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家族信託の事業承継で受益者変更はできる?適用条件や注意点など

家族信託の事業承継で受益者変更はできる?適用条件や注意点など
セゾンのくらし大研究 編集部

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家族信託は認知症対策のイメージが強いかもしれませんが、柔軟な事業承継を行うことができる方法として近年注目されています。このコラムでは、家族信託の仕組み、事業承継に家族信託を活用するメリット、家族信託における受益者の権利、受益者変更やその注意点についてご紹介します。家族信託を利用した事業承継を考える際の参考にしてください。

この記事を読んでわかること

  • 家族信託は細かく規定を設けることで柔軟な事業承継が可能
  • 受益者を変更することができるので、後継者が事業承継を辞退するなど想定外の事態にも臨機応変に対応できる
  • 信託契約を維持するためには、受益者の裁量権が大きくなり過ぎないようにする必要がある
  • 家族信託は事業承継税制との併用不可など注意点もある
家族信託サポート
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家族信託とはどんな仕組み?

家族信託とはどんな仕組み?

家族信託とは、家族の財産や生活を守るための柔軟な財産管理ができる仕組みです。家族信託の契約をすることで、家族に財産の管理や処分をできる権限を与えることができます。

家族信託では、原則として財産管理の方法を信託契約の中で自由に定められるため、財産管理を柔軟かつスムーズに進められます。

家族間での財産管理手法

家族信託は、家族による財産管理の方法のひとつです。ご自身で財産を管理できなくなった時のために、あらかじめ不動産や金銭などの財産を管理・運用・処分する権限を、信頼できる家族に与えておくことを指します。

家族信託の基本的な登場人物は「委託者」「受託者」「受益者」の3者です。

  • 委託者:所有する財産の管理を受託者に任せる
  • 受託者:委託者から任されて、財産の管理・運用・処分を行う
  • 受益者:財産権を持ち、財産管理によって利益が発生した場合はその利益を得る

財産を委託する委託者と利益を得る受益者は、同じ方になるケースが多い傾向にあります。

一般的な家族信託においては、所有財産を家族に託す「委託者」は親、その財産の管理・運用・処分を託される「受託者」は子、それらの財産からの利益を受け取る「受益者」が親という場合が多いです。

家族信託のなかには、委託者の生存中は委託者を受益者とし、委託者の死亡後は受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する「遺言代用信託」があります(信託法第九十条)。委託者である親の生存中は自分のために財産を管理・運用してもらい、亡くなった後は子が受益権を取得することで、財産を承継できる信託です。

家族信託が注目される背景

近年、高齢化が進み、要介護者認定者や認知症を発症する高齢者が増えています。それによって、家族間での財産相続や事業承継が滞ってしまうケースも増えてきました。その解決策として、家族の高齢化に伴うさまざまなトラブルに柔軟に対応できる家族信託が普及しつつあります。

家族信託では、委託者が認知症発症後も信託の契約や効力が継続され、財産の積極的な活用や本人の意思を反映した利用ができます。

事業承継に家族信託を活用するメリット            

家族信託では株式の信託ができるため、事業承継に関して細かく定めることができます。家族信託を事業承継で活用するメリットとして、以下の4つが挙げられます。

贈与税がかからない

現経営者が委託者兼受益者、後継者が受託者の場合は、形式的な所有権は受託者に移転しますが、会社の利益を得る経営者は受益者です。財産の帰属先は変わらず、生前贈与ではないため贈与税がかかりません。

経営に関与し続けることができる

株式には、配当を受け取る財産権と、議決権などの経営権の2つの権利があります。家族信託では、現経営者に指図権(財産の管理・運用・処分の方法などを受託者に指図できる権限)を設定することで、受託者である後継者に事業の経営権を移転させつつ、実質的に現経営者に財産権を残すことが可能です。

不適格な後継者だった場合、家族信託契約を解除することができる

万が一、後継者が不適格者であると判断した場合には、信託契約を解除できます。そして、新たな後継者候補と信託契約を結びます。

後継者を先の代まで決めることができる

家族信託には、「現経営者の直系一族を代々の受益者とする」などと信託内容に含める後継ぎ遺贈型受益者連続信託もあり、先々の後継者まで指定することができます。

上記のように、家族信託では受益者を変更したり、後継者を先々まで決めることができたりするなど、柔軟な条件を取り決めることができます。

受益者変更権とは

受益者変更権とは

受益者とは、信託財産から経済的な利益を受け取る権利を持つ者を指します。受益者は、家族信託設定後に変更することも可能です。受益者を変更する権利を「受益者変更権」と呼び、事業承継において大いに活用できる権利といえるでしょう。

受益者の権利とは                              

家族信託における受益者の権利は大きく分けて以下の2つです。

  • 受益者が利益を受ける権利
    受託者に対して信託財産(に属する財産)の引き渡しや給付を求める権利
  • 受託者の仕事を監督する権利
    受益者が信託事務に対して受託者に報告を求めたり、受託者の解任や新しい受託者を選任したりする権利

受益者変更権とは                          

信託期間中に受益者を指定する権利を「受益者指定権」、変更する権利を「受益者変更権」(2つまとめて「受益者指定権等」)といいます。

それぞれの権利がある方を「受益者指定権者」、「受益者変更権者」と呼びます。どちらも受託者や第三者でもなることが可能です(信託法第八十九条)。顧問弁護士や顧問税理士など外部の人物に受益者指定権者等になってもらうこともできます。

通常、家族信託では、「受益権」という財産について贈与や売買をする権利を行使できるのは受益者本人です。つまり、受益者本人の判断能力が低下した場合には、受益権の贈与も売買もできなくなります。このような場合に活用される権限として、「受益者変更権」があります。

受益者変更するケースとは        

受益者変更は主に家族信託による事業承継で活用されます。この制度を利用することで、将来の不確定な状況に応じて柔軟に対応することが可能です。

事業承継の実行途中で事業を承継しない方向性に変わった、家族の関係が悪化した、連絡が取りにくくなったなどの場合、事業承継に支障が生じかねません。そういった不測の事態に備えて、受益者変更権を設けておくことは非常に有効です。

例えば、長男が事業の後継者となることを見込んで、生前から受益権持ち分を段階的に譲渡していくケースを考えてみましょう。後継者育成の途中で、急遽長男が後継者となることを辞退・放棄した場合、あるいは長男が後継者として不適任だと判断された場合には、後継者を次男に代える事態も起こり得ます。

その場合、すでに長男に渡してしまった受益権持ち分については、長男の協力が必要不可欠です。長男の協力が得られない場合は、「受益者変更権」を行使して、長男の同意・不同意に関わらず受益権を回収し、次男に渡すことが可能になります。

「受益者変更権」を設定しておくことで、事業承継における不測の事態に対応することが可能です。

受益者変更のポイント

受益者変更のポイント

家族信託は、原則として委託者、受託者、受益者の3者の合意によって変更できます。通常は「委託者=受益者」となることが多く、実質的には「受託者、受益者の2名による合意」で変更することが可能です。

信託受益権は、受益者の意思で贈与したり売却したりできるのが原則ですが、受益者の判断能力が低下した場合は、信託受益権の贈与も売買もできなくなります。そのような事態に備えて、受益者を指定や変更できる者を決めておくことで、状況に応じて対応することが可能です。

ただし、受益者変更には一定の注意が必要です。

受益者の同意なしで変更できる

受益者を変更や指定できる権利を定め、受益者変更権者がその権限を行使すれば、受益者の同意なく信託財産の全部または一部を他者に移動させることができます。

家族信託では会社経営や不動産賃貸業において、受益者の同意がなくても受益者を変更できるこの仕組みを活用することが可能です。

例えば、家族信託を使わずに株式や事業用不動産等を長男に譲渡(贈与等)した場合を考えてみましょう。その後に長男ではなく次男を後継者にしたいと思っても、すでに事業用資産は長男の所有(名義)になっているため、長男の協力がなければ次男に変更することはできません。その時点で、円滑な事業承継がストップしてしまう可能性もあります。

受益者指定権等を設定している家族信託では、現受益者の承諾なく受益者を変更できるので、このような事業承継の停滞を防ぐことができます。

変更できる範囲は制限できる

変更できる範囲は制限できる

受益者指定権や受益者変更権を設定する際には、指定や変更できる範囲を制限することも可能です。

信託契約締結の時点で一定の受益者を指定しておき、全部の受益者もしくは一部の受益者だけを変更できる、または後に追加するといった条項を設けることができます。

先々のことまで見通して家族信託の内容を決めていく作業は簡単ではありません。ただし、詳細な規定や想定外の事態が起きたときの規定を設定しておくことで、状況変化に柔軟に対応できることがあります。

裁量信託が問題となるケースもある             

信託では受託者が財産の管理や処分を引き受けます。信託の設計では、裁量信託についても十分に配慮しなくてはなりません。裁量信託とは、受託者の自由が大き過ぎるケースのことです。

例えば、受託者が受益者を指定できるという信託を設定した場合、受託者が自由自在に信託財産の行方を決められることになります。この場合、受託者が不動産を売却することも可能です。そのため、管理・運用が委託者の希望と一致しなくなる可能性もあります。

裁量信託や信託目的が失われているとみなされる場合には、信託が無効になることもあります。一般的に家族信託を設定するにあたっては、信託の目的を決めることが必要です。この目的が、受託者が信託財産を管理・処分する際の権限の範囲となります。

受託者がするべきことは、信託目的の達成のために必要であるべきはずのことであり、信託目的が不十分である場合には、信託自体が無効となります。

受益者指定権を活用すると信託の中での財産の行方を広くコントロールできますが、あまりに自由度が高過ぎる場合は、裁量信託として信託が無効となってしまうことがある点に注意が必要です。

受益者変更時の課税について

受益者変更時の課税について

家族信託を活用しての事業承継は非常に柔軟でメリットが多い手法ですが、注意点もあります。
家族信託に課税される税金について見ていきましょう。

家族信託により受益者に課せられる税金

受益者指定権者が受益者を指定や変更した場合、旧受益者から新受益者へ信託財産の所有権の移転があったものとして、税務上、当初の受益者から変更後の受益者への贈与として扱われます。受益権の所在を変更できるという利便性はありますが、課税上は高額な負担となる可能性もあるため、注意が必要です。

信託期間中の配当金についても受益者に所得税が課税されます。これは、家族信託の役割の中で利益を得ている方は受益者だけになるためです。

委託者(兼受益者)が亡くなったことによって家族信託契約を終了する場合には、信託財産を引き継ぐ方に対して相続税が課されます。受益者が亡くなっても家族信託は終了せず、新たな受益者を定めている場合は、受益権を新たに引き継いだ方に相続税が課されます。

家族信託により受託者に課せられる税金

信託財産に不動産がある場合には、信託設定時、不動産の名義人を委託者から受託者に変更する登記を行う必要があります。不動産の家族信託における登記では、受託者に登録免許税はかかりますが、不動産取得税はかかりません。

事業承継税制と家族信託

事業承継では経営権だけでなく自社株式を後継者に引き継ぐケースが少なくありません。中小企業の後継者が贈与または相続により非上場株式を取得したときにかかる多額の贈与税や相続税に対して、納税猶予を受けられるのが「事業承継税制」です。

事業承継税制は、後継者が事業を継続し続ける限り納税は猶予され、さらにその後継者が、次の後継者に事業承継した場合にも、贈与税または相続税の猶予は引き継がれます。つまり、事業が継続される限り税金の納付はありません。

ただし、事業承継税制と家族信託を併用することはできません。家族信託を利用した事業承継では、現経営者を委託者兼受益者、後継者を受託者とし、現経営者が亡くなった際、次の受益者が後継者となるケースが一般的です。この場合には、現経営者の相続時に相続税の課税対象となります。

家族信託では、現経営者の想いを叶える柔軟な事業承継が可能です。一方、事業承継税制は税金の問題を解決することができます。それぞれの違いを知っておくことで、ご家族にとってより良い方法を選ぶことができるでしょう。

事業承継に家族信託を活用したいけれど、専門的な内容が難しいという方は、「セゾンの相続 家族信託サポート」をぜひご活用ください。家族信託に強い司法書士と提携しているため、信頼できる専門家との無料相談や最適なプランの提案を受けることができます。

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おわりに

家族信託は、理解が難しく感じるかもしれません。しかし、大事な財産を本人の意向に沿って柔軟に管理・運用ができる魅力的な制度です。判断力低下により預金口座等が凍結されることを防ぐのはもちろん、柔軟な事業承継を行うためにも非常に有用だといえるでしょう。

一方、事業承継税制や課税関係などの複雑で専門的な知識も必要です。専門家のアドバイスを取り入れつつ、ご家族にとってベストな選択ができるよううまく活用することをおすすめします。

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