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東洋医学と紅葉~五感を養う~

東洋医学と紅葉~五感を養う~
瀬戸 郁保 鍼灸師・登録販売者・国際中医師

執筆者

鍼灸師・登録販売者・国際中医師

瀬戸 郁保

1970年神奈川県箱根町出身。青山学院大学経営学部卒業後、日本鍼灸理療専門学校にて学び、鍼灸師・按摩指圧マッサージ師免許を取得。さらに北京中医薬大学日本校(現・日本中医学院)で中医学・漢方薬を学び、国際中医師を取得。2004年東京の表参道に源保堂鍼灸院を開院し、その後漢方薬店薬戸金堂も併設。『黄帝内経』『難経』などの古医書を源流にした古典中医鍼灸を追究しながら、併せて漢方薬や気功など、東洋医学・中医学を幅広く研究し、開業以来多くの患者様のからだとこころの健康をサポートしてきている。さらに現在は東洋遊人会を主宰し、後進の指導にもあたっている。(株)薬戸金堂の代表取締役。著書に『長生きをしたければ、「親指」で歩きなさい』(学研)がある。

五感器と内臓の関係

東洋医学では、古くから多くの経験の積み重ねのなかから、目、鼻、口など、いわゆる五感器と内蔵を紐づけてきました。

例えば、目は肝臓とつながっているという関係があり、目の疲れが肝臓に影響を与え、逆に肝臓の疲労もまた目の症状に現れるといったように、相互に影響し合っている関係があります。

このような相互の関係は、五行説というものが基本になっていますが、これは、さまざまな事象を五行という5つの要素で分類したもので、それらをまとめた表のことを五行色体表(ごぎょうしきたいひょう)といいます。今回は煩雑にならないように、この記事で必要な部分を取り出して以下に示しておきますので、記事を読み進めていくときに見返して参考にしてくださいね。

五行色体表
五行色体表

穏やかな秋・季節の変わり目の秋

暑い夏が終わり、お彼岸の頃になると秋らしさがやってきます。

秋は「スポーツの秋」「読書の秋」「芸術の秋」など、いろいろな呼称があります。これは、秋という季節がとても穏やかで、何かを始めるのにもちょうどいい季節ということもあることを示したものだと考えられます。暑さをしのぐためだけに体力も思考を奪われていた夏から、少しずつ動けるだけの気力が出てきたというところでしょうか。

しかし、もう少し大きな視点で見てみると、秋は春夏の陽の時期から、秋冬の陰の時期への切り替え地点です。陽から陰への変化は大きな季節の変わり目でもあります。

以上のことからも、東洋医学・中医学の視点から見ても、秋というのは穏やかではあるけれど、季節の変わり目という、2つの側面がある季節で、このことを東洋医学・中医学では「容平(ようへい)」といいます。

容平とは、「万物が成熟する季節を迎え、形が定まっていくということ」です。これをもう少しわかりやすく説明すると、柿が樹になるイメージです。外に向かって広げてきた春夏のエネルギーを、今度は内面に向けて充実させていく、そしてそれを形として、果実のように成就させていくということになります。

読書や芸術は、生命の精神性を高めるものです。スポーツも、自分の身体との対話として捉えれば、内面と向き合うことになります。このように、自分に合ったものを通して、自分の内面に視点を向けることが、この秋という季節を充実させていくことにつながっていきます。そこで、次に、紅葉狩りをすることで、どうして養生になるかをご説明いたします。

紅葉と五感器の関係

紅葉と五感器の関係

秋の季節は、山々の木々が綺麗に色づいてきます。桜前線ならぬ、紅葉前線というものもありますが、紅葉前線は、桜前線とは逆に北の地域から徐々に列島を下がっていき、私たちに変化を知らせてくれます。

秋が深まるとともに変化する木々の紅葉を楽しむことで、五感器を心地よく刺激し、そしてそれに連なる五臓を充実させることができます。紅葉を楽しみながら、しかも健康にもなれるのですから、秋のこの季節を楽しまないわけにはいきませんよね。

それでは、秋の紅葉と五感器・五臓がどのような関係があるのか、まとめてみましょう。

目の感覚=肝臓を養う

目の感覚=肝臓を養う

目の保養とは、視覚を楽しませることです。紅葉は、カラフルな木々の色を見る、そして遠くにある山々を眺めるものです。街中でもイチョウなどの木々の紅葉を見かける機会が増えますが、街中でも、木々全体を見ようと視線を高く遠くにすることも保養の一環です。

普段私たちは手元にあるパソコンやスマートフォンの画面ばかり見て目を酷使してしまっている、「あれ?この一週間遠くに視線をやったことってあっただろうか?」となってしまいがちです。

紅葉は、遠くのものを見る、綺麗な景色、カラフルな色を眺めるといったことによって、目を保養することができます。そして、この目の保養は肝臓を養うことにもつながっていきます。イライラしたり、怒りっぽくなるのは肝臓にストレスが溜まっているからと東洋医学・中医学では考えていますので、普段からそのような傾向がある方は、ぜひ紅葉を見に出かけてみてはいかがでしょうか。

俗世を離れて行楽地へ旅行に出かけることももちろん良いですし、近くの公園や並木道を散策してみるだけでも効果があります。

舌=心を養う 唇=脾胃を養う

舌の感覚=心を養う

舌と唇の感覚は味覚と食感です。

さすがにこの2つを紅葉で満たすことはできませんが、紅葉を見にいく行楽地を訪れて食事をしたり、カフェや甘味処に寄ったりとするのも良いでしょう。お団子を食べたり、秋の味覚であるさつまいもを食べてみたりと、味覚を楽しんでみてください。

ちなみに、唇とつながる脾とは、胃とセットで胃腸(ひい)と称されることが多くあります。この脾胃とは、飲食物の消化力、吸収力を指します。私たちの身体は、日々入れ替わっているので、それに見合った栄養を必要としています。その栄養を受け取って、心身に必要な状態にまで引き上げるのが脾胃です。食べ物の入り口は口ですので、その器官としての舌と唇を設けており、それぞれ心臓と脾胃とに対応関係があります。

唇の感覚=脾胃を養う

ここで難しいのは、食べ過ぎないということです。そして、甘いものを摂り過ぎないということです。ついつい甘いものが多くなりがちですが、逆に消化不良を起こしたり、身体に湿気を増やしてしまって胃腸の働きが下がることがありますので注意してください。できれば、さつまいものような自然の甘みで補うようにすると良いでしょう。

鼻の感覚=肺を養う

鼻の感覚=肺を養う

鼻の感覚は、嗅覚です。都会では少し難しいかもしれませんが、木々が多い場所には土があります。土というのは、さまざまな微生物が宿っていて、その土地その土地にはそれらの微生物による特有の匂いがあります。土の香りを嗅ぐと、自然との結びつきを感じることができ、気持ちが安らぐ感覚を覚える方もいるかと思います。アスファルトやコンクリートに過剰に囲まれた街や建物で生活をしていると、あまり土との触れ合いがないためか、いつの間にか自然とのつながりを五感器が忘れてしまうことが多いと思います。これは、私たちの生活が、いかに土とかけ離れてしまったかという証左でもあります。

また、匂いというのは、脳の中でも最も古い部分で感じるものです。食べ物の匂いで毒かそうでないかを嗅ぎ分けて抜いてきた太古の感覚です。紅葉のある場所で、自然の香りを嗅いでみてください。そうすることで、古い感覚が呼び戻されて、それに紐づく肺も元気にすることができます。

また、土とは関係はありませんが、匂いでいえば、食べ物にも匂いがあります。美味しそうだなぁという匂いの感覚は肺だけではなく、胃腸にも良い刺激となります。秋刀魚を焼く匂いなどは秋の象徴でもあります。行楽地にお出かけの際は、何か香りが良いもの、美味しそうな匂いがするものなどを持って出かけるなどの工夫もしてみるといいかもしれません。

耳の感覚=腎を養う

耳の感覚=腎を養う

耳の感覚は、聴覚になります。都会の雑踏のなかにいると、耳の感覚が麻痺していることも多いのではないでしょうか。人間には、カクテルパーティー効果といって、ワーワーと雑談しているなかでも、自分に関係のある会話を選り分けて聞く能力があるそうですが、それとは逆に、常に自分とは関係のない音がザワザワしているなかでは、その耳障りな音を遮ろうとして、耳の感覚を閉じてしまうこともあるのではないでしょうか。ヘッドホンで音を聞いて街を歩くというのは、ある意味、無駄な雑音から自分の耳の感覚を守ろうとする行為でもあり、しかしそれは、同時に外とのつながりを遮断している行為といえるかもしれません。

普段の生活環境のなかで、私たちは、すーっと自分の耳に入ってくる音に身を任せるということが少なくなっています。自然が奏でる音をそのまま受け止める、そんな耳の本来の感覚を使っていないのも現代社会なのかもしれません。

せっかくなので紅葉、特に山などの自然のなかに入ったときには、自然の音に耳を傾けてみましょう。風の音、風が揺らす木々の揺れる音、鳥の鳴き声など、じっとしていると様々な音が私たちに語りかけてくるのを感じると思います。

このような、じっと聞き入るという行為は、腎を養う行為となります。腎は先天の気といって、心身の根本のエネルギーが詰め込まれている臓器です。この先天の気というエネルギーは、無闇矢鱈と使って浪費してはいけないもの。じっとして蓄えるものです。この“じっとしている”というイメージは、腎という臓器の働きと重なるものがあります。自然の音にじっと耳を傾けて、しばらくそこに佇む、そんな時間を作って紅葉を楽しんでみてはいかがでしょうか。

まとめ

日本は四季が明瞭な国です。最近は温暖化の影響なのか、春や秋がないともいれて久しくなりますが、それでも暦を意識して、季節の巡りに気を配っていると、まだまだ日本にはしっかりとした四季があることに気づかれると思います。

四季に合わせて生活するということは、健康に過ごすための養生の基本であります。“紅葉狩り”という風習は、庶民の生活が豊かになった江戸時代から一般的になったそうですが、季節の移ろいを楽しむための智慧であり、また、それがまた知らず知らずのうちに季節に合わせる養生にもつながっていたのかもしれませんね。

山に出かけて紅葉を楽しんだり、都会のなかでも、紅葉がきれいなスポットを探して紅葉狩りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

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