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企業年金制度には何がある? 企業型DCとDBの違い

企業年金制度には何がある? 企業型DCとDBの違い
【監修者】山中 伸枝 (株式会社アセット・アドバンテージ・代表取締役)

監修者

株式会社アセット・アドバンテージ・代表取締役

山中 伸枝

1993年、米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務し、人事、経理、海外業務を担当。留学経験や海外業務・人事業務などを通じ、これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナーを目指す。2002年にファイナンシャルプランナーの初級資格AFPを、2004年に同国際資格であるCFP資格を取得した後、どこの金融機関にも属さない、中立公正な独立系FPとしての活動を開始。金融機関や企業からの講演依頼の他、マネーコラムの執筆や書籍の執筆も多数。

年金の種類は、国民年金や厚生年金だけではありません。企業で勤務する会社員の方は、企業に導入された「企業年金」を利用できる場合があります。

この記事では、企業年金とはどのような制度なのか、公的年金とはどのような違いがあるのかについて、解説していきます。 

企業年金とは?

企業年金とは?

企業年金は企業の福利厚生の一種で、定年後に年金形式で受け取る退職金です。日本の年金は1階部分の国民年金と2階部分の厚生年金の「2階建て」と表現されますが、さらにその上に乗せられる、「3階建て」の部分と呼ばれる私的年金に該当します。

[図表]年金3階建て部分のイメージ
[図表]年金3階建て部分のイメージ

企業年金は「企業型DC(確定拠出年金)」「DB(確定給付企業年金)」の2種類に分類され、ともに受け取り時に控除を受けられるといった税制優遇があります。

企業が提供する福利厚生なので制度がない企業もありますが、勤務先に導入されていれば、老後の生活資金に大きなプラスとなるでしょう。

企業型DCとDBの違い

企業型DCとDBの違い

次の表で、企業型DCとDBには制度上どのような違いがあるのかを見てみましょう。

[図表]企業型DCとDBの比較
[図表]企業型DCとDBの比較

企業年金は企業によって、制度設計が異なります。そのため、金額目安の計算サンプルなどを提示しても、参考にならない場合がほとんどとなってしまうでしょう。もし、ご自身が将来もらえる金額を知りたい場合は、社内の企業年金担当者の方に聞くのが確実です

ここからは、2つの制度の違いを詳しく知るために、それぞれの特徴を解説していきます。

企業型DC

企業型DCは企業が運営主、従業員が加入者となって運営される年金です。企業が拠出した掛金を従業員が運用方針を決めて運用し、資産を育てていきます。将来もらえる年金額は、従業員がどのように運用していくかに応じて変動します。また年金としてではなく一時金で受け取ることもできます。

企業が拠出した掛金を、加入者である従業員が運用するのが原則ですが、従業員がより多くの資金で老後資金を運用したい場合、自費で掛金を上乗せする「マッチング拠出」の制度があります。ただし、マッチング拠出は、年金の運営主である企業がマッチング拠出の制度を導入していなければできません。

企業型DCに近い制度として個人型DC(iDeCo、個人型確定拠出年金)があります。企業型DCが企業の福利厚生であるのに対して、個人型DCは国民年金基金連合会が運営元で、個人が老後の資産を蓄えるために任意で行うもうひとつの「私的年金」である点が大きな違いです

以前は、年金規約の条件が厳しかったため、多くの方が企業型DCとiDeCoを併用できませんでしたが、2022年10月に法律が改正されてからは、両者の併用が可能になりました

例えば、上記でご説明したマッチング拠出が会社に導入されていないといった場合は、iDeCoを併用するとより多くの老後の資産形成が可能です。

ただし、企業型DCに加入している会社員がiDeCoにも加入する場合、本来月額23,000円の拠出限度額が月額20,000円までに下がります。これは、すでに企業年金という上乗せの年金が準備されているからという理由です。

企業型DCの制度は企業によって千差万別です。高額な掛金を拠出する制度が手厚い企業もありますが、逆に少額しかない場合や、運用商品の選択肢があまりよくないパターンもあります。

一方で、iDeCoであれば本人が負担する手数料を会社が負担してくれる、会社が掛金を拠出してくれ、さらにその掛金は税と社会保険料が引かれず有利に運用できるなどメリットもたくさんあります。

まずは会社の制度を確認し、会社の制度に不足がある、あるいは更に掛金を拠出する余裕がある場合は、iDeCoの併用も検討しましょう。

DB(確定給付企業年金)

従業員が資産運用を行う企業型DCとは反対に、DBは企業が運用を行います

従業員が自分の意志で運用方針を決められないため自由度は低いですが、運用に対する知識がなくても会社が準備してくれる老後資金という点に安心感を抱く方もいるでしょう。

DBは事前に会社が取り決めた給付内容が退職後に年金として給付される制度であるため、企業型DCよりも老後の資金計画は立てやすい制度といえます。積立額が不足した場合、企業には追加で掛金を拠出して補填する義務もあります。。

DBは、企業が企業年金基金という法人を設立して実施する「基金型」と事業主が定めた年金規約に基づいて運用される「規約型」の2つのタイプに分類されます。

「DBは将来受け取れる金額が確定している」といわれますが、「将来従業員が受け取る金額の計算方法が決まっている」が正しいDBの仕組みです。そのため、計算方法自体に変更が出ると、予定していた金額が変わることもあります。また経済情勢に合わせて運用の見直しをすることもあります。

ルールの変更は必ずしもデメリットではないので、まずは自分の会社の制度を理解するところから始めましょう。

DCとDBの併用

企業に企業型DCとDB、両方の制度がある場合もあります。その場合企業型DCの掛金上限が月額55,000円から月額27,500円に制限され、その金額の範囲内で企業が従業員に拠出する金額を決定します。

さらに、企業型DCとDBに加えてiDeCoにも併用加入が可能です。その場合、企業年金とiDeCoの掛金が合算で55,000円以下、かつiDeCoの月額拠出上限額が20,000円となります

企業型DCで会社がいくら拠出しているのかは、加入者自身がWEBページを確認するとすぐにわかりますが、DBの掛金は個人ごとに設定されているわけではないため、会社に「DBに相当する掛金」を聞いたうえで、iDeCoの掛金を決定する必要があります。

参照元 :政府広報オンライン 一般社団法人投資信託協会「iDeCoがより活用しやすく! 2024年12月法改正のポイントをわかりやすく解説」

転職したら企業年金はどうなる?

転職したら企業年金はどうなる?

現代は、リタイアするまで同じ企業で働き続ける方ばかりではなく、転職が珍しくない世の中となりました。これまで企業年金に加入してきた方が転職する場合、その資金を転職先の企業年金やiDeCoに移換することが可能です

例えば、これまで企業型DCに加入してきた方の場合、転職先にも企業型DCの制度があれば、そちらに資産を移換して運用を続けることができます。転職先の企業年金の拠出額などが前の会社と異なる場合が考えられますが、以降は転職先の制度に則って運用していくことになります。

転職先に企業型DCがなければ、iDeCoやDBへ移換することになります。DBへの移換は、転職先の企業年金に、前職の企業年金の受け入れを可能とする規約が定められている必要があり、規約がなければできません。その場合はiDeCoへの移換となります。

法律上は転職先のDBに企業型DCを持ち運ぶことは可能とされています。ただし、現実問題として、新しく入社する企業にDBの制度があったとしても、DBと企業型DCは本質的に異なる仕組みなので、DCの資金をDBに受け入れる会社は少ないです。

一方、DBの脱退一時金を企業型DCやiDeCoへ移換しその後はご自身で運用することは問題ありません。運用を希望しない場合は企業年金連合会に資金を移し、将来通算企業年金として受給することもできます。

いずれにしても、退職一時金と異なり、企業年金は持ち運び、定年まで運用を継続するのが原則とご理解ください。

おわりに

従業員の老後を考えて導入される企業年金は、従業員にとって非常にありがたい制度です。ただし、企業年金がある場合は、iDeCoと併用する際に拠出限度額の上限が20,000円と制限がかかるので注意が必要です。

また、転職する際には、これまでと同じ運用ができなくなる可能性が高いので、事前に転職先の企業年金制度についても確認しておけると良いでしょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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