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【相続発生前が重要】受け身では損をする…不動産相続で「相続する側」が今できる賢い準備を弁護士が解説

山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

執筆者

山村法律事務所 代表弁護士

山村 暢彦

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社からの複雑な相続業務の依頼が多数。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

不動産の相続対策は、親世代が行うものと思っていませんか? しかし、相続する側も主体的に関わることで、その後のトラブルを未然に防ぐことができます。不動産と相続を専門に取り扱う山村暢彦弁護士が、相続発生前からできる家族間の話し合いの重要性、コミュニケーションのコツ、合意形成のポイントについて相続財産を受け取る側へ向けて、解説します。

財産目当て?…相続人側から相続対策を打診すると

財産目当て?…相続人側から相続対策を打診すると

相続対策では、相続財産を残す側の協力が必要不可欠ですが、相続人側からの働きかけによって進んでいくことも実際上は大きいです。

たとえば、収益不動産が絡むような相続。以下のようなケースです。

①    高齢の両親は、トラブルが生じているアパートの問題解決に動いてくれない。

②    先祖代々の土地で付き合いの薄い親族との共有名義の土地を解消する必要があるのにもかかわらず、なにも準備してくれない。

③    兄弟姉妹と疎遠で遺産分割では揉めることが避けられないので、相続手続を遺産分割協議なしで終結できるようにしたいのに遺言書を作成してもらえない。

④    そもそも親がどのような資産をもっているかが不明で、収益不動産や土地など資産ではあるのだろうけど、どのような範囲の財産があって、どのような問題があり、その問題解決にどの程度の時間やコストが必要なのかを把握しておきたい。

などなど。このような状況下で準備不足のまま相続が発生すると、思わぬ損失やトラブルにつながることもあります。

ここで難しいのは、両親に相続対策してくれ、遺言書を作成してほしいなどと不躾にいってしまうと、「なんだこいつは、まだ元気なのに、財産が欲しくてこんなことをいってくるのか!」と思われてしまうようなリスクがあります。

実際に相続人から相続対策の話を持ち出すのは、財産のやり取りに関するセンシティブな話題です。

加えて、「親に自分が死ぬときのことを考えろ!」と迫ってしまう部分もあるため、話を持ち掛けられた両親のストレスも大きいです。やはり慎重に話を進める必要があります。

筆者の経験上、専門家等に相続対策を依頼するような方は、「財産目当て」で動かれているようなことは少ない印象です。

①    問題ありの不動産が含まれている

②    関係の良くない親族との遺産分割協議リスクを危惧している。

③    連絡不通、判断能力がない親族との遺産分割協議のリスクがある。

④    相続財産が把握できない可能性がある。

このように、相続人側も相続財産の概要や親族関係、土地関係者との関係を把握しないと問題解決が難しくなります。両親が元気なうちに情報を整理し、準備を進めておく方が多い印象です。

相続財産が把握できていないリスク

相続財産が把握できていないリスク

金融資産関係の相続財産が把握できていない場合も調査に時間やコストが発生しますが、やはり厄介なのは不動産です。たとえば先祖代々の地主系の不動産に関して、親族と土地を共有している、私道を共通して利用している、など「身内だからこそ」の中途半端な共有・利用関係のある不動産が多く含まれているようなことがあります。

かつての家制度時代は問題になりにくかったことも、現代では親族関係の希薄化によりトラブルに発展するケースが増えています。

そのため、従前どのような関係性で、どのような経緯で共有なのか、利用関係があるのかなどを把握しておくことで、心情面にも配慮した調整ができる可能性がでてくるでしょう。

また、収益不動産を買い進めている人の相続では、「どういう経緯」で、「どういう意図」でその物件を購入したのか、など次世代でどのような戦略を取るべきか、先代の意向を承継しておくことも必要です。

たとえば、現時点では不採算であっても、将来的に近くに道路が通り、開発計画が近々立ち上がるので、保有を続けたほうがよかったり、近隣関係も複雑なので、建物の建て替えタイミングで売却して買い替えたほうがよかったりといった経緯や意図です。収益不動産を相続させる場合には、世代をつないでバトンリレーで不動産賃貸業を行っているようなものです。そのため、前のランナーの情報は確実に把握しておくほうがよいといえるでしょう。

明らかにトラブルが想定されるのにもかかわらず、対策されていない

明らかにトラブルが想定されるのにもかかわらず、対策されていない

相続人から相続対策に踏み切らざるを得ない理由の一番はここですよね。収益不動産で賃借人と大きなトラブルを抱えている、連絡が取れない親族がいるのがわかっている、などがこのケースです。

実際にあったケースでも、賃借人が高齢者で認知症の疑いがあり、賃料不払いになっているため、解決するには裁判所の関与が必須なレベルのトラブルや、質の悪い転借人が入居しており、こちらも裁判所にて解決が必要なトラブルが見えているなど。

単純に親族の仲が悪いことにとどまらず、前妻・後妻など複雑な親族関係が影響している、親族に認知症の方がいるといったケースでは、極力、遺言書等による事前対策があったほうが、トラブルを減らすことにつながるかと思います。

現実的な対応策

現実的な対応策

こうした複雑な事情が絡む不動産の相続対策として、相続人が相続発生前にできることはなんでしょうか? 難しいテクニックなどではなく、現実的な具体策をお伝えしていきます。

自分の不安を正直に打ち明ける

現実的な相続対策の第一歩は、家族間のコミュニケーションを充実させることです。形式的な対策だけでなく、「想い」や「絆」を大切にする姿勢が重要です。

忙しいとまったく帰省しない子が久々に返ってきたと思ったら、両親に「相続対策してくれ!」なんて言ってきたらどう感じるでしょうか。相続対策に入る前に、親族間のコミュニケーションが重要であることは間違いないです。

自分が不安に感じていることを正直に相談するのがよいと思います。「相続対策≒親、祖父母、叔父叔母らに自分の死に向き合うことを考えてもらうこと」だという自覚をもち、気遣いをしながらも、自分や次の世代のためには、このような問題を解決してほしいと、正直に将来の不安要素を相談するとよいと思います。

「公正証書遺言」の作成

法的な対応策としては、遺言書の作成が骨子です。仮に相続人となる人が全員合意しても「被相続人が死亡する前の遺産分割協議は無効」という法的原則があるため、基本的に相続人同士で事前に遺産分割協議をしても法的効力はありません。

そのため相続対策は、相続前に問題解決を行ってもらい、その後、遺言書を作成していくというのが基本的な流れとなります。

次は、遺言書の種類についてです。本当にシンプルな相続対策である場合や、緊急性が非常に高い場合には、自筆証書遺言でもよいかと思います。しかし遺言書を作成しても、相続人間で不平不満が生じることは多いです。そのため、合理的な説明ができるように専門家のアドバイスを踏まえて、不要な疑義が生じないように公正証書遺言のほうが安全です。

「相続する側」の準備は「相続させる側」のストレスを理解したうえで

「相続する側」の準備は「相続させる側」のストレスを理解したうえで

相続対策と一言にいっても、相続財産の種別、規模や、被相続人の思い、相続人のライフスタイルなど、世帯ごとに多種多様です。

ですが、相続人らも自らの家庭を守るために、上の世代と話し合って相続対策を進めていかなければならない場面も増えてきています。

そのなかでは、上の世代も「相続対策≒死と向き合う」という多大なストレスを被ることを肝に銘じながら、自分の将来への不安を話していくという心情面も疎かにしないスタートを切るように心がけてみましょう。

そのなかで、技術的なアドバイスが必要であれば、税理士や弁護士、不動産会社、金融機関等を頼ればよいと思います。また場合によっては、直接親族間で話しづらい際に、専門家による橋渡しが効果的なケースもありますので、そのような専門家の利用方法も頭の片隅に残していただければと思います。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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