家族信託を結ぶことで、認知症などで判断能力が低下しても、財産が凍結されるリスクを回避できます。成年後見制度よりも柔軟な制度であることも利点です。さらに、遺言機能を含めた契約内容で相続の負担を軽減できます。具体的な事例として、認知症や老後への対策、共有不動産の管理、障がいのある親族への遺贈、孫世代への相続などを挙げています。契約上の注意点も紹介しています。
(本記事は2024年5月16日時点の情報です)
- 家族信託は、自身の財産を信頼できる家族や相手に託し、特定の方のために管理・処分をする財産管理法であり、認知症などによって判断能力が低下した際のリスクを軽減できる。
- 家族信託の利点は、成年後見制度より柔軟で、財産の有効利用や委託者の変更、管理費の要否などが特徴として挙げられ、事前に準備できることから遺言や相続に関する負担も軽減することができる。
- 家族信託は、認知症や老後への対策、共有名義の不動産の管理、障がいがある親族への財産遺す場合、孫世代への相続など幅広い目的で活用することができる。
- 家族信託では身上監護をすることはできず、家族や受託者の同意が必要であり、直接的な節税効果はない。
家族信託とは
家族信託とは、不動産・預貯金・有価証券などの自分の財産を、信頼できる家族などに託し、特定の方のために、契約時に定めた目的に従って、管理・処分などをする財産管理法です。認知症などにより判断能力が低下した場合にも、家族信託の目的に応じて、財産を活用することができる点で注目を集めています。
家族信託の仕組み
家族信託の基本的な登場人物は、「委託者」「受託者」「受益者」の3者です。
委託者 | 財産を預ける方 |
受託者 | 預かった財産を管理・運用する方 |
受益者 | 財産から得た利益を受ける方 |
委託者が財産の管理を受託者に任せ、その財産を受託者が管理し、その財産から発生した利益を受益者が得る仕組みになっています。親の財産管理を目的とする場合、通常、委託者と受益者が同じになります(自益信託)。レアなケースとして障害のある子どものために親の財産を利用する場合などは委託者と受益者が異なることもあります(他益信託)。
家族信託を利用する3つのメリット
現在、注目を集めている家族信託について、「成年後見制度」「遺言」と比較してメリットを大きく三つの項目にまとめました。一緒に確認してみましょう。
「成年後見制度」は、認知症や知的障害などによってひとりで法律行為を行うのが困難になってしまった場合に家庭裁判所から選ばれた方が代わりに管理する制度です。そして、「遺言」は、故人の遺志を相続に反映させるものです。
成年後見制度より柔軟な制度
家族信託は、成年後見制度と比較して、主に3つの柔軟な対応が利点としてあげられます。
【財産の有効利用】
- 成年後見制度:成年後見人の役割は財産の保全に重点がおかれます。したがって、財産を減らす可能性がある投資などはできません。
- 家族信託:委託者が財産管理の方向性を定めていれば、受託者の判断で不動産の賃貸や売却などの積極的な管理も可能です。
【受託者の変更】
- 成年後見制度:裁判所に後見人の変更を認めてもらえるのはかなり難しい。
- 家族信託:信託契約書に受託者の変更について盛り込むことで変更が可能
【管理費の要否】
- 成年後見制度:毎月2~6万円程度の報酬が発生する
- 家族信託:信託報酬がかからない場合が多い
委託者の想いを遺せる
遺言書は、亡くなった後の財産の分け方を決めておくものです。ご自分のどの財産を誰にどの程度相続させるかを記載します。家族信託でも契約内容に委託や遺言機能を盛り込むことができます。加えて、遺言書に盛り込むことができない二次相続発生以降の財産承継先も指定できます。例えば、受益者である祖父母の死後、受益権を孫へ移すといった契約も可能です。
相続に関する家族の負担を軽減できる
家族信託に遺言の内容を盛り込むことにより相続時の、遺産分割協議が不要になります。
また、家族信託を導入して財産管理を行うと、資産の凍結リスクに備えることができます。財産の所有者が認知症になると、預貯金の引き出しや解約などができないため、所有財産は凍結状態になってしまいます。
しかし、家族信託により財産の管理・運用・処分を家族に託しているので、所有者が認知症になっても資産凍結のリスクはありません。
家族信託が活用できる事例
ここまで家族信託について、成年後見制度や遺言と比較しての特徴について述べました。この章では具体的な事例を交えて家族信託の特徴を紹介します。
認知症や老後への対策
では、まず親が施設に入所した後の実家の管理について考えてみます。
親の認知症が進んでしっかりとした判断をできない状態になってしまうと実家の売却および活用が困難になります。誰も住んでいない空き家となった実家を親が亡くなるまで管理しなければなりません。固定資産税の支払いや近隣の方に迷惑にならないために庭の手入れなども必要になり、子の負担も大きくなります。家庭信託を利用していれば親の判断能力が低下しても子の判断で不動産の売却や貸与が可能です。実家を売却して介護施設の入居費を準備することもできます。
共有名義の不動産の管理
ひとつの不動産に対して複数人が所有者として登記されている場合を考えてみましょう。
この場合、不動産に関わるあらゆる手続きに全員の同意が必要になります。つまり、ひとりでも判断能力が低下すると同意が取れない状態となり、売却や賃貸契約などを行うことができません。
この場合、共有名義人の年齢や健康状態などにもよりますが、判断能力が下がる可能性のある方が別の共有名義の方と家族信託を結ぶことで、元気な間は受託者が管理し、亡くなった後は相続の手続きをスムーズに行うことができます。また、年齢的なことからいえば、相続人である子どもを受託者とする方が良いかもしれません。
障がいがある親族に財産を遺す
障がい者のある方の生活支援の多くはその親が担っており、親が死亡した場合の支援は考えておくべき問題です。
福祉型信託と呼ばれる家族信託を行うことでこの問題を緩和することができます。例えば、障がいを持たない兄弟を受託者として財産を預け、毎月障がいを持った兄弟へ少しずつ渡す取り決めをすることができます。このとき、お金がしっかりと渡っているかをチェックするために信頼できる他の親族や司法書士などに信託監督人の契約を結ぶとより安心です。
また、受託者の負担が大きくなることや継続したサポートの不安などを補完するために成年後見制度との併用も検討しましょう。
もし、信頼できる親族などがいない場合、福祉団体やNPO法人、信託会社など組織として対応できる受託者を指定するのも方法のひとつです。
孫世代に相続する
不動産から得られる利益を孫の教育資金として孫に渡す場合を考えてみましょう。
通常の相続では、受益者と受託者を指定し、利益のみを孫に相続させることはできません。例えば、不動産によって得られる利益のみを孫に渡すことはできないのです。そのため、特定の利益を孫に確実に渡したい場合には、受託者を子供、第一受益者を自分、第二受益者を孫とする家族信託を結ぶことで、自分が亡くなった後、不動産で得られる利益をスムーズに孫へ渡すことができます。
家族信託の注意点
ここまで家族信託のメリットについて述べましたが、家族信託も万能ではありません。この章では、家族信託において注意するべき点について述べていきます。
家族信託でも身上監護はできない
まず、家族信託では身上監護をすることはできません。例えば、認知症になってしまった方が施設に入居する際、受託者は入居契約をすることはできません。
家族信託はあくまでも、財産管理を行うための契約です。入居した施設のお金を信託された財産の中から支払うことはできますが、入居契約を行うことはできません。
ただし、身上監護は家族が代わりにできるため、子どもや配偶者が受託者になっている場合には大きな問題にはなりません。
家族が海外に居住している場合や家族以外と家族信託を結んでいる場合には、身上監護をするための、任意後見契約を結ぶことをおすすめします。任意後見契約とは、親族や頼れる方を事前に後見人に指定をしておける制度です。
委託者・受託者だけなく親族の同意も必要
次に家族の同意の重要性についてです。
まずは、「委託者の同意」です。贈与や売買に比べると家族信託の仕組みはわかりにくいかも知れません。家族信託では、財産の名義は受託者である子どもに変わります。そのため、親は「仕組みがよくわからない」「面倒」や「生前に財産を奪われるのではないか」という不安に駆られ契約が止まってしまう場合があります。
次に「受託者の同意」です。受託者は当然任された財産の管理を行うことになります。不動産であれば、建物の管理、税の納入、受益者への報告などの責任が発生します。これを面倒だと感じる場合もあります。
最後に「ほかの家族の同意」です。例えば、複数兄弟がいる中でひとりを受託者とした場合、ほかの兄弟からは財産の動きが見えにくくなってしまいます。それをきっかけとして兄弟間での不和につながることもあり得ます。いずれの問題も、関わる人間同士でのコミュニケーションを深めることで回避することができます。家族がしっかりとしたコミュニケーションを構築することが重要です。
家族信託自体は節税対策にならない
家族信託によって相続税の節税対策にはなりません。
例えば認知症になってしまった場合に不動産の売却や賃貸契約などができなくなるリスクを回避することで、相続対策にはなりますが、相続税の節税にはなりません。また、相続後に不動産を売却する際、「空き家特例」という税金控除枠がありますが、家庭信託で相続すると、空き家特例が使えなくなってしまいます。一方で、相続自体はみなし相続として相続税を課されてしまうため、節税対策にはなりません。
参照元:国税庁|租税特別措置法第35条
国税庁|相続税法第9条の2((贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利))関係
家族信託ならセゾンの相続がおすすめ
家族信託はうまく使うことができればとても便利な契約です。しかし、注意するべき点も多く、不安に感じる点も多くあると思います。家族信託だけではなく相続対策にも強い司法書士と提携しているセゾンの相続なら、一人ひとりに合わせて最適なプランを提案してもらえます。少しでも不安があれば、一度相談してみるのはいかがでしょうか。
おわりに
今回は家族信託について紹介しました。家族信託は、口約束ではトラブルになってしまいそうな内容を明文化し、公的な文章として残すことができる便利な制度です。相続や家族内の財産に関わるやりとりをスムーズにしてくれます。一方で関わる方も多く、トラブルなく進めるのには注意が必要です。この記事を再度読んで注意点を確認し、利用を検討してみてはいかがでしょうか?