西洋医学とは別のもうひとつの選択肢を持つ
私たちは生きているかぎり体調を崩すことがあります。そんな時は当然ながら西洋医学を主にしている病院(以後、このページでいう病院とは西洋医学を主にしたものを指すことにします)に行くと思います。
しかし、いろいろな検査をした結果何も悪いところがなく、そして何の処置もされなかったということをしばしば経験している方も多いのではないでしょうか。検査結果に何も悪いところが出ていないこと、それ自体は良いことかもしれませんが、しかし体調不良や症状は残ったまま。その解決をしに行ったのに、原因が分からないばかりか処置もない。挙句の果てには年齢のせいや、気のせいでしょうなどといわれてしまうのですから、どうしたら良いものか困っている方も多いでしょう。
よくあることですが、病院だけが悪いわけではありません。これは症状と、その改善のために選択した医療とが噛み合っていないから起きたものなのです。いわば医療選択のミスマッチから起こるものといえるでしょう。
しかしそうはいっても、病院は医学を専門にするところで、心身の不調を改善するためのところなのですから、その選択にミスマッチも何もないだろうと思うのも当然ですよね。体調が悪いときは病院に行くというのが当たり前ですから、それ以外の選択肢が思い浮かぶはずもありません。でも、やはり症状はあるわけですから、なんとか少しでも改善したいものです。
そこでこの機会に、このように身体が不調で解決策が見つからない時や、なかなか病院だけでは改善されない場合は、病院とは別の選択肢をもうひとつ加えてみてはいかがでしょうか?
東洋医学という選択肢
その選択肢とは、つまり、東洋医学のことです。東洋医学には、漢方薬や鍼灸をはじめとして、薬膳や太極拳、そして日々の健康を増進する養生学なども含まれます。今回はそれらを含めて東洋医学と称してお話ししますが、最近では医学におけるさまざまな分野で東洋医学の良さが見直されてきており、現代科学での解明も進んで、信頼できる研究結果も多く発表されてきています。そこで、西洋医学で対応できないときは、東洋医学を利用しているという医療機関も増えてきています。
しかし、実際のところ、一般の方が体調不良になって医療にかかろうとしたときに、東洋医学を頭に思い浮かべる方はまだまだ少ないのではないでしょうか。そこで、東洋医学も頼れる医学であるということを再認識していただきたいなと思っています。
私は東洋医学を専門にしているからといって、我田引水で東洋医学を一方的にすすめようとしているのではありません。また、全ての不調を東洋医学に任せるとか、医療のファーストチョイスを東洋医学にしなさいということではありません。私がお伝えしたいのは、東洋医学には東洋医学の良さがあり、そしてその東洋医学の良さは西洋医学の弱いところを補完してくれるものであるということ。また逆に、東洋医学にもまた弱いところがありますので、そこは西洋医学でもって穴埋めをしてもらう。
このように西洋医学、東洋医学の良いとこ取りをし、かつ弱いところを補完していくという利用方法を推奨しております。東洋医学と西洋医学のどっちが良いとか悪いとかではなく、両者をうまく取り入れることで生活や人生に活かしてほしいということなのです。
東洋医学と西洋医学を選ぶ基準
でも、どんな時にどちらを選べば良いの?と思いますよね。そこで今回は、東洋医学と西洋医学、どんな時にどちらを選んだら良いかということが分かるように、両者の違いを表にまとめてみましたので、先ずはこちらの表をご覧ください。
東洋医学 | 西洋医学 | |
緊急性 | 緊急性が高くなく、しばらく時間をかけながら改善をはかっても大丈夫な状態のもの。 | 事故やケガ、脳や心臓の急激な病変(脳梗塞、心臓麻痺など)、緊急の救急救命の必要性が高いもの。 |
手術の必要性 | 手術の必要性がないもの。 | 手術の必要性があるもの。 |
病の性質が急性か慢性 | 主に慢性的なものは東洋医学を優先させても良い場合も。 | ケガ、感染症など主に急性なものは西洋医学を優先する。 |
外傷性のもの | 外傷のうち、ぎっくり腰、むち打ち症などは東洋医学のなかでも鍼灸が有効となりますが、右の表にあるような外傷性のものは西洋医学へ。 | 事故やケガ、化膿、出血、骨折など激しい損傷がある場合は西洋医学を優先する。 |
検査・診察 | 東洋医学の検査は、施術者の力量・技術力に左右され、施術者の主観によるものが多くなる。そのため数値化できないものが多いので、客観的なデータではない。 | レントゲン、MRIといった画像診断や、血液検査などができるため、客観的なデータとして視覚化、数値化できるので、自身の状態を把握しやすい。また、医療検査機器を使うので、技量を問わず、どこでも一定の結果が出る。 |
検査数値による医療かどうか | 検査数値などを基準にする医学体系ではないため、検査数値に異常が見られない場合や境界線にあるときで、西洋医学の処置がない状況、いわゆる未病の時は東洋医学を取り入れる価値がある。明らかに検査数値に異常がある場合でも何かしらのサポートを見出すことができることが多い。 | 基本的に西洋医学は数値を基準にして病気であるか健康であるかを分けるため、数値に反映されない状態のものには処置や処方がない。未病についてはあまり処置(改善策)がないのが現状である。 |
健康増進 | 東洋医学には養生という考え方があり、薬膳や太極拳といったものから、鍼灸のツボ押しなど、健康増進に役立つ知恵がたくさんある。漢方薬にも、体質改善をはかって健康増進につながるものもある。 | 西洋医学(病院)は病気になってからかかるのが基本なので、そもそも健康増進の発想がなく、その方法論もない。似たものとしてリハビリがあるが、健康増進ではなく、病気になってしまった人が、失った動作を回復させるものになる。 |
体力の回復 | 病後の体力回復には養生という考えが基本にある東洋医学が強い。ツボ押し、薬膳、太極拳など自分でできるものから、鍼灸や漢方薬など施術者にしてもらうものなど幅広い方法がある。 | リハビリなど一部体力の回復を目指すものがある。薬は病気に対して攻めるものであって、体力の回復のためのものではない。西洋医学では、体力に関しては基本的には時間を経て自己治癒力に任せるしかない。 |
対応する身体の状態 | 健康な時は健康を維持・増進するために利用できる。 未病の時は、健康な状態に戻していくために利用できる。 病気の時は、治す方向に持っていくことができるものもある。 重病人の場合は、治すことはできないが、体力を補ってサポートする範囲はできる。 |
病名がつくような病気になったときは、西洋医学での処置を優先することが望ましい。 手術が必要な時は西洋医学を主にしていく。 |
感染症 | 予防や体力保持のためのサポートには利用する価値がある。 また、こじらせてしまった風邪のような症状には東洋医学で改善されることも少なくない。 |
感染症は一般的に変化が速く、初期の処置を誤ると重症化しやすいので、まずは速やかに西洋医学の受診を勧奨する。 |
副作用 | 副作用はゼロではないが、少ない。漢方薬については、長期に服用しても大丈夫なものが多いが、一部長期に飲まない方が良いものや、他の薬との飲み合わせや持病との相性が悪いものもあるので、自己判断せずに漢方外来のある病院・薬局・薬店などの医療機関で相談する。 | 効き目が強い薬ほど副作用も強い傾向にあるので、副作用が出ないように注意事項をしっかりと把握しておくことが大切。 |
専門性 | 東洋医学は身体と心の両面を全体的にとらえていくので、症状や部位に固執しない。そのため、あまり細分化されず、いろいろな症状に対応するところが多い。老若男女も問わない。ただし、先生の中には耳鼻科に強かったり、内科的なものに強いといった傾向のようなものはあるので、事前に自身の症状が適応するかどうか確かめるのも良い。また、最近では小児科や婦人科などの専門も増えてきている。 | 臓器別・部位別・症状別など、専門化・細分化されているので、一つの科で改善されない場合は、各科をまたいで受診しなくてはいけないことも多くなってしまう。 明らかに自身の症状とかかる科が決まる場合は、選択がしやすい。 |
作用の仕方 | 例えば漢方薬は多くの成分が低量で含まれるため、それらが多方向から身体全体を賦活化させていく。鍼灸で使うツボも、その刺激は局所のみならず身体全体に波及する。利用する人の身体が持っている力を引き出すものである。 | 原則、一つの薬には一つの成分しか含まれないため、効果はその目的に限られていて、局所的になる。一つのところに集中して作用を起こすものになる。 |
その他の違い | 2000年以上前から続くエビデンスがある。健康の維持、未病の範囲でも対応、一病息災でも健康、そしてQOLの維持と向上。 漢方薬、鍼灸、薬膳、太極拳・気功など、選択肢に多様性があり、自身でできる方法も多い。 |
病気になった時に、その病気への対応がメインということになる。 日進月歩でさまざまな発見や発明がされている分野で、遺伝子、分子生物学など、その研究分野の拡がりと応用が今後期待される。 |
※状況によっては上の表に当てはまらないもの、例外的なものもあるので、ケースバイケースで必要に合わせて選択し、補完できるところは併用したりもする。
※上の表だけでは判断できないときは、遠慮なく医療機関に相談するようにしましょう。
以上のように、東洋医学と西洋医学には違いがあります。それぞれに得意と不得意があります。しかし、両者はバッティングするものではなく、どちらか一方を選ばなくてはいけないというものでもありません。大切なのは、既述したように、東洋医学と西洋医学の違いを知っておいて、お互いを補完して利用していくことになります。医療を受ける側である私たちが、より的確な選択をできるように、選択肢を増やしておくことが大事になります。身体や心のことは、必ずしもパキッと分けられるものではないことも多く、ケースバイケースになることもしばしばですが、今後の医療選択の参考になりますので、活用していただけたらと思います。
今後も東洋医学と西洋医学の違いについて、いくつか解説してまいりたいと思います。