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【専門医監修】楽しみながら脳を鍛える!認知症予防に効果的な趣味とは?

【専門医監修】楽しみながら脳を鍛える!認知症予防に効果的な趣味とは?
加藤 俊徳 (加藤プラチナクリニック院長)

監修者

加藤プラチナクリニック院長

加藤 俊徳

脳外科医 医学博士。
東京都港区「加藤プラチナクリニック」院長。昭和医科大学客員教授。
MRI脳画像診断・発達脳科学・小児科を専門とし、株式会社「脳の学校」代表も務めている。
脳が一生成長することを目指し、「薬だけに頼らない脳の処方箋」をテーマに、MRI脳画像を用いた精密な診断とオーダーメイドの治療方針を実践。子どもから大人まで1万人以上の脳を診断・治療し、発達障害や認知症のサポートに取り組んでいる。
また、「脳の健康・成長」に関する啓蒙活動も幅広く行う。
著書・監修書に『「名前が出てこない」「忘れっぽくなった」人のお助けBOOK』(主婦の友社)、『一生頭がよくなり続けるすごい脳の使い方』(サンマーク出版)、『1日1文読むだけで記憶力が上がる!おとなの音読』(きずな出版)など累計部数350万部を超える。

年齢を重ねると「昨日のことを思い出せない」「名前がすぐに出てこない」といった“物忘れ”が増えるのは自然な老化の一部です。

一方で、認知症は単なる加齢現象ではなく、脳の病気とされています。近年では、生活習慣や日々の過ごし方によって、そのリスクを下げられる可能性があるともいわれています。

その鍵のひとつが“趣味を楽しむ時間”。音楽や運動、料理、ガーデニングなど、好きなことに没頭するひとときは脳を幅広く刺激し、認知症予防に役立ちます。

本記事では脳科学の専門家・加藤俊徳先生(加藤プラチナクリニック院長)の監修のもと、趣味と認知症予防の関係、そして効果的な趣味の選び方をご紹介します。

趣味と認知症予防の関係とは?

趣味と認知症予防の関係とは?

近年、趣味の時間が脳に良い影響を与えることがわかってきました。特に高齢者にとって、趣味は認知症予防に役立つ大切な生活習慣のひとつです。その関係性について、わかりやすくご紹介します。

認知症の原因と、予防の考え方

認知症は、脳の神経細胞が損傷したり死滅したりすることで、記憶や思考、判断力などが徐々に低下していく病気です。代表的なものに「アルツハイマー型認知症」や「血管性認知症」などがあります。

認知症は「加齢による自然な変化」ではなく、予防できる病気としての認識が広まりつつあります。2024年の『ランセット』報告では、認知症の約45%は予防可能とされています。

その要因には、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病に加え、睡眠不足、運動不足、喫煙、聴力・視力の低下、社会的孤立、大気汚染などが挙げられます。

なかでも近年重視されているのが「座りすぎ」の習慣です。WHOも、長時間の座位は認知症を含む様々な病気のリスクを高めると指摘しています。つまり、“動くこと”が認知症予防の基本なのです。

参考:日本認知症国際フォーラムプラットフォーム|ランセット
   WHO身体活動・座位行動ガイドライン(日本語版)

「楽しい」と感じる活動が脳に与える影響

人は何かを「楽しい」と感じたとき、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質が分泌されます。ドーパミンは“やる気ホルモン”、セロトニンは“幸福ホルモン”とも呼ばれ、意欲、感情、集中力に関わる脳の前頭前野や、記憶をつかさどる海馬などを活性化させることがわかっています。

また、趣味や遊びなどにおいて「やらされる」のではなく、自分の意思で楽しむこと(=自発性)が脳に与える影響はより大きく、継続しやすさ=認知症予防効果の持続にもつながります。

さらに、十分な睡眠や朝の光を浴びる習慣(朝散歩など)と組み合わせることで、メラトニン・セロトニンのリズムも整い、日中の「楽しい」がより感じやすくなるという指摘もありました。

このように、“楽しむ”という感情がもたらす脳への刺激は、想像以上に深く、そして予防効果の核となる要素なのです。

続けられるかどうかも予防効果の鍵

認知症予防においては、「どんな趣味か」よりも、無理なく続けられるかどうかが大きなポイントになります。

楽しいと感じる活動は、脳の報酬系(ドーパミン)を刺激し、前向きな記憶や意欲につながるため、自然と「またやりたい」という気持ちを生み出します。
この“またやりたい”という感情が、日々の脳への刺激を習慣化する原動力になります。

そして、継続のカギは「生活の一部として無理なく組み込めるかどうか」。たとえば、朝の散歩や週1回の集まりなど、時間・場所・体力のハードルが低いものほど続きやすくなります。

また、「趣味を持つことで“来週が楽しみ”という未来の記憶=前向きな想像が生まれ、それ自体が認知症の予防につながる」という点も見逃せません。

脳科学の視点で見る「効果的な趣味」とは?

脳科学の視点で見る「効果的な趣味」とは?

脳科学の研究では、楽しさや達成感だけでなく、「どのように脳を使うか」が認知症予防において重要だとされています。ここでは、脳のさまざまな領域を活性化しやすい“効果的な趣味”を、科学的視点から紐解いていきます。

複数の脳領域を同時に使う活動が理想

脳は、特定の一部分だけを使うよりも、いくつかの領域を同時に使うほうが活性化しやすいといわれています。
たとえば“話す”“聞く”“考える”“動かす”を同時にやるような活動だと、脳が活発に動き、 逆に、毎日同じパターンだけだと、脳の使っていない部分がどんどん眠ってしまいます。

つまり、なるべく“いろんな刺激が同時にあること”が、脳にとっては理想的なのです。

たとえば、

  • カラオケなら「音を聴く」「声を出す」「歌詞を覚える」「感情を込める」などが一体に
  • 料理なら「段取りを考える」「手を動かす」「味を確かめる」などが自然と組み合わさっています

脳全体を使うような“ちょっとした工夫”が、認知機能を保つうえで大事です。
何か一つだけやるより、“あれもこれもやる”ほうが、実は脳にとっては自然。毎日の中に、複数の感覚や動作が交わるような活動を取り入れていくこと。 それが、認知症予防としても非常に有効なアプローチなのです。

「手を使う」「人と関わる」ことの重要性

認知症予防では、「手を使うこと」「人と関わること」がとても大切だとされています。これは、どちらも脳を広く使う行動だからです。

たとえば、編み物や陶芸、楽器演奏、料理などは、指先を動かしながら集中し、考え、感じるという動作の連続。また、人と会話したり、一緒に何かをすることも脳にはとても良い刺激になります。
相手の話を聞いて、自分の考えを伝える。このやりとり自体が、言語系、記憶系、感情系、さらに注意力など、複数の脳機能を総動員する活動になります。

実際、手を使いながら人と関わる活動、たとえば料理教室や手芸サークル、ボードゲームなどは、“続けやすく、楽しく、脳に良い”という意味で、とても理想的です。

認知症予防に効果的な趣味とは?

認知症予防に効果的な趣味とは?

「趣味が認知症予防になる」と聞くと、なんとなく良さそうなイメージはあるものの、実際にどんな趣味が良いのか、どんな点が脳にとって良いのかは、あまり知られていません。

ポイントは以下のような活動です。

  • 手を使う(細かい動作で運動系脳を刺激)
  • 感情が動く(“楽しい”と感じることが勘定系脳の報酬系を活性化)
  • 誰かと関わる(会話や交流が記憶系、言語系、注意力を刺激)
  • 身体を動かす(“座りすぎ”の生活習慣を防ぐ)
  • 未来の予定を立てたくなる(「またやりたい」と思う気持ちが、前向きな記憶につながる)

そして、以下のような趣味が脳を複合的に使う“理想的な刺激”としておすすめです。

仲間と一緒に取り組めるもの

認知症予防には「人と一緒にやる」ことが非常に効果的です。例えば楽器の合奏やスポーツ、手芸サークルなど、複数人が関わる活動では、自然と他人を意識し、注意力が広がります。これは脳にとって重要な刺激になります。特に3人以上のグループで活動することで、「自分以外の他者」への意識が働き、注意力や認知力を保ちやすくなるといいます。

季節や環境を意識する屋外活動

ガーデニングやハイキング、スケッチなど、自然の移ろいを感じながら行う活動も、脳にとって良い刺激になります。四季を意識しながら行動することで、感性や観察力も磨かれます。登山を趣味にする高齢者が多いことからもわかるように、目標を持って身体を動かすこと自体が、非常に効果的な認知症予防につながります

感性や集中力を高める創作系

絵画や書道、短歌や俳句、朗読や音読など、「自分の世界に集中する時間」もまた、脳に良い効果をもたらします。こうした趣味は、発表の場(展示会や朗読会)を持つことで、他者との交流も生まれ、刺激がさらに高まります。

「聞く」「話す」を意識するもの

ラジオを聴くことも立派な趣味のひとつです。話し手の姿が見えない分、内容を想像しながら聴くことで、脳の柔軟性が保たれやすくなります。また、ラジオから得た情報を家族に話す、誰かと共有することがさらなる刺激になります。

買い物や散歩など、日常に溶け込む趣味も

ショッピングも、ただの買い物と侮れません。歩きながら情報を探す、季節や流行を感じる、誰かへの贈り物を考えるなど、多様な脳の働きを促します。「何を買うか」よりも、「誰かのために」「楽しみながら」行うという姿勢が大切です。

こんなときどうする?趣味に関するQ&A

こんなときどうする?趣味に関するQ&A

趣味をすすめたいけれど、親が乗り気でない…。そんなとき、どう声をかければよいのでしょうか?よくある悩みに対し、加藤先生のアドバイスをQ&A形式でご紹介します。

高齢の親が趣味に消極的なのですが、どうすすめればよい?

高齢者にとって新しいことを始めるのは、思っている以上にハードルが高いものです。

「趣味を見つけて」と促すよりも、「〇〇さんも行くみたいだから一緒に行ってみない?」など、誰かと一緒に行く流れをつくると受け入れやすくなります。

また、その方の若い頃の記憶や経験からヒントを探すのも効果的です。たとえば、音楽が好きだった方なら、青春時代のアーティストのコンサートに連れて行ってみる。
あるいは「昔やりたかったけどできなかったこと」を再び楽しむという切り口もあります。やり残したことが“趣味”になるケースは多いです。

認知症の診断を受けたあとでも、趣味は効果がある?

認知症を発症していても、「趣味に取り組んでいるときだけは症状が見えなくなる」という例は多くあります。たとえば、ピアノを弾いているときは普段と全く違う集中力を発揮する方も。長年続けてきたこと、身体が覚えていることには脳がしっかり反応します。

だからこそ、「もう遅い」と思わずに、できること・好きなことを続けることが大切です。

「どんな趣味が合っているかわからない」場合、どう選べばいい?

無理に「合っている趣味を探そう」としなくて大丈夫です。
その方の生活歴や過去の経験から、ヒントがたくさん見つかります。たとえば、昔やっていたスポーツの試合を観るだけでも感情が動きます。

「昔好きだったこと」「話題にすると楽しそうに語ること」など、記憶に残る“楽しかったこと”の再発掘がスタート地点になります。

ひとり暮らしの親が孤立しないか心配。趣味で対策できる?

“趣味を始めさせよう”と考える前に、まずは家族として日常的に関わることが大切です。
近況を確認するなど、ちょっとした会話でも、相手にとっては大切なコミュニケーションの時間になります。

また、「人に教える」ことも趣味の一部になります。畑や料理、工作など、自分の好きなことを誰かに伝えることで、生きがいや脳の活性化につながるのです。

結果として、趣味は人との接点になり、孤立を防ぐ大きな力になります

まとめ:“楽しい時間”が、未来の自分を守る

まとめ:“楽しい時間”が、未来の自分を守る

「楽しい時間が、未来の自分を守る」。 この言葉には、認知症予防の本質が凝縮されています。趣味を持ち、誰かと関わり、心から「面白かった」と思える1日を過ごす。その心地よい余韻のまま眠りにつき、また新しい朝を迎える。その繰り返しが、自然と脳と心を整えてくれるのです。

大切なのは、“継続できる”かです。 無理に「続けなきゃ」と思うのではなく、「楽しいからまたやりたくなる」、そんな小さな報酬が、日々のサイクルにリズムと活力を与えます。

そして、夜はしっかりと眠ることも大切です。 たとえ日中に趣味でワクワクしたとしても、夜更かししてしまっては逆効果です。ぐっすり眠ることもまた、次の“楽しい”を生む大切な準備時間。日中の活動と夜の休息、このバランスが脳の健康には不可欠です。

毎日のささやかな「楽しみ」が、知らず知らずのうちに、自分自身を守り、育ててくれます。あなたにとっての「明日が楽しみになる習慣」、今日から少しずつ始めてみましょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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