土地や建物の不動産を相続する際は、どのような手続きを踏む必要があるのかわからない方も多いかもしれません。近年改正された法律や、今後改正予定の制度などもありますので、しっかり把握しつつ相続手続きを進めていくことが大切です。
このコラムでは、不動産の相続手続きの流れや必要書類、注意点などについて解説します。
この記事を読んでわかること
- 相続手続きの際に必要な書類は遺言がある場合とない場合で異なる
- 相続税の負担を軽減する制度として、小規模宅地等の特例などがある
- 現物分割や代償分割、換価分割にはそれぞれメリット・デメリットがあるので把握することが大切
土地・建物など不動産の相続手続きの流れ
土地・建物など不動産を相続する場合、以下の流れで手続きを進めていきます。
【不動産の相続手続きの流れ】
- 遺言書があるか確認する
- 法定相続人を調べて確定する
- 相続財産を把握する
- 遺産分割協議を行う
- 相続登記の申請を行う
- 相続税の申告・納税を行う
それぞれのステップについて解説します。
遺言書があるか確認する
相続が発生したら、最初に遺言書を探しましょう。遺言書がある場合は、基本的には遺言書に記載されている内容に基づいて遺産が相続されます。
法定相続人を調べて確定する
遺言書の有無を確認すると同時に、できるだけ早く法定相続人を調べて確定させましょう。法定相続人を特定するためには、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本を取り寄せて調査します。
後々、別に法定相続人がいることが発覚すると、基本的には遺産分割協議をやり直さなければなりません。遺産分割協議は相続人全員で行う必要がありますので、注意してください。
相続財産を把握する
相続人を確定させる作業とともに、被相続人の財産を把握して財産目録を作成しましょう。
相続財産に不動産が含まれるかどうかは、市区町村から届く固定資産税の課税明細書で確認できます。
遺産分割協議を行う
遺言書があれば原則としてその内容に従って相続しますが、遺言書がない場合には相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
それぞれの財産について分割方法や割合などが決まったら、遺産分割協議書を作成して署名し、実印を押印します。
相続登記の申請を行う
不動産を相続する場合は、被相続人から相続人に名義を変更しなければなりません。
被相続人が所有していた不動産の登記名義を相続人に変更する手続きを「相続登記」といいます。
従来は法律上の義務ではなかったため、相続登記を行わない方も多く、所有者不明の不動産が増え、様々な弊害が生じていました。そこで、2024年4月1日より、相続登記が義務化されることになっています。
相続税の申告・納付を行う
相続財産の総額が基礎控除額を超える場合は、相続税がかかります。
基礎控除とは、全ての方に適用される、税金の負担を減らしてくれるものです。控除によって所得を減らし、その分課せられる税金が軽くなるという仕組みとなっています。
相続税の申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。期限を過ぎると、相続税に関する特例が適用できなくなり、無申告加算税や延滞税が課せられますので注意してください。
関連記事:相続税申告は自分でできる?手続きの流れと注意点を解説
2024年4月以降は法改正により不動産の相続登記が義務化
相続の際、相続登記がなされず所有者がわからない「所有者不明土地」が全国で増加し、社会問題になっています。そこで、法改正により、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
具体的には、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。正当な理由がないのに相続登記をしない場合、100,000円以下の過料が科せられる可能性があります。
また、2024年4月1日以前に相続した不動産も相続登記の義務化の対象です。3年の猶予期間があるので、その間に相続登記を行う必要があります。
土地・建物など不動産の相続手続きの必要書類
不動産を相続したら相続登記を行う必要がありますが、大きく以下3つのケースに分かれます。
【相続登記の3つのケース】
- 遺言書による相続登記
- 遺産分割協議による相続登記
- 法定相続分による相続登記
それぞれのケースで必要書類等が異なるので、確認しておきましょう。
遺言書による相続登記の場合
遺言書による相続登記の場合、原則として遺言書の記載どおりに相続登記を行います。
自筆証書遺言の場合は、相続登記を申請する前に家庭裁判所で「検認」という遺言書の内容を明確にして偽造変造を防止する手続きを行う必要があります。
遺言書による相続登記の申請に必要な主な書類は、以下のとおりです。
- 戸籍謄本
- 住民票
- 固定資産評価証明書
- 登記申請書
- 遺言書
遺産分割協議による相続登記の場合
遺言書がなく、法定相続人が複数いる場合には、相続財産はいったん相続人全員の共有となり、具体的に誰がどの財産を取得するのか決めるために遺産分割協議を行います。
遺産分割協議による相続登記の申請に必要な主な書類は、以下のとおりです。
- 戸籍謄本
- 住民票
- 固定資産評価証明書
- 登記申請書
- 遺産分割協議書
- 印鑑証明書
- 相続関係説明図
法定相続分による相続登記の場合
遺言書がなく、遺産分割協議も行われなかった場合、または遺産分割協議がまとまらなかった場合、法定相続人全員の名義で、民法が定めた法定相続分通りに相続登記を申請します。
法定相続分による相続登記の申請に必要な主な書類は、以下のとおりです。
- 戸籍謄本
- 住民票
- 固定資産評価証明書
- 登記申請書
- 相続関係説明図
土地・建物など不動産を相続した場合の相続税の計算
相続税額は、以下の計算式で算出します。
(課税価格の合計額-基礎控除額)×相続税率
まず、課税遺産総額(相続税がかかる財産額)を算出しましょう。相続や遺贈で取得した財産からマイナスの財産を除き、さらに基礎控除額を引きます。
その後、各相続人の相続分に応じた課税価格が決定されます。
なお、基礎控除額は相続税の課税最低限度額です。法定相続人の数によって額が変わります。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税の負担を軽減する特例
土地・建物の相続の際にかかる相続税には、負担を軽減できるさまざまな特例が用意されています。
具体的には、以下のとおりです。
【相続税の負担を軽減する特例】
- 配偶者控除
- 贈与税額控除
- 未成年者控除
- 障がい者控除
- 外国税額控除
- 相次相続控除
- 小規模宅地等の特例
ここでは、小規模宅地等の特例を例に解説します。
これは、相続税が払えない恐れがあることから設けられた制度であり、土地の評価額を最大80%減額する内容です。
土地の種類によって、適用できる上限面積と減額割合が定められています。
宅地等の利用区分 | 上限面積 | 減額割合 |
特定居住用宅地等 | 330m² | 80% |
特定事業用宅地等 | 400m² | 80% |
貸付事業用宅地等 | 200m² | 50% |
小規模宅地等の特例が適用される対象者は、被相続人の配偶者、同居の親族、持ち家のない別居親族です。
二世帯住宅でも特例の適用は可能ですが、区分登記がされていた場合は適用できる面積が異なります。
区分登記されていない場合は、自宅の土地全てについて特例が適用可能ですが、区分登記されていた場合は、被相続人が所有していた場所のみ適用が可能です。
その他の特例についても、自身のケースに当てはまるものがないか調べて、なるべく相続税の負担を減らせるようにしましょう。
関連記事:相続した土地を3年以内に売却すると節税になる?適用となる特例や条件について詳しく解説
土地・建物など不動産を相続した場合の遺産分割方法
不動産を相続した場合の遺産分割方法は、以下の3種類です。
【不動産を相続した場合の遺産分割方法】
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
それぞれの分割方法について、メリット・デメリットを解説します。
現物分割
現物分割とは、共有物を物理的に分割して、それぞれの相続人が単独で所有することです。
<メリット>
- 売却や評価などの手間・コストがかからない
- 不動産を残せる
現物分割の場合、ひとりの相続人がひとつの不動産をそのまま取得するため、シンプルでわかりやすい方法です。精算金の支払も不要で、不動産を売却する手間もかかりません。
<デメリット>
- 分筆によって不動産の価値が低下する可能性がある
- 不公平になりやすい
- 相続人が納得しにくい
不動産を現物分割する場合、ひとつの土地を複数に分けて登録して細分化されることで、得られる価値や用途の幅が損なわれる可能性があります。また、誰がどの不動産を取得するかもめる恐れがあります。
代償分割
代償分割とは、遺産分割にあたって、共同相続人などのうちひとりまたは数人に相続財産を現物で取得させ、取得した方が他の共同相続人などに対して代わりに支払う債務を負担する方法です。現物分割が困難な場合に行われます。
<メリット>
- 遺産分割をスムーズに行える
- 公平な遺産分割が可能
- 相続税を節税できる可能性がある
複数の相続人の共有ではなく、ひとりの相続人が単独で不動産を取得するため、現物分割のように細分化する必要がありません。
また、不動産を相続する相続人が他の相続人に代償金を支払うため、不公平を生じさせずに分割することが可能です。
さらに、建物や土地を取得した相続人は、要件を満たせば前述した小規模宅地等の特例の適用を受けられるため、相続税の節税効果も見込めます。
<デメリット>
- 不動産を相続する相続人に相応の資金力が必要
- 代償金額の算出でトラブルが発生する可能性がある
- 贈与税や所得税が発生する場合がある
不動産は一般的に高額なので、代償金の額も高額になりがちです。そのため、不動産を相続する相続人に相応の資金力が必要です。
また、代償金の金額を決めるためには不動産の評価が必要です。しかし、不動産の評価にはさまざまな方法があるため、代償金額の算出でトラブルに発生し、遺産分割協議がまとまらない可能性があります。
なお、基本的に代償金には贈与税は発生しませんが、代償金額が高すぎる場合や遺産分割協議書に代償分割の記載がない場合は贈与とみなされ贈与税が発生する可能性があるので注意が必要です。
また、代償金は現金以外で支払うこともできますが、この場合は譲渡所得税が発生する可能性があります。
換価分割
換価分割とは相続財産を売却し、相続人の間で現金を分割する方法です。相続財産の多くが不動産である場合は、相続人の間で分割することは難しくなります。相続財産を公平に分割するのが難しい場合に選択されるのが換価分割です。
<メリット>
- 相続人が多くても公平に遺産を分割できる
- 自己資金を準備する必要がない
- 相続税の納税資金を捻出できる
- 相続税の節税ができる可能性がある
換価分割では、売却後に得た現金を法定相続分に応じて分配するのが一般的です。現金なら1円単位で各相続人に分配できるので、相続人が多くても公平な遺産分割が実現します。また、代償分割と異なり代償金が必要ないので、自己資金を準備する必要もありません。
また、相続税は納付期限(相続開始日の翌日から10ヵ月以内)に現金一括で納付するのが原則です。しかし、相続財産の多くが不動産で預貯金が少なく、相続人に自己資金がない場合は延納や物納を検討しなければいけません。換価分割で不動産を売却すれば相続税の納税資金を捻出できます。
さらに、不動産売買の基準となる価格よりも相続税評価額の方が低いため、相続税の節税ができる可能性もあります。
<デメリット>
- 希望額で売却できない可能性がある
- 売却手数料などがかかる
- 譲渡所得税が課税される可能性がある
特に、相続税の納税資金の捻出のために換価分割を選択する場合、早く売却したいと考えるのが通常です。しかし、売却を急ぐと希望額を下回ることも多く、タイミングによっては不動産の価額が下がっている可能性もあります。
また、不動産会社に支払う仲介手数料や印紙代、測量費用、境界確定費用などが発生します。さらに、売却益が出た場合は譲渡所得税が課せられる可能性もあるので注意が必要です。
土地・建物など不動産の相続登記に必要な費用
相続登記を行う際には、以下の費用が発生する点に注意してください。
【相続登記に必要な費用】
- 登録免許税
- 必要書類の取得費用
- 司法書士に支払う報酬
相続登記の際には、法務局に登録免許税を支払わなければなりません。登録免許税は不動産の評価額の0.4%です。基準となる固定資産税評価額は、固定資産税の納税通知書で把握できます。
また、相続登記には各種必要書類がありますが、その取得のために費用が必要です。
さらに、司法書士に相続登記を依頼する場合は、報酬の支払いも必要です。依頼する司法書士事務所によって報酬額は異なりますが、司法書士には報酬の基準額を説明する義務があるので、正式依頼の前に見積書の作成を依頼するなどして報酬額を確認しておきましょう。
土地・建物など不動産の相続の注意点
不動産の相続の際には、以下の点に注意が必要です。
【不動産の相続の注意点】
- 代償分割や換価分割は相続発生時・分割時で価格の変動可能性がある
- 空き家のままにしておくと「特定空き家等」に指定される
- マンションなどでは修繕積立金の金額が増加する
それぞれについて解説します。
代償分割や換価分割は相続発生時・分割時で価格の変動可能性がある
代償分割や換価分割を行う場合は、相続発生時と分割時で価格が変動する可能性があります。そのため、遺産分割協議の際に将来の価格変動についても相続人の間で話し合っておくことが大切です。
空き家のままにしておくと「特定空家等」に指定される
空き家を相続した場合、手入れせずに放置しておくと、景観、衛生、安全等の面で様々な問題が生じかねません。近隣に迷惑をかけてしまう恐れがあるため、「特定空家等」に指定されてしまう可能性があります。特定空家等に指定されると固定資産税が最大6倍程度高くなるため、注意が必要です。
住宅など居住用の建物が建っている土地には特例がありますが、特定空家に指定され勧告を受けると、翌年から特例も適用されず、固定資産税や都市計画税の額も増加してしまいます。
【固定資産税と都市計画税の課税基準の軽減】
小規模住宅用地 | 一般住宅用地 | |
固定資産税 | 固定資産税評価額の6分の1 | 固定資産税評価額の3分の1 |
都市計画税 | 固定資産税評価額の3分の1 | 固定資産税評価額の3分の2 |
マンションなどは修繕積立金の金額が増加する
マンションなど集合住宅の場合、所有者が修繕積立金を拠出します。ただし、築年数が長くなるほど修繕積立金の金額が膨らむ可能性が高いので、注意が必要です。
遺産相続に関する手続きなどのサポートはプロに任せよう
遺産相続に必要な書類の作成、相続登記手続き、相続後の売却などは、知識がないとスムーズに行うのは難しいのが実情です。そのため、遺産相続手続きに関してはプロのサポートを受けることをおすすめします。
「セゾンの相続 相続手続きサポート」では、経験豊富な提携専門家のご紹介も可能ですので、無料相談や最適なプランの提案を受けることができます。相続手続きは専門的な知識が無いと難しいところが多いです。相続手続きなどでお困りのことがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
おわりに
不動産を相続する場合には様々な手続きを踏まなければならず、分割方法についても注意が必要です。また、2024年の4月1日から相続登記が義務化されるなど制度の変更もありますので、最新の情報を知っておく必要があるでしょう。相続人全員が納得できるためにも、専門家に相談しながら手続きを進めることをおすすめします。