iDeCo+(イデコプラス)が企業年金と併用可能とする議論がされ、中小企業の年金制度の選択肢が広がる可能性があることをご存じでしょうか。
もしiDeCo+と企業年金が併用できるようになれば、より老後資産を準備しやすくなります。それだけでなくiDeCo+を活用するだけでも、自己負担を抑えながら資産形成が可能です。
本記事では、iDeCo+の概要や事業主・従業員双方から見た制度のメリット・デメリットを解説します。iDeCo+を活用できない場合の資産形成の方法も紹介しているので、ぜひ老後資金準備の参考にしてください。
本記事に記載されている情報は2024年10月時点のものであり、今後の制度改正等により最新情報と異なることがあります。本制度を活用する際はご自身で最新の情報をご確認ください。
iDeCo+(イデコプラス)とは?
iDeCo+は「中小事業主掛金納付制度」とも呼ばれ、従業員が加入しているiDeCoの掛金に事業主が上乗せして掛金を拠出できる制度です。
まず、iDeCo+の概要を以下で確認しましょう。
iDeCo+(イデコプラス)の概要
iDeCo+の概要は以下の表のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
事業主要件 | ・企業型確定拠出年金、確定給付企業年金および厚生年金基金を実施していないかつ ・従業員(第1号厚生年金被保険者)300人以下の事業主 |
労使合意 | ・事業主掛金を拠出する場合に労使合意が必要 ・掛金額を変更する場合にも同様の同意が必要 |
事業主掛金の拠出対象者 | iDeCoに加入している従業員のうち、事業主掛金を拠出することに同意した者 |
掛金の拠出 | 定額 ・事業主掛金と加入者掛金(従業員の掛金)の合計額は、月額5,000円以上23,000円以下の範囲でそれぞれ1,000円単位で設定可能 ・一定の資格ごとに掛金を設定することも可能 |
納付方法 | 事業主掛金と加入者掛金を事業主がとりまとめて納付 |
税制上の取り扱い | ・事業主掛金:全額損金算入 ・加入者掛金:全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除) |
もし事業所が2つ以上ある場合は、全事業所の厚生年金保険者の総数が300人以下であることが必要です。加入者の掛金は給与天引きで、勤務先が事業主掛金とともに国民年金基金連合会へまとめて納付します。
そのため、加入者が口座に掛金を入金する必要がなく、自動で積立できます。
iDeCo+(イデコプラス)と他の年金制度の違い
iDeCoは退職金の代わりや公的年金の補助的制度として扱われています。ここでは、iDeCo+と他の年金制度との違いを解説します。
制度名 | 内容 |
---|---|
iDeCo+ | ・従業員の拠出に加えて事業主が掛金を拠出できる制度。 ・自分だけで拠出するよりも元本が大きくなりやすく資産形成しやすくなる。 ・他の企業年金制度に加入していない、従業員300人以下の事業主が加入できるといった加入条件がある。 |
iDeCo | ・従業員が掛金を拠出し、自ら金融商品を選んで運用を行う。 ・運用成果によって受取額が変動する。 |
企業型確定拠出年金(企業型DC) | ・企業が掛金を積み立て、従業員が商品を選ぶ。 ・将来の受取額は運用成果により変動する。 |
確定給付企業年金(DB) | ・企業が掛金を積み立て、運用・管理・給付の責任を負う。 ・従業員が受け取る給付額はあらかじめ確定している。 |
厚生年金基金 | ・厚生年金に給付を上乗せして年金支給を行う。 ・2014年4月以降は新規設立できなくなった。 |
参照元:いったい年金制度ってなあに?|一般社団法人投資信託協会
iDeCo(個人型確定拠出年金)ってなあに?-制度の概要-|一般社団法人投資信託協会
iDeCo+(イデコプラス)のメリット
iDeCo+を利用することで、企業側と従業員の双方がメリットを得られます。ここからは、iDeCo+のメリットを企業と従業員双方の立場からそれぞれ解説します。
企業・事業主のメリット
iDeCo+を導入することで得られる事業主側のメリットは以下のとおりです。
- 拠出掛金を全額損金算入できる
- 運用コストが不要
- 福利厚生の充実で人材確保・定着につながる
- 対象者に一定の資格を設けられる
- iDeCoの資産を移換できる
拠出掛金を全額損金算入できる
従業員のために拠出した掛金は全額を損金算入できます。掛金を経費として計上できるため、法人税の削減が可能です。また、新たに企業年金制度を導入するよりコスト面の負担が小さいこともメリットです。
確定給付企業年金の場合、運用がうまくいかずに給付時に不足が生じたときは企業が補填しないといけないため、思わぬ経費が発生する可能性があります。iDeCo+は事業主が掛金を拠出する点では確定給付企業年金と同様であるものの、運用成果に責任が生じないため導入しやすい制度といえます。
運用コストが不要
iDeCo+と似たような制度の企業型確定拠出年金(企業型DC)は、事業主が運用コストを負担するケースが大半です。一方、iDeCo+は従業員が加入しているiDeCoに事業主が掛金を上乗せで拠出する制度で、手数料は従業員が負担します。
導入や維持で発生するコストや、事務負担の増加で企業型確定拠出年金の導入が難しい企業でも導入しやすい制度と言えるでしょう。
福利厚生の充実で人材確保・定着につながる
iDeCo+は福利厚生を充実させる点で有効であり、人材確保や離職率の低下につながります。大企業と中小企業の企業年金の導入率は、以下のとおりです。
【大企業と中小企業の企業年金の導入率】
企業規模 | 確定給付企業年金 | 企業型確定拠出年金 | |
規約型 | 基金型 | ||
大企業(2023年調査) | 51.3% | 24.7% | 73.3% |
中小企業(2022年調査) | 43.2% | 52.3% |
参照元:〔調査結果の概要〕|中央労働委員会
中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)|東京都産業労働局
上記調査では、大企業は確定給付年金・確定拠出年金ともに7割の企業が導入しています。一方、中小企業は5割程度の導入に留まっています。このような状況の中、iDeCo+を導入し福利厚生を充実させられれば、人材が不足しがちな中小企業の人材確保につなげられるでしょう。
対象者に一定の資格を設けられる
iDeCo+は対象者に一定の資格を設けられます。長年に渡り企業に貢献してくれている従業員に対して、他の従業員よりも掛金を増額、といったことも可能です。
例えば、総合職と一般職であれば総合職の掛金を数千円増額したり、勤続年数3年未満と3年以上で事業主掛金額を変えたりできます。
iDeCoの資産を移換できる
iDeCoから確定給付企業年金や企業型確定拠出年金に移換できる点もiDeCoのメリットです。まだiDeCo+しか導入できない企業の企業規模が大きくなり、他の企業年金制度を導入することになっても対応できます。
そのため、企業の成長を見越したつなぎの制度としてiDeCo+を活用するのもよいでしょう。
従業員のメリット
iDeCo+の活用で従業員が得られるメリットは、以下のとおりです。
- 節税できる
- 自分だけが拠出するよりも老後資産を貯めやすい
- 想定以上に利益が出ることがある
- 転職したり退職したりしても資産を移換できる
- 事業主掛金分は給料に算入されない
節税できる
iDeCo+を活用すると、資産形成しながら以下のような節税もできます。
【iDeCoの節税タイミング】
掛金拠出時 | 所得控除 |
運用益発生時 | 非課税で再投資 |
受取時 | 公的年金控除もしくは退職所得控除 |
掛金が毎月10,000円で所得税20%・住民税10%とすると、年間で36,000円の節税が可能です。また、運用益には20.315%の税金がかかりますが、iDeCoなら非課税で再投資できます。そのため、100万円の運用益が発生した場合、通常は約20万円の税金がかかるところ、税金がかからない運用を続けられます。
自分だけが拠出するよりも老後資産を貯めやすい
iDeCo+を使えば事業主が掛金を上乗せしてくれるため、自分だけが拠出するよりも資産を貯めやすくなります。そのうえ、事業主の拠出額によっては最低限の拠出で済む可能性もあります。
本来、iDeCoの最低拠出額は5,000円です。iDeCo+であれば事業主と従業員の掛金を合わせて5,000円以上になれば運用ができるため、事業主が4,000円出してくれれば従業員は1,000円の負担でiDeCoを始められます。
このように、自分の負担は少なくなるにもかかわらず資産を貯めやすくなるため、iDeCo+は有利に資産形成を進められるでしょう。
想定以上に利益が出ることがある
iDeCo+で資産運用をすれば、想定以上の利益が発生してより良い資産形成ができる可能性があります。低金利時代と言われている現代では、普通預金や定期預金だけでは十分な資産を構築できません。
普通預金は金利が1%にも満たない状況の中、iDeCoは想定利回りが3~5%となっている商品が多く、預金より大きなリターンが期待できます。
ただし、投資商品である以上は損失を被ることもある点をよく理解して運用しないといけません。とはいえ、正しい知識を持って資産運用に臨めば、資産を増やせる可能性は十分に高められます。
転職したり退職したりしても資産を移換できる
iDeCoで積み立てた資産は転職・退職したときに、移換の手続きをすれば移動できます。条件を満たせば、他の年金制度からの資産を引き継ぐことも可能です。そのため、資産を売却する必要がなく、長期運用の恩恵を受けやすくなります。
以下は毎月20,000円を利回り3%で運用したケースです。一方は10年ごとに資産を売却し、一方は30年間売却しないで運用を続けています。
【10年ごとに売却したケースと30年間積立を続けたケース】
10年ごとに資産を売却 | 30年間積立を継続 | |
---|---|---|
10年後 | 279万円 | - |
20年後 | 279万円 | - |
30年後 | 279万円 | 1,165万円 |
積立元金の合計 | 720万円 | |
運用収益の合計 | 117万円 | 445万円 |
参照元:つみたてシミュレーター|金融庁
上記の表からわかるように、資産運用はできる限り長期間継続したほうが運用収益が大きくなりやすいです。また、すでに運用している資産をそのまま運用できても、新たに積立をして運用を始めるとなると、管理が複雑になってしまいます。資産の移換が可能なのは運用効果や管理面でメリットがあります。
事業主掛金分は給料に算入されない
iDeCo+で事業主に掛金を拠出してもらっても、事業主掛金分は給料に算入されません。もし事業主に上乗せしてもらった分が給料として計算されれば、従業員が支払う税金が増えてしまいます。
しかし、iDeCo+の事業主掛金分は給料に算入されないため従業員の税負担は増えず、掛金を通常より多く掛けることができます。
税制優遇制度として比較対象になりやすいNISAとiDeCoの違いを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
iDeCo+(イデコプラス)のデメリット
iDeCo+を導入することで事業主・従業員の双方ともに恩恵を受けられる一方で、デメリットもあります。デメリットについて事業主と従業員の双方の視点から解説します。
企業・事業主のデメリット
事業主がiDeCo+を導入する主なデメリットは、以下のとおりです。
- iDeCo加入者が少なければ別の福利厚生を導入しないといけない
- 制度の導入・廃止や事業主掛金額の決定に同意が必要
- 従業員間で不公平感を抱かせることがある
iDeCo加入者が少なければ別の福利厚生を導入しないといけない
iDeCoの加入者が少なければ、別の福利厚生を検討しないといけないのがデメリットのひとつです。iDeCo+を退職金制度とした場合、iDeCoに加入できる従業員しか退職金を準備できなくなるためです。
iDeCoに加入できない従業員が多い場合は、別の福利厚生や退職金制度を導入しないといけないケースがあり、コストや管理の手間がかかることがあります。
iDeCoの加入資格や実際にどれくらい資産が増えるかシミュレーションを確認したい方は、以下の記事をご覧ください。
制度の導入・廃止や事業主掛金額の決定に同意が必要
iDeCo+を導入するには、労働組合か労働者の過半数を代表する者の同意が必要です。また、就業規則など社内規程の見直しもする必要があります。事業主の意思決定のみではiDeCo+の導入や掛金の決定はできないため、事業主の意向どおりに金額を設定できない場合がある点はデメリットと言えるでしょう。
従業員間で不公平感を抱かせることがある
iDeCoに加入していない従業員はiDeCo+を利用できないため、従業員全員が満足する福利厚生にならない可能性があります。また、退職金制度として活用する場合、運用商品によっては受取額が運用成果によって変動するため、安定した退職金制度とは言えない点もデメリットとなるでしょう。
また、老後資産への意識が低い従業員が多く、そもそもiDeCoに加入していない場合は、金融教育が必要になるケースもあります。その場合、制度導入前に思わぬ手間がかかる可能性があることを考えておかないといけません。
そのうえ、運用する商品によっては元本保証ではないため、従業員に加入を進めづらく福利厚生の施策として理解を得にくいこともあります。
従業員のデメリット
従業員にとってのiDeCo+のデメリットは、以下のとおりです。
- iDeCo加入者しか利用できない
- 原則60歳まで現金を引き出せない
- 運用コストがかかる
- 運用成果によっては損失が出る
iDeCo加入者しか利用できない
前提として、iDeCo+はiDeCoの加入者しか利用できません。そのため、iDeCoを利用できない従業員は事業主に退職金や老後資金の準備をサポートしてもらえず、不公平感を抱く可能性があるでしょう。
原則60歳まで現金を引き出せない
iDeCo同様、60歳までは原則として資産を引き出せません。そのため、住宅費や教育費など支出のタイミングがある程度決まっており、それまでにいくら貯めないといけないという資産形成にiDeCo+は不向きです。
ただし、iDeCo+は退職金制度や年金制度の補助的制度としても扱われるため、資産を引き出せないのはメリットとも言えます。「転職したり退職したりしても資産を移換できる」でシミュレーションしたように、資産を引き出せないことで運用面で大きな効果を得られる可能性があります。
運用コストがかかる
企業型確定拠出年金は企業が手数料を負担することが通常です。一方、iDeCo+は加入している従業員が手数料を払うため、運用コストがかかります。iDeCoにかかる主な手数料は以下のとおりです。
【iDeCoにかかる手数料】
加入・移換時手数料(初回1回のみ) | 2,829円 |
掛金拠出者が支払う毎月の手数料 | 171円~ |
運用のみ行う方が支払う毎月の手数料 | 66円~ |
還付手数料 | 1,488円 |
参照元:iDeCo加入手続きについて|iDeCo公式サイト
手数料|個人型確定拠出年金(iDeCo)|楽天証券
iDeCoをはじめる・移換する 手数料・その他費用|SBI証券
掛金拠出者に毎月かかる手数料は、国民年金基金連合会・信託銀行・証券会社へ支払う手数料の合計です。このうち、削減できるのは証券会社への運営管理手数料です。そのため、運営管理手数料が無料の証券会社を選ぶと、最低額の171円でiDeCoを利用できます。
また、投資信託の運用や管理にかかる信託報酬も削減しやすいコストです。この信託報酬が高すぎると手数料負けするケースがあります。
例えば、信託報酬が1%の場合、運用中の手数料負担率は以下のとおりです。
【掛金額ごとの手数料負担率】
掛金額 | 手数料負担率(口座管理手数料 ÷ 掛金額) | 手数料負担率 + 信託報酬1% |
---|---|---|
5,000円 | 3.42% | 4.42% |
1万円 | 1.71% | 2.71% |
1.5万円 | 1.14% | 2.14% |
2万円 | 0.855% | 1.855% |
上記の表からわかるように、掛金額が5,000円の場合、利回りが4.42%を超えなければ手数料負担のほうが運用収益よりも大きくなってしまいます。とはいえ、iDeCo+は掛金を大きくしやすいため、手数料負けする可能性を抑えられるでしょう。
運用成果によっては損失が出る
iDeCo+の投信型で運用すると、受取時に元本割れする可能性があるため、退職金として心もとない金額になる可能性を考慮しておかなければいけません。元本確保型であれば元本割れの恐れがなく、安定した資産形成を続けられます。
ただし、運営管理機関連絡協議会の調査では、以下の表のような商品選択の状況となっています。
【運用商品選択状況】
2020年3月末 | 2021年3月末 | 2022年3月末 | 2023年3月末 | |
---|---|---|---|---|
元本確保型 | 53.9% | 44.3% | 37.7% | 34.2% |
投資信託・金銭信託等 | 45.5% | 55.3% | 61.1% | 64.5% |
処理待機資金等も算入されているため、合計は100%になりません。
上記の表からわかるように、2020年3月末時点では元本確保型商品を選択する方が過半数でした。しかし、2021年3月末から投資信託が過半数を占め、以降も選択される割合は大きくなっています。
したがって、iDeCoの商品選択は投信型が人気になりつつあるといえます。商品選択によって運用結果は変わるため、どの程度のリターンを期待してiDeCoを活用するのか考えて商品を選びましょう。
iDeCo+(イデコプラス)導入の流れ
iDeCo+のメリット・デメリットを踏まえたうえで導入しようと決めた際、どのような流れで手続きをするのか気になるところでしょう。
ここからは、iDeCo+導入までの流れを解説します。iDeCo+を導入する際の大まかな流れは、以下のとおりです。
- 制度導入の検討
- 事業所登録の申請
- 拠出対象者・掛金の設定
- 労使合意
- 届出書類を作成・届出
まず「iDeCo+(イデコプラス)の概要」で事業主要件を確認し、制度を導入できるかどうかをチェックします。事業所の事前登録には労使合意は不要なため、あらかじめ必要書類を提出しておくと、労使合意後の手続きを進めやすいでしょう。
続いて、拠出対象者・掛金額の決定をします。基本的にはすべてのiDeCo加入者に対して事業主掛金を加えます。ただし、職種や勤続期間に応じて一定の資格を満たす従業員のみに拠出する形式でも問題ありません。
事業主掛金額は、iDeCo加入者の掛金と合計して1ヵ月あたり5,000円以上23,000円以下となるように1,000円単位で決定します。iDeCo+の内容を決定したら労使合意をして、拠出対象者の同意を得ます。
最後に、届出書類を国民年金基金連合会に提出すると手続きは完了です。なお、届出に必要な書類は以下のとおりです。
- 中小事業主掛金納付開始・終了届
- 中小事業主掛金対象者登録届
- 中小事業主の資格に関する現況について
- 中小事業主掛金を拠出すること及び中小事業主掛け金の額の決定に関する同意書 など
書類の提出期限は事業主掛金の初回引落予定月の前々月20日です。初回の引落前に「中小事業主掛金制度決定通知書兼引落予定のお知らせ」が届くため、記載内容に間違いがないか確認し、間違いがあれば訂正手続きをします。
iDeCo+の導入については、「iDeCo+導入ガイド」を参考にするとスムーズに手続きを進められるでしょう。
iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション
iDeCo+で資産を積み立てた場合、従業員の負担がどれくらい減り、資産がどれくらい増えるのか気になるでしょう。iDeCo+は勤続年数や職種によって事業主掛金額を変えられるため、今回は勤続年数および職種別にシミュレーションをしてみました。
勤続年数によって事業主掛金額が変わるケース
勤続年数によって事業主掛金が変動する場合、長期勤続の報奨金として事業主掛金を増額していくと、人材定着や長期勤続への労いとしてiDeCo+を活用できます。
【勤続期間ごとに事業主掛金額が増額するケース】
勤続年数 | 事業主掛金 | 従業員掛金 | 掛金合計 |
---|---|---|---|
3年未満 | 1,000円 | 9,000円 | 1万円 |
3年~10年未満 | 5,000円 | 1万円 | 1.5万円 |
10年~20年未満 | 1万円 | 1万円 | 2万円 |
20年~30年未満 | 1.5万円 | 8,000円 | 2.3万円 |
30年以上 | 2万円 | 3,000円 | 2.3万円 |
元本合計 | 579.6万円 | 356.4万円 | 936万円 |
利益 | - | - | 141万円 |
運用収益(元本合計 + 利益) | - | - | 1,077万円 |
退職までに40年間積立を続けて、上記のシミュレーションと同じ金額を受け取ろうとすると、自分だけの積立では毎月12,000円弱の金額が必要です。このケースでは一度も12,000円を超えることなく同じくらいの金額を老後に準備できるため、事業主掛金の恩恵が大きいことがわかるでしょう。
とくに退職が近づいたタイミングで事業主掛金が増える設定であれば、自己負担は大きく減り、その分を他の投資商品に回せるなど資産を増やすチャンスが増えます。
職種によって事業主掛金額が変わるケース
総合職と一般職、営業職と事務職など職種によって事業主掛金額が変わるケースのシミュレーションです。今回のシミュレーションでは事業主と従業員の掛金を合わせて20,000円として計算します。
【職種によって事業主掛金額が変わるケース】
総合職 | 一般職 | |
---|---|---|
事業主掛金 | 1万円 | 6,000円 |
従業員掛金 | 1万円 | 1.4万円 |
従業員掛金合計 | 480万円 | 672万円 |
利益 | 892万円 | |
運用収益(元本合計 + 利益) | 1,852万円 |
総合職であれば480万円の元本で約4倍の金額が受け取れます。一般職は掛金20,000円にしようとすると毎月14,000円が必要です。このように職種で事業主掛金を変えている企業では、従業員間で不公平感が生じることがあるでしょう。
とはいえ、事業主に掛金を負担してもらえれば個人の負担はそこまで大きくなくとも、退職金や老後資金を準備できます。
iDeCo+(イデコプラス)以外に資産を増やす方法
iDeCo+やその他の企業年金が導入されていない企業に勤務している方は、自助努力で資産を増やす必要があります。iDeCo+や企業年金以外に考えられる資産形成の方法として、以下が挙げられます。
- 投資
- 個人年金保険
- 公的年金の繰り下げ受給
自分に適した方法を取り入れてみてください。
投資
iDeCoと同じような資産運用の方法として、投資があります。ただし、投資と一言でいっても国債のように安定した動きをするものや、株式のように値動きが激しいものがあり、商品選択によって運用成果は大きく異なります。
投資で資産形成をする場合は、自分のリスク許容度や期待するリターンに応じて運用商品を選ぶのがおすすめです。投資初心者は税制優遇制度であるNISAを使って投資すると良いでしょう。
2024年から始まった新NISAの特徴や老後資産の貯め方のコツを知って、効率的に資産形成したい方は以下の記事をご覧ください。
個人年金保険
個人年金保険で資産を増やす方法もあります。個人年金は企業年金などだけでは老後資産が準備できないと不安を抱く方に向けて作られた、老後資金を補うための保険商品です。
保険料の支払期間や死亡時の受取方法などさまざまなタイプがあるため、自分や家族の状況に合った商品を選択すると良いでしょう。
公的年金の繰り下げ受給
通常65歳から受け取る公的年金の受給開始のタイミングを遅らせると受給額を増やせます。現役時にできる方法ではありませんが、老後の収入を増やす方法として有効です。2024年9月時点の制度では、受給開始を1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ受給額が増え、増額分は一生涯受け取れます。
年金の繰り下げ受給の概要や繰り下げ受給時の実際の受取額を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
iDeCo+(イデコプラス)と企業年金が併用可能になる?
これまでiDeCo+は企業年金制度と併用できませんでした。しかし、2024年末を目途に併用を認める動きとなっています。iDeCo+が確定給付企業年金(DB)と併用可能になると、運用結果に関係なくと決まった金額を受け取れる安心感があります。一方、iDeCoで投資信託型を選ぶと運用成果によって受取額が変わります。
したがって、iDeCo+とDBを併用することで大きな運用益を得られる可能性と、確実に受け取れる安定性の両方のいいところ取りができます。
iDeCo+とDBを併用できるようになれば、事業主が負担してくれる掛金が大きくなりやすく、自己負担がそれほど大きくなくても資産形成をしやすくなるでしょう。
iDeCo+(イデコプラス)は事業主・従業員ともにメリットのある制度
iDeCo+は掛金を全額損金にできたり福利厚生の一環として導入しやすかったりと、事業主にとってメリットの大きい制度です。
従業員にとっても資産形成しやすくなるため、双方にメリットのある制度といえます。そのうえ、iDeCo+と企業年金を併用可能にするという議論がされています。例えば、iDeCo+と確定給付企業年金が併用できるようになると、どちらも事業主に掛金を負担してもらえるうえ、攻めと守りの運用を両立することが可能です。
確定給付企業年金は給付額が確定している年金制度のため、iDeCo+で資産を増やす攻めの運用を行えます。したがって、iDeCo+と企業年金が併用可能になれば老後資産の準備をよりしやすくなるでしょう。