相続税の申告が必要な方の中には、必要な申告内容を満たしているかわからず、申告漏れの不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。相続税の申告漏れにはペナルティが課せられるため、しっかりとした準備や確認が大切です。
この記事では、相続税の申告漏れを指摘されやすい財産や、申告漏れがあった場合のペナルティと対処法について詳しく解説します。
最後まで読んでいただければ何に気をつけるべきかが明確になり、スムーズに申告できるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 被相続人の財産を把握できていない場合や特例制度を適用した場合、遺産分割協議が長引いた場合に申告漏れが起こりやすい
- 申告漏れが発覚したらすみやかに修正申告書を提出し、不足分の相続税を納付する
- 修正申告が遅れると過少申告加算税や延滞税などのペナルティを課せられる場合がある
- 申告漏れを防ぐためにも、相続のプロのサポートを受けながら早めに準備を進めるのがおすすめ
相続税の申告と税務調査
相続税の申告漏れを発生させないためにも、まずは相続税申告の概要を確認しておきましょう。また、相続税の申告に関する税務調査の実態についても解説します。
相続税の申告
相続税とは、金銭や不動産などの財産を相続した際に納める税金です。相続税がかかる財産には以下のようなものが挙げられます。
- 土地、家屋などの不動産
- 預貯金、現金、有価証券
- 貴金属や宝石などの貴重品
- 保険金 など
ただし、相続した財産すべてに税金がかかるわけではありません。相続税には基礎控除が適用されるため、以下の金額を差し引いた分の財産に課税されます。
遺産に係る基礎控除額:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人とは、亡くなった方(被相続人)の配偶者と一部の血族を指します。例えば、被相続人に配偶者と子が2人(法定相続人が3人)いた場合の基礎控除額は、以下のとおりです。
3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
相続した財産が1億円の場合、基礎控除額4,800万円を差し引いた残り5,200万円が相続税の課税対象となります。
なお、相続した財産が少額で基礎控除額を超えなければ、相続税の申告は不要です。相続税がかかる場合の申告手続きの概要は以下のとおりです。
申告書の提出期限 | 相続の開始があったことを知った日 (被相続人が亡くなったことを知った日)の翌日から10ヵ月以内 |
申告書の提出先 | 被相続人の住所を所轄する税務署 |
申告書の提出方法 | 持参、郵送もしくはe-Tax(電子申告)で送信 |
申告期限の日が土日・祝日の場合は、翌日まで期限が繰り延べられます。なお、申告書の提出先は被相続人(亡くなった方)の最寄りの税務署です。離れて暮らす親や祖父母が亡くなった場合は注意しましょう。
税務調査
税務調査とは、税金に関する申告内容が正しいかを税務署が確認する調査です。申告内容の誤りや申告漏れの疑いがあると、税務署から電話での問い合わせや来署依頼の連絡が来ます。
さらに調査が必要と判断されれば、帳簿や財産の所有状況を現場で調べる実地調査が行われる場合もあります。
令和3年度の国税庁の報告によると、6,317件の実地調査が行われ、そのうち申告漏れなどが見つかったのは5,532件でした。また、電話連絡などの簡易な調査に限定すると、14,730件を調査し、申告漏れは3,638件報告されています。
令和3年度の相続税申告書を提出した相続人の数は294,058人のため、約7%の割合で税務調査が実施され、そのうち約3%で申告漏れが指摘されているのが実態です。
参照元:
国税庁|令和3事務年度における相続税の調査等の状況 p.2〜3
相続税を申告漏れする主な理由
前章で紹介したとおり、税務調査では一定の割合で相続税の申告漏れが見つかっています。申告漏れに至る主な理由は以下の3つです。
- 相続財産が控除の範囲内で非課税となった
- 遺産分割協議がまとまらなかった
- 把握していない相続財産に後で気づいた
順番に見ていきましょう。
相続財産が控除の範囲内で非課税となった
意図せず申告漏れになりやすいのは、相続財産が特例を適用することで控除の範囲内の金額となるケースです。
相続税が発生しないため申告不要と判断する方が多いですが、特例を適用する場合は相続税が0円でも申告する必要があります。
特に申告漏れが発生しやすいのは、以下の特例を適用した場合です。
特例の名称 | 特例の内容 |
配偶者の税額の軽減 | 1億6,000万円または法定相続分相当額のどちらか多い金額まで非課税になる |
小規模宅地等の特例 | 一定の条件を満たした土地を相続する場合に、宅地の評価額を最大80%減額できる |
相続税の申告が不要になるのは、相続財産が基礎控除の範囲内におさまる場合に限られます。
遺産分割協議がまとまらなかった
遺産分割協議の結果がまとまらないことが理由で、申告漏れとなるケースがあります。
遺産分割協議とは、複数の相続人がいる場合に遺産の分割方法を決めることです。遺産分割協議
がまとまらないために相続する遺産の金額が決まらず、申告期限に間に合わない方が一定数います。
相続税の申告は、遺産分割協議が成立せず遺産が分割されていない場合も申告期限が延びることはありません。
遺産分割協議が終わらない場合は、民法の法定相続分を基準に仮の相続税を計算して申告すれば、申告漏れになりません。法定相続分とは、法定相続人の人数や優先順位から算出した相続の割合です。
具体的には、申告書に仮の相続税額を記入し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出・納税しましょう。分割見込書は国税庁の指定のフォーマットがあり、以下の項目の記載が必要です。
- 遺産分割が終わらない理由
- 遺産分割の結果の見込み
- 配偶者控除など特例を受ける予定の有無
分割見込書を提出したあとは、遺産分割協議がまとまった時点で正式な申告書を提出します。なお、届出の名前のとおり、本来の申告期限から3年以内に遺産分割協議を終える必要があります。
把握していない相続財産に後で気づいた
申告後に被相続人が所有していた財産が新たに見つかり、申告漏れに気づく場合があります。例えば、遺品整理中に多額のタンス預金や生命保険の契約書が見つかった場合などです。
また、被相続人が子どもや孫の名義で預金を積み立てていた場合(名義預金)に、税務署から指摘を受けて相続財産と判断されれば、申告漏れになる恐れがあります。
申告漏れが起こりやすい財産については、次章で詳しく解説します。
参照元:
国税庁|相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続
相続税を申告漏れしやすい財産と対処法
相続資産のなかで、特に申告漏れしやすい財産は以下の5つです。
- タンス預金(現金)
- 名義預金
- 生前贈与
- 生命保険
- ネット口座
申告漏れしやすい理由と対処法を解説します。
タンス預金(現金)
相続税の申告漏れしやすい財産に、タンス預金(現金)が挙げられます。
低金利が続くなか、利息を期待できない銀行に預ける代わりに手元に現金を残す方が一定数いるため、申告漏れとして指摘を受ける事例が多いです。
防犯のためにわかりにくい場所に保管する方が多く、申告後に高額のタンス預金が見つかって遺産分割などのトラブルになる場合もあります。
生前に被相続人と相続人で共有しておくことが理想ですが、難しい場合は被相続人の家のなかなどを念入りに確認してから申告手続きを進めましょう。
名義預金
名義預金とは、被相続人が配偶者や子どもなどの資産を渡したい相手の名義で残した預金です。
預金通帳や印鑑を被相続人が保管していたり、被相続人の口座と同じ印鑑を登録したりしている場合は実質的に被相続人の資産とみなされるため、相続税の課税対象になります。
被相続人が渡したい相手に知らせずに名義預金を作っているケースが多く、申告漏れしやすい財産です。なお、申告前に預金を移動させても、履歴を見て税務署が指摘する可能性が高いでしょう。
資産を渡したい場合は、贈与契約書などの贈与の事実を証明できる書面を残し、名義預金にならないようにしましょう。
生前贈与
生前贈与の非課税枠を活用すれば節税しながら資産を譲渡できるため、相続税対策として利用する方が多いです。
ところが、相続開始前の3年間(2024年1月1日以降は7年までさかのぼる)に贈与された資産は相続資産として扱われ、相続税が課せられます。
特に、以下2つの非課税枠を利用した生前贈与を行う場合は注意しましょう。
暦年課税制度による控除:年間110万円までの贈与が非課税
相続時精算課税制度による控除:累計2,500万円までの贈与が非課税
なお、2023年度の改正により、相続時精算課税制度には新たに年間110万円の基礎控除が設けられました。控除枠内なら贈与税が不要で、贈与の時期に関係なく相続税もかかりません。
ほかの税制優遇制度と併用できない場合がありますが、生前贈与を利用したい方は検討してみましょう。
なお、贈与の事実が証明できないと相続税がかかる可能性があります。過去の贈与税申告書の控えや贈与契約書は必ず保管しておきましょう。
生命保険
生命保険は、相続税を申告漏れしやすい財産のひとつです。保険金を受け取っていなくても、契約者として相続するだけで相続税の課税対象となる場合があるため注意しましょう。
生命保険が相続資産になるのは、被相続人が保険料を負担していた生命保険を引き継ぐことで、生命保険の解約返戻金を受け取る権利を相続したとみなされるためです。
申告漏れを防ぐためにも、被相続人が保険料を負担していた保険契約を整理して把握しておきましょう。
ネット口座
ネット銀行やネット証券の口座にある資産は、相続税の申告漏れが発生しやすいです。物理的な通帳がないため、被相続人から知らされていなければ、相続人が口座の存在に気づく機会がありません。
申告漏れを防ぐためには、生前から遺言書やエンディングノートを作り、銀行口座や証券口座が一覧できる資料を残しておきましょう。
なお、ネット銀行やネット証券のログインIDやパスワードは相続手続きには不要です。防犯のためにも書面で残さない方が良いでしょう。
参照元:
相続税の申告漏れが発覚したら?
相続税の申告漏れが判明した場合は、以下2点の手続きが必要です。
- 修正申告書に必要事項を記入し、税務署へ提出する
- 税務署もしくは金融機関で申告漏れしていた分の相続税を納付する
修正申告書は、税務署で受け取るか、国税庁のホームページからダウンロードして使います。また、e-Tax(電子申告)を利用した申告も可能です。
修正申告書には修正前の財産価額、修正後の財産価額などを正確に記入し、被相続人の所轄税務署へ提出します。
なお、追加で相続税の支払いが必要な場合は、修正申告書を提出したその日のうちに相続税を納付しなければいけません。支払いの準備ができてから修正申告の手続きを進めましょう。
ただし、修正申告が遅れると過少申告加算税や延滞税のペナルティを課せられるため、可能な限り早く申告することをおすすめします。
相続税の申告漏れに対するペナルティについては、次章で詳しく解説します。
参照元:国税庁|相続税の申告書等の様式一覧(令和4年分用)|相続税の修正申告書
相続税の申告漏れによるペナルティ
相続税の申告漏れが発生すると、ペナルティとして以下4つの追徴課税(追加で徴収される税金)が課せられます。
- 延滞税
- 無申告加算税
- 過少申告加算税
- 重加算税
それぞれ詳しく見ていきましょう。
延滞税
延滞税は、相続税を期限までに納付できなかった場合に課せられる税金で、以下の計算式により求めます。
延滞税=納税額×税率×(延滞した日数÷365日)
延滞税の税率は以下のとおりです。延滞税特例基準割合は、毎年財務大臣の告示に応じて変動します。
納期限からの経過日数 | 税率 |
納税期限の翌日から2ヵ月以内 | 下記のいずれか低い方7.3%(年率)延滞税特例基準割合+1% |
納期限の翌日から2ヵ月経過した日以降 | 下記のいずれか低い方14.6%(年率)延滞税特例基準割合+7.3% |
相続税の納税期限から2ヵ月経過すると税率が大幅に引き上げられ、負担が大きくなります。延滞税を計算する基準となる納期限は相続税の申告状況により異なり、以下のとおりです。
相続税の申告状況 | 納期限 |
申告期限内に申告した | 法定納期限(相続開始を知った日の翌日から10ヵ月後の日) |
申告期限後に申告、もしくは修正申告をした | 申告書を提出した日 |
税務署による更生・決定を受けた | 税務署の更生通知書の発行日から1ヵ月後の日 |
納税が遅れた日数分だけ延滞税も増えるため、可能な限り早く納税しましょう。
参照元:
無申告加算税
無申告加算税は、申告期限までに相続税の申告そのものができていなかった場合に課せられる税金です。過少申告加算税より税率が高く設定されています。
申告の時期 | 税率 |
申告期限を過ぎてから、税務調査の通知が来る前までに申告した場合 | 5% |
税務調査の通知が来たあと、指摘を受ける前に申告した場合 | 10%〜15%※ (2024年度6月からは10%〜25%※) |
税務署の指摘を受けてから申告した場合 | 15%〜20%※ (2024年度6月からは15%〜30%※) |
※追加納税額により異なる
なお、2023年度の税制改正により、2024年6月から追加納税額が300万円を超える場合の無申告加算税の税率が引き上げられます。
また、無申告を繰り返した納税者に対し、無申告加算税の税率をさらに10%引き上げる措置が取られるなど、相続税の無申告に対するペナルティが厳しくなる傾向です。
5-3.過少申告加算税
過少申告加算税は、相続税の申告をしたものの、本来納めるべき税金より少ない金額で申告していた場合に課せられる追徴課税です。
過少申告加算税は、追加で支払うべき相続税の金額(追加納税額)に以下の税率をかけて計算します。
申告の時期 | 税率 |
税務調査の通知が来たあと、指摘を受ける前に修正申告した場合 | 5%〜10%※ |
税務署の指摘を受けてから修正申告した場合 | 10%〜15%※ |
※追加納税額により異なる
税務調査の通知が来る前に気づいて修正申告すれば、過少申告加算税はかかりません。一方で、過少申告を放置して修正申告するのが遅くなると、過少申告加算税の負担が大きくなる可能性があるので注意しましょう。
重加算税
重加算税は、相続税の申告漏れのなかでも特に悪質な場合に課せられるペナルティです。相続資産を意図的に隠した場合や、虚偽の申告をした場合に適用されます。
重加算税の税率は以下のとおりです。
相続の申告の有無 | 税率 |
相続税を申告していた場合 | 35% |
相続税を申告していなかった場合 | 40% |
悪意がなければ過少申告加算税や無申告加算税で済みますが、悪質と判断されれば重加算税の重い税率が課せられます。
相続税の申告漏れを防ぐには?
最後に、相続税の申告漏れを防ぐためのポイントを3つ紹介します。
- 早めに準備を始める
- 贈与や相続の手続きは書面に残す
- 相続の専門家に依頼する
申告漏れのペナルティを避けるためにも詳しく確認しておきましょう。
早めに準備を始める
相続税の申告漏れを防ぐには、早めに準備を始めましょう。相続税の申告期間は10ヵ月ありますが、葬儀や遺品整理などで思うように時間を取れない方が大半です。
期限直前に急いで申告すると、ミスや申告漏れが発生しやすくなります。可能なら、生前から相続関係の資産を整理しておきましょう。
特に、タンス預金や銀行口座や証券口座、クレジットカードなどは被相続人しか管理状況を把握していない場合が多いです。被相続人と相続人で協力して整理しながら、資産情報を共有しておくことをおすすめします。
贈与や相続の手続きは書面に残す
相続の準備や生前贈与をする際は、第三者や税務署に提出できる形式の書面に残しておきましょう。
相続資産を整理できて申告漏れのリスクを減らせるだけではなく、税務署から申告内容に指摘が入った際の証明資料としても活用できます。
また、被相続人が相続の意思を明確に示さなかったことで、遺産分割協議の際にトラブルが起こる事例も少なくありません。
遺産分割協議が遅れると相続税の申告に支障が出るため、遺言や書面を残すことで対策しておきましょう。
相続の専門家に依頼する
相続税の申告漏れの要因のひとつに、相続に関する知識や経験不足が挙げられます。相続税の計算や申告手続きは複雑で難しいため、慣れていないと時間や手間がかかり、ミスも起こりがちです。
ご自身で相続税を申告することに不安を感じる方は、相続の専門家にサポートを依頼しましょう。申告書類の記入方法やトラブル時の対応を相談でき、安心して相続手続きを進められます。
これから相続の準備を始める方や、生前から相続対策をしたい方は、「セゾンの相続 相続税申告サポート」がおすすめです。
相続手続きに精通した税理士に、生前贈与から相続後の相続税の申告方法まで幅広く相談できます。忙しい方は無料オンライン相談も利用可能です。ぜひご検討ください。
おわりに
相続税は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に申告・納税が必要です。相続税の特例を利用する場合や遺産分割協議が必要な場合、被相続人の財産を把握できていない場合は申告漏れが起こりやすいため注意しましょう。
申告漏れが発覚したら、修正申告書の提出と不足した分の相続税の納付が必要です。修正申告が遅れると過少申告加算税や延滞税などのペナルティを課せられるため、迅速に対応しましょう。
申告漏れを防ぐには、生前から早めに準備して相続資産を整理することが大切です。相続手続きは複雑なため、プロのサポートを受けることをおすすめします。