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家族信託で起こり得る「遺留分侵害」とは?注意点や対策を解説!

家族信託で起こり得る「遺留分侵害」とは?注意点や対策を解説!
セゾンのくらし大研究 編集部

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近年、高齢者の認知症リスクが高まる中で、財産の管理を家族に託す家族信託が注目されていますが、そこには親族内でのトラブルが生じるリスクもあります。その中でも代表的なものが相続の際に発生する「遺留分侵害」です。この記事では、これから家族信託を結ぶことを考えている方が考慮するべきこととして、大きなトラブルに発展しうる遺留分侵害とは何かということから、その対処方法までを、分かりやすく解説していきます。

(本記事は2024年02月13日時点の情報です)

この記事を読んでわかること
  • 相続人それぞれが最低限相続する額が遺留分として定められており、家族信託では特定の相続人に対する「遺留分侵害」が発生しうる
  • 相続人は遺留分侵害額請求権を持っているので、トラブルになると最悪の場合、訴訟にまで発展する可能性がある
  • 遺留分をめぐるトラブルを避けるためには、財産を全て家族信託化しないことなどに加え、家族信託を契約する前に関係者の理解を得ることが重要です
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家族信託で起こり得る「遺留分侵害」とは?

家族信託で起こり得る「遺留分侵害」とは?

最初に、家族信託とは何かということを軽くおさらいしておきます。家族信託というのは、信託を依頼した方(委託者)の持つ財産から利益をもらう権利を残しつつ、その運用や管理は他の家族に任せるという財産の管理方法です。

財産の管理・運用もしくは処分を任せられた方を「受託者」といい、利益をもらう権利を持つ「受益者」は、受託者が適切に運用を行っているかどうかを監督する役割や信託の変更や終了といった意思決定を行う役割を有しています。この方法をとることで、委託者がもし認知症になったとしても資産が凍結されず、管理を続けることができます。

家族信託で遺産の配分を決定する際には、財産の遺留分侵害というものに注意する必要があります。以下では、遺留分侵害とは何かということを説明します。

遺留分とは?

家族の誰かが亡くなると遺産の相続が発生することになりますが、その遺産を誰がどのくらい受け取るのかということは民法で定められています(法定相続人)。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に相続が保障されている最低限の遺産取得分のことをいいます。

遺言などによって遺産の相続割合が民法にあるものから変更された場合も、法定相続人の相続額を遺留分より少なくすることはできないということです。遺留分を持っている相続人に該当するのは、基本的には亡くなった方の配偶者と子ども(もしくはその代襲相続人)ですが、子どもも代襲相続人もいない場合は、直系尊属(亡くなった方の父母や祖父母)も遺留分を有することになります。

遺留分の割合

遺留分の割合

遺留分の金額は、民法で定められている法定相続分の半分として算出されます。例えば、配偶者と子供ひとりに相続が行われる場合、法定相続分はそれぞれ二分の一となっているので、遺留分はそれぞれ財産全体の4分の1ということになります。ただし、相続人が直系尊属者のみである場合は、遺留分の割合は法定相続分の3分の1となります。

家族信託で遺留分侵害になるケースは?

遺留分より相続の額が少ないと「遺留分が侵害された」という状態になります。家族信託では、信託を契約する際に家族の委託者(=受益者)以外の成員を第二受益者とするなどの方法をとることで、委託者である方が亡くなった際に通常の遺産相続の枠組みの外で、家族信託の契約内容に基づいた財産の引き継ぎを行うことができます。

しかし、それによって他の法定相続人の遺留分が侵害されてしまうというトラブルが発生してしまう場合があります。

ここで例として、2人の成人した子どもを持つ4人家族を想定してみましょう。長男であるAさんは、素行の悪い弟に父の財産を渡したくないと考えます。そこでAさんは、自分の判断で父の財産をすべて家族信託に回し、信託契約でその財産を父の死後に自分と母親だけに引き継ぐように取り決めました。家族信託で信託された財産には遺言代用機能が存在し、委託者の死後に残余財産を誰にどのように分配するのかをあらかじめ指定できます。遺言と同じように、遺産分割協議を行うことなく財産の継承者を指定できます。すると、父の相続が発生した際に弟は何も財産を相続できず、遺留分が損害されたとしてAさんに対して遺留分侵害請求が行われてしまいます。

このように、全財産や財産のほとんどを家族信託した場合、法定相続人に最低限保証される遺留分が侵害されるという事態が発生してしまいます。

「遺留分侵害額請求」をされた場合は?

遺留分侵害を受けた相続人は、財産を実際に相続した相続人に対して侵害された金額を請求することができるという権利(遺留分侵害額請求権)を持っています。上の例に挙げたような状況が発生すると、遺留分を侵害された相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。

この請求をされると、遺留分に不足している額を金銭で支払わなければいけません。以前は、同じような状況で行われる請求は「遺留分減殺請求」というものであり、相当額の不動産権利など、遺産の現物での取り戻しを行うことが定められていました。

しかし、2019年7月1日に行われた民法の改正によって、それが現行の「遺留分侵害額請求」となり、金銭での支払いが必須になりました

もしも別の相続人によって「自分の遺留分が侵害されている」と遺留分の請求が行われた場合、以下のような流れを辿ることになります。

話し合い

遺留分の侵害があっても、すぐに裁判などを行うわけではありません。まずは、相続人となっている親族の間での話し合いを行い、可能であれば円満な解決を目指しましょう。このような話し合いを行う際は、弁護士に相談すると客観的な立場から議論を整理してもらうことができ、議論をスムーズに進めやすくなります。

調停

話し合いで決着がつかない場合は、家庭裁判所に家事調停を申し立てることで裁判を避けて問題を解決しようとすることができます。

ただし、後述するように遺留分侵害額請求には時効があり、調停の依頼が時効を過ぎてしまいそうな場合は、相続の開始もしくは遺留分の侵害されている状況を知ってから1年以内に、内容証明郵便を送付しておく必要があります

調停では、裁判所の調停員が当事者双方の主張を個別に聞きながら、間に入って交渉を進めてくれます。したがって、当人同士の話し合いよりも議論のヒートアップを避けることができます。調停によって合意を得ることができれば調停が成立します。

訴訟

調停を行ってもなお話し合いがまとまらない場合は、遺留分侵害額請求訴訟という民事訴訟を起こすことになります。訴訟では、遺留分が侵害されている事実を示す証拠を用意しなければなりません。

弁護士への相談などを行いながら、訴訟の手続きや証拠の収集を行っていく必要があるでしょう。裁判の判決は強制力を持つので、最終的にはその判決に従って遺産を整理することになります。

遺留分侵害額請求には時効がある

遺留分侵害額請求には時効があります。民法では、遺留分の権利者が相続の開始および遺留分を侵害するような遺贈があったことを知ってから1年の間に遺留分侵害額請求権を行使しなかった場合、その権利が時効を迎えて消滅すると定められています。

また、権利者が遺贈について知らずにいた場合も、相続開始のときから10年が経った時点で遺留分侵害額請求権は除斥期間によって消滅してしまいます。

このようにして権利が失われると、遺贈分を埋め合わせる要求を行えなくなってしまうので、注意が必要です。

家族信託で遺留分トラブルを起こさないための方法

家族信託で遺留分トラブルを起こさないための方法

家族信託によって生じる遺留分問題は、深刻になった場合は親族間での裁判にまで発展するような事態を引き起こしてしまうおそれがあります。以下では、このような遺留分にまつわるトラブルの発生を防ぐために何ができるのかということを説明していきます。

家族でよく話し合う

遺留分侵害額請求が行われる背景には、家族信託によって遺留分が侵害された事実に加えて、それが相続人への相談無しに黙って行われたということが大きな原因として存在しています。

なぜ結果として遺留分が侵害されるような家族信託を行うのかということを、家族信託を契約する前に相続人となる親族全員にしっかりと相談し、それぞれの思いを話し合って理解を得ることができれば、後になって遺留分侵害額請求を起こされるリスクは大きく下がります。

また、話し合いを家族信託の契約前に行うことで、相続人から納得を得られない場合も、下に挙げるような形で家族信託の内容を見直したり、遺産となる他の資金を確保したりといった対策を練ることができます。

財産すべてを家族信託化しない

全ての財産を家族信託化すると、遺留分の侵害は確実に発生してしまうことになります。したがって、相続のことを考慮し、遺留分の侵害が起こらないような形で家族信託を契約するということで、遺留分侵害額請求が起きるリスクをなくすことができます。

認知症になったときの備えとして委託者の全財産を家族信託にしたいと考えるかもしれませんが、相続の際のトラブルを避けることを考慮して、家族信託化されていない財産を残しておくことをおすすめします。

信託財産以外で資金を残しておく

信託財産以外で資金を残しておく

遺留分侵害額請求をされた際は、侵害された遺留分の金額を金銭で支払う必要があります。このとき、信託財産の一部を売却することになれば、家族信託を行う際に考えていた財産の引き継ぎがうまくいかなくなってしまいます。

生前贈与や生命保険などを利用して、信託財産以外で資産を残しておけば、遺留分侵害額請求をされた場合も信託財産に影響を及ぼさないような支払いができるでしょう。特に生命保険は遺産分割や遺留分の対象にならないため、効果的です。

遺言書に遺留分に関しての意思を記す

被相続人の意思として、遺言書の付言事項に「遺留分をめぐる争いが起こらないことを願う」などといったメッセージを書き記すことも、トラブルを防ぐ助けになる可能性があります。付言事項には法的拘束力はありませんが、亡き被相続人の意思として、相続人の心情に訴えかけることはできるでしょう。

遺留分侵害額請求を逃れる目的での契約は避けるべき

かつて、家族信託は遺留分の請求や相続税に関する問題を避ける方法とされていました。しかし、現在では見解が改められているため、このような目的で行われた家族信託は後にトラブルの火種になるだけではなく、その法的効力も問題となります

平成30年9月12日で、東京地検で出された家族信託と遺留分をめぐる訴訟の判決では、信託財産も遺留分侵害額請求の対象となることと、遺留分請求を回避するために行われた家族信託は公序良俗に反するものとして無効となることが確認されています。

したがって、家族信託を行う際に遺留分について考慮することは今では欠かせないこととなっています。

関係者全員が家族信託について理解しておく

ここまで、遺留分侵害額請求を避ける、もしくは穏便に解決するための方法について説明してきましたが、いずれにせよ重要なのは、相続に関係する親族全員に、家族信託について説明して理解を得るということです。

家族信託にまつわるトラブルは、そのことについて「知らされていなかった」ということから発展するケースが多いです。したがって、関係者全員が理解したうえで家族信託を契約するということが何より重要であるといえるでしょう。

家族信託に関する相談はセゾンがおすすめ

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このように、家族信託の契約においては考慮することがたくさんあり、認識を誤ると遺留分侵害額請求などのトラブルに発展してしまう可能性があります。そのような事態を避ける方法として、専門家への相談が有効です。セゾンの「家族信託サポート」では、家族信託に関する手厚いサポートが行われています。

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おわりに

家族信託は財産を守るためにとても役立つ手段ですが、相続の際にトラブルが生じてしまってはかえって財産の承継を混乱させてしまいます。この記事では、その中でも問題になりやすい遺留分の侵害について、争いを回避する方法とともに紹介してきました。家族信託を行う際は、相続のことを考えて条件を整え、何より親族からの理解をきちんと得たうえで契約に臨むようにしましょう。

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