「モンテッソーリ教育」についてご存じでしょうか。日本では将棋棋士の藤井聡太さんが受けていたことからメディアでも取り上げられており、聞いたことがあるという方もいるでしょう。
今回は、モンテッソーリ教育に興味がある方へ向けて、モンテッソーリ教育とはどういった教育法なのか、どんなメリット・デメリットがあるのかなどについて紹介します。
「どんな教育法なのか興味がある」「モンテッソーリ教育を実践してみたい」という方はぜひ参考にしてみてください。
1.モンテッソーリ教育とは
マイクロソフトを創設したビル・ゲイツ氏や、Facebookを立ち上げたマーク・ザッカーバーグ氏、将棋棋士の藤井聡太さんも受けて育ったといわれる教育がモンテッソーリ教育です。はじめに、モンテッソーリ教育とはどんな教育法なのか説明します。
1-1.モンテッソーリ教育の概要
モンテッソーリ教育とは、20世紀初頭にイタリアの医師であり、教育家でもあったマリア・モンテッソーリ博士によって考案された教育法です。
もともとは障がいを持つ子どもへの教育のため開発されましたが、現在では障がいを持つ子どもに限らず広く普及している教育法となっています。
モンテッソーリ教育では、大前提として子どもには「自己教育力」が備わっていると考えられています。自己教育力とは、自ら目標を設定し、その目標に向かって自ら働きかけ、自己統制をしながら自らの成長を絶え間なく図っていこうとする力のことです。
例えば、子どもは歩くことを教えなくても自ら歩こうとし、子どもは言葉を教えなくても話すことを覚えます。これは、子どもが周囲の環境に関わっていく中で「自立するためには話すことや歩くことが必要だ」と自ら判断し、自分を育て、成長・発達しようとしている「自己教育力」の表れだといえるでしょう。
モンテッソーリ教育はこの「自己教育力」の存在をもとに自立する人間を育てる教育法なので、自分自身で決断・行動しながら生きていく力が必要な現代を生きていく子どもにぴったりな教育かもしれません。
1-2.モンテッソーリ教育の考え方
モンテッソーリ教育は、子どもを観察して見出した事実に基づいた科学的な教育法です。
基本的な考え方は「子どもには自己教育力があり、その力を存分に発揮するためには発達段階に沿った環境(人的環境・物的環境)が必要だ」というものです。つまり、大人は子どもに直接何かを教える必要はなく、お手本や方法を教えるだけで良いのです。そして、子どもがどのように発達していくのかを知り、子どもをよく観察して環境を整えることが大切です。
また、モンテッソーリ教育では独自の教具を使った活動を「お仕事」と呼びます。大人が生活をしていくために仕事をするように、子どもも「お仕事」をし、これによって自主性を学び、成長・発達していくのです。
「お仕事」には日常生活の練習・感覚教育・言語教育・文化教育・算数教育の5つの分野があり、どれも大人が指示するのではなく、子どもの自主性が尊重されています。
次項からは発達段階別に「お仕事」の内容(教育環境)を解説していきます。
2.0~3歳の教育環境
モンテッソーリ教育において0~3歳までは「吸収する精神(無意識)」の時期です。子どもの発達段階を4段階に分けており、その第1段階である乳幼児期(0〜6歳)の前期にあたる時期をこう呼びます。この時期は人生の中で最も強い吸収力があり、難しいことをいとも簡単に獲得し、それを繰り返すことで人間社会に適応していきます。
そんな前期には主に7つの「お仕事」(教育環境)が用意されています。
2-1.粗大運動の活動
粗大運動とは、手足や胴体の筋肉を使って身体全体を大きく使う動きのことです。鉄棒や跳び箱などの体育的なものではなく、歩くことや階段の昇り降りなどを指し、これらは子どもが自立するための一歩となります。ずりばいから歩行までの運動の獲得を大人がサポートします。
2-2.微細運動の活動
微細運動とは指や手、腕の筋肉を使用した細かい動作で、触る、握る・叩く・落とすなどの動きを指します。初めは手のひら全体を使って物を掴み、慣れてきたら親指と何本かの指で、最終的には人差し指と親指でつまめるようになります。これらの動作を繰り返し行うことで、大人と同じような動きの獲得につながります。
2-3.日常生活の練習
粗大運動と微細運動が合わさることで日常生活の練習につながります。身体全体と指先の運動を組み合わせ、大人の模倣をしながら着衣や脱衣、机を拭く、手を丁寧に洗うなど、日常生活における動作を練習して自立心を養います。日常生活に参加することで、社会を構成する一員として、周囲の環境に適応することを促していくのです。
2-4.言語教育
この時期は周囲から聞こえる言葉を母語として獲得していく「言葉の敏感期」です。ただし、言葉の質や量は環境に左右されるため、モンテッソーリ教育では子どもの発達に合わせて細かなステップを用意し、語彙力を高めてさまざまな言葉を身に付けていきます。
2-5.感覚教育
子どもはさまざまな感覚的印象を「吸収する精神」によってため込んでいきます。この感覚的な印象を教具に触れて整理し、感覚の洗練を促します。子どもの興味に合わせた教具に触れたり、試したりすることで「危ない」という危険感覚や、「きれい」という美的感覚を持つようになります。また、感覚教具の使用方法を覚えることで、子どもの知性の養成も促します。
2-6.音楽
子どもは音楽を聴くと自然に身体を揺らしたり、手を叩いたりして表現することを楽しみます。音楽のリズムに乗って身体を動かすことでさまざまな動作を覚えていくため、音楽を聴き、楽器を鳴らし、歌ったり踊ったりすることを促す環境を用意します。
2-7.美術
粘土をこねたり、絵筆やクレヨンを使って絵を描いたりして、言葉を使わずに自分の思いを表現します。この「お仕事」では目と手の協応動作の獲得を目指す他、指先運動の精度を高め、自由に思いのまま表現することを楽しみます。
3.3~6歳の教育環境
モンテッソーリ教育では3~6歳までを乳幼児期における後期としています。この頃のことを「意識の芽生え」の時期と呼んでおり、前期で無意識に吸収した事柄を意識的に整理し、秩序化していく時期です。
そんな後期には子どもの自己教育力を発揮させるために、5つの「お仕事」(教育環境)が用意されています。
3-1.日常生活の練習
運動の完成を目指すことが、後期における「日常生活の練習」です。「運動の敏感期」と、大人のすることを真似する「模倣期」を利用し、日常生活の場で身体を自分の意思どおりに動かす能力を身に付けます。具体的にはハサミで切る・ボタンをかける・洗濯をする・室内を掃くなど、実際の生活と関連する動作・活動の練習を行います。これにより、子どもは自立に向けて大きな一歩を踏み出すのです。
3-2.感覚教育
3歳になると感覚器官がほぼ発達を遂げ、かすかな音でも聞き逃さず、小さなものを見つけたり、においや味を区別したり、いろいろな感覚刺激に対して敏感になります。この「感覚の敏感期」に練習を通じて感覚器官をより洗練することで、外界からさまざまな情報を取得できるようになり、情緒や知性の発達につながります。また、感覚教具を扱うことで脳の前頭葉が刺激され働き始めるため、「ものを考える方法」や「ものを観察する力」を身に付けることができるでしょう。モンテッソーリ教育において、知的教育分野の基礎が感覚教育とされており、重要な役割を担っています。
3-3.言語教育
0~3歳の「言語の敏感期」に自分の周りから聞こえる言葉を母語として獲得します。モンテッソーリ教育では子どもの発達に応じてきめ細やかなステップを踏み、絵本や絵のカード、文字カードなどの教具を用いて、最終的には文章の構成や文法まで身に付けていきます。
3-4.算数教育
後期には数字や物の大きさ、量、車のナンバープレートなどに興味を示す「数の敏感期」が表れます。モンテッソーリ教育では、手で触れられるような教具を用いて数について学んでいきます。教具を使用することで抽象的になりやすい数の概念が具体的になり、実際に手で触れながら数量や数字を学ぶため、スムーズに2桁・3桁の計算や暗算に移行できるようになります。
3-5.文化教育
文化教育は、言葉・数以外で子どもが興味を持つ幅広い分野のことを指し、小学校の理科や社会に相当します。例えば、歴史や地理、動物や植物などのことです。子どもの「知りたい」という知的好奇心に応え、興味の種を多くまくことを目的としています。
4.モンテッソーリ教育に必要な3つの要素
モンテッソーリ教育では、教具・大人・整えられた環境の3つの要素が必要になります。詳しく見ていきましょう。
4-1.教具
モンテッソーリ教育における教具とは、独特な知育玩具のことで、言語教育や感覚教育などさまざまな「お仕事」の場で使用されます。
材質や色、重さにこだわっており、子どもの興味を引くだけでなく、五感を刺激するなどの工夫が施されています。算数教育や言語教育が組み込まれた教具もあり、遊びを通じて学びやその後の勉強の理解にもつなげることが可能です。
教具は数百円のものから数万円するものまで幅広くあり、最近は100円ショップでも購入することが可能です。ご家庭にあるもので手作りすることもできます。
4-2.大人
モンテッソーリ教育において、大人はあくまで子どもが学びやすい環境作りを行う「援助者」であると考えられています。大人の価値観で一方的に教えるのではなく、子どもを正しく理解し、適切な環境を用意し、子どもと環境を結び付けることが大人(援助者)の役割とされています。詳しく見ていきましょう。
・見守る
教具の使用方法が分からないときや、困っているときのみ子どもを手助けします。なんでもかんでも大人が教え、指示をしてしまうと、子どもが試行錯誤し、自ら考えて達成することができなくなってしまうためです。子どもの成長のためにも、手助けしたい気持ちを抑えて見守ることが大切です。
・選択肢を与える
モンテッソーリ教育ではいくつかの選択肢を子どもに与え、自分自身で決めることを大切にしています。例えば、これまでに紹介した「お仕事」でも、子ども本人に数ある選択肢から取り組みを選んでもらいます。自分自身で選択したからには責任が伴うため、子どもは責任を持って教具を扱い、片付けなければなりません。このように、自分で選択するという自由の中で規律を学んでいくのです。
・環境を整備する
モンテッソーリ教育では、さまざまな教具を使用します。子どもが自分で活動を選び、作業ができるよう、教具は子どもの目のつく場所に整理整頓して置くなど配慮する必要があります。日常生活の練習においても、踏み台や子どもが扱いやすいサイズのものを用意しておきましょう。
4-3.整えられた環境
子どもには自己教育力がありますが、その力を発揮するためには「整えられた環境」が必要です。子どもが自発的に活動し、自分の発達課題をクリアしていくためにも、次の4つのポイントを念頭に置くと良いでしょう。
・教具
子どもの感性を磨くために、材質や色彩にこだわった教具を用意しましょう。コップや花瓶を使用するときには、プラスチック製でなくガラスや陶器でできているものを選ぶことで、物を丁寧に、慎重に扱うことを覚えます。
・子どもに合わせたレベル
基本的に教具や知育玩具などは、子どもの発達レベルに応じたものを使いましょう。ただし、現段階では使うことができない・使い方が分からないという教具でも、子どもの目につくところに置いておくことで興味や予習につなげることができます。
・整理整頓
子ども自身で活動を選択し、作業が行えるように、教具を整理整頓しておきます。子どもの手に届く場所に、分野ごとに整理しておくと良いでしょう。
・作業しやすい場所
子どもが「お仕事」に集中できるような場所を確保しましょう。活動によっては立ったままでも行えますが、椅子に座った方が良い場合もあります。作業の内容や子どもの発達に応じて空間作りをすることが大切です。
5.モンテッソーリ教育のメリットデメリットは?
多くの保育園や幼稚園、ご家庭でも行われているモンテッソーリ教育。ここからはモンテッソーリ教育のメリットとデメリットについて紹介していきます。
5-1.モンテッソーリ教育のメリット
モンテッソーリ教育には次のようなメリットがあります。
・集中力が養える
モンテッソーリ教育で使用している教具には、自然と子どもが夢中になれるようなものが多く、集中して「お仕事」に取り組むことが可能です。また、上記でも説明したように、モンテッソーリ教育において大人はあくまで援助者であるため、親や教師から指示を受けることがありません。子どもは自分の納得がいくまで作業を行えるため、自然と集中力が養われるのです。
・子どもの個性が伸ばせる
モンテッソーリ教育では全員で同じ活動を行うことはなく、子ども自身が好きなことを選択して取り組みます。自発性が尊重され、子ども一人ひとりの性質や発達段階に応じた保育・教育が行われるため、子どもの個性を伸ばすことが可能です。
・情緒が安定する
「お仕事」に集中している間は、大人の判断で作業を中止させることはしません。あくまで子どもの自発的な成長を手助けするだけなので、子どもはやりたいことを納得いくまで思う存分することができます。そうして達成感を味わうことで心に落ち着きが生まれ、情緒の安定につながるでしょう。
・積極性と自主性が身に付く
モンテッソーリ教育の特徴である「お仕事」では、時間内で集中して「したいこと」を思う存分やり尽くすことができます。この環境が、子どもが積極的に行動する力や自主性を身に付けることに役立つのです。
5-2.モンテッソーリ教育のデメリット
次に、モンテッソーリ教育のデメリットについて説明します。
・協調性にかけ、集団行動が苦手になる
モンテッソーリ教育は子ども一人ひとりの個性を伸ばす教育法です。そのため自立性は身に付きますが、周りに合わせることや、みんなで一緒に何かに取り組むといった集団行動が苦手になってしまうこともあるでしょう。
・運動不足になりがちなので、元気な子には向かない
モンテッソーリ教育では屋内で「お仕事」を行うことが多く、屋外での活動が少なくなります。運動不足になる可能性がある他、室内遊びを好まない子どもにとっては物足りなく、ストレスを感じてしまう可能性も。外遊びや運動の時間を設けている保育園・幼稚園もありますが、物足りないようであれば公園に連れて行ったり、スポーツ教室に通わせたりしてみましょう。
おわりに
モンテッソーリ教育とは何か、メリットやデメリットについて紹介しました。子どもの個性や積極性・自主性を養うためには、まずは環境を整え、その後は大人は「援助者」として見守ることが大切です。また、運動不足になりやすいなどのデメリットもあるため、意識的に身体を動かすなどの工夫をしてモンテッソーリ教育を取り入れることをおすすめします。