前回「あなたの資産、大丈夫ですか?(その1)」では、資産について不安に思い、悩むだけではなく、行動に移しましょうということを最後にお話ししました。その言葉に従い行動しようとすると、まずは、「どうやって貯めたら良いのか」、「何に投資するのが良いのか」という話になりがちです。実際私のところにもそのような相談が寄せられることがしばしばあります。これまでの私のコラムをお読みいただいていれば、この話をする前にすべきことがあることはお分かりいただけるかと思いますが、資産を形成していくにあたり、すべきこととして私が大事だと考えることについてご説明します。
1.資産形成のためのステップ
資産形成というと、「何に投資するのが良いのか」という話になりがちです。「株式投資と投資信託、どちらが良いのか」、「NISAとiDeCoではどちらがお得なのか」、「リスクが低くて儲かりそうな金融商品はどれか」等々と、ネットや書籍では「マネーセミナー」と称するお金について学ぶ場まで、枚挙にいとまがないほどこれらをテーマにしたものが世の中には溢れています。そして私のところにもそのような相談が寄せられることがあります。
私がそのような質問を受けた場合は、逆にその方にお尋ねします。「あなたはどうしたいのですか?」と。「どうしたいのかが分からないから聞いているんじゃないか」と思われるかもしれませんが、ちょっと待ってください。
どうしたいのかが分からないまま質問して大丈夫でしょうか?私のコラム「家計簿はつけなくていい?:資産形成のための第1ステップ」や「そのFIRE、ちょっと待った!(Part1):資産形成を目指す前にすべきこと」をお読みいただいた方であれば、私がこのような質問をする理由が少しはお分かりいただけると思います。
まだお読みになられていない方、既に読んだけれど忘れてしまった方のために、おさらいでご説明していきます。
2.第1ステップ
資産形成をするにあたって最初にする大事なことがあります。それは、自身の現在の金銭状況(家計)を把握する、ということです。その理由は、現在の金銭状況=現状を把握していなければ、「株式投資と投資信託、どちらが良いのか」という質問に対して、例えば「株式投資が良い」と回答されたとしても、それが自身にとって本当に良いものかが分からないからです。
具体的な例でご説明します。あなたはオリンピックに刺激されて、スケートボードを習うことにします。スクールに行った初日、あなたが全くの初心者にもかかわらず、いきなりビッグエアという高難度な競技が人気だからと指導を始められたらどう思われますか?まだボードに乗ったこともない初心者には難しすぎると思われるのではないでしょうか。つまり、ご自身の現状に照らし合わせ、指導者からすすめられるものは自身には不適切だと感じられるはずです。指導者に、全くの初心者であるという自身の現状を伝え、把握してもらうところから始まり、レベルにあった適切な指導を受けることになりますよね。
どのようなことにおいても同じことがいえるのですが、自身の現状を把握することなしに何かを始めることはできません。これは資産形成においても同じです。最初にすることが現状把握だということはお分かりいただけたでしょうか。
現状把握として行うことは、毎月いくら稼ぎ、何にどれくらい使っていて、どこにどれくらいのお金を貯められているか、を知るということになります。なぜなら、これまでも、そしてこれからもこの3つのバランスによって人生が成り立つからです。このバランスを見た結果、資産形成ができるのは黒字になっている方のみです。赤字、収支±0の方はまず黒字にさせることを目指さなければなりません。黒字になって初めて、資産を形成するということを考えられるのです。
3.第2ステップ
さて、現状が把握でき、黒字になったところで、「では何に投資するのか」と考えるのは性急過ぎるでしょう。次に行うのは、「何に投資するか」ではなく、先に行うことがまだまだあるのです。それは、ゴール設定です。資産形成は、何かの目的があってするものであり、これ自体が目的ということではないはずです。例えば、夜景がきれいに見える都心の高層マンションに住み高級車を乗り回したい、田舎で自給自足の生活を送りたい、など、自身がなりたい未来というものがそれぞれにあり、そのための手段として資産形成をしているのではないでしょうか。もし、資産形成自体が目的となっているようでしたら、何のために資産形成をするのかあらためて考えてみてください。
ゴール設定を行う理由は、そのゴールによって資産形成として達成する額や手法、形成する資産の内訳などが変わってくるからです。上述の2つの例で、その違いはお分かりいただけるのではないかと思います。田舎で自給自足の生活をしたい場合、形成する金融資産は、夜景がきれいに見える都心の高層マンションに住み高級車を乗り回したい場合よりも少なくて済むでしょうし、形成する資産はいわゆる金融資産だけではないでしょう。人間関係や健康、野菜の育て方などの知識といった、いわゆる無形資産といわれるものも形成していく必要があります。どのようなゴールを目指すかにより、資産形成の手法や資産の内訳が変わってくることはお分かりいただけたでしょうか。
4.ポートフォリオを組む
現状把握、ゴール設定ができたところで、資産について考えていくことになりますが、「やっとここで資産を形成することを考える段階になった」と思われた方、実はまだ早過ぎます。その前に考えるべき大切なことがあるのです。それが何かお分かりでしょうか。
資産形成についてさまざまな勉強をされている方であれば、「ポートフォリオを組むことを考えること」とお答えになるのではないかと推測します。
「ポートフォリオを組む」がお分かりにならない方のためにご説明しますと、「ポートフォリオ」とは金融商品の組み合わせやその比率のことをいいます。つまり「ポートフォリオを組む」とは、どの金融商品をどのくらい保有するか、例えば、どのような投資信託をどのくらい保有し、株式はどの銘柄で何株保有するか、FXにはいくらまで投資するか、などを検討することをいいます。
なぜこのようなことをするのでしょう。それは「リスク分散」という考え方があるからです。投資の世界には「卵を1つのカゴに盛るな」という格言があります。卵を1つのカゴに全て入れてしまうと、そのカゴを落とした場合卵の全てが割れてしまう可能性がありますが、複数のカゴに分けて入れておけば1つのカゴを落としてそこに入れておいた卵が割れてしまっても他の卵は割れずに残りますよね。
これを投資の世界にあてはめて考えてみましょう。持っているお金の全てを例えば株式1銘柄に投じてしまった場合、その株が暴落すれば大きな損害を被ります。ところが持っているお金の半分を同じ株式1銘柄に、もう半分を金に投じた場合、同じように株が暴落してもそれによって被る損害は持っているお金を全て投じた場合の半分になります。このようにしてさまざまなところに投資し金融資産を分散させておくことで、投資先の1つがダメになった場合でもリスクを最小限に抑えるのが「ポートフォリオを組む」ということなのです。
さて、「ポートフォリオを組むこと」というお答えに対しては、多くのマネーセミナーなどでは「正解です」といわれると思いますが、私の考えに照らし合わせると「このお答えは、正解でもあり、間違いでもあります。」といわざるを得ません。リスクを分散させるという考え方は間違ってはいないのですが、ポートフォリオを組むということは、結局「何に投資するのが良いのか」という話の延長に過ぎないからです。これがお分かりにならないということは、あなたの資産はリスクに晒されているということになるでしょう。資産形成について勉強している人ほど陥りやすい間違いであり、リスクヘッジ(=リスク回避)ができていないと思います。
では具体的にどうすれば良いのでしょうか。それについては、次回のコラムでご説明します。ヒントは、リスクは金融商品だけに潜んでいるわけではない、ということです。これでピンときた方もいらっしゃるかもしれません。答え合わせは次回のコラムで行ってください。
おわりに
いかがでしたでしょうか?今回は、私が考える、資産形成をするにあたって進むべき大事なステップについてお伝えしました。多くの方がついつい犯してしまう間違いに気付いていただけましたら幸いです。