財産を家族信託にした場合、財産管理のために家族に支払った報酬は必要経費にできるのでしょうか。このコラムでは、家族信託の報酬について、税務上どのように扱われるのか、信託業法に抵触しないかなど、家族信託の注意点も踏まえて知っておくべきことを解説します。
(本記事は2023年12月8日時点の情報です)
- 家族信託で受託者が受け取る信託報酬は原則として必要経費にならない
- 家族が受託者となって信託報酬を受け取ることは信託業法違反に当たらない
- 受託者は信託財産に関して大きな権限を持つため、信頼できる人物を選ぶ必要がある
家族信託にかかった報酬は不動産所得の必要経費にできる?
家族信託とは、自分の財産を家族などに預けて、自分や家族のために管理してもらう仕組みです。家族信託には認知症対策や相続税対策になるなどのメリットがありますが、一方で、信託にかかる報酬や税金などのコストも発生します。では、家族信託にかかった報酬は、不動産所得の必要経費として計上できるのでしょうか。
目的が明確なら経費に計上できる可能性もある
家族信託にかかった報酬が不動産所得の必要経費になるかどうかは、家族信託の目的や支払先によって異なるため注意してください。一般的に、以下のような場合には経費として計上できる可能性があります。
- 家族信託の目的が「賃貸経営の長期的安定化」に限定された認知症対策である場合
- 報酬の支払先が同一生計の配偶者や親族でない場合
これらの場合、家族信託が不動産所得の獲得に直接関係するとみなされる可能性があります。例えば、認知症になった場合、賃貸経営を継続するために財産を委託することは、不動産所得の維持に必要な措置といえるでしょう。そして、信託報酬を第三者に支払うことは、不動産所得の獲得に必要な経費として認められる可能性があります。
不動産以外に財産を信託したいのであれば難しい場合もある
不動産以外の財産を信託することは、不動産所得とは無関係な個人的な目的といえるため、経費として計上できない可能性が高いです。
例えば、家族信託の目的が「老後資金の確保や資産凍結対策、成年後見制度の代用」などの全般的な財産管理・生活サポートであり、賃貸不動産以外の財産も含めて信託財産に入れることで、認知症対策などを意図して家族信託を行っている場合、家族信託は不動産所得の獲得に直接関係しないとみなされる可能性があります。
同一生計親族の場合だと経費としてみなされない
同一生計の配偶者や親族に信託報酬を支払う場合には、特に注意が必要です。受託者が受益者と生計を共にする親族に該当する場合、信託報酬は必要経費としてみなされません(所得税法第56条)。
同一生計の配偶者や親族は、家族信託の受益者となるのが通常です。そのため、信託報酬を支払うことは、自分や家族のために財産を使うことと同じだといえるでしょう。このような場合には、信託報酬は経費として認められない可能性が非常に高いです。
なお、勤務、修学、療養等の都合上、日常の起居を共にしていない親族であっても、生活費の送金が行われている場合なども同一生計とみなされます。
そもそも家族信託とは
では、家族信託の仕組みはどのようになっているのでしょうか。
家族信託に関係するのは、委託者・受託者・受益者の3者です。ただし、委託者と受益者が同じ場合もあります。
それぞれの役割は以下の通りです。
- 委託者:財産のもともとの所有者で財産を信託する人
- 受託者:財産の管理・運用・処分を任される人
- 受益者:委託者によって信託契約の中で定められ、信託財産から発生した利益(受益債権)を受ける権利を有する人
家族信託が実行される手順は以下の通りです。
- 委託者が受託者と信託行為(信託契約)を締結する
- 受託者に財産権が移転する
- 受託者は委託者の設定した信託目的に従い、受益者のために信託財産を管理・運用・処分する
上記の図に当てはめてみると、以下の通りです。
- 親(委託者・受益者)の財産を子(受託者)に預ける
- 子に財産権が移転する
- 親のために子が財産の管理・運用・処分を行う
家族信託により、財産の信託後に親が認知症になるなど判断能力がなくなった場合でも、子が預金の出し入れや不動産の管理を行うことができます。
家族信託にかかった報酬は税務上雑所得となる
家族信託において、受託者が受け取る信託報酬を設定した場合、税務上この信託報酬は受託者の「雑所得」となります。
雑所得は所得税・住民税の課税対象なので、確定申告が必要です。
ただし、大部分の給与所得者については、給与の支払者が行う年末調整によって所得税額が確定し、納税も完了するので、雑所得を含む給与所得および退職所得以外の所得合計が20万円以下の場合は確定申告の必要はありません。
参照:国税庁
家族信託で報酬を決めたとしても信託業法違反にはならない
信託業法第3条により、信託業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、営むことができません。ただし、営もうとする信託業が管理型信託業である場合には、内閣総理大臣の登録(3年ごとの更新制)を受けて営むことができると定められています。
では、家族信託では受託者が報酬を受け取ると信託業法違反にならないのでしょうか。
信託業法の適用を受けるのは、「信託の引受けを行う営業」に該当する場合です。家族が受託者となって信託報酬を受け取る家族信託は、上記のような営利目的ではないため報酬を得ても信託業法違反にはなりません。
家族信託を行う際の注意点
家族信託を行う上での注意点は以下の通りです。
- 節税効果はない
- 受託者を選ぶ際は慎重に行う
- 家族信託に詳しい専門家が少ない傾向にある
- 受託者に対して長期的に財産処分の制限をかけてしまう
- 確定申告をしなければならない
節税効果はない
家族信託を利用しても、基本的に受益者に税金が課されます。そのため、相続税の負担が軽減されるなど、直接的な節税効果はありません 。
不動産所得などで赤字が出た場合にほかの所得と相殺できる制度(損益通算)はありますが、家族信託では、信託不動産で赤字が出た場合、委託者の所有財産や別の信託契約の不動産所得と損益通算ができません。改修工事などで赤字が見込まれる場合には注意が必要です。
一方、二次相続まで相続財産を指定することはできます。また、「委託者=受益者」にする「自益信託」の形をとれば、贈与税がかかることなく信託財産の管理を家族に託すことは可能です。
受託者を選ぶ際は慎重に行う
信託では、受託者が信託財産の名義人となって管理・運用・処分を行うほか、信託の目的達成のために必要な行為をする権限が広く与えられています。受託者は信託財産に関して大きな権限を持つため、受託者が信頼できる人物であるか見極めることが大切です。
受益者が自分で受託者を監督できない場合には、信託監督人が選任されることがあります。この場合、信託監督人が受託者の権限違反行為を取り消すことが可能です。
家族信託に詳しい専門家が少ない傾向にある
家族信託は比較的新しい財産管理手法なので、弁護士、司法書士、税理士などの法律専門職であっても詳しく把握できているとは限りません。
望ましい家族信託の形は、家族によってケースバイケースです。そのため、家族信託に関して有効なアドバイスを求める場合は、家族信託について知識と経験が豊富な専門家を探す必要があります。
受託者に対して長期的に財産処分の制限をかけてしまう
家族信託は、自分が亡くなった後の相続についても複数世代にわたって指定することが可能です。反面、財産の処分に関して信託の当事者を長期間にわたり拘束することになるため、想定外のトラブルを招くこともあります。
家族信託を長期で設計する場合、信託のメリットと関係する家族への影響を考えて慎重に設計する必要があります。
確定申告をしなければならない
信託財産の収益については、受益者が確定申告を行います。
例えば、受益者である親が認知症によって判断能力が不十分になり、実際の手続きは受託者である子が行う場合でも、確定申告手続きは親の名前で行います。
これとは別に、家族信託の信託財産から得られる収益が3万円以上(1年未満の場合は15,000円以上)ある場合、受託者は「信託の計算書」と「信託の計算書合計表」を作成し、前年分を毎年1月31日までに税務署へ提出する必要があります。
家族信託に関するご相談は信頼できる専門家へ
家族信託の相談は、「セゾンの相続 家族信託サポート」にお任せください。家族信託に強い司法書士と提携しているため、信頼できる専門家との無料相談や最適なプランのご提案が可能です。
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おわりに
家族信託における信託報酬は、受託者が受益者と生計を共にする親族に該当する場合、原則として必要経費として認められません。家族信託は比較的新しい財産管理手法です。のちのトラブルを回避するためにも、税金やリスクなどについてあらかじめ詳しい専門家に相談し、慎重に設計して実行していくことが大切です。