個人で事業をしている方やサラリーマンで副業をしている方は、その年の1月~12月の1年間の収入について、翌年の3月15日までに税務署へ確定申告をしなければなりません。税務上の収入は「所得」と呼ばれ、いくつかの種類がありますが、このコラムでは「事業所得」の確定申告について紹介します。
確定申告には「青色」申告と「白色」申告の2種類がありますが、主に青色申告について、その大きなメリットである税金を軽減できる優遇特典を中心に、青色申告を選択することの有利性について解説します。
事業所得ってどういうもの?
「所得」は収入から費用を引いた残りの利益
皆さん、収入という言葉については、馴染みがあると思いますが、「所得」という言葉にはあまり馴染みがない方も多いのではないでしょうか。
所得とは、税務上、税金を課税する基礎となる収入のことをいいます。では、収入と所得の違いは、収入は物品を販売したり、何かのサービスをして相手から受け取ったお金ですが、「所得」は、収入から、その収入を得るためにかかった費用(必要経費)を差し引いた残りのお金(利益)のことをいいます。
事業所得は起業や副業で始めた事業での利益
個人で起業して事業をされている方のほか、人生100年時代の到来による2018年1月、政府の「副業」奨励宣言によって、サラリーマンの方でも副業として事業を始められる方が増えてきました。特に40代~50代では、会社の定年退職後のことを見据えた準備として、徐々に副業を始める方もいると思います。
先程、所得について説明しましたが、事業所得とは、あなたが起業や副業で始めた事業で儲けた利益(損失)となります。そして、事業を始めて避けられないのが確定申告です。これから確定申告について見ていきます。
青色申告と白色申告の違い
白色申告は比較的簡単だが節税効果がない申告方法
先に白色申告について簡単に説明します。白色申告は、単式簿記によって1年間の事業活動を記録するもので、主に現預金の動きを記録するため、様々な帳簿や決算書の作成を必要としない、あまり手間のかからない比較的簡単な申告方法です。
白色申告は、簡単な申告方法である点がメリットですが、その反面、青色申告にあるような税金を軽減する優遇特典がないため、納税額が多くなってしまうのが大きなデメリットです。
青色申告は手間がかかるが節税効果が大きい申告方法
青色申告は、複式簿記に基づいて1年間の事業活動を記録しなければいけません。このことから、現預金出納帳の他にも、売掛金、買掛金といった様々な勘定科目別の帳簿の作成に加えて、それらの結果をまとめた貸借対照表、損益計算書という決算書を作成する必要があります。これには、ある程度の「簿記」の専門知識が必要であるとともに手間がかかる申告方法である点がデメリットです。
このことだけを見れば、手間がかからない白色申告を選択する方が楽で良いように思うかもしれません。しかしその反面、青色申告には、その手間を大きく上回る、白色申告にはない、税金を軽減できる様々な優遇特典が用意されていて、納税額を少なく抑えることができるのが大きなメリットです。税法上で認められた正当な方法で節税できるので、白色申告に比べとても有利な申告方法といえるでしょう。
青色申告の大きなメリット、4つの「優遇特典」
青色申告の大きなメリットである税金軽減の優遇特典には、次の4つがあります。
*青色申告制度
参照元:国税庁
青色申告特別控除
事業所得から「55万円」の基礎控除が受けられます。また、「電子帳簿保存法に準拠した帳簿の保管」もしくは「e-TAX(電子申告)」による確定申告をするという条件を満たすと、この基礎控除額に「+10万円」されて、合計「65万円」の基礎控除が受けられます。
事業を営む場合、利益を大きくするためには初期投資や必要経費を少なく抑える必要があります。しかし、税金面では、必要経費が少ないほど納税額が大きくなってしまいます。また、必要経費は現金の出金が伴いますので、納税額を少なくしようとして必要経費を多く使用すると、手許に残る現金が少なくなってしまいます。
この点、「青色特別控除額」は現金の出金を伴いません。いわば現金出金を伴わない必要経費が最初から認められているもので、納税額を少なくでき、さらにその分の現金を手許に残しておけるとても大きなメリットがあります。
青色事業専従者給与
青色申告者と生計を一緒にしている年齢が15歳以上の配偶者や親族で、青色申告者の事業に専ら従事している方に支払った給与は、事前に税務署へ提出した「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」に、その労務の対価として適正な金額として記載された金額の範囲内であれば、「青色事業専従者給与」として必要経費に算入することができます。
但し、青色事業専従者として給与の支払を受ける人は、控除対象配偶者や扶養親族にはなれないため、扶養控除は受けられませんので注意してください。
例えば、専業主婦で収入がない奥さんに、あなたの事業を手伝ってもらっている場合、事前に、奥さんを青色事業専従者として、毎月の給与を9万円支払うと税務署へ届出ていた場合、1年間で108万円の必要経費を計上することができます。
これに比べて、青色事業専従者給与ではなく、「配偶者控除」を選択した場合は、年間で38万円(あなたの事業所得が900万円以下の場合、2021年12月時点)の控除しか受けられなくなってしまいます。
この特典は、あなたの事業所得の所得税を軽減するばかりか、これまで専業主婦で頑張って家庭を支えてきた奥さんへ給与を渡すことができ、税金の節税と奥さんにも喜ばれる一石二鳥のとても大きなメリットがあります。
*「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」について
参照元:国税庁
*配偶者控除
参照元:国税庁
貸倒引当金
事業所得の青色申告者の方で、その事業で生じた売掛金や貸付金などの貸金の貸倒れ(回収不能)による損失の見込額として、年末における貸金の帳簿残高の合計額の「5.5%以下(金融業の場合は「3.3%」)」の金額を「貸倒引当金」勘定へ必要経費として計上できます。
これは、相手から代金を回収できない場合に備えて、その見込みの損失金額を税法上の認める範囲内で、あらかじめ必要経費として認めるというものです。帳簿残高の合計額を一括りに計算するため「一括評価」と呼ばれています。
また、貸金のうち、倒産などの税務上で認められた一定の事由によって、個別に損失が見込まれる場合は、その事由に応じた限度額までを、貸倒引当金勘定に繰り入れることができます。相手ごとの個別の帳簿残高を基に計算するため「個別評価」と呼ばれています。ただし、この個別評価で貸倒引当金に計上した貸金については、一括評価を行う帳簿価額の合計額から除かなければなりませんので注意して下さい。
純損失の繰越しと繰戻し
事業を開始して、ある年の所得が「損失(赤字)」となった場合、その損失を翌年以後3年間繰り越して、翌年以降の「利益(黒字)」となった年の所得からマイナスすることができます。
例えば、ある年に▲30万円の赤字となり、その翌年には80万円の黒字になったとすると、その翌年の課税所得は「80万円-30万円」 で、50万円となります。また、前年も青色申告をしていれば、この「純損失の繰り越し」の利用に代えて、その損失額を生じた年の前年に繰り戻して、前年分の所得税の還付を受けることもできます。
おわりに
事業所得の確定申告に際して、青色申告は、簿記という専門知識が必要でさまざまな帳簿と決算書を作成しなければならないため、白色申告に比べて手間がかかるというデメリットがありますが、その手間を大きく上回る税金を節税する優遇特典があるため、断然に有利であるということをお分かりいただけたと思います。
さらに現在では、簿記の専門知識がなくても簡単に帳簿の作成ができ、青色確定申告書まで自動で作成して、e-TAXでの電子申告にも対応しているクラウド上の会計ソフトがいくつか出ています。毎月の使用料も比較的安価な設定となっていますので心配はいりません。事業を始めて確定申告をする際には、節税効果に断然有利な「青色申告」がおすすめです。
*クラウド会計ソフトのご紹介
- 参照元:クラウド会計ソフトfreee会計
- 参照元:クラウド会計ソフト弥生会計オンライン
- 参照元:Money Forwardクラウド確定申告