家族信託契約書の重要性と作成方法について解説されています。口約束では不確定なため契約書が必要であり、自作やひな形利用、専門家への依頼方法が示されています。信託目的や財産管理方法の明文化がトラブル回避に役立ちます。個人での作成は注意が必要で、専門家への相談を検討しましょう。家族信託契約書の変更条件や費用、遺言書との関係も説明されています。契約書の作成によってトラブル回避や円滑な財産管理が可能になります。
(本記事は2024年5月16日時点の情報です)
- 口約束では不確定であるため、契約書で明確にする必要があり、契約内容を証明できないと悪用されたりしてトラブルになりやすいので家庭信託契約は作成するべきである。
- 家族信託契約書の準備方法には大きく自作、ひな形の利用、専門家への依頼の3パターンがある。
- 家庭信託契約書へ盛り込むべき内容や項目
- 家庭信託契約書の作成に関するよくあるQ&A(専門家に依頼する場合の費用の目安など)
家族信託で契約書が必要になる理由
家族信託とは、認知症による判断能力の低下により資産が凍結してしまうことを防ぐ有効な制度です。預貯金や不動産、資産価値のある物品などの財産の管理を信頼できる方に委任する仕組みです。家族信託を行うことで相続におけるトラブルを未然に回避することができます。
家族信託においてしっかりとした書面で契約を行うべき理由は以下に示す通りです。
- 口約束では不確定であるから
- 契約内容を証明できないから
- 意図せずに財産を悪用される可能性があるから
- 相続手続きを後々で簡略化することができる
家族信託の契約書を準備する方法3選
家族信託は、口頭による契約でも成立しますが、トラブル回避のため契約書を作成しましょう。契約書の作成には、特別な資格を必要としません。誰でも自分で作ることができます。しかし、条文をひとつでも入れ忘れると実際に運用することができなくなるなど、信託契約や相続手続きの知識や経験が必要な側面もあり、自分で作ることにはリスクもあります。実際の契約書を制作する状況別にメリット・デメリットを整理してみましょう。
自分で設計して作成する
まずは自分で設計する場合を考えてみます。自分で作成するので、どこかへ出向いたり、誰かにお願いしたりすることがないので金銭的なコストを低減することができます。また、自分たちの思いに合わせて契約内容を構築・運用することができ、自由度は高くなります。
しかし、完全に自分で行う場合、家族信託の設計に漏れや不整合があり、うまく契約書として機能しないといった思わぬトラブルに遭遇する場合があります。
ひな型を活用する
続いて、ひな形を活用する方法です。先ほどの全て自分で制作するのに不安がある方は、ひな形を参考にして制作するのもいいでしょう。ひな形を利用することによって大きな見落としをすることなく契約書を作成することができます。
しかし、専門的な知識が無いままにひな型に頼り契約書を作成するのは危険です。
家族信託の内容は、ご家族の状況によってそれぞれ異なります。場合によっては税務上の問題に気が付かず作成してしまう可能性もあります。
専門家に作成を依頼する
最後に行政書士などの専門家に相談する方法です。上記の通り、自分で作成する契約書には自由度が高くローコストで制作できることが魅力的です。しかし、必要な条文が欠けていることで思わぬトラブルに遭遇することがあります。
例えば、祖父の不動産からの利益を、祖父が健在の間は祖父へ、その後は孫に渡したい場合を考えてみましょう。契約書の中で、孫を第二受益者に指定しておけば、祖父亡き後そのまま孫に利益を渡すことができます。しかし、第二受益者の指定をしていなかった場合には、相続において孫に利益を渡すことはできません。
専門家に頼ることで費用はかかることになりますが、やはり、こういったトラブルを未然に防ぎ、希望に沿った契約書を作成するためにはプロの手を借りるのが無難といえるでしょう。
家族信託の契約書に記載すべき内容・項目
では、実際に作成する立場になったとして、家族信託にはどのような要素が必要なのでしょうか。家族信託契約書の制作には最低限以下のような内容を盛り込む必要があります。
- 信託の趣旨・目的
- 委託者・受託者・受益者の情報
- 信託の対象財産
- 受託者の権限
- 信託の終了事由
- 信託終了後の財産の帰属先
それぞれの項目について一緒に確認しましょう。
家族信託の趣旨・目的
最初に家族信託を行う趣旨や目的を定めましょう。
一般的には、以下の3つが目的となります。
- 認知症になる前に事前の財産管理の設計
- 相続後の遺産分割トラブル回避
- 共有財産の管理に関する明文化
必要に応じてひとつあるいは複数を選び、目的として定めます。これらの要素によって契約書に盛り込む要素が変化します。
委託者・受託者・受益者の情報
家族信託では下記のような属性を持った方を設定します。
委託者 | 財産を預ける方 |
受託者 | 預かった財産を管理・運用する方 |
受益者 | 財産から得た利益を受ける方現在存在しない方も指定でき「将来生まれる子」などでもよい |
一般的には委託者と受益者は一致します。例えば、マンションの経営を子供にやってほしい場合を考えてみます。マンションの管理は子供が行うので受託者は子供になります。このとき、マンションの財産を預けている方とマンションの収益を得ている方は一致し、マンションを保有している親ということになります。
また、表に含まれない方の中にも後述する信託監督人や受益者代理人がつくことがあります。これらは契約書の中で明記する必要があります。
家族信託する財産の内容・受託者の権限
次に信託する財産を決定します。信託契約書に記載のない財産は受託者が管理・処分することができません。受託者の権限の範囲や管理方法についても明記するとよいでしょう。
このとき、場合によっては、受託者が適正に管理しているかを確認するため、信託監督人や信託管理人を指定することも検討しましょう。
- 信託監督人:受益者が存在する場合に、受益者に代わり権利を行使できる
- 信託管理人:受益者が存在しない場合に、受益者に代わり権利を行使できる。
※存在しない場合とは、主にこれから生まれてくる子どもなどです。
家族信託を終了する事由・財産の帰属先
次に、家族信託を終了する事由と 財産の帰属先についてです。
家族信託の終了事由としては、契約書の規定によるほか次の事由があげられます。
- 信託の目的を達成したとき、または達成することができなくなったとき
- 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき
- 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が1年間継続したとき
契約書の規定としては、「受益者と受託者の合意」など家族信託を終了する事由を盛り込むことができ、複数記載することが可能です。ただし「受益者の死亡」と盛り込んでしまうと税務上の特例が無効になってしまう場合があるため注意が必要です。
また信託契約が終了した時の財産の帰属先は重要な要素です。誰がどの財産を受け取るかについてです。帰属先の定めがない場合に、信託の終了事由が発生してしまうと、委託者または委託者の相続人が帰属先となり複雑化します。そのため、信託終了後の財産の帰属先は明確に定めて置くべきです。
その他
また、そのほかにも以下のような要素を状況に併せて盛り込むとよいでしょう。
- 受益者が亡くなった際に、財産権・受益権は誰に継承されるのか
- 受託者の辞任手順と後任の指定方法
- 受益者の判断能力がなくなった際に信託契約の内容を変更できる受益代理人の指定
家族信託の契約書を自分で作成する・ひな型を使う場合の注意点
自分で契約書を作るには不安なことも多く、WEBに多くある「ひな形」を使おうとする方もいらっしゃると思います。契約書を作るに当たってひな型を使用する際にはいくつか注意するべきポイントがあります。
信託にも様々な種類があり、ひな形が各家庭や状況に十分に対応できる訳ではないため、ひな形の形式には注意を払う必要があります。主に発生する問題点、意識するべき点について説明します。
みなし贈与に気をつける
みなし贈与とは、贈与契約による財産権の移動ではなく財産を移動することです。家族信託においては、委託者と受益者が異なる場合、信託が発動すると財産は委託者から受益者に移動します。信託契約により委託者が生きている間であれば、贈与税の課税対象となります。
例えば不動産において、親が立てた家を子供名義に変更することはみなし贈与になります。このように契約書の設計時点で贈与税がかかる要素もあるため、注意が必要になります。
公正証書で作成する
公正証書とは、全国各地にある公証役場で、公証人という法律の専門家が作成した法律文書のことです。公正証書にすることで、公的な書面となるため当事者同士で作成したものよりも信用が上がります。
また、公証人が加わることで、法的なチェックを受けることができます。加えて、公正証書を作成する際には、公証人が本人に内容を確認しながら進めるため、本人の意思が正しく作成した文書に盛り込まれます。さらに、契約書の原本は公証役場に保管されているため紛失したとしても再発行を求めることができます。
ひな型をそのまま使用しない
契約書の作成は、ひな型を鵜呑みにして進めると危険なポイントがいくつかあります。ひな型を鵜呑みにしてしまうと、足りない項目があったり、状況に合わせた柔軟な対応ができない状況が生じたりするので、書式をそのまま使うことは避けましょう。必要に応じて項目を追加・修正し、ご家族のニーズにマッチするよう調整することが求められます。
家族信託の契約書でよくある疑問を解決
ここまで家庭信託で注意するべきポイントについて述べてきました。この章では家庭信託を結ぶ上でよくある疑問について紹介します。
家族信託の内容を契約書作成後に変更できる?
家族信託は長期間運用されることもあるため、途中で変更が必要になる場合もあります。そのような状況に対して信託法では、委託者、受託者、および受益者の合意により変更することができると規定しています。信託の目的に反しない場合や、受託者の利益を害しないことなどの条件下においては、委託者、受託者、受益者の全員の合意が無くても変更が可能になります。
また、信託契約を変更した場合には、遅滞なく通知しなければなりません。上記以外には、信託契約の中で変更について定めがある場合には、定めにより変更できます。
参照元:信託法第百四十九条
専門家に契約書作成を依頼する場合の費用の目安は?
家族信託契約書の作成を専門家に依頼した場合、報酬は一律ではありません。相場は信託財産の1%程度 とされています。おおよそ、30~100万円程度となるケースが多いようです。
不動産が含まれない場合であれば費用は大きくなりませんが、不動産が契約内容に含まれていると信託全体の金額が大きくなったり、信託登記が必要になったりするため、割高になる傾向にあります。
家族信託契約と遺言書はどちらが優先?
遺言書と家族信託契約書では家族信託契約の方が優先されます。信託契約を一度締結すると信託財産は名義変更され、委託者の名義ではなくなります。
そのため、委託者の名義ではなくなった財産について、遺言書で帰属先を指定することはできません。遺言書では、家族信託で指定されたもの以外の財産を指定することができます。
家族信託の困りごとはセゾンの相続におまかせください
以上のように家族信託契約には注意するべきポイントが多くあります。個人で作成するには不安を感じる点もいくつかあったのではないでしょうか。そういった方は是非、専門家に相談してみるといいでしょう。
セゾンの相続では、家族信託のサポートに特化したサービスを展開しています。こういった書類の作成は時間と労力を大きく割く必要があります。専門家に頼ることで安心して契約書を作成することができ、何よりも当事者の皆さんの負荷が低減することでしょう。
おわりに
この記事では、家庭信託契約についてその作り方のメリット・デメリットと注意点について述べました。とくに個人で信託契約書を作成する場合については注意点が多くあります。安心して財産を管理できるように、これらの注意点を今一度確認して、トラブルのない契約書を作成しましょう。明文化することで、円滑な管理を行えます。