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【2025年最新】相続資産の使い道は?貯金・運用・住み替え・相続税までやさしく解説

【2025年最新】相続資産の使い道は?貯金・運用・住み替え・相続税までやさしく解説
野尻 哲史

監修者

野尻 哲史

1982年大学卒業。
国内外の証券会社調査部での勤務、資産運用会社での投資教育に従事。20年以上にわたる資産形成・活用の啓発活動を続ける。
19年5月、定年を機に合同会社フィンウェル研究所を設立し、資産形成を終えた世代向けに資産の取り崩し、地方都市移住、勤労の継続などに特化した啓発活動をスタート。
行動経済学会などの会員の他、金融庁、東京都、国民年金基金連合会、日本証券業協会などの各種委員を務める。
著書には「100歳まで残す 資産「取り崩し」実践法」、「60歳からの資産「取り崩し」法」(ともに日本経済新聞出版)等多数。

ある日突然、多額の現金や不動産を相続したらどうしますか? 

急に資産が増えるとつい使い過ぎてしまったり、逆にまったく手をつけなかったりと、使い道に迷ってしまう方も少なくありません。残された資産を大切に使うためには、あらかじめ相続の発生も考慮した計画を立てておくことが大切です。

この記事では相続の実態をデータで紹介するとともに、現金や不動産、有価証券といった相続資産ごとの使い道、注意すべき点などを解説していきます。また、相続税が発生した際の納税までのスケジュールもおさらいするので、ぜひ参考にしてください。

相続税の発生割合は10人に1人。相続財産で多いのは現金

相続税の発生割合は10人に1人。相続財産で多いのは現金

まずは足元の相続事情について見ていきましょう。

国税庁の公表によると、令和5年分における被相続人数(死亡者数)は1,576,016人、そのうち相続税の課税があったのは155,740人でした。実際に相続税が発生した方は10人に1人という計算になります。

その方たちの相続財産の内訳は現金が35.1%と最多

次いで土地、株式などの有価証券の順で多くなっています。

参照元:国税庁「令和5年分 相続税の申告実績の概要」2025年9月29日参照

[図表]相続財産の⾦額の構成⽐
[図表]相続財産の⾦額の構成⽐(国税庁「令和5年分 相続税の申告実績の概要」より作成)

なお、1人あたりの相続税の金額は2020年で1,737万円、2021年で1,819万円、2022年で1,855万円、2023年で1,930万円と年々増加傾向にあります。

参照元:国税庁「令和5年分 相続税の申告実績の概要」「令和3年分 相続税の申告実績の概要」

上記のデータは身近な方が亡くなった方のうち、10人に1人を対象にしたものという点は留意しておきましょう。

実際には相続税が発生しない、基礎控除内の相続も多数あります。

そうした節税対策としてよく指摘されるのが生命保険ですが、国税庁の統計では保険の項目はありません。

相続人としては、保険は現金・預貯金として受け取るからです。その分も、相続後の計画を立てる時に念頭に置くべきでしょう

資産を相続した際のポイントは、元々自分が持っていた資産と別扱いしないことです

大切な方から受け継いだものだからと、そのままにしておきたくなる気持ちもわかりますが、使うのは自分自身です。すべての資産をひとくくりに捉えて、計画的に使ったり、運用して資産寿命を延ばしたりすることが重要です。

現金を相続した場合の活用法と注意点

現金を相続した場合の活用法と注意点

現金の使い道を考える際の心構え

ここからは資産を相続したときの活用法や注意点について、それぞれ見ていきましょう。まずは現金について。

相続した現金の使い道としては

  • 老後の生活費に回す
  • リフォームや住み替え資金にする
  • 運用する

といった候補が挙げられます。重要なのはどれを選ぶとしても、相続前に立てていた計画を守ること。

相続で家計の余裕が突然増えたとしても、無闇に使ってしまうのは避けましょう。

例えば、以前からリフォームや住み替えの計画を立てていたなら、相続したタイミングで行うのもいいですね。そうではなく相続を機にいろいろな使い道を考え始めているのなら、一旦慎重になって元の人生計画を見直してみましょう。本当に使うべき支出が見つかるはずです。

相続をあてにし過ぎるのは良くありませんが、あることを想定しておくことは大切です。相続があった場合となかった場合の2パターンの計画を立てておくと、いざというときにも焦らず対処できますよ。

預貯金や運用に回す際の心構え

現金を預貯金や運用に回す場合は、元の資産配分が大きく崩れないように意識しましょう。自分のリスクに見合った運用を続けるには、当初の資産配分を維持することが大切です。

例えば、預貯金と投資信託を100万円ずつ、50:50の割合で保有しているとします。相続で200万円の現金を受け取ったとすると、資産の割合は預貯金300万円、投資信託が100万円で割合は75:25に変化してしまいます。

資産配分を元の50:50に戻すには、

  1. 相続した現金を預貯金と投資に割り振る
  2. 預貯金から取り崩す

の2つの方法があります。

[図表]資産配分の比率の戻し方
[図表]資産配分の比率の戻し方

とくに市場の値動きが気になり過ぎてしまう方や投資があまり得意でないという方は②の預貯金から取り崩す方法がおすすめです。

②は私が実践している方法です。私の場合は相続ではなく確定拠出年金を一時金として受け取ったのですが、当時は市場も不安定で追加投資になかなか踏み切れませんでした。そこで、少しずつ預貯金を取り崩していって、資産配分の比率を戻そうとしている最中です。

不動産・有価証券を相続したときの活用と税務の基礎

不動産・有価証券を相続したときの活用と税務の基礎

土地や家屋といった不動産を相続した場合は次のような選択肢が挙げられます。

  • 自分の居住用に使う
  • 売却する
  • 収益不動産に建て替えて管理する

相続した不動産が遠方にある、すでに自分の住まいがあるといった理由で居住しない方は、売却や収益不動産への建て替えも検討を。

空き家・空き地として放置してしまうと、毎年の固定資産税や管理費といったコストがかかってしまいます

建物を解体して土地だけ売ったり、建て替えたりする際にも費用がかかる点には注意が必要です。

駐車場やアパートといった収益不動産として管理していくとしても、借り手が見つからずに維持費だけがかさんでいく恐れもあります。不動産活用は慎重に検討したいところです。

なお、2024年4月から不動産相続をした相続人は、取得の事実を知った日から3年以内に相続登記(不動産の名義変更手続き)の申請をすることが義務づけられました。もし、正当な理由なく違反すると、10万円以下の罰金が課せられるので注意しましょう。

参照元:東京法務局「相続登記が義務化されました」

相続した有価証券は

  • 保有を続けて配当を得る
  • 売却して売却益を得る

の2パターンがあります。保有を続ける場合は配当益に税金がかかります。

相続で取得した有価証券を売却する場合は、相続したときの評価額ではなく、被相続人が取得した際の金額と売却時の差額が利益とみなされ課税対象になります(取得費の引き継ぎ)。

参照元:国税庁「No.1464 譲渡した株式等の取得費」

また、有価証券の売却益は

売却時の時価ー取得費=売却益

で計算しますが、相続で取得した有価証券を、相続開始日から3年10カ月以内に売却した場合、取得費に相続税の一部を加算することができます。これを取得費加算の特例と呼びます。

参照元:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」

相続税の納税資金をどう準備するか

相続税の納税資金をどう準備するか

最後に、相続が発生した際に注意すべき相続税について、確認しておきましょう。

相続税は被相続人の死亡を知った翌日から10カ月以内に申告・納税をすることになっています。なお、相続を放棄する場合は3カ月以内の申請が必要です。

相続税には基礎控除があり、遺産の総額が

3,000万円+600万円×法定相続人の数

を下回っていれば相続税は発生しません。例えば、法定相続人が3人だと基礎控除額は3,000万円+600万円×3=4,800万円となり、4,800万円までなら非課税となります。

相続税が発生した場合、納税は原則として金銭で行うため、相続財産に現金が少なく不動産や物品が大半だと、別途現金を用意しなくてはいけなくなることもあります

電子納税やクレジットカード納付も可能です。

ただし、現金での納付が困難なときは、延納や物納が認められるケースもあります。

参照元:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」「財産を相続したとき」

相続税は相続した方にとって負担になりがちです。

家族に資産を残すことになりそうな方は、生前から相続対策をしておくのはもちろん、自分で資産を使っていくことを視野に入れてもいいかもしれませんね。

おわりに

相続資産は無計画に使ってしまうと、相続税の支払いに困ったり、老後の生活に影響が出たりする可能性もあります。突発的な収入にも動揺せず、これまでどおりのライフプランを進めるようにしましょう。

もちろん、家計のゆとりに応じて計画を前倒しにすることも問題ありません。あくまでも計画的に活用することが重要なのです。

相続が発生したらまずは納税資金を確保し、その後に老後資金への充当や運用といった検討ができれば、老後の安心にもつながりますよ。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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