更年期とは?
更年期とは、女性が閉経を迎える前後の約10年間ぐらいのことを指します。年齢でいえば、平均すると44~55歳です。この時期になると、閉経に伴ってホルモンのバランスが急激に崩れ始めて身体の変化が起きやすくなり、頭痛や肩こり、疲れやすい、睡眠障害といった不調を感じてくるようになります。
また更年期は身体だけではなく心にも影響を与えます。ホルモンの変化によって、なんとなく気分が落ち込んだり、やる気がでなかったりというように、自分では抑えきれない感情の変化が湧き起こってくることがあります。他の人から見ると、「やる気がないのかな?」「さぼっているのかな?」「仮病なのかな」と思われてしまうこともあります。
そしてさらに自分自身もこの変化する心についていけずに、己嫌悪に陥ったり、鬱っぽくなることもあります。しかし、これは身体のホルモンのアンバランスから生じているものであって、決してご自身の能力が落ちたことや、性格のせいではありません。更年期の始まりは、こういった心の変化からやってくることもありますので、理由もなく心や気持ちが定まらなくなった場合は、更年期に差しかかったのではないかと考えてみてください。
そしてさらに、この年齢の頃は、そういった身体の変化に加えて、会社の中での地位の変化や、親の介護が迫ってきたり、子育てが終わって空きの巣症候群になるなど、社会や家庭でのライフイベントが重なる時期でもあります。ただでさえ身体と心はホルモンの変化に揺さぶられているのに、それに加えて環境の変化もありますので、心身共に疲弊しやすくなるというのも、更年期に拍車をかけることにつながってきます。
こういった更年期の症状は、まだまだ日本の社会では理解が進んでいないようで、家族内ですら女性が孤立してしまうことが少なくありません。社会や家族の理解がさらに拡がっていくことが望ましいのではありますが、理解できない方も多い現状においては、自分ひとりで悩みを抱えることなく、周りの方に助けを求めることもしてほしいと思います。
更年期における具体的なホルモンの変化について、その詳細な解説は西洋医学の専門家の方にお願いするとして、イメージとしては以下のグラフのようになります。特に注目してほしいのは、更年期を境に急激に女性ホルモンが減少するという事実です。これだけの急激な変化が身体の中で起きているということを先ずは知っておいてほしいと思います。
体内で起きる更年期という現象は、生物としてのホルモンのサイクルなので、これを逆行することはできません。しかし、ツボをはじめとする東洋医学の智慧をうまく取り入れることで、スムースに過ごすことは可能となります。
女性のホルモンバランスは血の道症?
東洋医学の原典である『黄帝内経』(こうていだいけいれいすう)には、女性は7の倍数で変化すると書いてあります。その記述は、7歳からはじまり、14歳、21歳・・・そして42歳、49歳、56歳と、今でいう更年期の時期にも言及されています。その部分を意訳してみますと以下のようになります。
42歳:顔にしわが多くなってやつれてくる、白髪が出てくる
49歳:閉経、肉体が衰えはじめる
56歳:体力低下、視力低下
どうでしょうか?
まさに更年期における女性の体の変化を、2000年も前の医学書が的確に指摘しているのです。また、他の古医書においてはこのようなことも書いてあります。
「女性は月経があるため、血液が汚れやすかったり、湿気が溜まりやすかったり、冷え症にもなる。それくらい女性の身体は繊細なので、男性よりもかなり体調を崩しやすい。そこでしっかりと診てあげないといけない。」
これは1220年、中国の宋の時代に書かれた『女科百問』(宋仲甫著)という婦人科専門の古医書にかかれた一説を意釈したものですが、これもまた、古くから、女性の身体の繊細さを見抜いたものであります。
このような記述からもわかるように、東洋医学では、古来より女性には特別な思いをもって接し、大切にしてきた歴史があります。
そこで、更年期についてもさまざまな考察が積み重なられてきたわけですが、東洋医学には、それに関連する「血の道症」という独特な言葉があります。
「血の道症」とは、月経、妊娠、出産、そして更年期など、女性のホルモンバランスの変化によって生じる身体と精神の症状全般のことを総称するものです。具体的な症状は、のぼせ、ホットフラッシュ、頭痛、めまい、肩こり、疲労感、不眠など、いわゆる不定愁訴と呼ばれるさまざまな不調となります。「血の道症」という言葉は、厳密にはイコール更年期ではなく、更年期以外の生理にまつわる不快症状を指しますが、なかでも更年期は特別で、この時期に多くの方に不快な心身症状が現れるので、狭義の意味で限定して更年期を「血の道症」ということもあります。
更年期のツボについて
三陰交(さんいんこう)
場所:内踝から指を横にして4本分上。骨の際にあります。
三陰交は、血とかかわりの深い肝経、脾経、腎経という3つの経絡が交差しているツボです。よって、血の道症の血を動かしたり、保護したりするのに良い効果が期待できます。女性の場合は軽く押しただけでも痛みを感じることがありますので、じわっと押しましょう。ただし、強く押しすぎに注意です。。
血海(けっかい)
場所:膝内側の上から指を横にして3本上のところ。
これも読んで字のごとく、血の海。血を調整するツボになります。ここも三陰交同様に、女性の場合は痛いことが多いツボです。あまり痛くなりすぎないように、気持ち良く押しましょう。
関元(かんげん)
場所:指を横にして4本分真下のところにあるツボ。
ホルモンの一部は、東洋医学では精気と表現されています。ホルモンは生命を調整し、維持していくためにとても重要な存在になりますので、東洋医学で言う精気と関わりがあります。そこで、精気に関係する関元も更年期には大切になります。
ここは強く押せませんので、じわっ押したり、カイロなどで常に温めておくということも効果的です。ただし、カイロを使うときは低温火傷に注意が必要です。
中渚(ちゅしょ)
場所:手を握ったときに薬指と小指の間にできる窪みにあるツボ。
ここは、下腹部の血流を良くするツボになります。女性の場合は婦人科の臓器が複雑にありますので、血流を良くしておくことが更年期には大切になります。ここはいた気持ち良いくらいに押してください。
支溝(しこう)
場所:手の外側で、手首のしわの真ん中から指4本分真上のところにあります。
ここはとくに婦人科系のホルモンと関係が深いと言われるツボです。気持ちが良い感じで押すといいでしょう。
大衝(たいしょう)
場所:足の親指と人差し指の間を上に昇って行ったところで突き当たるところ。
太衝は肝臓につながる経絡にあります。東洋医学では、血液の配分を肝臓が行っていると考えているため、「血の道症」における血に対しても有効になります。ここも気持ちよく押してみることをお薦めします。
「血の道症」の症状で良く訴えるのが冷え症です。
冷え症は、読んで字のごとく冷えているわけですから、陽気、つまり熱があると助かります。そこで、これらのツボはお灸とも相性がいいものばかりです。押すだけではなく、自宅でも簡単にできる台座の付いたお灸も市販されていますので、そういったものを使うこともお薦めします。
女性のホルモンバランスと漢方薬について
更年期によく使われる漢方薬には、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散などがあります。これらの処方は婦人科や血の道症などによく利用されるもので、エキス顆粒剤も各漢方製薬会社から販売されており、薬局・薬店でも購入することができます。使用に当たっては、漢方薬に詳しい薬局・薬店で相談してみましょう。
しかし、これらの漢方薬では効果を感じにくい場合もございます。それは、漢方薬は、患者様個人個人の症状や体質によって処方される(辨証論治)ものなので、いくつかの漢方薬を同時に飲んでみたり、また、この他にも更年期に利用されるものがいくつかありますので、そういったものが合うこともあります。このような細かい処方に関しては、漢方相談をしている薬店に相談してみることをお薦めいたします。
女性のホルモンバランスを整えるには生活全般の改善を
冷えを防いで血行を良くすること
体を冷やさないように注意します。冬はもちろんのこと、夏も冷房が強く、場合によっては冬以上に冷えてしまうこともあります。一年を通して冷たい食べ物、飲み物を摂りすぎないようにしましょう。
軽い運動をすること
散歩などでかまいませんので、毎日心がけたいものです。ジョギングなどは負荷が強すぎて、かえって体力を消耗させてしまうことがありますので、無理にする必要はありませんし、これまでやってきた人でも、疲労がたまるという自覚があるようなら中断しましょう。
バランスの良い食事を摂ること
お肉やお魚といった動物性のたんぱく質は血液の素になります。またお野菜や果物は良質なミネラル、ビタミンが摂れますので、バランスの良い食事をしていきましょう。
良質の睡眠をとること
なるべく12時をまたがないように心掛けてほしいことと、眠れない場合でも、眠れないと言って悩むことはなく、目をつぶっているだけでも睡眠を取れていると思い、とにかく横になって体を休めるという気持ちでいてください。
適度に気分転換をすること
リラックスをしておくことが大事ですので、お仕事でも趣味でも、根を詰めすぎることなく楽しみながら生活するよう心掛けてください。
西洋医学も活用する
更年期の症状は人によって個人差がありますが、症状が辛い方にとっては本当に毎日が苦痛です。以上のような東洋医学・中医学における対策も助けになりますが、病院でホルモンの値を測ることはひとつの目安になりますし、また、ホルモン補充療法も改良が進んでおります。本当につらい場合はためらわずに病院での診療を受けるようにしてください。
おわりに
更年期は、英語では「menopause=閉経」といいますが、これではあまりに直接的なので、柔らかく「the change of life」と言うこともあるそうです。英語の「life」にはさまざまな意味が含まれますが、ここでは“人生の転機”と解して、更年期を好意的に、そして前向きにとらえる向きもあるようです。日本ではまだまだ更年期というと陰鬱で病的なイメージしか持てないかもしれませんが、この英語の解釈のように、ひとつの転機として受け容れて、自分と向き合う期間にしてみると、またその後の人生が輝いていくと思います。東洋医学を通して更年期を乗り越えて、自分と向き合う時間にしてみてはいかがでしょうか。