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老後資金を確保しながら資産を取り崩しする方法とは?知っておきたいポイントも解説

老後資金を確保しながら資産を取り崩しする方法とは?知っておきたいポイントも解説
セゾンのくらし大研究 編集部

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老後に向けてお金を準備している方は多いですが、それをどうやって使うかまで考えている方は少ないのではないでしょうか。必要に応じて運用資産を取り崩す際には押さえておきたいポイントが多々あります。

この記事では、老後に向けて運用してきた資産をどのように使っていけば良いのか、運用資産を取り崩す方法や知っておきたいポイントを解説します。

(本記事は2024年7月1日時点の情報です)

この記事を読んでわかること
  • 老後に向けて運用してきた資産は、運用を続けながら取り崩すのが基本
  • 取り崩す順序は、確定給付企業年金や個人年金保険→確定拠出年金→証券口座の運用資産
  • 資産寿命を延ばすには退職時期を遅らせる、公的年金を繰下げ受給するなどして収入を増やすのが有効
  • 取り崩す方法は手数料や税金も考慮し、定期的に見直すことが大切

老後を迎えたら資産の取り崩しはどのように行う?

老後を迎えたら資産の取り崩しはどのように行う?

老後資金として準備した資産は、老後を迎えたら必要に応じて取り崩していくことになります。そこで重要になるのが、どの資産をどのように取り崩していくのかという点です。

老後資金を運用により準備する方法

老後資金を運用により準備する方法には、主に次のような方法があります(会社員の場合)。

  • 証券口座での運用(NISA・特定口座)
  • 個人型確定拠出年金(iDeCo)
  • 個人年金保険
  • その他の貯蓄性保険(終身保険、養老保険など)
  • 企業型確定拠出年金(企業型DC/401k)
  • 確定給付企業年金(DB)

このうち確定給付企業型年金(DB)や定額型の個人年金保険などは、受け取れる金額や時期が決まっていますが、一括受け取りや一定の範囲内で受け取り時期を選べる場合もあります。

一方、証券口座で運用している資産やiDeCo、企業型DCなどは、受け取れる金額が運用成果によって変動します。受け取り時期や方法によって受け取れる金額が変わり、その判断は自分で行わなければなりません。また、iDeCoと企業型DCは75歳までに受け取り始める必要があります。

運用資産の取り崩し方

運用資産を取り崩す順序としては確定給付企業年金(DB)や個人年金保険など、受取時期が決まっているものから受け取り、証券口座で運用している資産など、自分で受取時期を選べる資産はなるべく取り崩さずに運用を継続するのがおすすめです。

公的年金と確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)については、最長で75歳まで受取開始時期を繰り下げることが可能です。それぞれ次のようなメリットがあります。

  • 公的年金:年金受取開始時期を1ヶ月繰り下げるごとに年金額が0.7%上乗せされ、上乗せされた年金額で生涯支給される
  • 確定拠出年金:受取終了まで非課税で運用を継続できる

確定拠出年金の繰下げは、運用期間中に口座管理料がかかり続けるデメリットもあり、必ずしも有利とはいえません。老後の安心という意味では、公的年金の受給開始時期を繰り下げて生涯受け取れる年金額を増やし、繰り下げ期間中のつなぎ資金としてiDeCoを利用するのが合理的です。

以上のことから、老後資金を取り崩す(受け取る)順序をまとめると、以下の通りです。

【老後資金を取り崩す順序】

  1. 受取時期が決まっている確定給付企業年金(DB)や個人年金保険など
  2. 確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)
  3. 証券口座の運用資産(課税口座/特定口座)
  4. 証券口座の運用資産(非課税口座/NISA)

資産運用のおさらい

資産運用のおさらい

ここで改めて、資産運用の基本を確認しておきましょう。

資産運用とは

資産運用とは、自分が持っているお金(資産)を預貯金と投資に配分して、効率的に増やしていくことです。

預貯金投資
目的お金を確実に貯めるためお金を効率よく増やすため
元本保証ありなし
換金基本的にすぐできる時間がかかる
主な金融商品普通預金、定期預金、
積立定期預金など
株式、債券、投資信託など

確実に貯めるための「預貯金」

預貯金はお金を確実に貯めるための方法です。日々の生活に必要なお金や、近いうちに使い道が決まっているお金を配分します。医療費など急な出費に備えるお金も預貯金で確保しておくべきお金です。具体的な金融商品としては、普通預金や定期預金などが挙げられます。

効率的に資産を増やすための「投資」

投資はお金を効率よく増やすための方法で、原則として当面使う予定のないお金を配分します。具体的な金融商品は、株式や債券(国債・社債)、投資信託などです。

参照元:日本証券業協会|投資の時間「資産運用とは?」

資産運用の種類について

資産運用の種類について

資産運用といっても、方法はさまざまです。目的に合った方法を選ぶためにも、それぞれの特徴を理解しておきましょう。

円預金で運用

銀行にお金を預けて利子を受け取る方法です。安全性が高く、確実にお金を貯めるのに適しています。預金保険制度の対象なので、万が一銀行が破綻しても、1金融機関につき預金者1人あたり元本1,000万円とその利子が保護されます。利子のつかない決済用預金は、預金額全額が保護対象です。

安全性が高い反面、金利は低く、現状ではお金を預けてもほとんど増えません。また、預金金利が物価上昇率(インフレ率)を下回っている場合、円預金でお金を持っているとお金の価値が目減りする(同じ金額で買えるモノが少なくなる)リスク(=インフレリスク)があります。

また、元本(額面)は保証されていますが、実質的な価値は保証されていない点に注意してください。

外貨預金で運用

米ドルやオーストラリアドルなど、外国の通貨で預金する方法です。通貨によっては円よりも金利が高く、外貨ベースでより多くの利子を受け取れます。円に戻したときに預けたときよりも円安(外貨高)になっていれば、その差額も利益(為替差益)になります。

しかし、円高(外貨安)になっていると損失(為替差損)となり、場合によっては利子を受け取っていても円ベースで元本割れする点に注意が必要です。また、円と外貨を交換するときには為替手数料がかかるため、その分だけ円ベースでのリターンは低下します。

預金保険制度による元本保証もなく、円預金に比べてリスク、リターンともに大きな商品です。

保険で運用

保険の解約返戻金や満期保険金などを活用する方法です。保険の主な目的は、もしものときの保障を確保することですが、次のような商品には貯蓄性があり、資産運用にも利用されます。

  • 終身保険
  • 養老保険
  • 学資保険
  • 個人年金保険

一般的に、円建て保険よりも外貨建て保険、定額保険よりも変額保険のほうが高いリターンが期待できますが、リスクも高くなります。

支払った保険料は一定額まで所得控除の対象になり、所得税と住民税の負担が軽減される点は保険商品のメリットです。また、亡くなるまで契約を続ければ、家族に保険金としてお金を残すことができ、相続人が死亡保険金を受け取る場合は、「法定相続人数×500万円」まで相続税の対象になりません。

一方、契約条件や短期で解約した場合など、大きく元本割れするケースもあります。資産運用を目的に保険商品を利用する際は、お金が必要となる時期に元本割れしないか、十分注意しましょう。

株式で運用

企業が発行する株式を購入し、値上がり益(キャピタルゲイン)や配当金(インカムゲイン)を狙う方法です。

投資した企業が成長して株価が上昇すれば大きな利益が得られる可能性があります。また、株式を保有する株主には企業の得た利益の分配を受ける権利があり、定期的に配当金を受け取れるのも株式投資のメリットです。ただし、経営方針により配当が行われないケースもあるので注意してください。

一方、株価は下落することもあり、投資した企業が破綻した場合には投資した資金をすべて失うリスクがあります。これが株式投資における最大のリスクであり、デメリットです。さらに、信用取引を行った場合、投資した金額以上の損失が出ることもあります。

米国株など外国株式には為替リスクもあり、株価だけでなく為替の変動によっても運用成果が左右されるため、日本株よりもハイリスクハイリターンの投資といえるでしょう。

投資信託で運用

投資信託は、投資家から集めた資金をまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資して、その運用成果を投資額に応じて投資家に分配する金融商品です。

投資信託のメリットは、少額からさまざまな地域や資産に分散投資できる点です。投資先の選定や入れ替え、売買するタイミングの判断などは専門家に任せられ、個人では買えない(買いにくい)商品にも投資できます。

ただし、専門家が運用するといっても必ずしも儲かるわけではなく、損失が出ることもあります。購入時手数料や運用管理費用(信託報酬)などのコストがかかる点にも注意が必要です。

債券で運用

国や地方公共団体、企業などが投資家から資金を借り入れるために発行する債券(国債・地方債・社債など)を購入し、利子を受け取る方法です。発行体が元本を保証する商品で、満期(償還日)まで保有すれば額面金額が償還(払い戻し)されます。

利付債券の場合、一般的に預貯金よりも金利は高く、支払われる利子の金額や支払時期もあらかじめ決められているため、安定した収益が期待できる点がメリットです。

ただし、発行体が破綻したり財政難に陥ったりすると、利子や償還金の支払いが遅れたり、支払われないリスクがあります。金利の高い債券ほど、そのリスクが高い傾向にあるため注意が必要です。

また、市場で取引される債券の価格は変動しており、満期(償還日)前に売却(換金)する場合には、元本割れする恐れがあります。なお、個人向け国債は発行後1年以上経てば中途換金が可能になり、満期前に換金しても元本割れしません。

外国債券は、外貨預金や外国株式と同様に為替リスクがあり、為替によって債券価格や運用成果が変動します。

不動産で運用

アパートやマンションなどの賃貸用不動産を購入して、家賃収入を得る方法です。年金以外の安定した収入源を確保できるメリットがあり、まとまった資金の運用に適しています。

一方で、空室や家賃滞納、災害などのリスクがあり、維持・管理・修繕、固定資産税などに手間やコストがかかります。税金や修繕費は金額が大きくなりやすいため、計画的な準備が欠かせません。また、売却して換金するには時間がかかりやすい点に注意が必要です。

資産運用は「長期分散投資」が基本

リスクを抑え安定した運用を行うためには、投資先を分散し、長く運用を続ける「長期分散投資」が基本です。

投資を長期的に行うことで、投資資金を運用して得られた利益がさらに運用されて増えていく「複利」効果が狙えます。投資期間が長いほど得られる複利効果も大きいです。加えて、投資期間が長ければ価格変動リスクが小さくなり、より安定した収入が期待できるでしょう。

また、投資対象となる資産や銘柄はさまざまありますが、それぞれが常に同じ値動きをするわけではありません。分散投資により、特定の資産や銘柄が値下がりした場合に他の資産や銘柄の値上がりでカバーでき、価格変動のリスクを軽減できます。

資産を取り崩す前に押さえておきたいポイント

資産を取り崩す前に押さえておきたいポイント

資産を取り崩す前に押さえておきたいポイントは次の3つです。

【資産を取り崩す前に押さえておきたいポイント】

  • 仕事などの収入で生活できる間は公的年金の受給開始時期を繰り下げる
  • 運用資産は運用を続けながら取り崩す
  • 資産のうち一定額は預貯金など安全資産で保有する

仕事などの収入で生活できる間は公的年金の受給時期を繰り下げる

仕事などの収入で生活できる間はなるべく公的年金を受け取らず、「繰下げ受給」を行いましょう。

公的年金(老齢年金)は原則として65歳から受け取れますが、受給開始時期を1ヶ月繰り下げるごとに、年金額が0.7%上乗せされます。受給開始後は上乗せされた年金額が生涯続くため、老後の収入の安定につながるでしょう。

老齢年金は、生涯受け取れることが最大のメリットであり、その役割は老後の生活を支える「保険」です。早く亡くなってしまうと受け取れる年金の総額は少なくなりますが、長生きしてお金が足りなくなるリスクをカバーする保険だと割り切って考える必要があります。

一時的にお金が不足する場合には、貯蓄や確定給付企業型年金、個人年金保険、確定拠出年金などをつなぎ資金として活用しましょう。

運用資産は運用を続けながら取り崩す

退職後、年金だけの生活になって生活費が不足する場合は、証券口座などで保有している運用資産を取り崩して補填します。

運用資産は退職後すぐに現金化せず、運用を続けながら必要な分だけ取り崩すのがポイントです。運用を続けることで、運用資産を使い切るまでの期間(資金寿命)を伸ばす効果が期待できます。

例えば、1,000万円を毎月5万円ずつ取り崩す場合、全く運用しなかった場合(年利0%)には約16年8ヶ月で資金を使い切ります。しかし、年利3%で運用しながら取り崩せば、資金を使い切るまでの期間は22年11ヶ月まで延ばすことが可能です(年利1%では18年3ヶ月、年利5%では34年3ヶ月)。

【毎月5万円取り崩した場合の資産寿命】

年利運用資産1,000万円運用資産500万円
資産寿命
016年8ヶ月8年4ヶ月
118年3ヶ月8年9ヶ月
322年11ヶ月9年7ヶ月
534年3ヶ月10年9ヶ月

※利回りは一定と仮定し、税金・手数料などは考慮していません

野村アセットマネジメント「取り崩しシミュレーション」を用いて試算

一定額ずつ取り崩す「定額取り崩し」は、運用資産額に対して取り崩す金額が大きくなるほど資産の減少ペースが早く、運用による資産寿命の「延命」効果は低くなります。資産寿命を延ばすことを考える場合、一般的には、「資産の◯%」のように一定の割合で取り崩していく「定率取り崩し」のほうが有利です。

資産のうち一定額は預貯金など安全資産で保有する

資産寿命を伸ばすには運用も大切ですが、資産のうち一定額は預貯金など元本保証のある安全資産で保有しましょう。老後に資産をすべて運用に回すのはリスクが高いからです。

安全資産で保有しておきたい金額としては、今後3〜5年間の取り崩し予定額に、急な病気などに備えて100万円程度を加えた金額が目安です。日常の生活費以外で5年以内に必要なお金があれば、それも預貯金などで確保しておきましょう。ただし、これはあくまで目安であり、保有資産額やどの程度リスクを許容できるかによっても変わってきます。

運用は好調なときもあれば不調なときもあります。一定の安全資産を確保しておけば、リーマンショックのような急落があったときには資産の取り崩しを一時的にストップすることができ、不利なタイミングでの取り崩しを回避することが可能です。

老後の資産を上手く取り崩すには?

老後の資産を上手く取り崩すには?

資産を上手に取り崩すためには、手数料や税金の負担を考慮して運用方法や受取方法を選択し、取り崩し方法を定期的に見直すのがポイントです。

確定拠出年金は一括受取のほうが有利なケースが多い

例えば確定拠出年金(iDeCoや企業型DC)の場合、一時金受取と年金受取を選択できますが、受取方法によって手数料や税金の負担が変わります。

手数料は一時金受取のほうが安く抑えられます。年金受取の場合、1回の受け取りに税込440円の手数料がかかり、受取期間終了まで口座管理料がかかり続けるため負担が大きくなりがちです。

受取時の税金は、一時金受取の場合は「退職所得控除」、年金受取の場合は「公的年金等控除」の対象になり、税負担が軽減されます。控除面では、一時金受取で退職所得控除の適用を受けたほうが有利なケースが多いです。

ただし、勤務先の退職金額や受取時期によって控除額が少なくなるケースもあり、年金受取のほうが有利なケースもあります。一時金受取で退職所得控除枠をオーバーしてしまうケースでは、一部を一時金で受け取り、残りを年金で受け取るのもひとつの方法です。

年金受取の場合、公的年金等控除後の金額が雑所得としてその年の所得に加算されるため、年金額によっては社会保険料の負担が増える可能性がある点にも注意が必要です。

一括受取後はNISAなどで運用する

確定拠出年金を一時金で受け取る場合のデメリットは、受け取った時点で非課税での運用が終了してしまう点です。この点は、受け取った一時金をNISA口座や特定口座で運用することである程度カバーできます。

NISA口座や特定口座であれば、確定拠出年金のように継続的な手数料はかからず、売却して社会保険料の計算に影響しません。NISA口座であれば運用益は非課税です。

取り崩し方法の見直しを年に1度行う

資産を取り崩すには、「定額取り崩し」「定率取り崩し」「想定した支出額に対し必要額の取り崩し」などの方法があります。

【資産の取り崩し方法】

取り崩し方法メリットデメリット
定額取り崩し毎月◯万円のように、一定額を取り崩す方法・取り崩し額が一定で収支計画を立てやすい
(状況に応じて取り崩し額の見直しも可能)
・想定期間よりも長生きすると資金が底を突いてしまう
・定率取り崩しよりも資金寿命が短い
定率取り崩し資産の◯%のように、一定率を取り崩す方法・定額取り崩しよりも資金寿命が長い
(取り崩し率を上回る利回りで運用できれば資産は減らない)
・取り崩し額が変動し、収支計画が立てにくい
・資産が減ってくると取り崩し額が減少する
必要額の取り崩し今後20〜30年間に想定される大きな支出や、生活費の不足額をもとに資金計画を立て、必要額を取り崩す方法・個別事情を反映しやすい・計画通りにいく保証はない

それぞれの方法にメリットとデメリットがあり、実際には家計や相場の状況、生活スタイルに合わせてこれらの方法を組み合わせ、取り崩すのが現実的でしょう。

老後の生活スタイルは、年齢や健康状態などで大きく変わる可能性があります。年に1度は資産や家計の収支状況を確認し、その時々の状況に適した取り崩し方法を選択することが大切です。

おわりに

老後に向けて運用により準備してきた資産は、老後を迎えた後も運用を続け、必要に応じて計画的に取り崩していくのが基本です。ただし、運用にはリスクを伴うことも忘れてはいけません。一定額は預貯金など安全資産で確保し、運用する資産も長期分散投資を心がけリスクを抑えましょう。

家計や相場の状況、生活スタイルにあわせて資産の取り崩し方法を見直し、その時々の状況に適した方法を選択することも大切です。

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