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相続人が認知症だったら手続きはどうなる?事前にできる対策でトラブル回避

相続人が認知症だったら手続きはどうなる?事前にできる対策でトラブル回避
セゾンのくらし大研究 編集部

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相続が発生したとき、相続人の中に認知症の人がいると通常の方法では対応できない可能性があります。高齢社会の日本では、相続人も高齢で認知症になっているケースも少なくありません。その場合はどのように相続手続きを進めれば良いのでしょうか。

この記事では、認知症の相続人がいる場合の相続手続きについて、起こりうるトラブルや成年後見制度の利用方法、トラブルを防ぐために事前に取り得る手段も合わせて解説します。スムーズに相続を進められるよう、ぜひ参考にしてください。
(本記事は2024年1月31日時点の情報です)

この記事を読んでわかること
  • 相続人が認知症の場合に起こる2つのトラブルは、遺産分割ができないこと、相続放棄や限定承認ができないこと
  • 遺産分割協議ができず法定相続になると、共有不動産の売却ができず預貯金も自由に引き出せない
  • 成年後見制度を利用すると相続人が認知症でも遺産分割協議ができるが制約も多い
  • 認知症によるトラブルを防ぐためにできる事前対策は、遺言書の作製、生前贈与、家族信託の活用の3つ
相続手続きサポート
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相続手続きの方法は2つ

相続手続きの方法は2つ

相続が発生した場合、相続人の中に認知症の人がいる場合は、通常の相続手続きでは解決できない可能性があります。相続手続きの方法には、「法定相続」と「遺産分割協議」がありますので、まずはそれぞれの手続きの概要を見ていきましょう。

法定相続による手続き

法定相続とは、民法で定められている原則的な相続方法です。法定相続人が法定相続分に基づいて相続財産を受け継ぎます。

例えば、被相続人である夫に妻と複数の子がいる場合、法定相続人は妻と子全員です。妻の法定相続分は1/2、子の法定相続分は全員合わせて1/2なのでそれを均等に分けます。

不動産については、法定相続人が法定相続分に基づき共有する形なら相続人のひとりが相続登記を申請できるため、認知症の法定相続人がいても手続きが可能です。

ただし、預貯金については原則として遺産分割協議が必要であり、法定相続分で分ける場合でも相続人全員の印鑑証明書を提出しなければなりません。そのため、認知症の人を除外して相続手続きを進めるのは事実上困難であることを知っておきましょう。

遺産分割協議による手続き

遺言書がない場合、相続財産は遺産分割協議を行って分ける必要があります。遺産には現金のように1円単位で分けられるものばかりではなく、不動産のようにきれいに分割できないものもあるからです。

遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。相続人がひとりでもかけると遺産分割協議は法律上無効とされます。認知症の相続人がいる場合、その人は適切な判断能力がないため、代理人を立てる必要がある点に注意してください。詳しくは後述します。

相続人が認知症の場合に生じる2つのトラブル

相続人が認知症の場合に生じる2つのトラブル

相続人が認知症の場合、判断能力が不十分なため、財産の名義変更や登記手続きがスムーズに進まない可能性があります。

ここでは、相続人が認知症の場合に生じる以下2つのトラブルについて詳しく見ていきましょう。

【相続人が認知症の場合に生じる2つのトラブル】

  • 遺産分割協議ができない
  • 相続放棄や限定承認ができない

遺産分割協議ができない

遺言書があればその内容に従って相続手続きを進められますが、ない場合は遺産分割協議を行わなければなりません。遺産分割協議とは、相続が発生した場合に相続人全員で遺産の分割方法について話し合う手続きです。遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ法律上無効となります(民法907条の1)。

遺産分割協議は必ず行わなければならないと定められているわけではありません。しかし、相続財産の名義変更や売却・処分などの手続きの際に遺産分割協議書の提出を求められるケースが多いため、遺産分割協議を行わずに放置することは現実的な選択とはいえないでしょう。

相続人の中に認知症で判断能力が低下している方がいる場合、適切な意思表示ができないため相続人全員の合意が得られないことになるため、遺産分割協議が成立しません。そうすると、法定相続分通りに相続するか代理人を立てなければ遺産分割協議は不可能です。

なお、たとえ家族であったとしても代理権がない方が代わりに遺産分割協議書に署名や捺印をしてしまうと、私文書偽造罪に問われる可能性もあるため注意が必要です。

相続放棄や限定承認ができない

相続人が認知症の場合、相続放棄や限定承認もできません。これらは、本人の意思能力が必要な法律行為だからです。

相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がないことです(民法第938条、第939条)。

限定承認とは、相続人が相続財産から被相続人のマイナスの財産(借金など)を清算して財産が余ればそれを引き継ぐことです(民法第922条、第923条)。

認知症だからといって必ずしも意思能力がまったくなくなり、法律行為ができなくなるとは限りません。しかし、法律行為に関する意思能力の有無は家族や認知症の方が判断するのは避けた方が賢明です。もちろん、認知症の方の代わりに代理権のない家族や他の相続人が相続放棄や限定承認を申し立てても無効となります。

関連記事:認知症になったら遺言できない!?遺言する際に押させておくべきポイント

遺産分割協議ができないとどうなる?法定相続で遺産をわける3つのデメリット

遺産分割協議ができないとどうなる?法定相続で遺産をわける3つのデメリット

遺産分割協議ができなければ、法定相続人が法定相続分に基づき遺産を相続します。

民法882条により相続は被相続人の死亡によって開始すると定められているので、遺産分割協議ができず遺言もない場合、法定相続人は被相続人が死亡した時点で法定相続分を相続するわけです。しかし、相続財産が法定相続分に基づく共有財産となるため、特に不動産を動かす場合や税金などの点でトラブルに発展しかねません。

ここでは、法定相続で遺産を分ける3つのデメリットについて解説します。

共有の不動産となり売却・賃貸ができない

預貯金などの現金は、法定相続分にしたがい、案分して相続できますが、不動産は物理的に分割できません。遺産分割協議ができれば誰が何を相続するのか明確ですし、特定の相続人が不動産を相続した場合は他の相続人に対して金銭を支払って代償分割することも可能です。

しかし、遺産分割協議ができなければ不動産は法定相続分で、認知症の相続人を含めて相続人全員の共有名義となります。共有名義の不動産は、将来売却や増改築の必要が出てきた場合に共有者全員の合意が必要ですが、認知症の相続人がいる場合はその合意も得られません。不動産は売却・増改築もできない凍結状態になり、メンテナンスの費用と手間だけがかかります。

また、法定相続でない場合は、相続登記を行う際には遺産分割協議書の提出が求められるため、相続人が認知症で遺産分割協議ができなければ相続登記もできません。令和6年4月1日から不動産の相続登記が義務化されます。相続登記を行わずに不動産の共有状態を放置すると相続人間でトラブルが発生したり、いわゆる空き家問題に発展したりするでしょう。

銀行から預貯金が自由に引き出せない

預金口座の名義人がなくなったことを銀行が知ると、預金口座は凍結されて取引ができなくなります。

預金口座も法定相続人が法定相続分にしたがって保有している状態になるため、それぞれの相続人が持ち分に応じて払い戻しを請求することが可能なはずです。ただし、銀行は実務上、預金口座が本当にその共同相続人に相続されたのか、相続の割合も含めて確認するために、お金を引き出す場合に遺産分割協議書の提出を求めています。

遺産分割協議ができずに法定相続で遺産を分ける場合、遺産分割協議書がないため実際には自由に預貯金を引き出すことはできません。

相続税を抑えるための特例が利用できない

相続が発生した場合、相続税を納付する必要がありますが、相続税には課税価格(相続税が課せられる価格)や税額が控除される制度が用意されています。例えば、「配偶者控除」「小規模宅地等の特例」などです。

このような特例が適用されれば相続税の大幅な減額が期待できますが、控除や特例を申請するためには、遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写しが必要です。遺産分割協議ができず、遺言書もない法定相続の状態では特例や控除の適用を受けることはできません。

成年後見制度を利用すれば相続人が認知症でも遺産分割協議が可能

成年後見制度を利用すれば相続人が認知症でも遺産分割協議が可能

法定相続によって遺産をわけることには多くのデメリットがありますが、では相続人に認知症の方がいる場合、遺産分割協議はまったくできなくなってしまうのでしょうか。認知症の相続人がいて判断能力が不十分な場合に遺産分割協議を行う方法として、「成年後見制度」の利用が挙げられます。

成年後見制度には以下の2種類があります。

  • 法定後見制度
  • 任意後見制度

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

法定後見制度

法定後見制度とは、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)が本人を法律的に支援する制度です。相続発生時に相続人が認知症だった場合は、法定後見制度を利用することになります。

法定後見制度では家庭裁判所が成年後見人等を選任し、後見内容を決定します。後見開始の審判が下り、所定の手続きを経たのち、成年後見人等による本人の財産や日常生活の支援・保護が開始されます。そのため、成年後見人等が認知症の相続人に代わって遺産分割協議に参加することが可能です。

任意後見制度

任意後見制度とは、本人が十分な判断能力を有する間にあらかじめ任意後見人となる方や将来その方に委任する事務(本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務)の内容を契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後、任意後見人がこれらの事務を本人に代わって行うことです。

任意後見契約は、公証人が作成する公正証書によって締結します。ただし、本人自身が事務に関して決定することに心配が出てきた場合に、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されてはじめて任意後見契約の効力が生じる点に注意してください。この手続きを申し立てることができるのは、本人とその配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です。

任意後見契約の効力が生じれば、任意後見人が認知症の相続人に代わって遺産分割協議に参加できます。

関連記事:認知症になる前に成年後見制度を押さえておこう!仕組みや対象者をわかりやすく解説

成年後見制度の5つの注意点

成年後見制度の5つの注意点

成年後見制度を利用することで認知症の相続人がいても遺産分割協議が可能になりますが、成年後見制度も万能ではなく、注意点があります。ここでは、成年後見制度の5つの注意点について見ていきましょう。

手続きに時間や手間がかかる

法定後見制度では家庭裁判所が成年後見人等を選任し、後見内容を決定します。後見開始の審判が下り、実際に貢献が開始されるまでには、通常1~2ヵ月程度、状況によっては3~4ヵ月かそれ以上かかるケースもあり、手続きに時間も手間もかかるのがデメリットです。

一方、任意後見契約は公証人が作成する公正証書によって締結しておかなければなりません。また、本人が何かを決めることに心配が出てきた場合に、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されてはじめて任意後見契約の効力が生じるため、こちらも時間も手間もかかる手続きです。

遺産分割は法定相続にのっとりおこなわれる

成年後見制度を利用して遺産分割協議を行う場合、認知症の相続人が本来有している法定相続分を確保しなければなりません。成年後見人は他の相続人の都合より本人の保護を優先する立場なので、認知症の相続人が有する法定相続分を必ず保全しなければならないからです。

例えば、父が被相続人、母と子が法定相続人だったとしましょう。そして、母が認知症だったとします。この場合、母がすでに十分な財産を持っているから、あるいは子が母の面倒を見ていくからなどの理由で子の取り分を多くし、母の取り分を法定相続分より少なくする内容の遺産分割協議を行おうとしても、成年後見人はまず認めません。

また、不動産を子が相続するという内容の遺産分割協議をしたい場合は、母に法定相続分相当の金銭を遺産分割協議で相続させられない場合は、子が法定相続分に相当する金銭を用意して代償金として母に支払う必要があります。

このように、成年後見制度を利用することでかえって柔軟な遺産分割協議ができなくなる点には注意しましょう。

不動産などの資産運用は認められない

成年後見人が優先するのは本人の保護なので、財産の運用に関しても本人のための財産管理を行うことになります。そのため、例えば遺産分割協議に置いて本人が相続した不動産について、大規模改修を行って賃貸物件として貸し出すようなリスクのある不動産投資や、相続した預貯金で投資を行うことはまず認められません。リスクを取った結果資産の価値が減少すれば、それは本人のためにならないからです。

また、不動産を処分したいという場面でも、本当に本人のためになるかという視点で判断するため、例えば管理が面倒だから売りたいという理由では、不動産売却にも合意を取ることは難しくなるかもしれません。

後見人へ報酬を支払う義務が生じる可能性がある

成年後見人を選任するのは裁判所なので、たとえ家族を成年後見人の候補者として希望しても、外部の弁護士や司法書士などの専門家が選任される可能性があります。その場合、成年後見人に対して報酬を支払う義務が生じる点に注意が必要です。

報酬額は後見人が管理する対象となる財産の種類や額によって異なりますが、管理する財産額が高額になるほど報酬も高額になる傾向があります。

認知症の被後見人が亡くなるまで継続しなければならない

成年後見制度を利用する目的が遺産分割協議であった場合でも、成年後見制度は認知症の被後見人が亡くなるまで継続するのが原則です。そのため、一度後見が開始されると、後見人は遺産分割協議が終わった後も被後見人の日常生活や契約行為に関して代理権を持つため、預金口座などの財産も後見人によって管理されることになります。

そうすると、被後見人やその家族が自由に財産を使うことができなくなるため、この点にも注意が必要です。

認知症によるトラブルを防ぐための事前対策3つ

認知症によるトラブルを防ぐための事前対策3つ

では、認知症による相続トラブルを防ぐために、事前に採りうる対策はあるのでしょうか。ここでは、認知症によるトラブルを防ぐための事前対策を3つご紹介します。

  • 遺言書を作成する
  • 生前贈与を行う
  • 家族信託を活用する

遺言書を作成する

遺言書を作成し、亡くなった後遺産を誰がどのように相続するのか指定しておけば、遺産分割協議を行う必要はありません。そうすれば、認知症の相続人がいても、相続人間でトラブルが生じない限り遺言書通りに財産を承継できます。

ただし、遺言は法律行為なので、適切な方法で遺言書を残さないと無効となってしまう可能性もあるため注意してください。

遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」がありますが、遺言内容を確実に実行するためには、証明力が最も高い公正証書遺言がおすすめです。

公正証書遺言は、遺言者本人が公証人と証人2名の前で遺言の内容を口頭で告げ、公証人が文章にまとめて再度本人と証人2名による確認の上作成されます。自筆証書遺言の場合は家庭裁判所による検認手続きが必要ですが、公正証書遺言ならその必要はありません。相続開始後、速やかに遺言の内容を実現できます。

ただし、法的な証明力が高い分、必要資料を提出し、公証人と打ち合わせをするなど手続きに時間と手間がかかります。そのため、法律の専門家である弁護士や司法書士に相談し、手続きを円滑に進めると良いでしょう。

生前贈与を行う

生前贈与を行うのも、事前対策のひとつです。生前贈与とは生きているうちに財産を他者へ無償で与える行為であり、相続税の節税目的で利用されるケースが少なくありません。贈与を受けると通常贈与税が課されますが、贈与税の基礎控除や特例を活用して相続財産を減少させることができるからです。

生前贈与は認知症の相続人がいる場合の直接的な対策とはいえませんが、計画的に相続財産を減らして相続手続きをよりシンプルにし、遺族の手間や負担を減らせる可能性があります。

なお、生前贈与には1年間に110万円以内であれば贈与税が課されない「暦年贈与」、配偶者への居住用不動産の贈与の場合は最大2,000万円まで課税されない「配偶者控除」などがあります。

家族信託を活用する

まだ相続人が認知症になっておらず判断能力がしっかりしている場合は、将来の認知症対策・相続対策のために家族信託を活用するのも良いでしょう。家族信託は、委託者が受託者へあらかじめ財産管理を託しておく制度です。

受託者は、委託者との間で締結した家族信託契約の内容にしたがって、委託者の財産の管理や運用を行います。

家族信託契約では、金銭や不動産の管理だけでなく、余剰資金を活用した不動産の購入や投資など、成年後見制度の下では制限される積極的な相続対策に関しても定めておくことができるため、委託者(被相続人)や家族の希望を柔軟に実現できるでしょう。

なお、信託財産以外の財産の承継については遺言で指定できるため、家族信託と遺言書作成を併用するケースも多いです。

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おわりに 

認知症の相続人がいる場合、遺産分割協議ができず、相続放棄や限定承認を行うこともできません。そのための解決策が成年後見制度の利用ですが、家庭裁判所での手続きを踏むため時間も手間もかかります。相続人間のトラブルを発生させないためにも、生前にできる対策を取っておくのが賢明です。相続手続きに不安がある方は、専門家のサポートも活用してみてはいかがでしょうか。

関連記事:相続でもめる家族の特徴とは?相続争いの原因もチェック

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