健康診断の際やニュースなどで、「生活習慣病を予防しましょう!」という文言はよく目にします。そうはいっても、日々時間に追われている多忙なビジネスパーソンにとって、「バランスのとれた食事を」「適度な運動を」といわれてもなかなか難しいもの。そこで今回は、MYメディカルクリニック横浜みなとみらいの山本康博院長が、生活習慣病予防のための「すぐにできる3つの習慣」を紹介します。
そもそも「生活習慣病」とは?
「生活習慣病」とは、遺伝や環境因子には関係がなく、主に不適切な食習慣や運動不足、喫煙、ストレスなどの生活習慣が原因で引き起こされる病気のことを指します。
生活習慣病にはたくさんのものがありますが、以前は死に直結する「がん」「心臓病」「脳血管疾患」の3つが「3大生活習慣病」として注目されていました。
がんが生活習慣病というと、少し意外に思う方がいるかもしれません。もちろん、がんは遺伝によって起こりやすくなる部分もあります。しかし、不適切な生活習慣も大きな原因であり、生活習慣の改善によってリスクを減らすことが可能と考えられてるのです。
また、この3大生活習慣病は、日本人の主要な死亡原因になっています。平成29年度の厚生労働省「人口動態統計月報年計」によれば、3大生活習慣病による死亡者数は全体の死亡者数のうち
- がん(悪性新生物) ……27.8%
- 心疾患(高血圧性を除く)……15.2%
- 脳血管疾患 ……8.2%
と、3大生活習慣病は合計すると死因の51.2%を占めていました。以前は約6割程度を占めていたこともあり、やや減ってきてはいるものの、依然として死因の過半数を占める疾患です。
最近では、ここに「糖尿病」と「高血圧性疾患」を加えて「5大生活習慣病」と呼ぶようになりました。糖尿病と高血圧は、それ自体で死に至ることは稀であるもの、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患につながるため、間接的に大きな健康リスクとなります。
高血圧や糖尿病は、忙しい現役のビジネスパーソンにも多く、ドキッとした方もいるのではないでしょうか。
どんな方が生活習慣病にかかりやすい?
これらの生活習慣病は、名前のとおり生活習慣に起因することが多い疾患です。反対に、生活習慣を改善することで発症のリスクを減らすことができます。主に「適度な運動」「バランスの取れた食生活」「禁煙」「節酒」「休養」に気をつけることで、生活習慣病のリスクの低減が期待できます。
なお、喫煙は、がんや糖尿病や高血圧などすべての生活習慣病を引き起こすリスクがあります。喫煙はがんの最大危険因子でもあり、喫煙者ががんを発症するリスクは非喫煙者の2〜3倍になるという見解もあります(肺がんだけでなく、他のほとんどすべてのがんの発症リスクが上がります)。
もしも喫煙されているのであれば、禁煙することの効果は、他のすべてのライフスタイル改善 (運動や食事など)を足し合わせても及ばないほど圧倒的です。逆にいうと、喫煙している限りいくら食事や運動を頑張っても効果が相殺されてしまい、思ったような効果は得られません。
喫煙は、「ニコチン依存症」という中毒状態でもあります。やめたいと思っても簡単にやめられないため、禁煙外来の受診をおすすめします。
また、生活習慣病になりやすい方には、遺伝的要素に加え、以下のような特徴が挙げられます。
- 運動不足
- 不規則な食生活
- 肥満
- 年齢(中高年)
- 慢性的なストレスを抱える職業についている(例:管理職、医師、看護師など)
上記のうち「ひとつも当てはまらない」という方のほうが少ないでしょうが、複数の項目に心当たりがある方は要注意です。
もっとも、ストレスフルな職業であっても、適度な運動をしてバランスの良い食事を摂取し、ストレスを適切にコントロールできる方は、生活習慣病になりにくいとされています。
生活習慣病予防が叶う「理想のスケジュール」
以下に、具体的な食事のメニューや理想的な運動量、生活習慣病予防に理想的な1週間のスケジュールを紹介します。
もちろん、すべてこのとおりに実践することは現実的ではないと思いますので、できる範囲で少しずつ良い変化を加えていくことが大切です。
食事編
摂取カロリーは男性2,650kcal/日、女性2,000kcal/日程度として、主食・主菜・副菜をバランスよく摂取しましょう。食事にかける時間をできるだけ3食同じにし、摂取カロリーの目安を大幅に超えないようにしましょう。
また、エネルギー源であるご飯やパンなどの主食、タンパク源である主菜、ビタミン・ミネラルを摂れる副菜など、栄養バランスを考えてなるべく種類の多い食事を摂りましょう。
◆生活習慣病予防に効果的な「理想の献立」
朝食:野菜サラダ、全粒粉のパン、卵料理、ヨーグルト
昼食:鶏肉や豆腐を使った和風のおかず、玄米ご飯、味噌汁、煮物
夕食:魚のグリル、野菜の炒め物、雑穀米、味噌汁
間食:フルーツ、ナッツ、低脂肪ヨーグルト
※なお、炭水化物を食物繊維の多い全粒粉のパンや玄米にすると、血糖値の上昇が抑えられます。
運動編
米国のAHA※では、中強度の有酸素運動を少なくとも週に150分、または高強度の有酸素運動を75分、もしくは両者を組み合わせることを推奨しています。
- American Heart Association;米国心臓協会。生活習慣病の世界的権威である学会
もちろん、それ以上にやっていただいてもかまいません。運動はどんな薬よりも健康に対する良い効果があり、しかも常識的な量であれば、やればやるほど効果があるとされています。
運動することで5大生活習慣病のリスクを確実に下げることができ、かつ副作用はありません。
もっとも、「週に150分は無理」という人も、諦める必要はありません。150分というのはあくまで理想であり、少しの運動でも健康効果は確実にあります。日頃運動する習慣がない、時間がないという人は、通勤や買物などの外出時にできるだけ歩いたり、なるべく階段を使うなどの方法で運動量を増やすことも効果的です。
週に150分の中程度の運動(例:ウォーキングや水泳、ヨガなど)と週に75分の高強度運動(例:高強度のランニング、サイクリング、筋トレ)を組み合わせた、1週間の理想の運動スケジュールを以下にご紹介します。
◆生活習慣病予防に効果的な「理想の運動スケジュール」
日曜日:筋トレ(30分)
月曜日:早足ウォーキング(30分)、ストレッチ(10分)
火曜日:オフ
水曜日:ヨガ(45分)
木曜日:ジョギング(30分)
金曜日:早足ウォーキング(30分)、ストレッチ(10分)
土曜日:サイクリング(45分)
また、生活習慣病予防には、ストレスを適切にコントロールすることも重要です。瞑想や深呼吸、趣味を楽しむなど、リラックスできる時間を日常に取り入れましょう。
さらに、睡眠も大切な要素です。7~8時間の質の良い睡眠を心がけてください。睡眠は体内の正常なホルモン分泌を促し、睡眠不足の状態はそれを妨げてしまいます。また、ストレスが加わると抗ストレスホルモンが分泌され、血圧や血糖値が上がりやすくなったり脂肪が蓄積されやすくなったりします。
すぐにできる「3つ」の新習慣
上記の「理想の食事」や「理想の運動」が実践できる方はそう多くないかもしれません。そこで、忙しいビジネスパーソンでもすぐにできる3つの習慣をご紹介します。
行き帰りの1駅ウォーキング
いくら運動が健康に良いといっても、大変な仕事の前後にジムに行き、着替えて運動し、シャワーを浴びるというのは面倒くさいですよね。また、ランニングなどもなかなか続きません。
しかし、運動は正直なところ、どんな種類でもいいのです。続けることが一番重要です。
したがって、「始めるまでのハードル、怪我のリスクが低い運動」として、ウォーキングが最適です。ウォーキングが素晴らしいのは、いつでもすぐにできることと、関節の負担が少ないことです。
さらに習慣とするためには、行き帰りの駅(帰りだけでもいいです)で1駅分歩くことをおすすめします。
食後の5分間ウォーキング
食事を摂ると、血糖値が上がります。特に昼食後はそれで眠くなってしまい、作業効率が落ちた経験がある方も多いのではないでしょうか。
食後にオフィスの周りを5~10分程度ウォーキングするだけで、この血糖値の上昇を防ぐことができます。さらに、消化を促進させ、全身の血流を改善することもでき、生活習慣病を防ぐ習慣としては好適です。
寝る前の2時間、スマホやPCなどを避ける
寝る前にスマホやPCなどを見ると、目にブルーライトが入ります。ブルーライトはもともと朝の太陽から出る光であるため、ブルーライトを浴びた脳は、「今が朝だ」と勘違いしてしまい、夜に深い睡眠に入りづらくなります。
睡眠が浅いと身体がうまく回復しないため、高血圧や糖尿病などの生活習慣病になりやすくなります。そのため、寝る前2時間はブルーライトを避けることが大切です。「スマホを見ないというのはなかなか難しい」という人は、ブルーライトカットができるアプリなどを導入することをおすすめします。
おわりに
5大生活習慣病は、その名の通り、日頃の生活を見直すことでリスクを下げることができます。
具体的には、偏った食生活を避け、少しでも運動し、適度な飲酒、禁煙などを心がけることです。日常生活のなかでちょっとした工夫や改善を行うことで、5大生活習慣病にかかるリスクを健康的に無理なく減らしていきましょう。