年金の受給資格要件が徐々に難しくなる中、60歳からの資格取得に励む方が出てきました。平均寿命が男女とも80歳を超えた昨今、60歳になっても資格を取得していると20年間程度、働き続けることができる可能性があるからです。純粋に年金頼みでは心もとない場合もありますが、60歳から取得したい資格には何があるのでしょうか。
今回は60歳からの資格の選び方や定年後の働き方、おすすめの資格を8つ紹介します。生涯現役を貫きたい方、定年後も安心して働けるような資格がほしい方は、ぜひ参考にしてください。
1.60歳からの資格の選び方
一般的に、60歳を過ぎると働ける仕事に制限がかかってきます。しかし、平均寿命から考えてもまだ20年ある世代であり、積み上げてきたキャリアや人脈は、若い世代にはないものがあります。
そこに資格が加わることで、さまざまなメリットがあります。肝心の資格は、次の3つの観点から選んでみましょう。
- 活躍できる場所が増える資格を選ぶ
- これまでのキャリアを活かす
- 目的を決めてから選ぶ
1-1.信頼性が増す資格を選ぶ
ひと口に信頼性といっても、さまざまなポイントがあります。60歳の資格選びに関係する信頼性とは、年齢を重ねていることで得られる安心感です。例えば、お金の相談などを請け負うファイナンシャルプランナーが該当します。
長く人生を歩んできた方からのアドバイスは、時として若年層の気付きや行動のきっかけになることも。60歳という、年齢を重ねてきたからこそ得られる信頼性を活かせる資格を取得すると面白いかもしれません。
1-2.これまでのキャリアを活かす
自身が培ってきたキャリアや仕事の経験を活かした資格を選択するのもおすすめです。例えばファイナンシャルプランナーの資格を持っている場合、さらに上位の資格に挑戦してみたり、関連する資格でダブルライセンスを狙ってみるのもひとつの方法です。
新たにまったく未経験のジャンルで資格を取るのもよいですが、キャリアや職歴に基づいた資格に挑戦すると、現役時代以上に活躍の幅が広がるかもしれません。
1-3.目的を決めてから選ぶ
働きたい環境を決めてから、資格取得を考えるのも有効な方法です。定年後に求められる働き方は、バリバリ活躍することもそうですが、無理なく働ける環境に身を置くことも大切な判断です。無理のない働き方ができる環境に関連する資格取得を目指しましょう。
目的を決めると、取得する資格が明確になってきます。60歳からの資格取得になるため、求人の年齢制限を考慮する必要はあるものの、資格を選ぶ方法としてはおすすめです。
2.定年後の働き方
定年後の働き方には、大きく3つの方法があります。
- 定年延長・再雇用
- 起業する
- アルバイト・パートで働く
人生100年時代と呼ばれて久しい昨今、60歳からの働き方は昔に比べて多くなりました。しかし、働き方は人それぞれです。ひとつずつメリット・デメリットを解説します。
2-1.定年延長・再雇用
現在働いている会社や別の会社で、定年延長や再雇用という方法で在籍し続ける方法があります。厚生労働省は、年金受給年齢を65歳以上に引き上げる反面、高年齢者の雇用体制を整備した企業に対して適用する助成金を設置しています。60歳で定年退職をしたのち5年間無収入になってしまうことを防ぐ目的です。
定年延長制度で正社員として長く勤務できる方法や、嘱託職員として退職した会社に再雇用してもらう方法があります。いずれの場合も現役時代と変わらない水準の収入が得られる可能性があり、経済的不安はある程度解消できるでしょう。
反面、資格の有無や仕事のスキル、健康管理などの能力が必要になります。会社も無条件で定年延長や再雇用を認めているとは限らないため、あくまでも候補のひとつとして覚えておきましょう。
2-2.起業する
定年退職後に起業するのも、60歳からの働き方のひとつです。特に社会的に求められている資格を持っていたり、自身の経験を活かして新たな価値を提供できるのであれば、活用しない手はないでしょう。もちろん、起業に向けて資格取得を狙うのも良いかもしれません。
自身が経営者になってしまえば、定年退職の概念は関係なくなります。体力の許す限り、生涯現役を貫くことができます。
ただし、起業する場合には一定の初期投資と貯蓄、経営能力が必要です。新たに資格取得をする場合は、それを取得するために必要な費用がかかることも忘れてはいけません。
2-3.アルバイト・パートで働く
現役世代よりも収入は減ってしまうかもしれませんが、アルバイトやパートで働く方法もあります。近年は60歳以上でも採用している事業者が多く、ミドル・シニア専門の求人サイトも存在しています。
定年延長や起業するほど健康や体力に自信がなく、ご自身の時間も大切にしたい方におすすめの働き方です。未経験・無資格の求人も多いものの、対応した資格を持っていると、時給や待遇も良くなる傾向にあります。
3.資格を選ぶ際の注意点
今までに一度でも資格取得をしたことがある方は分かるかもしれませんが、資格を取るためにはそれなりの費用と勉強時間が必要です。難関資格に挑む際は、その資格を取得するためにかかる費用と勉強時間の確保ができるかどうかも検討しましょう。
特に費用に関しては、老後の生活資金をよく考える必要があります。総務省が発表した統計によると、夫65歳以上・妻60歳以上の世帯では、月々約24万円の支出があることが分かっています。
老後の生活には、それなりの貯蓄が必要です。考えなしに資格取得に費やしてしまわないようにしましょう。
4.60歳におすすめの資格
ここからは60歳からの資格取得でおすすめのものを8つ紹介します。合格率が高くないものも含まれていますが、資格を選ぶ際の参考にしてください。
4-1.ファイナンシャルプランナー
ひとつ目は「ファイナンシャルプランナー」です。近年、受験者が増えている人気の資格でもあり、お金のプロとして活動できるようになります。
シニア世代が取得するメリットとして、年齢が高い分の安心感が得られるのが特徴です。定年後の再就職先の選択肢として金融機関も多いため、持っていて損はないでしょう。
資格の種類 | 国家資格・民間資格(等級により異なる) |
年間の受験日程 | 1級: 1月、9月 2・3級: 1月、5月、9月 |
合格率 | 1級 10%前後 2級 35%前後 3級 50~70% |
受験費用 | 1級 【学科】8,900円 【実技】20,000~28,000円 2級 【学科】4,200円 【実技】4,500円 3級 【学科】3,000円 【実技】3,000円 |
取り扱う仕事内容 | 資産運用のアドバイス、家計の見直し相談など、金融に関わる内容 |
4-2.宅地建物取引士
国家資格の中でも抜群の知名度と難易度を誇るのが「宅地建物取引士」です。毎年合格率が15%前後と低い水準にとどまっているものの、頑張れば取得することができる資格でもあります。定年前から計画的に勉強を進めると良いでしょう。
不動産や建設業界、金融関係で仕事がしたいのであれば、ぜひ取っておきたい資格です。近年は海外投資家による日本の不動産購入の機会も増えています。英語力があれば、宅建士の資格とあわせて活用できるでしょう。
資格の種類 | 国家資格 |
年間の受験日程 | 10月の第3日曜日 |
合格率 | 15%前後 |
受験費用 | 8,200円 |
取り扱う仕事内容 | 不動産売買や賃貸仲介 |
4-3.社会保険労務士
現場でバリバリ活躍するよりも、相談役として活躍したいのであれば「社会保険労務士」がおすすめです。仕事柄、年齢や経験を重ねている人が重宝される傾向にあり、60歳からの資格取得に適しているのも特徴です。
士業と聞くと独立開業が前提のように思えますが、会社に勤める勤務社労士という働き方もあります。宅建士同様、定年前から勉強することがおすすめです。また、人脈形成も社労士として重要であるため、退職前に人脈を広げておくと良いでしょう。
ただし16個設けられている受験資格のうち、ひとつ以上を満たしている必要があります。詳細は、全国社会保険労務士会連合会試験センターのホームページをご確認ください。
資格の種類 | 国家資格 |
年間の受験日程 | 8月の最終日曜日 |
合格率 | 10%前後 |
受験費用 | 15,000円 |
取り扱う仕事内容 | 労働や社会保険についての相談、年金問題への対応など |
4-4.行政書士
依頼人に代わって公的な書類を作成、提出手続きを行うのが行政書士です。社労士と違って実務経験などがない方でも受験ができる資格になります。
法律関係に基づいて書類を作成することから難しいイメージを持っている人もいます。合格率自体は高くはないものの、遺言書作成などの老後の生活に直結する内容も取り扱うため、自分自身のことと置き換えて勉強できるでしょう。
資格の種類 | 国家資格 |
年間の受験日程 | 11月の第2日曜日 |
合格率 | 10%前後 |
受験費用 | 10,400円 |
取り扱う仕事内容 | 公的な書類の作成・提出、遺言・相続内容のアドバイスなど |
4-5.中小企業診断士
経営コンサルタントの中で唯一の国家資格が「中小企業診断士」です。独立開業も狙えるほか、採用面接時のアピールポイントにもなる資格です。企業によっては管理職として迎え入れられる可能性もあります。
市役所をはじめとする公的機関から専任アドバイザーとして指名されることもあり、需要が高いのが特徴です。試験は2回に分かれていますが、特定の条件を満たしていると、一部試験の免除が受けられます。
詳しくは「中小企業診断士第1次試験他資格等保有による科目免除」をご覧ください。
資格の種類 | 国家資格 |
年間の受験日程 | 一次試験:5月 二次試験:8~9月 |
合格率 | 10~20% |
受験費用 | 一次試験:14,500円 二次試験:17,800円 |
取り扱う仕事内容 | 中小企業の経営に関するアドバイス |
4-6.第二種運転免許
「第二種運転免許」とは、お金をもらって人を目的地まで運ぶ運転業務を行う際に必要な資格です。タクシードライバーがそれに該当し、多くのタクシー会社では採用後に会社の制度を使って資格取得できる場合もあります。
嘱託職員として75歳まで働ける場合も少なくなく、長期にわたって働ける仕事です。教習所に通う方法と、「飛び込み」と呼ばれる試験一発勝負(下記表での一般受験)の2種類がありますが、通常の運転免許の合格率よりも半分以下になるため、教習所に通って取得することをおすすめします。
資格の種類 | 国家資格 |
年間の受験日程 | 運転免許センターによって異なる |
合格率 | 30%前後 |
受験費用 | ・一般受験の場合 受験手数料 4,800円 試験車使用料 2,850円 免許証交付料 2,050円 その他講習費等 約27,000円程度 ・自動車学校卒業の場合 自動車学校の費用 20~25万円 受験手数料 1,700円 免許証交付料 2,050円 |
取り扱う仕事内容 | タクシーやハイヤーの運転業務 |
4-7.医薬品の登録販売者
2009年の薬事法改正にともなって誕生した資格が「登録販売者」です。第2類・第3類医薬品を取り扱うことができる資格で、ドラッグストア以外でも需要がある資格です。特に、近年のコンビニでは一般医薬品を扱うケースも増えており、取得して損はない資格といえます。
試験自体は難しくないものの、実務経験が2年以上必要です。また、公的資格ではあるものの、認定元は自治体になります。資格取得していると時給が高くなる可能性があるなど、社会的に求められている資格です。
資格の種類 | 自治体の公的資格 |
年間の受験日程 | 自治体によって異なる |
合格率 | 40%前後 |
受験費用 | 12,800~18,200円(自治体によって異なる) |
取り扱う仕事内容 | 第2類・第3類医薬品の取り扱いおよび販売業務 |
4-8.危険物取扱者(乙種4類)
「危険物取扱者」のうち、乙種4類がおすすめです。危険物の資格には1類~6類までがありますが、4類の資格を持っているとガソリンスタンドやホームセンターで優遇されることが多くなります。特にガソリンスタンドでは、消防法に基づいて営業時間中は最低1名この資格を持っている従業員を配置しなければならないため、仕事につながりやすいのが特徴です。
また、難易度の順に甲・乙・丙の3種類に分かれていますが、資格として優遇されるのは乙種以上です。受験者が多く難易度も低くはないものの、テキストは書店などにも多く並んでいるため、比較的受験しやすい資格でもあります。
危険物取扱者(乙種4類)
資格の種類 | 国家資格 |
年間の受験日程 | 自治体により異なる |
合格率 | 40%前後 |
受験費用 | 4,600円 |
取り扱う仕事内容 | ガソリン、アルコール類、灯油、軽油、重油などの引火性液体の取り扱い |
おわりに
60歳からの資格取得は、セカンドキャリア形成に大きな影響を与えます。一世一代の勉強として難しいものに挑戦してみるのも良いかもしれませんが、仕事につながる資格を勉強するのもひとつの方法です。自身のキャリアを活かしたり、新たなことに挑戦してみたり、資格取得を考えるうえで老後のあり方を模索してみるのはいかがでしょうか。