老後への備えや相続対策として「民事信託」という方法があるのをご存じでしょうか。老後や相続への備えには、遺言制度や成年後見制度を利用する方が多いでしょう。しかし、従来の制度では、希望どおりに契約内容を決められない欠点があります。そこで登場したのが民事信託です。民事信託を利用すれば、老後や相続に対して柔軟に対応が可能です。
また民事信託は、認知症により財産の管理が行えなくなった場合にも活用できるので、覚えておいて損はありません。そこで、このコラムでは、民事信託の概要やメリット・デメリットについて解説していきます。具体的な方法や注意点についても解説しますので、ぜひご覧ください。
親の認知症リスクに備える!ファミトラの家族信託
認知症などで判断能力が不十分な状態になると、自身の財産の管理や処分を単独で行うことができなくなってしまいます。認知症などによる「財産凍結」のリスクに備える手段として意思能力があるうちに大切な財産を信頼できる家族に託すことができる家族信託というサービスがあります。
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家族信託のサービスについて詳しく知りたい方は、「家族の資産を守る「家族信託」とは?~事前に備えて将来の安心を獲得する3つのポイント~」の記事もあわせてご確認ください。
民事信託とは?概要をわかりやすく解説
「民事信託」について、よくわからない方も多いのではないでしょうか。民事信託とは、遺言や後見人制度ではかなえられない、自由な財産管理ができる方法です。
こちらでは「民事信託の仕組み」や「似ている制度との違い」について解説していきます。民事信託の概要について、確認してみてください。
民事信託の仕組み
「民事信託」は、財産の管理や処分などを目的とし、家族が営利を目的とせず、受託者として引き受ける信託です。信託銀行が取り扱う信託商品や投資信託とは異なります。
民事信託は、以下の三者で成り立つ仕組みです。
- 委託者:財産を託す方(被相続人)
- 受託者:財産を管理する方(相続人)
- 受益者:利益を享受する方(他の相続人)
委託者が、受託者に財産を預けます。受託者は財産を管理し、受益者が財産などを受け取ります。財産を委託するのは、家族以外でも問題がありません。ただし、財産を託すからには信頼ができる方に預ける必要があります。
一般的な信託や家族信託との違い
一般的な投資信託や遺言信託と民事信託の違いは、営利目的であるかどうかです。一般的な信託は、信託銀行などが受託者になり、報酬を得る営利目的です。一方、民事信託は営利目的ではないため、信託報酬は発生しません。
「家族信託」は、民事信託と同じ意味で使われるケースがほとんどです。これは、民事信託の中でも家族型のものを「家族信託」と呼ぶことがあるためです。
遺言との違い
遺言は、亡くなる前に書面を作成しておき、死後に効力を発揮するものです。遺産の分配方法や子どもの認知など、遺言書の内容は法的効力を持ちます。遺言では財産の継承者は決められますが、その継承者が亡くなった場合、その次に受け継ぐ方までは指定ができません。一方、民事信託は最初の受益者が亡くなった場合、その次の受益者を3代先まで決めておくことができます。
民事信託で信託財産についての取り決めを行うと、その後遺言書にその財産について別の内容を記載しても効力を持ちません。一度成立した民事信託は、当事者間で契約の破棄や見直しを行わない限り、効力を発揮し続けます。
成年後見制度との違い
成年後見制度は、財産の所有者が認知症などの理由で充分な判断能力がない場合、経済的に不利益にならないよう、本人に代わって適切な管理を行う方法です。
成年後見制度には、2つの方法があります。
- 法定後見制度:本人の判断能力が不十分な場合、家庭裁判所により成年後見人が選ばれる制度
- 任意後見制度:あらかじめ本人が選んだ方に、代わりに行ってもらいたいことを決めておく制度
裁判所を通す成年後見制度は、適切な財産管理が目的なので、活用方法を自由に決められません。例えば「息子がマイホームを購入する際に支援したい」「孫の就職祝いを贈りたい」など財産の使い道を自由に決めたい場合、裁判所を介さない民事信託の方が良いケースがあります。
民事信託を行う7つのメリット
民事信託を選択する理由はさまざまです。こちらでは、7つのメリットを紹介しますので、参考にしてみてください
遺言や成年後見では対応が難しい要望をかなえられる
民事信託は、遺言や成年後見では対応が難しい、資産管理への要望に対応ができます。
例えば、遺言では財産継承者を一代限りしか指定できませんが、民事信託なら数世代先まで指定ができます。後見人制度は資産管理の自由度が低いですが、民事信託は柔軟に対応が可能です。
民事信託を利用すれば、財産に関するさまざまな要望が叶うでしょう。
不動産の共有化リスクを回避できる
信託契約で不動産管理の受託者をひとりに絞っておけば、相続で複数人の共有財産になったときに生じるリスクの回避が可能です。財産を相続する場面では、不動産を誰が保有するかもめた場合、法定相続分に従って複数人で共有することがあります。
不動産が共有されると、売却する際などに所有者全員の同意が必要になり、有効な活用が難しくなる恐れがあります。不動産の共有化リスクを回避するなら、受託者について民事信託の内容に含めておくと良いでしょう。
不動産取得税がかからない
民事信託で不動産を信託する場合、不動産取得税がかからないメリットがあります。通常、不動産の所有権を移転すると、不動産取得税がかかります。しかし、信託は所有権の移転が形式的なものとみなされ、不動産取得税の負担がありません。
民事信託を活用すれば、不動産の所有権や管理を受託者に移す場合に不動産取得税がかからないので、節税につながります。
倒産や破産から信託財産を守れる
民事信託には「倒産隔離機能」があり、信託財産を守れるメリットがあります。信託財産が受託者の名義になる事により、委託者が倒産や破産をしても影響を受けないという機能です。倒産隔離機能により、委託者や受託者が破産したとしても、債権者は信託財産から回収ができません。
ただし、自己破産寸前に財産を信託して、債権者の回収を逃れようとする行為は認められない点には注意が必要です。
公的機関が関与しないため手間やコストを省ける
民事信託は、裁判所などの公的機関が間に入らず、当事者同士で合意すれば契約が成立します。弁護士などが契約の当事者になることがないため、手続きにかかる手間やコストが省けるのがメリットです。
例えば、後見人制度を利用する場合、手続きには裁判所が介在します。申立てには費用が発生するため、手間もコストもかかってしまいます。民事信託は、裁判所に出向く手間や手続きにかかるコストを省けるので、契約を交わすことに負担を感じることはないでしょう。
二次相続対策に利用できる
民事信託は、ご自身の死後に財産を引き継いだ方が亡くなった場合、誰が財産を引き継ぐのか指定ができます。例えば遺言書の場合、財産を継承する方を次の代まで記載ができません。民事信託で二次相続まで決めておけば、遺産分割や相続税負担の問題など、より広い視点で考えられるでしょう。
生前に財産管理方法を決められる
民事信託なら、生前に財産管理方法を自由に決められます。遺言の場合、相続する方を決定できますが、使い道までは指定できません。
民事信託は要望を自由に決められるので、例えば、
- 残された家族の生活費として毎年少しずつ渡したい
- 家族のために資産を少しでも増やせるよう投資に使ってほしい
- 相続人が一定の年齢になったときに遺産を渡したい
などの要望も叶います。
民事信託を行う4つのデメリット
民事信託は自由に内容を決められますが、行えないこともあります。こちらでは、民事信託のデメリットを4つ紹介します。メリットと合わせて、確認してみてください。
身上監護の取り決めができない
身上監護とは、判断能力が低下した本人に代わって介護施設を探したり、医療に関する手続きを行ったりすることです。成年後見制度では定められる身上監護については、信託の内容に含まれません。民事信託で決められる内容は、財産管理に関する項目に限定されるためです。身の回りの世話をする方を決めておきたい場合は、成年後見制度を利用すると良いでしょう。
税負担が増える可能性がある
民事信託を利用すると、受益者に対して課税が発生します。民事信託の受託者は、委託者から委託された財産管理や処分を行うだけなので、利益をもらうことがなく課税の対象外です。
ただし、受益者は信託財産から利益を受け取るため、贈与税や相続税などの課税が生じます。受益者は、税金の申告も複雑になるので注意しましょう。
財産の分け方をすべて民事信託に含めることが難しい
民事信託だけで、全ての財産について決めるのは困難です。契約を行う時点で手元にない財産や、法的に信託できないものなどは、民事信託で対策ができないためです。
相続トラブルを回避するには、民事信託から漏れる財産について、遺産分割方法を遺言書で指定する必要があります。また、委託者が認知症になった場合など、民事信託の受託者が生活の世話やさまざまな手続きを行ってくれるわけではないので、後見人制度の利用も必要になるでしょう。
受託者が財産を適切に管理しないリスクがある
民事信託は、受託者が財産をきちんと管理しないリスクがあります。民事信託では、受託者が委託者から財産を預かって管理や活用を行います。そのため、信託財産が適切に活用されるかどうかは、受託者の能力次第です。
受託者が財産をきちんと管理しなかったり、財産を持ち逃げしたりするリスクもないとはいえません。受託者を選ぶ際は、安心して任せられる方かどうかを慎重に判断する必要があります。
民事信託を行う3つの方法
「民事信託はどうやって行うのか」と疑問に思う方がいるのではないでしょうか。民事信託を行う方法は、大きく分けて3つです。それぞれの特徴を詳しく見てみましょう。
信託契約
信託契約で民事信託を行うには、2つの手順で完了します。
- 委託者と受託者が信託の目的を決定する
- 信託財産の管理・処分方法と受益者を決定して契約締結をする
信託契約は、受益者がいなくても成立します。しかし、受益者も含めて内容を決定した方がよりスムーズです。内容を決めるのが難しい場合は、弁護士に相談するのも良いでしょう。
遺言
遺言による信託は「遺言信託」とも呼ばれるものです。「委託者が受託者を決定した」という内容を遺言に書いておくと、死亡した時点で信託が開始されます。
遺言を書く際、委託者は自由に内容を決められますが、受託者の承諾が得られていない場合は信託が開始されないことに注意が必要です。遺言による信託を行う場合は、受託者に了承を得てから作成しましょう。
自己信託
自己信託とは、自らが委託者と受託者を兼任します。その上で、委託者自らが引き続き信託財産を管理できます。経済的な利益だけは他の方に移したいけれど「管理はご自身で行いたい」場合に利用する方が多いです。自己信託を設定すると、他の方のために財産管理ができます。例えば、親が委託者(兼受託者)で「子に財産を残したいが、浪費しないよう財産の管理は引き続き親が行いたい」という場合に利用できます。
自己信託を行う場合は「自己信託設定公正証書(公証人の認証を受けた書面)」を作成しておかないと、効力が発生しない可能性があるので注意しましょう。
民事信託を行うときの注意点
民事信託を行うときの注意点もチェックしておくと安心です。3つの注意点について、ひとつずつ見ていきましょう。
認知症の発症後に民事信託はできないため法定後見制度を利用する
民事信託は、認知症になった場合の備えになりますが、発症したあとでは契約を結べない可能性が高いので注意が必要です。民事信託は、契約者の判断能力の有無が問われるためです。ただし、契約内容を理解できる程度の軽い認知症の場合は契約できるケースもあります。
認知症が発症した後であれば、法定後見制度を利用できます。法定後見制度とは、認知症の発症後に後見人を決定する制度のことです。本人はすでに判断能力が無くなっているため、法定後見人は家庭裁判所が決定します。後見人に選ばれるのは、家族や親族だけではなく、弁護士や司法書士が選定される場合もあります。
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当事者だけで契約を交わさず公正証書を作る
信託契約は、当事者だけでも契約を交わせますが、後のトラブルを防ぐためには公正証書を作成しておくと安心です。
例えば「信託契約を結んだ時点で認知症を発症していたため、契約は無効である」と親族などに主張される可能性があります。きちんと効力を発揮できるよう、公正証書が大切です。
公正証書を作成するなら、登記の専門家である司法書士に依頼するのがおすすめです。松野下事務所では、ご本人の要望を聞いた上で、公正証書や遺言書に最適な様式を提案してくれます。相続事例も多いので、安心して依頼できるでしょう。
遺留分に注意する
民事信託を行う際は、遺留分に注意が必要です。遺留分とは、法定相続人に最低限保証される「遺産を相続する権利」のことです。民事信託でも「遺留分については侵害できない」と考えられています。しかし、民事信託は新しい制度で、遺留分についての判例がそれほど多くないため、注意しておきましょう。
例えば、民事信託で特定の方に財産が渡ると、他の相続人とのトラブルになったり、遺留分侵害額請求(不公平な遺言などで納得できない場合、お金での精算を求めること)を受けたりする可能性があります。他の相続人の遺留分に注意して、民事信託の内容を決めると良いでしょう。
おわりに
民事信託は、相続対策や認知症対策として、活用する方が増えています。遺言や成年後見制度では設定できない項目も、民事信託なら自由に決められます。
ただし、民事信託は比較的新しい制度のため、典型的なモデルが少なく「わかりにくい」と感じる方も多いでしょう。当事者だけで信託契約書を作成しても、法的な問題を全てクリアするのは困難です。まずは、弁護士や司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
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