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認知機能を守るカギは“脳トレ=知的活動”!今日からできる脳活習慣

認知機能を守るカギは“脳トレ=知的活動”!今日からできる脳活習慣
浦上 克哉 (鳥取大学医学部教授)

監修者

鳥取大学医学部教授

浦上 克哉

岡山市生まれ。1983年鳥取大学医学部卒業後、神経内科を専門に携わり、2001年より鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座・環境保健学分野 教授を務める。日本認知症予防学会理事、日本老年精神医学会前理事、日本認知症予防学会専門医。

「最近、人の名前がすぐに思い出せない」「物をどこに置いたか忘れてしまう」——そんな“ちょっとした物忘れ”に心当たりはありませんか?

それは、脳が発する「認知機能の変化」のサインかもしれません。加齢とともに誰にでも起こりうる認知機能の低下。でも、日々の生活の中で“脳を使う習慣”を意識することで、進行をゆるやかにしたり、健康な脳を保つことが可能です。そのカギとなるのが、日常に取り入れやすい「知的活動=脳トレ」です。

この記事では、脳の健康を守るために今日からできる「ながら脳トレ」や、認知機能を支える生活習慣のポイントを専門家の監修のもとで分かりやすく解説します。将来の自分のために、今できる備えを一緒に始めてみましょう。

認知機能とは? 認知機能の主な5つの働き

認知機能とは? 認知機能の主な5つの働き

認知機能とは、記憶・注意・言語・判断・空間認知など、日常生活を送るうえで欠かせない脳の働きのことを指します。認知症は、主に脳の病気による脳細胞の減少や働きの低下が原因で進行します。現時点では完治する治療法はないため、早期の気づきと予防がとても大切です。

①記憶力

「記憶力」とは、物事を覚え、思い出す力です。例えば、会話の内容を記憶しながら話す、夕食の材料を覚えて買い物をするなど、日常のあらゆる場面で使われています。

記憶には記銘(覚える)、保持(記憶を保つ)、想起(思い出す)の3つの段階があります。年齢とともに記憶力は自然と衰えますが、認知症では「覚えること自体」が難しくなり、進行すると覚えていたことすら思い出せなくなります。

②言語能力

言語能力とは、人の言葉を理解したり、自分の意思を言葉で伝えたりする力です。

この力が衰えると、「話の内容が理解できない」「自分の言いたいことを言葉にできない」「文字が書けない・読めない」といった症状が見られます。言語能力の衰えが進行すると「失語」と呼ばれる、言語を使えない状態になることもあります。

③判断力

判断力とは、「今どこにいるのか」「季節に合った服装は何か」など、状況を把握して適切に行動する力のことです。

判断力が低下すると、時間感覚がなくなったり、道に迷ったり、最終的には家族の顔すら分からなくなることもあります。また、支払い忘れや交通違反といったトラブルに巻き込まれるリスクも高まります。

④計算力

計算力は、数字を理解し、時間やお金をうまく使うための力です。

例えば、「時計を見て行動する」「予算を考えながら買い物する」「お釣りを計算する」ということが挙げられます。この力が衰えると、簡単な足し算すら難しくなり、財布の中に小銭が溜まりやすくなるなど、生活に支障が出てきます。

⑤遂行力

遂行力とは、目的を達成するために順序立てて行動する力です。

料理、掃除、電話をかけるなど、日常のあらゆる行動に必要な機能です。この力が落ちると、何をすればいいか分からなくなり、物事が途中で止まってしまいます。

「認知症は高齢者の問題」と思われがちですが、実はその原因となる変化は30代から始まっているといわれています。特に、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβタンパクは、早い人では30代半ばから脳に溜まり始めるとされています。多くの40〜60代の方が「親のために」認知症について学ぼうとしますが、実は自分自身の脳の健康について考えるべきタイミングでもあるのです。

認知症の主な4つのタイプと初期症状

認知症の主な4つのタイプと初期症状

認知症と一口にいっても、いくつかのタイプがあり、それぞれ原因や症状のあらわれ方が異なります。ここでは、主に見られる4つのタイプをご紹介します。

アルツハイマー型認知症

最も多いタイプの認知症です。脳の神経細胞が徐々に減っていくことで起こります。特徴的なのは、「昔のことはよく覚えているのに、最近の出来事が思い出せない」という症状が初期から見られることです。病気が進行するにつれて、徐々に他の認知機能も低下していきます。

血管性認知症

脳の血管が詰まったり破れたりして、脳にダメージが起こることで発症する認知症です。このタイプは、脳梗塞や脳出血を起こしたり、脳虚血発作を起こすことで階段状に悪化するのが特徴です。また、記憶だけでなく、感情のコントロールや身体の動きにも影響が出ることがあります。

レビー小体型認知症

脳内にαシヌクレインという蛋白が蓄積してレビー小体がたくさんできることで起こります。実際には見えないものが見える幻視(げんし)や、手足のふるえ・筋肉のこわばりなど、パーキンソン病のような症状があらわれるのが大きな特徴です。また、日によって認知機能に大きな変動があるのもこのタイプの特徴です。

前頭側頭型認知症

脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が減っていくことで発症します。このタイプは、記憶の障害よりも先に、性格や行動、言葉づかいに変化が現れます。たとえば、急に怒りっぽくなったり、身だしなみに無頓着になる、会話がかみ合わなくなるといった変化が見られることがあります。

「もしかして認知症かも?」と感じた場合、自己判断するのではなく、医療機関で専門の診察を受けることが必要です。アルツハイマー型などの病気が背景にある場合は、医師による診断が治療方針を決める上でも不可欠です。

認知機能の低下はなぜ「早期の予防」が大切なのか?

認知機能の低下はなぜ「早期の予防」が大切なのか?

認知症の予防では、「発症する前に備えること」が非常に重要です。鳥取大学の浦上克哉先生によると、予防には3つの段階があります。

一次予防:発症を防ぐ

まだ病気になっていない段階で、生活習慣を整えるなどして、認知症そのものの発症を防ぐ予防法です。これが最も効果的で望ましい段階です。

二次予防:早期発見と対応

すでに認知機能の変化が始まっていても、それを早く見つけて対応することで、病気の進行を遅らせることができます。この段階での適切な治療や介入も大切です。

三次予防:進行を遅らせる

一度認知症と診断されてしまった後も、適切なケアや対応によって、症状の悪化を防ぎ、できる限り自立した生活を続けられるように支援していく段階です。

現在の医学では、残念ながら認知症を完全に治す方法はまだ見つかっていません。最近では進行を遅らせる薬も登場していますが、それでも「完全に元通りにする」ことは難しいのが現状です。
認知症の一歩手前の状態を「軽度認知障害(MCI)」と呼びます。これは記憶や判断力などに少しずつ変化が出始めている段階で、認知症になるリスクが高い状態です。MCIのような「前段階」で対処できれば、認知症への進行を防ぐことも可能です。予防には「早さ」が何よりも効果的なのです。

脳トレとは「知的活動」の一つ

脳トレとは「知的活動」の一つ

「脳トレ」という言葉を耳にしたことはありませんか?脳トレとは、認知症の予防や脳の活性化を目的とした知的活動の一種です。海外の研究でも「Intellectual activity(知的活動)」という言葉が広く用いられており、こうした活動が認知機能の維持や向上に有効であることが明らかになっています。

知的活動とは?──日常の中の“脳の刺激

知的活動とは、頭を使って考える行動全般を指します。特別な教材や道具がなくても、日常のちょっとした工夫で脳を刺激することができます。以下はその一例です。

買い物中に暗算をする合計金額を頭の中で計算するなど、簡単な計算で脳を活性化。
新聞や本を音読する目で読み、声に出し、耳で聞くことで、脳を多方面から刺激できます。
クロスワードや間違い探し楽しみながら言語能力や集中力、視覚的注意力が鍛えられます。
手書きで日記を書く文字を書く動作を通じて、手と脳が連動し、脳の活性化につながります。
しりとりや言葉遊びをする言葉を思い出したりつなげたりすることで、記憶力と言語能力が刺激されます。
利き手と反対の手で歯を磨く・書く非日常的な動作が脳への新しい刺激になり、活性化を促します。
散歩中に景色の変化に注意を向ける「道に咲いている花の数」「通った車の色」などを意識することで注意力が養われます。

運動と組み合わせるとさらに効果的

脳の健康には、知的活動だけでなく身体を動かすことも大切です。特に有酸素運動は、脳の神経細胞の成長や維持に関わる「神経成長因子(BDNF)」を増やすことが分かっています。

効果的とされるのは、1日7000歩程度のウォーキング。無理のない範囲で、日常的に身体を動かすことが認知症予防に効果的です。ただし、やりすぎは逆効果。過度な運動は筋肉や体力を消耗し、逆に健康を損なう可能性があります。

コミュニケーションは最強の知的活動

「人との会話」は、最も手軽にできる知的活動のひとつです。特に初対面の人とのコミュニケーションは、相手の意図を読み取りながら話す必要があり、脳をフル回転させます。「何を聞かれるだろう?」「どう返したらいいか?」「失礼にならないようにしよう」…こうした考えを巡らせながらの会話は、まさに知的活動そのもの。

仲の良い人との気楽なお喋りも良いのですが、「あえていろんな人と話すこと」がより高い認知刺激になります。

「やらされる」ではなく「楽しむ」ことが大切

知的活動や運動は、無理にやるものではありません。大切なのは、「やらなければ」ではなく「やってみたい」と思えるような取り組み方です。難しすぎたり義務的になると、かえってストレスを感じてしまいます。

自分に合った方法で、楽しみながら続けることが、脳の健康維持には最も効果的です。日々の生活の中に、自然な形で取り入れることを目指しましょう。

認知機能を維持するために大切なのは、「特別なこと」ではなく、日々の生活の中に脳への刺激を組み込むことです。
「駐車場ではあえて遠くに車を停め、歩く距離を増やす」「エレベーターやエスカレーターではなく、階段を使う」「買い物や通勤時も“少し多めに歩く”を心がける」といった“小さな積み重ね”が脳への刺激につながります。
また、生活リズムを整えるにはアロマも有効です。気分をスッキリとさせ、活発にさせる昼用の香りと、夜に使いたいゆったりと落ち着いた香りがセットになった『浦上式アロマ』もおすすめです。無理なく楽しんで脳を労わりながら過ごしましょう。

まとめ:今日から始める“脳にやさしい暮らし”

まとめ:今日から始める“脳にやさしい暮らし”

認知機能の低下は誰にとっても身近な問題ですが、日常生活の中のちょっとした工夫や意識によって、その進行を遅らせることができます。

特別なことをしなくても、知的活動としての「脳トレ」や適度な運動、人との会話、バランスの良い食事や質の良い睡眠など、毎日の暮らしの中に“脳にやさしい”習慣を取り入れることが大切です。また、他者とのコミュニケーションも脳を活性化させる大きなカギ。

まずは「できることを、できる範囲で」始めてみましょう。それが、将来の自分への何よりの備えになります。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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