退職金は長年の勤労に対するご褒美と捉える人も多いですが、これからの生活を支える大切な資金でもあります。まとまった額のお金をどのように受け取り、どのように使うかによってセカンドライフの安心度や充実度は大きく変わってきます。
この記事では、退職金をより有効に活かすための考え方と具体的な使い道について、わかりやすくご紹介します。将来に備える第一歩として、ぜひ参考にしてみてください。
退職金、他の人は一体いくらもらってるの?

定年後の生活を支える大きな柱の1つが「退職金」です。しかし、退職金制度はすべての会社にあるわけではなく、制度があっても金額や支給方法は企業ごとに大きく異なります。
実際、退職金の金額はどうなっているのでしょうか。
厚生労働省の「令和5年退職金、年金及び定年制事情調査」によると、大学・大学院卒の社員が
定年退職した場合の平均退職金は2,859万円とされています。
また、東京都産業労働局が発表した「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」によれば、中小企業における同じ条件での平均額は約1,150万円です。
このように、退職金の額には幅があります。定年前に「自分の退職金がどの程度になるのか」を確認しておきましょう。
![[図表]退職金の平均額](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/08/b5a4270eebea6ed2be4d7634c2e42a88-1024x183.jpg)
参照元:厚生労働省 中央労働委員会「令和5年退職金、年金及び定年制事情調査」
東京都 産業労働局 中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)モデル退職金
(学校を卒業してすぐに入社した者が普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準)
退職金、どうやって受け取る?

退職金は、かつては一括で受け取るのが一般的でしたが、確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(企業型DC)などの制度が普及したことで受け取り方が選択できるケースも増えました。ただし、企業や制度の内容によっては、受け取り方を選べない場合もあります。
退職金の受け取り方は、大きく分けて2通りです。1つは、まとまった金額を一括で受け取る「一時金形式」、もう1つは、年金のように定期的に受け取る「年金形式」です。
一時金形式では、「退職所得控除」が適用され、税負担が大幅に軽減されます。まとまった資金を得られるため、住宅ローンの返済やリフォーム、旅行など、目的に応じて柔軟に活用しやすいのも利点です。
退職所得の計算式は以下のとおりです。
![[図表]退職所得控除額の計算の表](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/08/8238083489fca0ca2825f6996b974a56-1024x324.jpg)
参照元:国税庁 退職金を受け取ったとき(退職所得)
一方、年金形式では、「公的年金等控除」が適用されます。65歳以上なら年間110万円以下までの退職金の年金受取は非課税となるなど、こちらも所得控除があります(年金以外の所得が1000万円以下の場合、それ以上の所得がある場合は控除の額をご確認ください)。
さらに毎月一定額を非課税で受け取れるため、資金計画が立てやすいという安心感があります。
企業型DBの場合は、企業側が受け取り方法を指定しているケースが多く、年金形式での支給が一般的です。
年金形式で受け取る場合、他の公的年金と合算されたうえで控除の計算をするため、公的年金等控除の枠を超えてしまう可能性もある点には注意が必要です。
また、年金形式で受け取る場合、社会保険料の算定対象ともなります。
退職金、何に使う?賢い使い道の具体例

退職金の基本的な使い道の1つが、公的年金だけではまかないきれない老後の生活費の補填です。まずは、ご自身の年金額と生活費を照らし合わせて、どのくらい不足するかを把握することが大切です。
また、将来の医療や介護に備えた資金も必要です。介護にかかる一時費用は平均約47万円、月々の支出は平均約9万円とされています(※1)。
住宅ローンの返済のほか、バリアフリーなど老後の暮らしを意識したリフォーム費用にも退職金を活用できます。
一方で、自由に使える時間が増える退職後は、趣味や自己投資に資金を使うことも人生の豊かさによい影響を与えそうです。旅行や習い事、ボランティア活動など新たなことに挑戦することで生活にハリが生まれ、心身の健康にもつながります。
さらに、子どもや孫のために退職金を使いたいと考える方も少なくありません。日常のお祝いごとやお小遣いなどは非課税ですが、まとまったお金を渡したいといった場合、贈与税には注意が必要です。
教育資金なら最大1,500万円(※2)、住宅取得資金なら最大1,000万円(※3)までが非課税となる制度があります(条件あり)。これらの制度を活用すれば、負担を抑えつつ支援することが可能です。
※1 生命保険文化センター 2024(令和6)年度 生命保険に関する 全国実態調査
※2 国税庁 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
※3 国税庁 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
大きな金額が一度に手に入ると、「早く使い道を決めなければ」と焦ってしまう方もいます。すぐに使う予定がない資金は、ペイオフの仕組みをしっかり理解したうえであらかじめいくつかの口座に数百万円ずつ分けておくと安心感が得られます。
退職金を「守りながら増やす」賢い投資の考え方

退職金は老後の大切な資金源です。しかし、預貯金として保有しているだけでは、物価上昇などで資産が目減りしてしまう可能性があります。長い老後に備え、資産寿命を延ばす手段として、退職金の一部を投資に回すという選択肢があります。
とはいえ、すべてを投資に回す必要はありません。まずは生活費や緊急時に備える「生活防衛資金」を確保しましょう。
そのうえで毎月少しずつ積み立てる投資方法なら、抵抗感なく続けられるのではないでしょうか。大切なのは、「長期・積立・分散」の考え方。これはリスクを抑えた投資の基本です。
投資には「ローリスク・ハイリターン」のようなおいしい話は存在しません。リスクを取れば必ず利益を狙えるわけでもありません。最近では、詐欺や「絶対もうかる」といった怪しい投資話も目立ちますが、少しでも不安を感じたら立ち止まってみてください。
投資をするなら、少額から始められ、利益が非課税となるNISA制度の活用が有効です。年齢制限もないため、定年後にも利用しやすくなっています。
投資に慣れていない方が一度に大きな金額を動かすと、値動きに一喜一憂してしまいがちです。
投資は数年かけて、何回かに分けて行うとよいでしょう。
また、「この1,000万円は絶対に使いたくない」という資金があるなら、現金で眠らせておくのではなく個人向け国債の活用を検討してもよいと思います。元本割れの心配がなく、年1%程度の利息がつきます。
例えば、1,000万円分購入すれば、毎年10万円程度の利息が得られる計算です。購入後1年間は解約できませんが、その時期を過ぎると国が買い取りを約束しているため、元本割れをすることなく現金化できます。
退職金を「守りながら増やす」ためには、焦らず、無理のない範囲で、自分に合った方法を選ぶことが大切です。安心できる老後のために、今から少しずつ準備を進めていきましょう。
おわりに
退職金の使い道や受け取り方は人それぞれ。年齢や資産状況、家族構成、性格などをふまえて、自分に合った使い方を考えましょう。
旅行や家族へのプレゼントといった「楽しみ」に使うのもよいですし、将来への「備え」として預貯金に回す、あるいは資産寿命を延ばすために一部を「運用」するのも選択肢のひとつです。目的ごとにバランスよく分けるのがポイントです。
また、平均寿命が延びている昨今。90代、100歳を超える方も珍しくなくなってきました。長生きによる資産の減少に不安を感じる可能性もあるため、計画的に使っていくことも大切です。
迷ったときは、専門家に相談するのも1つの方法です。日本FP協会やJ-FLECでは無料相談を行っており、中立的な立場で相談に乗ってくれるためライフプラン全体の見直しにも役立ちます。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。