女性はホルモンバランスで年代により体調が大きく変化していきます。東洋医学でも昔から女性の体調の変化を捉えており、「7の倍数で体調が変化する」ともいわれてきました。
特に更年期前後から変化が激しく、さまざまな体調の変化を感じる方も多いのではないでしょうか。なんだか理由もないのにイライラしてしまうなど、なんとも言えない不調に悩まされていることもあると思います。そんな不調がちょっとでも楽になるように薬膳の知恵をぜひ活用してください。
東洋医学で考える女性のホルモンバランス
東洋医学では、更年期ごろのホルモンのバランスの乱れを、「肝と腎のバランスの乱れ」と考えています。
五臓六腑という言葉を聞いたことがある方もいると思いますが、東洋医学では五行といって色々なものを大きく5つの要素に分けて考えます。臓器も5つに分けて考えるのですが、その五臓に含まれるのが「肝」と「腎」です。
更年期頃から、この「肝」と「腎」の潤いが不足してきます。それが更年期症状の多くの原因になります。
「肝」は肝臓も含んだ働きのこと
血液を蓄えたり、心身の働きがスムーズにいくようにガイドしたりする存在です。お酒やウィルスの解毒をしたり、花粉症などのアレルギー反応を解毒したり、血液をきれいにしたり、デトックスと関係する臓器です。
また、感情のデトックスも行ってくれているので、怒りに関係する臓器です。この肝は血液を蓄えているのですが、血液が体内に充分にあって潤っていると肝が元気になります。
肝の潤いというのはこの肝に蓄えられている血液のことで「肝血」ともいいます。大体40代にさしかかると少しずつ肝血が減り始めてきます。
「腎」は腎臓だけでなく、生殖器やホルモン、脳、骨と関係する臓器です。成長・発育・生殖・老化に関係する臓器なので、特にホルモンバランスの崩れというのは腎と関係しています。腎は腎陰と腎陽に別れており、腎陰は潤いに関係するところで、腎陽は体を温める作用に関係しています。腎の潤い不足とは、この腎陰が減り始めることに関係しており、40代後半に入ってくるとだんだんと腎陰が減ってきます。
潤いが不足するのであれば水分をたくさん取れば良いのでは?と思う方も多いかも知れません。この潤いというのは水分だけでは補うことができない、もっとプルプルした潤いのことです。
例えば、若い頃はお肌がピチピチしていたのに、気がついたらハリがなくなっていた、というのが潤いが不足した状態です。赤ちゃんのほっぺはふっくらしていますが、年齢を重ねるとお肌だけでなく、身体のさまざまなところの潤いが失われていきます。
この潤いを蓄えているのが東洋医学では肝と腎です。そしてホルモンバランスが崩れるというのは、この潤いが失われていくひとつの過程となります。
更年期症状で多いのがホットフラッシュです。
ホットフラッシュは、急に暑くなってのぼせたような状態になり、人によっては汗が急に出てきたりします。これは潤いが不足することによって、身体を冷ます潤いが不足しているために起きている、と考えます。
これは水が入った鍋を火にかけている状態でいえば、水分が少なくなってきてちょっと火が強くなるとすぐに煮えたぎってしまうような状態です。また、火が強くなくても水が少なくなるとすぐに沸騰してしまいます。そのような状態が更年期ののぼせやホットフラッシュです。
この場合、慌てて火を弱めようとしてしまうと、エネルギーそのものが弱まってしまうので、お鍋の中の水分を増やしてあげることが大切です。ホルモンバランスが乱れるとなぜ気持ちが不安定になるのかこの潤い不足は感情の面でも起こりがちになります。
感情をクールダウンするだけの潤いが足りていないので、すぐにカッとしてしまったり、訳もなくイライラしやすくなったり、とまるで自分が自分でないような、コントロールができない状況になったりします。
東洋医学的に考えると、陰と陽のバランスが崩れている状態のことです。
どちらかが多すぎても少なすぎても体調や精神状態に変化をもたらしてしまいます。両方がバランスが取れているのが良い状態です。更年期は陰が少なくなってしまうことで、見かけ上陽が多くなっている状態です。
特に肝は熱がこもりやすく、怒りと関係する臓器です。潤いが不足して陰陽のバランスが崩れると、肝がクールダウンできずに興奮しがちになってしまいます。
肝は、色々なものの巡りをスムーズにする作用があるのですが、それがうまくいかなくなってしまうので、身体の中で滞りが出てきてしまいます。
感情面で滞りが出てきる状態を「気滞(きたい)」といい、気の巡りがうまくいっていない状態を指します。なんとなくイライラしやすくなったり、鬱憤がすぐに溜まってしまったり、そんな感情が出やすくなります。
これがもっと強くなってくると、「肝陽上亢(かんようじょうこう)」といって、肝がクールダウンできずに熱によって上にふわっと浮いてきてしまいます。そうすると、すぐにカッとなって怒ってしまったり、きつい言葉を吐いてしまったり、怒りのあまり目まいや頭痛、立ちくらみなどになってしまいます。場合によっては高血圧になることもあります。
ご自身でも後になって、「なんでこんなに怒ってしまったんだろう」と思うことがあるかもしれません。感情的な理由や出来事があって怒りが込み上げてくるわけではないので、困惑するかと思います。身体のバランスが崩れているために起きているので心当たりがないのも当然です。
気持ちを安定させる薬膳
訳もないイライラを解消するためには、まずしっかり潤いを増やしてあげることが大切です。そして肝にストレスや熱がたまらないように、クールダウンしてあげることで予防すると良いでしょう。
肝腎の潤いを増やす食材は、アンチエイジング食材でもありますので、更年期前後に積極的に食べてほしいものです。
気の巡りを良くする食材は、イライラしがちな気分を緩和してくれる食材です。香りの良いものはアロマやハーブティ、入浴剤などで活用しても良いでしょう。生理前のイライラにも効果的です。また、なんとなく巡り不足で体が重くなったり浮腫みやすくなったりする人にも良い食材です。
イライラをクールダウンする食材は、先ほどの肝陽上亢の状態を解消してくれるものです。すぐにカッとなってしまったり、怒りで血圧が上がってしまうような人は日常的に食べておくと良いです。
肝腎の潤いを増やす食材
アサリ、シジミ、牡蠣、ホタテなどの2枚貝、イカ、たこ、豚肉、鴨肉、すっぽん、山芋、クコの実、キクラゲ
気の巡りを良くする食材
玉ねぎ、ピーマン、三つ葉、柑橘類、カジキマグロ、そば、シソ、ミント、ジャスミン、バジル、バラ、ラベンダー、カモミール
イライラをクールダウンする食材
トマト、セロリ、せり、菊の花、クレソン、穴子、すっぽん、くらげ
なお、潤いを減らしてしまう食材もあるので注意しましょう。
香辛料(しょうがや唐辛子、カレーなど)は摂りすぎると潤いがどんどん蒸発してしまいますので注意しましょう。また、アルコールや脂っこいものの取りすぎは肝に熱をこもらせるので、気をつけてください。イライラするからとお酒で解消しようとすると悪循環に陥りがちです。
また、軽い運動やストレッチで身体をほぐすのも、気の巡りを良くするには効果的です。気持ち良くリラックスできる強度のものを選んでください。
サウナやマラソンなど大汗をかくものだと、逆に潤いがどんどん流出してしまうので注意してください。潤い不足だと筋肉も関節も潤いが減っており硬くなっています。膝痛や腰痛、五十肩など傷める方が非常に多いですから、ケガをしないように注意してください。
ホルモンバランスによって、潤いが減っていく、と聞くと悲しむ方が多いですが、これは自然の摂理である意味仕方のないことです。元に戻す、というのはちょっと難しいのですが、上手に使っていく、減り方をなだらかにしていく、というのが養生になります。
更年期を上手に過ごすことはその後の世代が上手に過ごせるかどうかの手掛かりになります。素敵に歳を重ねられるよう、東洋医学の養生法をぜひ活用してください。