更新日
公開日

親亡き実家、どう分ける?揉めない不動産相続…「遺産分割」の最重要ポイント【弁護士が解説】

親亡き実家、どう分ける?揉めない不動産相続…「遺産分割」の最重要ポイント【弁護士が解説】
山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

執筆者

山村法律事務所 代表弁護士

山村 暢彦

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社からの複雑な相続業務の依頼が多数。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

「うちは家族仲がいいから大丈夫」「法律で決まっているように分ければいいんでしょ?」――多くの方がそう思っていますが、親亡き後、実家が原因で家族の絆が壊れてしまうケースは少なくありません。

特に、遺産の大部分を実家の土地や建物といった不動産が占める場合は要注意です。

本記事では、不動産相続に精通する山村暢彦弁護士が不動産相続における遺産分割のポイントを解説していきます。

「法律任せ」では相続の揉めごとを防げない

「法律任せ」では相続の揉めごとを防げない

「法律で決まっているように分けてくれればいいよ」

相続を遺す方からも、遺産を受け取る方からもよく聞かれる言葉です。この「法律で決まっていること」とは、いわゆる「法定相続分」を指します。

これは民法で定められた、相続人ごとの遺産の取り分の割合を示すもので、たとえば配偶者と子ども2人が相続人であれば配偶者は1/2、子どもはそれぞれ1/4ずつ、という割合になります。

ただし、この「法定相続分」はあくまで“割合”に過ぎず、具体的にどの財産を誰が取得するかまでは決めていません。たとえば、遺産の大部分が不動産だった場合、「法定相続分どおりに分けましょう」といっても、不動産を物理的に分割することは不可能です。

現物で分けられない以上、誰かがその不動産を相続し、代わりに他の相続人に「代償金」(現金)を支払うなどの対応が必要になります。

相続の場面では、法律は誰が相続人になるか、その相続人がどの割合でどの相続財産を取得するかまでは定めてくれていますが、具体的に誰が財産を相続するのか、という一番重要な点については定められていません。

そして、ここで問題になるのが不動産の「評価額」です。

遺産分割で不動産の評価額がトラブルの火種になる理由

遺産分割で不動産の評価額がトラブルの火種になる理由

相続財産における不動産の評価方法は、実は一律に決まっているわけではありません。相続税を計算するための「相続税評価額」や、実際に売買される「実勢価格」、不動産鑑定士による「鑑定評価」など、複数の算定方法があります。

ここでよくあるのが、不動産を取得する側と代償金を請求する側で評価額に対する見解が食い違うケースです。

たとえば、不動産を取得したい相続人は、「実勢価格は高いけれど、評価額はもっと低いから、代償金は安くていい」と主張するケースも少なくありません。

対して代償金を受け取りたい相続人は、「いやいや、売ればもっと高く売れるんだから、評価もそれに基づいてよ」と反論するなど、立場によって評価額を都合よく主張してしまうのです。

このような評価額のずれが、感情的な対立に発展することも多く、調停や裁判に持ち込まれることも珍しくありません。不動産の評価額での対立が生まれる背景は、そもそも「不動産を一律に評価することが難しい」という制度的な問題も一因だと考えられます。

仮に、相続人と税務署との問題であれば、路線価に代表されるようなある程度一律な基準で価格を定めることも可能です(※相続税評価も路線価だけで決めきれるものではなく、地域差などもあり、争いの原因となることもあります)。

一方で、実際の遺産分割協議や調停、裁判所での判断においては「実勢価格」すなわち「時価」を基準に判断されるケースが多いです。この時価は簡単に決められるものではありません。

取引事例比較による方法、同じ不動産を再度調達する場合の再調達価格による方法、利回りから算出する収益還元による方法など、多様な方法があり、一律に決めることは困難です。

最終的には、遺産分割調停または審判の中で裁判所主導による不動産鑑定をすることによって、一義的な価格を決めるほかありません。

法律では度々生じる問題ですが、裁判所での判断を得るまで、一義的にこれだという結果を得ることはできません。そのため、各相続人が自身の立場から有利な主張をし、結果として対立が生じやすいのです。

不動産の割合が多いほど、分割は難しい

不動産の割合が多いほど、分割は難しい

実際の遺産構成をみると、不動産が大きな割合を占めているケースが多いです。実家の土地・建物や収益物件など、不動産は現物資産の代表格でしょう。

しかし、不動産は現金のように簡単に分割することができません。そのため、「相続人が複数いる場合には、誰が取得するのか」「他の相続人にはどのように公平性を保つのか」といった点が非常に難しくなります。

特に、不動産が資産全体の大部分を占めているケースでは、「分割しきれない」ことで争いが激化するリスクが高まります。

収益不動産を取得するためとはいえ、代償金を相続財産以外の自分の財布から支払うというのはなかなか容易ではありません。そのため、収益不動産であれば、金融機関からの融資を利用して収益不動産を取得する代わりに、新たに借金を負うという選択も少なくないのです。

さらに困難なのは実家の相続です。親と同居しており、居住状態は変わらないにもかかわらず、実家を相続するために借金をせざるを得ないとなると、感情的な対立が生じるのも無理がないでしょう。

揉めない不動産相続のためにできる「2つの対策」

揉めない不動産相続のためにできる「2つの対策」

それでは、このようなトラブルを未然に防ぐには、どのような対策を取ればよいのでしょうか? 弁護士として、以下の2つの対策を強くお勧めします。

対策①金融資産の割合を高めておく

まず、相続財産に占める金融資産(預貯金や株式など)の割合を増やしておくことです。

金融資産は、不動産と異なり分割しやすく、代償金の原資としても簡単に活用できるという特徴があります。たとえば、長男が実家の不動産を相続し、他の兄弟に代償金を支払うという分割方法を採用する場合、預貯金があればそのまま支払いに充てられます。

また、金融資産は評価額が明確で、揉めにくいという利点もあります。不動産だけが多い遺産構成では「換金しなければ分けられない」という状態に陥りやすいため、生前の財産整理においては、金融資産とのバランスを意識することが重要です。

対策②遺言書で分割方針を明示しておく

二つ目の対策は、遺言書を作成し、あらかじめ相続人間の分割方法を定めておくことです。

遺言書には、「この不動産は長男に相続させる」「預金のうち3,000万円は次男に与える」といった具体的な分割内容を記載できます。

これにより、誰がなにを受け取るのかが明確になるため、相続発生後の遺産分割協議が不要になるか、あるいは大幅に簡略化されます。

特に、不動産については「長男が取得する代わりに代償金を支払う」旨や、「将来的に売却して分配する」などの具体的な記載があると、相続人間の納得感が違います。

ただし、遺留分侵害(民法で保障された最低限の取り分)を侵害しないように注意が必要です。不動産の価格も動いていくため、完全に揉めない遺言書というのは難しい面もあります。

もっとも、遺言書に加えて、被相続人(親御さんなど)の考えを他の方法でも兄弟姉妹に伝えておく、少なくとも作成時の時価や、老後の生活費などを踏まえて分配を考慮しておくなど、家庭ごとに即した考えられる方策を講じておくべきでしょう。

不動産相続は「準備」と「配慮」がカギ

不動産相続は「準備」と「配慮」がカギ

不動産の相続は、感情とお金が絡む複雑な問題です。法定相続分という「割合」だけでは解決できない部分が多く、具体的な分配をどう決めるかが重要になります。本記事でご紹介したポイントを振り返りましょう。

  1. 不動産は評価方法によって揉めやすい
  2. 相続財産の金融資産の割合を高めると分割しやすい
  3. 遺言書で分割方針を明示しておくとトラブル予防になる

将来の不動産相続が「争続」にならないために、元気なうちからの準備が必要です。

また、相続対策は、技術的な部分よりも、「自分の死と向き合って、相続のことを考える」という点がハードルになることも多くあります。

そのため、不動産の相続に危機感がある方は一つでも行動に移すことが重要です。遺言書の作成や財産の見直しなど、いまできる対策を少しずつ進めていきましょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、最新情報はホームページ等でご確認ください。

よく読まれている記事

みんなに記事をシェアする