日本の食文化を代表する、食卓に欠かせない調味料は、「醤油」ではないでしょうか。食欲をそそる香り、旨みをたっぷり含んだ優しい味、五味がそろったバランスのとれた調味料です。醤油は子どもの頃に食べた味、ふるさとの味を大事に食べ続ける調味料だともいわれています。産地によって味わいが違い、造り手の個性が豊かに出る調味料でもあります。
そこで今回は、調味料ソムリエのMICHIKOさんに、美味しい醤油を選ぶポイントを解説していただき、合わせておすすめの商品をご紹介します。ぜひ、参考にしてください。
1.醤油とは?
醤油は、日本古来の発酵調味料です。大豆と小麦、食塩を原料に微生物(こうじ菌、酵母、乳酸菌)の働きによって発酵させ作られています。大豆にはビタミンB1・葉酸・カリウムなど栄養成分が多く含まれている食品です。
醤油の味は、大豆に含まれるタンパク質による豊富なアミノ酸がコクを引きたてるまろやかな味わいです。香りは小麦に含まれるデンプンの仕事です。食べ物のおいしさを決めるといわれる5つの味、「旨味」「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」、それに「香り」が結びついて、複雑に絡み合い、バランスの取れたおいしい味を醸し出します。醬油は日本が生み出した独特の調味料です。
2.カラダのなかでの醤油の大切な働きとは?
大豆の発酵食品である醤油は、醸造の段階で大豆ペプチドを生み出します。この大豆ペプチドには、血液中の悪玉コレステロールの抑制や、善玉コレステロールの増加を促したり、代謝の促進や脂肪燃焼の促進といった効能があるといわれています。
3.調味料ソムリエプロがおすすめ「醤油」3選
ここからは、調味料ソムリエプロであるMICHIKOさんが厳選したおすすめの「醤油」3選をご紹介します。
(1)「超特選 下総なま醤油」(ちば醤油株式会社・千葉県)
「調味料選手権2018」のしょうゆ部門で最優秀賞を受賞。 ちば醤油は、創業嘉永7年(1854)年、かつて下総(千葉県北東部)と呼ばれた温暖な地で育まれてきた醸造会社です。原料の丸大豆、小麦、食塩のすべてを国産の厳選したものだけを使用し、伝統ある木桶でゆっくり熟成させています。蔵には、170年もの間、棲みついているたくさんの微生物が付着しています。これこそが醤油の醸造に不可欠な「蔵つきの酵母」で、まろやかな味わいを醸成する蔵の命です。こうした温暖な地と微生物の力を借りながら、創業当時から使い続ける木桶の中でゆっくり時間をかけて醸造された醤油です。蔵人の熟練の技が光る、昔ながらの手法で丹精込めて作られた逸品です。特に赤みのさした明るい色合い、大豆と麹の甘みと際立つ旨味、小麦の香り高さが活きています。
この醤油を火入れ(加熱処理)をせずに、開栓後も空気の入らない密封ボトルに詰めます。密封ボトルは酸化を防ぐため、開栓後の鮮度が長持ちします。通常の醤油と違い、生醤油は火入れをしないため、味・香りが穏やかです。つけても、かけても素材の風味を邪魔しません。おススメは、卵かけご飯です。ご飯に卵とかつお節をたっぷりかけて、醤油をサッと回しかけると最高の卵かけご飯が出来上がります。ゆでたうどんに薬味と醤油をかけるだけでも美味しいです。煮物などの黄金比は、醤油:みりん:酒 1:1:1、お好みで砂糖を少し、出汁との相性も抜群です。
旨みの強さが特徴の「超特選 下総なま醤油」です。
「超特選 下総なま醤油」を使ったおすすめレシピ 「スナップエンドウと鶏肉の甘辛しょうゆ炒め」
甘辛い味があとを引く美味しさ♪ ごはんにたっぷりのせて、丼風にも合います。
- 【材料】(2人分)
- 鶏むね肉140g、スナップエンドウ、レンコン、赤パプリカ:各70g、こめ油(サラダ油)大さじ1
- A:酒:小さじ2、片栗粉:小さじ1
- B:醤油、酒:各大さじ1、ハチミツ、ショウガ(すりおろし):各小さじ1
- 【作り方】
- 1)鶏むね肉は約2cm角に切り、「A」をからめて下味をつける。
- 2)スナップエンドウは筋を取り除き、レンコンは皮をむき、パプリカとともに、約2cm角に切る。
- 3)フライパンに、こめ油を熱し、1)の鶏むね肉を入れてよく炒め、2)の野菜類を加え炒める。
- 4)「B」を加えて、ふたをして弱火で2~3分蒸し煮にする。
- 5)器に盛る。
(2) 「天然醸造 丸大豆しょうゆ」(松合食品株式会社・熊本県)
「調味料選手権2017」で審査員特別賞を受賞。江戸時代から続く醸造蔵元が作る、農薬や化学肥料不使用の九州産の丸大豆を使い、じっくり発酵・熟成することにより、芳醇な香りとふくよかな旨みを持つ使い勝手のよい濃口醤油です。
(3)「雲丹醤油」(株式会社ロコファームビレッジ・北海道)
「調味料選手権2019」で総合第1位を受賞。創業75年の醤油蔵で作られた北海道丸大豆醤油をベースに、雲丹をふんだんに使った、コクと香り、濃厚な味わいの雲丹醤油です。冷奴や卵かけご飯、パスタにお勧めです。
4.醤油の使い方のポイントとは?
醤油の役割は独特の香りや旨みを補うことにあります。醤油の使い方についてのポイントをいくつかご紹介します。
4-1. 煮物を作る時
香りづけには、発酵食品である醤油の香りはとても繊細で、長く加熱していると飛んでしまいます。火を止める直前に加えることで、ふわっと漂う醤油の香りを付けることができます。しっかりと味をつけたい時には、数回に分けて醤油を入れると香りを逃がさずに煮含めることができます。最後に、火を止める直前に少量の醤油を入れるのもポイントです。素材の表面に味を絡ませたい時には、初めから、すべての調味料を合わせて、煮汁の中に入れると、短時間の加熱で中まで味が染み込まずにあっさり、素材の味を楽しめます。
4-2.野菜の煮物を作る時
材料が柔らかくなるまで出汁で下煮してから、調味料を加えましょう。弱火で煮て、最後に醤油を加えましょう。お煮しめは出汁や砂糖、醤油を加えて、汁気がなくなるまで煮て、照りを出すように仕上げましょう。
4-3.煮魚を作る時
青背の魚は調味料がしみにくいので、時間をかけてじっくりと煮含めましょう。火を止める直前に醤油を回しかけると、風味よく仕上がります。白身の魚を煮る時は、素材の持ち味を活かすために、調味料を合わせて煮立った中に入れ、短時間で煮上げます。
4-4.焼く時
肉や魚などを焼いてから、醤油を回しかけると、とても香ばしい香りがします(テリヤキと呼ばれるもの)。餅やおむすびに醤油を塗って焼くと、醤油の焦げたいい香りが漂います。(メイラード反応によるもの)。
4-5.炒め物を作る時
合わせ調味料として味付けに使い、さらに仕上げに鍋肌を沿わすように醤油を少量加えると、香ばしい風味がつきます。また、淡口醤油を使う時は、最後に風味付けに使うと良いでしょう。
4-6.漬物を作る時
醤油に野菜や乾物を漬け込むことで、野菜の細胞の中の水分が引き出され、傷むのを防ぐと同時に、醤油の旨みを吸い込んで美味しくなります。
4-7.醤油洗い
青菜などを茹でて絞ったものに、醤油をかけてもう一度絞ると、水分とアクがとれます。
4-8.困った時はとりあえず、醤油
人がおいしいと思う味は弱酸性です。醤油には料理を酸性に保つ働きがあります。アルカリ性食品である納豆や生卵に醤油をかけたり、ちょっとひと味足りないな、と感じる時に、とりあえず、醤油を入れるのは理にかなっていますよ。
5.醤油の種類と特徴とは?
醤油の原料の大豆と小麦の割合や、食塩の量、また醸造期間によって出来上がる醤油の色や味、香りは変わってきます。醤油には地域の嗜好やとれる産物、調理法の違いなどによって、微妙な違いがあります。江戸時代に完成されて、「濃口」「淡口」「再仕込み」「たまり」「白」の5つに分けられます。最近は、ここに「甘口」が加わります。
5-1.濃口醤油
最も一般的な醤油で、全醤油の生産量80~90%を占めています。全国各地で作られ、主に千葉県の銚子、野田を中心にして関東で発達したものです。原料は大豆と小麦が1:1、食塩。食塩分は約16%。(色・香り・味わいのバランスがよく、調味料から卓上までオールマイティに使えます。)様々な料理の味付けに使われ、つけ・かけ醤油に適しています。刺身、和え物、煮物、つけダレなどに。特にサバやカツオ、イワシ、サンマなど脂質の多い青背の魚に合います。
5-2.淡口醤油
兵庫県たつの市で生まれ、関西でよく使われている色の淡い醤油です。製法は濃口醤油とほぼ同じ、大豆と小麦が同量ずつ、食塩。色を淡く仕上げるために食塩を約1割多く使用しています(食塩分は約18%)。また、味をまろやかにするために甘酒を加えています。素材の持ち味を生かすために色や香りを抑えた醤油で、吸い物や野菜の煮物、白身の魚等に使われ、だし風味と一緒に味わえる料理が得意です。
5-3.再仕込み醤油
山口県を中心に山陰から九州地方にかけて作られています。他の醤油は仕込み時に麹を食塩水で仕込むのに対し、代わりに酵母が生きている状態の醤油を使って仕込むため、この名があります。材料と時間、手間と技術をかけて作られています。食塩分は約18%。色、香り・味わいともに濃厚で、コクがあり、トロリとしています。別名「甘露醤油」ともいわれ、刺身、寿司、冷奴など、おもに卓上でのつけ・かけ用に使われたり、野菜の煮しめや魚の煮物などに使われています。
5-4.たまり醤油
主に東海・中部地方で古くから作られている醤油。原料は大豆とわずかな小麦を使い、1年かけて発酵・熟成させます。食塩分は約16%。色が濃くとろりとした濃厚な旨み、独特な香りが特徴です。「刺身たまり」と呼ばれ、寿司、刺身などの卓上用に使われます。肉や魚の臭みを抑え、柔らかくする効果もあります。加熱するときれいな赤色を帯びるため、照り焼き、煮魚などの調理用や、佃煮、せんべいなどの加工用にも使われます。
5-5.白醤油
愛知県碧南地方で生まれ、淡口よりさらに淡い琥珀色の醤油です。原料は、小麦がほとんどで大豆が少量使われています。蒸した小麦を主原料に、発酵・熟成は短時間、低温に保つことで琥珀色になります。味は淡白ながら、甘みが強く、独特の芳香があります。色が淡く、香りも優しいので、吸い物や茶わん蒸し、うどんやきしめんなどのつゆ、ドレッシングや漬物など食材の色を生かす料理に使われています。
5-6.甘口醤油
九州地方、北陸、中国(日本海側)、四国の醤油は甘みを強調した個性豊かな醤油が好まれています。醤油蔵によってさまざまな製法がありますが、主に砂糖やブドウ糖、甘草、ステビアなどの甘味料を入れることにより、食塩分を抑えた旨みと甘みを増したマイルドな口当たりの醤油です。淡白な魚介の味を引き立てたり、卵かけご飯や焼きおにぎり、白身魚の刺身や馬刺しなどには相性の良い醤油です。
5-7.なま醬油
発酵・熟成後のもろみを搾った後、火入れをせずに出荷される醤油です。火入れした醤油よりも、鮮やかな澄んだ色で、豊かな旨みと甘み、華やかに香り立ち、口あたりがあっさりしています。また、酵素が生きたまま残っているため、食材に味が染み込みやすいのが特徴です。普通の醤油と同じように、炒めものや煮物、焼き物、刺身などに幅広く使えます。なま醤油に始めて火が入る炒め物や煮物にすると、食欲をそそる香ばしさが広がります。なま醤油の風味を活かすには、そのままつけだれにするか、さっと炒めるくらいが良いでしょう。また、なま醤油は普通の火入れした醤油に比べて酸化しやすく、風味が劣化するのが早いという弱点があります。酸化を防ぐ特殊な密閉容器に入ったものを選んだり、あるいは冷蔵庫に入れて保存しましょう。
醤油は下ごしらえから調理、仕上げ、保存まで、幅広く活躍する万能調味料といえます。「醤油」を使いこなして、美味しさと健康と美を手に入れよう。