米国の「雇用統計」は、各国の経済指標と比べて重要度が高く、為替相場への影響も強いため、一番注目度の高い指標です。
経済ニュースなどでよく耳にする言葉ですが、「雇用統計」というものが一体何を表しているものなのかしっかり理解できていない…という方も多いのではないでしょうか?
今回のコラムでは、そんな「雇用統計」についての基礎知識と見る際のポイントについて解説していきます。
1. 「雇用統計」とは?
為替相場、世界経済において最も重要な指標のひと1つといわれているのが「米国雇用統計」です。
世界経済の中心とされるアメリカの失業者数や就業している人数などの雇用情勢が、アメリカ合衆国労働省労働統計局(U.S. Bureau of Labor Statistics、略してBLS)から毎月発表されます。
アメリカの景気を表す最新の数値として、外国為替・株式・金利などのマーケットにも大きな影響を与えるため、数ある指標の中でも「米国雇用統計」の発表は速報ニュースになるなど、世界各国の市場関係者から注目されています。
1-1. 「雇用統計」が重視される理由
雇用統計のデータは連邦準備理事会(FRB)の参考指標のひとつであるため、将来の政策への期待感が為替市場に大きな影響を与えます。
FRBは政策金利の引き上げや引き下げを検討する際に、労働市場の動向を把握する上で雇用統計のデータを重視しており、国内総生産(GDP)世界一位を誇るアメリカは、その約7割が個人消費で占められていることから、個人消費の増減が経済に影響を与えやすい傾向があります。
利上げをする、しないという政策金利の決定はマーケットに大きな影響を与えるため、アメリカの雇用情勢、労働市場のデータを把握することは経済全体を捉える上でとても大切です。
2. 「雇用統計」の発表日は?
「米国雇用統計」は全米の約16万の企業や政府機関のおよそ40万件のサンプルを対象に毎月12日を含む週のデータが集計され、基本的に【毎月第1金曜日】に発表されます。なお、発表時間は夏時間と冬時間で異なります。
〜雇用統計の発表〜
■夏時間:日本時間 21:30
■冬時間:日本時間 22:30
(ニューヨーク現地時間 8:30)
特に注意が必要なのは、例えば11月の雇用統計の発表時にはアメリカではまだ夏時間でも、欧州では冬時間というケースもあり得ます。発表時間を確認したい時はアメリカの時間で見る必要があるということを覚えておきましょう。
3. 「雇用統計」で注目される主な項目
「米国雇用統計」で発表される項目は、「失業率」「非農業部門雇用者数」「週労働時間」「平均時給」「建設業就業者数」「製造業就業者数」「金融機関就業者数」など雇用に関する計10項目以上でデータも膨大です。
その中で、最も注目度の高い項目が『平均時給』『非農業部門雇用者数(NFP: Non-Farm Payroll)』『失業率』の3つです。
3-1. 平均時給
平均時給は、農業部門を除いた主要産業の1時間当たりの平均賃金とその増減をまとめた指標です。
人件費の増減を把握することで、景気の判断に役立ちます。平均時給が伸びると、個人消費の拡大につながるため、景気の状態やインフレの状況を知るための指標として重要だといえます。
3-2. 非農業部門雇用者数
非農業部門雇用者数は、農業部門を除く産業分野で民間企業や政府に雇用されている人数と、その増減をまとめたものです。
雇用者数が多ければ多いほど、賃金や個人消費が拡大するので、景気の状態を確認するための指標として重要視されています。雇用情勢を知るうえでは、特に製造業の雇用者数が注目されています。
3-3. 失業率
失業率は、アメリカ国内の失業者数(16歳以上の働く意志を持つ人たち)を労働人口(失業者+就業者)で割って算出し、失業者の割合を増減とともに公表します。
失業率が上がれば個人消費は減少し、失業率が下がれば個人消費は増加するため、景気の動向を判断できます。失業率の変化次第では、マーケットが大きく動くため、この指標もとても重要になります。(※求職活動を諦めて過去4週間以内に求職活動をしなかった人は失業者と見なされません。)
4. 「ADP雇用統計」とは?
ADP雇用統計とは、アメリカの大手給与計算代行サービス会社であるオートマティック・データ・プロセッシング(Automatic Data Processing、略してADP)社が公表する指標です。
2006年5月から公表が始まったもので、全米の非農業部門雇用者数の予測をするために開発された統計であり、米国雇用統計が発表される2営業日前に発表されます。約50万社のADP社の顧客データを元に毎月雇用者数の動向を調査したもので、「米国雇用統計」の非農業部門雇用者数や失業率の先行指標として注目されています。
しかし、米国雇用統計とADP雇用統計はサンプルデータが違うため必ずしも同じ結果になるとは限らないため、注意が必要です。ADP雇用統計は、あくまでADP社の顧客データによるものなので過信はし過ぎないようにしましょう。
ただ、ADP雇用統計と労働省が発表する米国雇用統計が一致する場合、マーケットの変動は小さく、大きく乖離している場合にはマーケットが大きく動く傾向があります。また、予測の内容が前月よりも大幅に上下する場合にもマーケットの変動が大きくなることがあるため、ADP雇用統計のチェックも合わせてしておいたほうがいいでしょう。
5. 「雇用統計」での相場の変化
「雇用統計」での相場の変化のポイントとして、以下の3つが挙げられます。
・景気が良いとドル高になる
・予想値通りの結果だと相場はあまり動かない
・予想値との乖離が大きいほど相場は大きく動く
5-1. 景気が良いとドル高になる
米国の雇用統計の発表は相場に大きな影響を与えるため、一般的には次のような動きが起きやすくなります。
【1-1. 「雇用統計」が重視される理由】でも少し触れましたが、アメリカの中央銀行にあたる米国連邦準備理事会(FRB)は、金融政策の決定にあたり、「米国雇用統計」の結果を重要視しています。
FRBの金融政策では、一般的に景気が良いと政策金利を引き上げ、景気が悪いと政策金利を引き下げます。引き上げが行われた場合、市場金利が上がるため、投資家たちの“ドル買い”が起こる傾向があります。一方、引き下げが行われた場合は、市場金利が下がるため、“ドル売り”が起こる傾向があります。
5-2. 予想値通りの結果だと相場はあまり動かない
米国雇用統計発表前に各社の予想値が発表され、これを基にコンセンサス予想(平均値)が作り出されていくのですが、発表された雇用統計の結果が事前の予想通りとなった場合には、相場はあまり変動しないことが多い傾向にあります。
5-3. 予想値との乖離が大きいほど相場は大きく動く
一方で、発表された雇用統計の結果が事前の予想と乖離する場合には、相場が大きく変動することがあります。
そのため、雇用統計を読み解くためにも事前の予想値を把握しておくことが大切です。
6. 相場の値動きの特徴
米国雇用統計の「発表前」「発表直後」「発表後」の為替相場では、普段では見られないような独特の値動きをしがちです。
6-1. 雇用統計の「発表前」
米国雇用統計の発表前の特徴としては、多くの相場参加者が米国雇用統計の結果を待っている状態であり、取引をするトレーダーが少なくなるため、緩やかな値動きをする傾向があります。
また、『発表時の5分前』から『発表直前』にかけて突然大きく値が動くこともあります。
6-2. 雇用統計の「発表直後」
米国雇用統計の発表直後では、相場が大きく変動し乱高下する傾向にあり、ものの数分で米ドル/円(USD / JPY)が1円以上変動することも珍しくありません。
事前の予想値と結果があまり乖離していない場合でも、普段の値動きよりは激しい動きになる可能性があります。
6-3. 雇用統計の「発表後」
雇用統計の発表後は、しばらく値動きが大きくなる傾向がありますが、時間の経過とともに小さくなってくることがほとんどです。
しかし、場合によっては日付が変わっても普段とは違う値動きになる可能性もあるため、取引には充分な注意が必要です。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
今回のコラムでは、世界経済の中心ともい言われるアメリカの経済指標で最も重要とされる「雇用統計」を紹介してきました。
「雇用統計」はアメリカの景気を見通すための材料であり、為替取引をする際にも押さえておくべき重要な指標です。ぜひこの機会に、雇用統計について理解を深めるきっかけになれば幸いです。
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