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世代を超えて暮らす時代?異世代ホームシェアの可能性と課題

世代を超えて暮らす時代?異世代ホームシェアの可能性と課題
福澤 涼子 (第一生命経済研究所ライフデザイン研究部 副主任研究員)

監修者

第一生命経済研究所ライフデザイン研究部 副主任研究員

福澤 涼子

第一生命経済研究所ライフデザイン研究部 副主任研究員。住まい・子育てネットワーク・ワーキングマザーの雇用などをテーマに研究。慶應義塾大学大学院修了。シェアハウスを活用した育児・介護や多世代交流の可能性を探る。著書「ウェルビーイングを実現するライフデザイン -データ+事例が導く最強の幸せ戦略- ライフデザイン白書2024」。

食品や日用品、家賃や光熱費も上昇し続ける中、高齢者の孤独や若者の住宅難といった社会課題が浮き彫りになっています。そんな中、世代を超えて高齢者と若者がひとつ屋根の下で暮らす「異世代ホームシェア」が、注目を集め始めています。住居費を抑えながら心地よい人とのつながりを得られるこの住まい方は、ただの節約術ではなく、新たな暮らしの選択肢のひとつといえます。

この記事では、第一生命経済研究所ライフデザイン研究部 副主任研究員の福澤さんにお話を伺い、異世代ホームシェアの基本から、実際に始める際に知っておきたい注意点まで、丁寧に解説します。

異世代ホームシェアってどんな暮らし?

異世代ホームシェアってどんな暮らし?

異世代ホームシェアは、異なる世代の人々が一緒に暮らす新しい住まいの形です。多くの場合、高齢者の家に若者が住み込み、プライベートな空間を保ちつつも、日々の生活の中で自然な交流が生まれるのが特徴です。

この取り組みは、1990年代頃にヨーロッパで広まり始めました。特にフランスでは、2003年の猛暑による高齢者の孤独死が問題になったことをきっかけに、若者と高齢者が共に暮らすことへの注目が高まりました。家賃の高さに悩む若者と、孤立を防ぎたい高齢者。双方の課題を同時に解決する「助け合いの住まい」として、社会的な意義も大きいとされています。

一般的なシェアハウスと異世代ホームシェアの大きな違いは、住む人の世代構成と目指すものにあります。シェアハウスが主に若者同士の共同生活であるのに対し、異世代ホームシェアは世代を超えた繋がりと、お互いを支え合う関係が基盤となっています。

日本でも2010年代から少しずつ広がりを見せており、特に京都府では次世代下宿「京都ソリデール」事業として地域を巻き込んだ取り組みが進められています。これは、学生と地域との繋がりを深め、将来的にその地域に住み続けたり、地域に関わる人々(関係人口)を増やすことを目的としています。単に住む場所を提供するだけでなく、地域コミュニティの活性化や、様々な世代が交流する場としても期待されています。

普通のシェアハウスとどう違う?異世代ホームシェアの基本を知ろう

普通のシェアハウスとどう違う?異世代ホームシェアの基本を知ろう

異世代ホームシェアとは、高齢者と若者が同じ家で暮らす新しい住まいのかたちです。

「どんな人が住んでいるの?」「物件はどうやって見つけるの?」など、具体的な暮らしぶりが気になる方も多いのではないでしょうか。


ここでは、異世代ホームシェアの基本情報をわかりやすく紹介します。

どんな人が住んでいるの?

家主となるのは60〜70代のシニア世代が中心です。「子育てが終わって家が広くなった」「親が残した家を活かしたい」といった理由で若者を受け入れる方が多く、若い世代との交流を楽しみたいという思いもあります。


一方で入居する若者は、主に大学生や専門学生、若手の社会人です。「一人暮らしは初めてで不安」「安くて落ち着いた環境で暮らしたい」といったニーズに応えています。

どれくらいの人数で暮らすの?

異世代ホームシェアは、単身もしくは夫婦1世帯に対して、1〜3人の若者が一緒に住む、少人数のシェアが一般的です。特に東京や京都のような都市部では、家の広さにも限りがあるため、1~2人の若者とのシェアが多くみられます。一方、郊外や地方では広い家もあり、若者5〜6人と暮らすケースもあるようです。

「下宿」との違いは?

異世代ホームシェアは「次世代下宿」とも呼ばれるように、「下宿」と似ている部分もありますが、いくつか大きな違いがあります。

かつての下宿は一般的に若者が家主の家に部屋を借りて生活するものでした。また食事に関しては家主が提供することが多かったようです。

一方、異世代ホームシェアは、高齢者と若者がお互いに自立した生活を送りながら、一緒に暮らすスタイルです。食事や家事の分担は必ずしも決まっておらず、助け合いや交流が自然に生まれます。

また、下宿は家主と入居者の関係が明確な貸し借りですが、異世代ホームシェアはお互いに支え合いながら暮らすコミュニティ的な側面が強く、よりゆるやかな繋がりが重視されています。

異世代ホームシェアは単なる住まいの提供ではなく、世代を超えた交流や助け合いを目的とした新しい暮らし方といえます。

物件の探し方

異世代ホームシェアの物件は、まだ数が少ないのが現状です。京都や奈良など、一部の自治体では紹介制度があります。また、NPO法人や地域団体が家主と入居者をマッチングしてくれる場合もあります。

大手の不動産サイトにはほとんど掲載されていないため、興味がある方は、自治体や専門団体に直接問い合わせるのがオススメです。

契約の流れと初期費用

契約は基本的に家主と入居者の間で行いますが、多くの場合は仲介団体がサポートしてくれます。契約期間は数ヶ月程度と短めで、学生にとっても始めやすいようです。

自治体が事業として行っているケースでは、初期費用(敷金・礼金)はほとんどかからないことが多く、金銭面の負担が少ないのも魅力。入居後にトラブルが起きたときの対応や、暮らしのフォローも仲介団体が行ってくれるケースがほとんどです。

入居希望者は、事前に家主との面談を行い、お互いの相性を確認します。もし気が合わないと感じた場合は、断ることも可能です。仲介者は、両者にとっての「暮らしやすさ」を最も重視し、慎重にマッチングを行います。
ルールは物件ごとに異なりますが、基本的には「自主性」が重んじられ、門限や食事の強制などはありません。挨拶やちょっとした気遣いなど、日常生活の中で自然な関わりが生まれる関係性が理想とされています。

異世代ホームシェアのメリット・デメリット

異世代ホームシェアのメリット・デメリット

異なる世代が一つ屋根の下で暮らす「異世代ホームシェア」。家賃の安さだけでなく、心の支えや学びの場としても注目されています。そんな暮らし方の魅力と、気をつけたい点を整理してみました。

高齢者側のメリット若者側のメリット
•  孤独感の軽減 日常的に誰かと挨拶を交わすことで、生活に張り合いが生まれ、精神的な安心感につながります。

•ちょっとした助け合い  体調が悪い時の買い物やゴミ出しなど、身近に頼れる存在がいることで安心できます。

•セーフティーネット 介護は期待できませんが、もしもの時に助けてもらえるという安心感があります。
•家賃が安い 一般的なシェアハウスよりも費用を抑えられ、光熱費込みで月2〜3万円台という例もあります。

•安定した生活リズム 若者同士のシェアハウスと比べて、落ち着いた暮らしがしやすい傾向にあります。

•見守り的な安心感 地方から上京して初めて一人暮らしをする場合でも、親のような存在が身近にいることで安心できます。

•家族以外の人生の先輩との交流が持てる 就職活動の相談をしたり、ちょっとした人生相談をしたりと、高齢者の存在が精神的な支えになることもあります。  

上記のようなメリットのほか、異世代ホームシェアには人との距離が近い暮らし方ならではの難しさもあります。暮らし方や価値観が合わないとストレスに。お互いに配慮や柔軟性が求められます。

掃除の頻度や音の問題など、些細なことでの行き違いが人間関係に影響するケースもあるため、他人との共同生活が苦手な方には不向きな面も多く、生活リズムの違いが気になる場合もあります。

どんな人に向いている?

異世代ホームシェアは、誰にでも合うわけではありません。まず、「他人と一緒に暮らすことに寛容な人」が向いています。生活リズムや考え方の違いを受け入れ、お互いを尊重できる柔軟さが大切です。

また、「高齢者との関わりに興味がある人」にもおすすめです。単に家賃が安いという理由だけでなく、世代を超えた交流や人とのつながりを楽しみたいという気持ちがあると、より充実した生活が送れます。

さらに、特に地方で暮らす場合は、「地域の行事や文化に触れたい人」にもぴったり。異世代ホームシェアを通じて、地域とのつながりが自然に広がることも多いのです。こんな方には、異世代ホームシェアが新しい暮らしの選択肢となるでしょう。

異世代ホームシェアは、若者がスマートフォンの使い方を教えたり、高齢者から生活の知恵を学んだり、自然な形で互いに学び合えます。
また、家族ではないけれど、気軽に相談できる親戚のような信頼関係が育つことも。例えば、高齢者の急な入院など、万が一のときにも同居する若者の存在が支えになります。日常のちょっとした手助けや、安否の確認をしてもらえるだけでも、大きな安心感につながります。
誰にでも合うわけではないため、「人と一緒に暮らす」ことへの理解や柔軟性が大切になります。向き不向きがあることを踏まえ、参加者のマッチングや事前の十分な話し合いが重要になります。

異世代ホームシェアはこれから広がる?

異世代ホームシェアはこれから広がる?

異世代ホームシェアは、高齢者と若者が共に暮らす新しい住まいのかたちとして注目されはじめています。

しかし、まだ物件数が少なく、特に都市部では難しい状況です。また、高齢者が見知らぬ若者を迎えることで感じる精神的な負担も無視できません。安心して暮らせるように、定期的な面談や相談窓口などのサポート体制が必要とされています。

さらに、地域や支援団体によってサポートの質に差があるため、誰もが安心して利用できるよう、統一された仕組みづくりも課題です。

これらの課題を乗り越え、社会全体の理解と支援が進めば、異世代ホームシェアは今後ますます広がっていく可能性があります。

高齢者の孤独や孤立が社会問題として取り上げられる中、異世代ホームシェアはそうした課題への一つの解決策としても注目されています。
結婚しない方や子どもがいない方が増える現代において、世代を超えたゆるやかなつながりを持てる暮らし方は、多くの人にとって心の支えとなるかもしれません。

まとめ:世代ホームシェアで「安心」と「節約」を両立する未来へ

まとめ:世代ホームシェアで「安心」と「節約」を両立する未来へ

異世代ホームシェアは、高齢者にとっては日常の安心や孤立の防止につながり、若者にとっては家賃の負担を抑えながら地域とつながる機会を得られる新しい暮らし方です。

物件数やサポート体制などの課題はあるものの、実際の事例からは心温まる交流や信頼関係の芽生えが多く見られ、世代を超えた共生の可能性を感じさせてくれます。安心と節約、そして人とのつながりを大切にしたい方にとって、異世代ホームシェアは未来の住まい方の一つとなるでしょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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