歳をとったかな?と思う症状のひとつが物忘れではないでしょうか。友人と会話をしているときに、歌手の名前がさっと思い出せないとか、さっきまでやろうとしていたことを忘れてしまうといったことが起きると、自信もなくして落ち込んでしまいますよね。
物忘れは認知症のはじまりなのではないかと思い、とても不安になる方も多いようです。しかし、実際の認知症はもっと症状が複雑ですので、軽い物忘れ程度ならそれほど不安に思うことはありませんが、でも、そうはいっても気になるものです。
少し物忘れが出てくる程度のことであれば、健忘症(けんぼうしょう)ともいいます。健忘症という言葉は新しい言葉のように思われますが、実は数百年前の中国の古い医学書にも出てくる症状の名称であり、古来から気になる症状のひとつとして、これまでも多くの方が訴えてきたのだと思います。
東洋医学からみた精神とは
東洋医学で物忘れを考えた場合、まず知っていただきたいのが東洋医学からみた精神です。精神といいますと、いわゆる精神力のような根性のようなものを思い浮かべるかもしれませんが、東洋医学では脳のような思考力を含めた広い意味での精神のはたらきをも指しています。物忘れを少なくするためには、まずこの東洋医学的な精神の成り立ちを理解しておくことが大切になります。
精神とは、実はひとつの言葉ではなく、「精気」と「神気」という2つの気を合わせたものをいいます。
「精気」とは生命力の根源のことをいい、私たちが生きている、この生命の出発点でもあります。生命現象のエネルギー源といったほうがわかりやすいでしょうか。
次に「神気」。神気は、はたらきそのものです。エネルギー源があっても、それが動く力に変換されないと実際の力にはなりません。やや誇張した例えにはなりますが、あえて分かりやすくお話ししてみますと、例えば石油です。石油そのものは精気です。しかし石油だけでは何も起きませんが、これに火をつけて動力に変換すると車が動いたり、灯りがついたりします。精気を使って産み出される動力が神気ということになります。かえってややこしくなったかもしれませんが(笑)、ひとまず、私たちの精神は「精気」と「神気」でできていると理解していただけるだけでも充分です。
記憶と関係する五臓
では、次に精気と神気がどこにあるかというお話に入ります。
「精気」が格納されているのは、腎になります。そして、「神気」があるのが心臓であり、血液にも含まれていると考えています。
この精気と神気がしっかりと存在することが精神の根本になりますので、精気と神気を貯えることが、まず物忘れを防ぐ大前提になります。
さらに、精気と神気がしっかりあったとしても、この2つがちゃんと交流していないといけません。精気+神気=精神ですから、お互いが交流し、合体する必要があります。精気は水、神気は火に喩えられるのですが、水と火が交流するということを水火既済(すいかきせい)といいます。
その一方で、精気と神気が交流ができなくなった状態を心腎不交といいます。これは、精気が納められている腎と、神気が存在する心が交わらなくなったという意味で、精神がうまく交流していない状況を指します。
このように、精神の源をしっかりと作れるようにし、交流ができるようにしておくことが物忘れ対策にとってとても大事なことになります。そしてさらにこれらに加えて記憶に良いとされるツボを使ってあげると、物忘れに対してはさらに良い効果が出ることが多いですので試してみてください。
腎の精気を強くするツボ
関元(かんげん)
関元はお臍の下、指を横にして4本分のところにあります。腎の精気が溜まる所に通じるツボになりますので、ここを押すことによって精気を安定させることができます。また、冬や夏の冷房などで冷えたときは精気も弱りがちなので、カイロなどでこの関元を温めると腎の保養になります。押さえるだけではなく、両手を当てて温めてあげることも効果的です。
心の神気を強くするツボ
神門(しんもん)
神気は心臓に通じると考えられていますので、心臓に通じる経絡上にあるツボを使用しますが、神門は、その名の通り“神気が出てくる門”というツボ。神門を使うことで、神気を強化して安定させることができます。ここは押しやすい場所ですので、お時間があるときでも押してほしいと思います。
心腎不交を防ぐためのツボ
神庭(しんてい)
神庭は髪の生え際から1センチ弱のところにあります。ここを押すと、ぼやっとしている頭がスッキリとしてくることがありますが、これは精気と神気がしっかりと交流を始めた証でもあります。頭のはたらきが鈍いようなときは、特に押してみることおすすめいたします。ただし、ここは繊細な頭の部分にありますので、あまり強く押しすぎないように、軽めに気持ち良い程度に押してください。女性や子どもは刺激に敏感なことが多いので、トントンと軽く叩く程度でやってみてください。
脳に活力を与えるツボ
脳清(のうせい)
脳清は、足首前面のシワの真ん中から上5センチくらいのところにあります。これは比較的新しく発見されたツボですが、“脳を清々しくする”という意味から命名されました。脳の働きを改善するツボになります。痛気持ち良いくらいに押してみてください。
クルミを食べよう
薬膳の考え方で、同じ形をしたものはお互いに相性がいい(形の似たものがその部位を助けてくれる)というのがあります。そこで、脳と似たものといえばクルミです。
脳を健やかにするということで、脳に良い食べ物を健脳食といいますが、クルミは健脳食の代表です。健忘症や物忘れを改善するために、クルミも定期的に召しあがってみてはいかがでしょうか。
以上は健忘症と呼ばれるような、物忘れの症状を改善するツボになります。冒頭にも書きましたように、認知症の判定はとても複雑なもので、物忘れだけで判別できるものではありませんが、もしかして…という不安がよぎることもあるかと思います。過剰な心配はよけいなストレスを増しますので、認知症の不安がある場合は専門機関で診てもらうことをおすすめいたします。