが、いずれも在宅ワークがメインです。
このように同じような境遇で仕事をしている2人ですが、納税に関して次のような会話をしています。
A:「Bも個人事業主になったから確定申告だよね?」
B:「申告はしているけれど、納税額が多くて。経費って意外と少ないもんだね。なにか節税対策している?」
A:「特別なことはしてないけど、まずは青色申告を検討してみれば?特別控除を経費にプラスできるし、奥さんにきちんと給料を払えるなど、いくつかの優遇措置もあるよ」
B:「青色申告なら節税にもなるということか」
A:「あとは、経費にできるものはしっかりと経費にしていくということも大事かな」
B:「でも、どんなものが経費になるのか、まだその判断がつきにくくて」
A:「たしかに難しいね。それなら、ふるさと納税などの所得控除にも注目してみたら?税金計算全体で見れば経費と同じ効果があるだけじゃなく、フリーランスにとって不安な将来への備えに有効なものもあるし」
B:「なるほど、いろいろと対策はありそうだね」
納税額に差が出たワケ
フリーランスの仕事のほとんどは事業所得に該当します。事業所得は収入から必要経費を差し引いて計算しますが、経費が多くなれば所得は減り、納税も少なくなります。ただ、フリーランスのベテランAさんは事業用の経費だけには捉われず、課税対象そのものを抑える工夫をしています。ここで、Aさんの節税術を具体的に見ていきたいと思います。
必要経費の見直し
Aさんは事業所得の申告に当たり、青色申告による恩恵を受けています。まずは、いくつかの青色申告による優遇措置を確認します。また、個人の申告では私用の支出(家事関連費)でも事業に係る部分があれば按分計算によって経費計上が認められるのが特徴です。こうした所得税特有の措置も活用しながら、経費になるものは確実に計上していくことがポイントになります。
1.青色申告による特別控除の適用
通常、経費を増やすには支出が伴います。しかし、青色申告の特別控除はキャッシュアウトのない経費になります。青色申告者になるには事前に届出をします。また、無条件に特別控除を受けられるわけではありません。
例えば、複式簿記による記帳によって貸借対照表と損益計算書を作成すれば55万円(e-Taxを利用した申告の場合等は65万円)の特別控除が受けられます。少しハードルが高いようにも感じますが、会計ソフトを使えば書類は自動的に完成します。近年の会計ソフトは簿記の知識がなくても簡単に入力できるものが多く、それほど手間もかかりません。
それでも難しいようであれば、単純に収入と科目別に経費を集計するだけでも、10万円の特別控除が受けられます。ただし、青色申告者は必ず申告期限までに確定申告を提出する必要があります。
2.少額減価償却資産の選択
パソコンや仕事部屋のエアコンなどは事業上の必須アイテムですが、購入金額が10万円以上になると固定資産として数年をかけて経費化(減価償却)していかなければなりません。
しかし、青色申告者の場合、その固定資産が30万円未満であれば、一括でこれを経費に計上できます。比較的大きな出費があったときには、なるべく税金も抑えたいものです。こうした特典を活用して節税を図ることができるのも青色申告者のメリットになります。
3.青色事業専従者給与の支給
特にフリーランスの場合には、人を雇うことはほとんどありません。これに代わり仕事をサポートしてくれるのが家族ということになりますが、その労務の対価を条件付きで経費にすることができます。
要件としては、その家族がほかに雇用されていないこと、つまりその青色申告者の事業に専ら従事していること。そして、支払う家族(青色事業専従者)の氏名と給与の年間上限額等を税務署に届け出ることになっています。
なお、青色申告者本人の所得を超えて給与を支払い続けるなど、これが過大と認められる部分は経費にはなりせん。また、青色事業専従者は税務上の扶養にできないため、扶養控除が受けられなくなることには注意が必要です。
4.家事関連費の経費算入
フリーランスの場合、生活費と事業用の経費との線引きは難しいですが、業務上直接必要と認められる部分は、経費として取り扱うことができます。
たとえば、在宅ワークの場合には、家賃や自宅の固定資産税、光熱費、ネット回線などは、生活用と事業用の部分を床面積や使用頻度などによって合理的に見積もり、按分計算することで経費計上が可能です。
そのほか、携帯電話代やガソリン代なども代表的な家事関連費になりますが、事業用として100%経費にするには、事業用のクレジットカードを作り、家庭用と使いわけて決済するようにすれば経費を計上しやすくなるでしょう。
所得控除の拡大
個人に対する課税の対象は、収入から必要経費を差し引いた事業所得などから、さらに社会保険料や扶養親族、医療費等の所得控除を差し引いて計算します。そして、この所得控除にはふるさと納税のほか、次のような所得控除を使うことでフリーランスにとっては大きな節税効果が期待できます。
1.小規模企業共済の加入
フリーランスにはサラリーマンのように退職という区切りがなく、退職金もありません。しかし、ずっと働き続けられるかというとこれも疑問です。そうなると、事業を廃止したときの老後の生活が不安ですが、小規模企業共済はフリーランスのための退職金制度ということになります。
小規模企業共済は年間84万円まで積み立てることができ、掛金の全額が所得控除の対象となるため、節税にもつながります。
2.iDeCoの活用
iDeCoは、私的年金制度です。フリーランスの場合、年金は国民年金のみとなります。そこで、老後のより安定した生活のために、月額6万8,000円を上限に掛金を拠出し、自身で選んだ商品に運用して資産を形成することで、これを60歳以降に老齢給付金として受け取ることができます。
iDeCoの掛金も上記①と同じように、全額所得控除の対象となり、また①の小規模企業共済との併用も認められています。これら2つの制度を有効に活用すれば、老後資金の安定とともに現役時代の節税にも大きく貢献します。
納税申告の際の注意点
家族への給料も家事関連費も本来は事業用の経費にはなりません。そのため、例外的にこれらを経費にするには一定の制約に留意すべきです。
まず、前述のとおり、青色専従者給与の対象者は扶養控除を受けることができません。そのため、配偶者を青色専従者にすると、配偶者控除も配偶者特別控除も対象外となります。
たとえば、専業主婦(主夫)のケースでは、それぞれ38万円+38万円=76万円の所得控除が受けられなくなります。この金額以上に給料を支払えば節税効果はありますが、給与所得は年間98万円を超えると住民税が課されます。
家庭内全体での納税のバランスを考えながら、配偶者控除等が受けられないのであれば、98万円のラインにこだわらず業務量に応じた給料を最大限に支給することも一案でしょう。
また、家賃の一部を経費にする場合は別ですが、自宅の一部を経費にする場合には注意が必要です。先のことはわかりませんが、自宅を売却するとき、その売却益から最高3,000万円を控除できる特例があります。
しかし、建物の10%以上が事業用であれば、この特例は居住用部分だけに限られ、逆に居住用部分が90%以上であればすべて居住用として3,000万円控除を受けることができます。特に自宅の建物を減価償却して経費にするときには、事業用割合に十分留意すべきです。
事業用経費だけでなく「所得控除」にも目を向けて節税対策を
フリーランスの節税対策では経費にばかり気を取られがちです。しかし、小規模企業共済やiDeCoでは払込証明書が交付されるため、必ず所得控除が実現します。
節税効果も高く、所得税は累進課税のため、所得控除の金額によっては下記図表のとおり適用税率にも影響するだけではなく、住民税や健康保険料にまで波及します。課税所得という広い視野で課税対象を捉え、判断に迷うことが多い事業用の経費よりも、経費と同じ効果がある所得控除にも目を向けてみましょう。