毎月の所得は答えられても、生涯年収と聞かれるとすぐには答えられない方も多いのではないでしょうか。しかし住宅や教育、老後の貯蓄などのライフプランを考える際には、収入の全体像を把握することは欠かせません。
そこでこの記事では、生涯年収の調べ方や、学歴、業種、エリア別などに分けて生涯年収の平均をご紹介します。一生涯にかかる支出や将来に向けてできることについても解説しますので、順を追って見ていきましょう。
生涯年収とは
生涯年収とは一般的に学校を卒業して就職してから定年までの間に得られる賃金の総額を指し、毎月の基本給やボーナス、残業代が含まれる他、退職金を含めるケースもあります。しかし、一言に生涯年収と表現しても働き出す年齢や職業、エリアは人それぞれ。また、就職してもさまざまな事情で一時的に職を離れたり、定年退職後に再就職したりというケースも少なくありません。このように現代は働き方や収入を得る方法が多種多様にあり、得られる生涯年収も一人ひとり異なるのが現状です。
生涯年収と手取りの違い
生涯年収を調べる上で1つ疑問となるのが、生涯年収は手取りを指すのかということです。一般的に指す生涯年収とは手取りではありません。年収により異なるため一概にはいえませんが、年収100〜1,000万円の場合は2〜3割程度の社会保険料や各種税金などを含みます。手取り金額が気になる場合は、後述していく金額から上記割合を差し引いて計算すると手取り金額の目安が分かります。
生涯年収の調べ方
では実際にどのように生涯年収を調べたら良いのでしょうか。1つの方法として、年代別の平均年収から算出する方法があります。転職・求人dodaが集計した「平均年収ランキング(96業種の平均年収/生涯賃金)を参考に算出してみましょう。2021年度の年代別平均年収は「20代」が341万円、「30代」が437万円、「40代」が502万円、「50代」が613万円となっています。
大学卒業から働いて、60歳まで働くと仮定すると…
- 20代 341万円✕7年間=2,387万円
- 30代 437万円✕10年間=4,370万円
- 40代 502万円✕10年間=5,020万円
- 50代 613万円✕10年間=6,130万円
- 60歳 613万円
となり、合計金額は1億8,520万円。この方法で平均年収による生涯年収の金額を大まかに算出可能です。
生涯年収の平均
また、上記の方法にもいえますが生涯年収を平均値で出す場合は、一部の高い収入を得ている方が数値を押し上げている傾向があります。生涯年収は、その他にも中央値で算出する方法があります。データを足しデータの総数で割った値が平均値なのに対し、データを最小値から順番に並べて、真ん中にくる値のことを中央値といいます。
平均値と中央値では数値に大きな差が生まれてしまうことも多いため、どちらも参考にできると良いでしょう。また前述のとおり学歴や業種、エリア別などに分けて全てのデータから算出した平均値を参考にしたほうが、状況に合った数値が分かります。
では各種別の生涯年収の目安はどれくらいなのでしょうか。ここで労働政策研究・研修機構の「ユースフル労働統計2021ー労働統計加工指標集ー」のデータに基づき、各分野の生涯年収の平均を見てみましょう。
サラリーマンの生涯年収
まずはサラリーマンの生涯年収です。サラリーマンと一言で表しても雇用形態はさまざま。正社員と非正社員の大枠で生涯年収の比較を見てみましょう。表を見ると正社員と非正社員で生涯年収に差があることが分かります。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
正社員 | 2億2,500万円 | 1億7,500万円 |
非正社員 | 1億4,300万円 | 1億1,500万円 |
学歴別の生涯年収
次に学歴別の場合です。条件として学校卒業後フルタイム正社員を60歳まで続けた場合の生涯年収とします。表のとおり男女ともに大学卒の生涯年収が多いことが分かります。
男性 | 女性 | |
大卒 | 2億7,000万円 | 2億2,000万円 |
高専・短大卒 | 2億2,000万円 | 1億8,000万円 |
高卒 | 2億1,000万円 | 1億5,000万円 |
中卒 | 2億円 | 1億5,000万円 |
企業規模別の生涯年収
上記条件と同様に企業規模別のケースも見てみましょう。男女ともに企業規模に応じて生涯年収も開きが大きくなっていくことが分かります。
【男性】
10〜100人未満 | 100〜1000人未満 | 1,000人以上 | |
大卒 | 2億3,000万円 | 2億6,000万円 | 3億1,000万円 |
高専・短大卒 | 2億1,000万円 | 2億4,000万円 | 2億8,000万円 |
高卒 | 2億1,000万円 | 2億4,000万円 | 2億8,000万円 |
【女性】
100人未満 | 100〜1000人未満 | 1000人以上 | |
大卒 | 2億円 | 2億2,000万円 | 2億6,000万円 |
高専・短大卒 | 1億9,000万円 | 1億9,000万円 | 2億2,000万円 |
高卒 | 1億6,000万円 | 1億8,000万円 | 2億1,000万円 |
業種別の生涯年収
次に業種別の生涯年収について転職・求人dodaが集計した「平均年収ランキング(96業種の平均年収/生涯賃金)を参考に見てみましょう。ランキング形式となっており、総合商社、金融、IT/通信が男女通じてのTOP3です。
全体 | 男性 | 女性 | |
総合商社 | 2億6,266万円 | 2億9,194万円 | 1億7,355万円 |
金融 | 2億6032万円 | 3億1,500万円 | 1億8,835万円 |
IT/通信 | 2億5,286万円 | 2億6,567万円 | 2億0,385万円 |
メーカー | 2億4,680万円 | 2億6,024万円 | 1億8,954万円 |
メディカル | 2億3,234万円 | 2億6,873万円 | 1億7,732万円 |
公務員の生涯年収
公務員についても見てみましょう。公務員の年収は学歴と関係があるのでしょうか。人事院が実施した令和2年度国家公務員給与等実態調査によると、20歳未満の高校卒での平均給与月額は165,198円、同じく大学卒で213,015円。国家公務員は継続年数によって収入の上がる年功序列ですので、学歴によってさらに生涯年収にも差が出ることになります。
ここで各公務員の職種について、簡単に見ておきましょう。国家公務員の一般職とは1府12省庁や税関、労働局などの機関に勤務する職員を指します。総合職はキャリア官僚と呼ばれる職員のことで、国の政策の企画・立案をはじめ、統計や調査といった国家の中枢を担う職員を指しています。
地方公務員は各地方自治体(都道府県、市町村、特別区)で働く公務員のこと。県庁・市役所・町役場などの事務や、警察官、消防官、公立機関の医者や教員など、多種多様な職種が含まれています。生涯年収の金額は年齢や地域、退職金などによって差が出るため一概には言えませんが、参考を下記に記載します。
【国家公務員】
生涯年収 | |
総合職 | 3億8,000万円 |
一般職 | 2億8,000万円 |
【地方公務員】
生涯年収 | |
---|---|
政府指定都市 | 2億8,000万円 |
都道府県庁 | 2億6,000万円 |
市役所 | 2億5,000万円 |
町村役場 | 2億3,000万円 |
生涯年収の推移
生涯年収の推移は近年どうなっているのでしょうか。「ユースフル労働統計2021-労働統計加工指標集-」を見ると、調査対象としている同一企業型の生涯年収は男性、女性、企業規模別全てで1990年代をピークに減少傾向が見られています。その差は3,000〜4,000万円。先行きが不透明な現代の中で、老後の生活を含むライフプランを考えることはより重要になっていると考えられます。
一生涯にかかる支出
生涯年収の概要が分かったところでもうひとつ気になることが、一生涯にかかる支出ではないでしょうか。主なライフイベントごとにかかる費用を確認してみましょう。
結婚費用の平均は469万2,000円(ゼクシィ調べ)、子育て費用は1人当たり1,727万8,000円(内閣府「社会全体の子育て費用に関する調査研究」)、住宅購入費用は土地を購入した注文住宅で平均4,606万円(国土交通省「令和2年度住宅市場動向調査」)となっています。これら以外にも老後の生活費についても考えなければなりません。
高齢の夫婦無職世帯の生活費は、約271,000円(「総務省統計局:家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年)」より)と公表されています。ここから年金などの社会保障給付を差し引くと生活費の不足分が約54,000円となり、老後生活が30年あると1,944万円必要です。
上記から主なライフイベントの合計で1億円を超えていることが分かります。これに普段の生活費などを足した生涯支出は、約2〜3億円と言われています。
将来に向けてできること
ここまでで生涯年収と一生涯にかかる支出や、人生設計に必要な資金について解説しました。将来を考えるために重要なことは、これから必要になる資金をどう工面するかです。安心して老後の生活を送るために、将来の資金を考える3つのポイントを紹介します。3つのポイントは、使うお金、貯めるお金、増やすお金に分けて考えます。
1つ目は、使うお金、つまり毎月の固定費や変動費を確認し、家計などの支出を見直すことです。住居費や保険、通信費、車の費用などを再検討することで支出を減らすことができます。
2つ目は貯蓄です。貯蓄用に口座を分けたり、先取りで貯蓄できる方法を検討したりと方法はさまざま。後述する資産運用にも入りますが、定期預金やNISAなどは先取り貯蓄の方法でよく用いられています。
3つ目は資産運用です。貯蓄と分けて考えておくことで、老後の資金や将来の備えとしてより効果を発揮してくれます。最近ではアプリやウェブサイトで気軽に取引きできるものも多く、少額から投資できるのも魅力です。
3つのポイントを踏まえて、一度将来に向けてできることを考えてみてはいかがでしょうか。
おわりに
生涯年収や一生涯にかかる支出を考えることは、ライフプランを設計する上でとても大切です。前述のとおり人によって収入や支出もさまざまですが、老後を安心して暮らしたい・老後の生活を有意義にしたいという思いは共通したものではないでしょうか。最後にご紹介した将来に向けてできることのポイントをここで改めてご紹介します。
「将来の資金のためにできる3つのこと」
- 毎月の変動費や固定費を確認し、支出を減らす
- 先取り貯蓄や口座を分けるなど、貯蓄の仕組みをつくる
- 資産運用することで、自身の資産を増やせる
資産運用はさまざまなサービスが出てきており、便利に使えるものが増えています。