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【理学療法士監修】体力の衰えはいつから?その要因と老化を防ぐ簡単エクササイズ

【理学療法士監修】体力の衰えはいつから?その要因と老化を防ぐ簡単エクササイズ
橋本 大吾

監修者

一般社団法人りぷらす代表理事

橋本 大吾

一般社団法人りぷらす代表理事。理学療法士。両立支援コーディネーター。健康経営アドバイザー。茨城県出身。3.11後に石巻市に移住、りぷらすを起業。介護からの卒業を実現するデイサービス、社会的孤立を予防するためのコミュニティーヘルス事業、介護うつや介護離職を予防する仕事と介護の両立支援事業などを展開している。

年齢を重ねるごとに、感じる体力の低下。階段の上り下りが辛くなったり、以前は難なくこなせた仕事が重く感じたり…そんな瞬間、ありませんか?しかし、体力の衰えは、ちょっとした工夫とエクササイズで防ぐことができます。

今回は、体力の衰えはいつから感じるのか、体力低下の原因について、一般社団法人りぷらす代表理事/理学療法士の橋本さんにインタビュー。老化を防ぐための効果的な運動もあわせて具体的にご紹介します。今すぐにでも始められる健康習慣を身につけましょう。

体力への自信、どのくらいありますか?

大人になると体力測定の機会も減り、自分の体力がどの程度あるのか、客観的に把握するのが難しくなるのも、体力の衰えを加速させる一因かもしれません。仕事や家事、育児などで忙しい日々を送る中で、体力を維持することはQOLを高めるためにも大きな課題です。

令和4年度に行われた全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果によると、年齢別の結果からさまざまな傾向が見えてきます。

体力への自信、どのくらいありますか?
出典:令和4年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果(スポーツ庁)より、東京都 生活文化スポーツ局作成

30代:自信はあるが、運動時間の確保が課題

30代は、比較的体力に自信を持っている人が多い年代です。

しかし、仕事や家事、育児に追われ、運動する時間を確保するのが難しいという声も多く聞かれます。体力を維持するために定期的な運動の必要性を感じつつも、それを実践するのは簡単ではないようです。

40代:体力の衰えを実感し始める時期

40代に入ると、30代と比べて体力の低下を実感する人が増え始めます。同時に、生活習慣病のリスクに対する意識が高まり、健康維持のための運動の重要性を認識するようになります。

40歳を迎えると体にさまざまな変化が生じることから、健康を意識し、運動を始めるきっかけを得やすい時期でもあります。

50代:健康志向が高まり、無理のない運動を好む

50代になると、体力の低下をさらに強く感じるようになり、健康維持への関心が一段と高まります。

ウォーキングや軽い筋トレなど、無理なく取り組める運動が好まれる傾向にあります。体力を少しでも維持しようと、積極的に運動を取り入れる人が増えるのもこの世代の特徴です。

60歳以上:健康寿命を意識し、運動習慣を確立

60歳以上になると、体力への自信や運動習慣に個人差が大きくなりますが、退職後に時間的余裕が生まれ、運動習慣を持つ人が増加します。

健康寿命を意識し、体力維持に努める人が多く、ウォーキングや体操、趣味活動を通じた社会参加が運動機会を増やす要因となっています。

このように、年代によって体力に変化が生まれていく一方で、運動習慣など個人の生活習慣によっても体力差が広がることがわかります。

体力を使う仕事に従事している方は、仕事の性質上、体力の衰えを感じるのが遅い傾向にあるようです。一方で、デスクワークが中心の方は、動かない時間が多いため、体力の低下を早く実感することが多いかもしれません。ただし、体力の衰えに気づくきっかけは人それぞれです。たとえば、運動を習慣にしている人は、20代と30代での疲れの違いに気づくことが多いでしょう。

体力の衰えは何歳から?その兆候とは?

体力の衰えは何歳から?その兆候とは?

体力の衰えを感じ始める年齢には個人差がありますが、多くの人が30代から40代にかけて変化を実感し始めます。若い頃は気にならなかった疲労感や、運動後の回復の遅れを感じることが多くなります。仕事や家事、育児に追われる日常生活の中で、体力の低下に気づきにくいこともありますが、疲れやすさや動きの鈍さなどがその兆候として現れます。人生百年時代と言われる現代で、長く健康な体で生活するためには、体力の衰えを早いうちから認識し、対策を打つことが大切です

一般的に、男性と比べて女性の方が体力が落ちやすい傾向があると言われています。男女では筋肉量自体が違うことも影響しているため、体力の衰えやすさに違いが出ると考えられています。また、上肢よりも下肢の筋力が低下しやすいと報告されています。ご自身の体力の衰えを早期に認識することが「老い予防」の第一歩です。

体力の定義とは

体力は、大きく分けて2つの種類に分類されます。

一つは「行動体力=運動をするための体力」。もう一つは「防衛体力=健康に生活するための体力」です。この2つはそれぞれ異なる役割を持ちながら、私たちの生活を支えています。

体力は行動体力と防衛体力の両方から成り立っており、衰えを感じるタイミングや兆候はさまざまです。自分の体力状態を意識し、年齢に応じた運動や生活習慣を取り入れることが、体力の維持や健康的な生活を送るカギとなります。

行動体力

行動体力とは、運動や身体活動を行うための能力のことです。

行動体力は、筋力や持久力、俊敏性、柔軟性など、日常的な動作やスポーツ、さらには重いものを持つといった身体的な活動に必要な力を指します。行動体力は、若い頃は自然と高い状態を維持していますが、年齢を重ねるにつれ徐々に低下していきます。

防衛体力

防衛体力とは、病気にかからず健康を維持するための能力のことです。

免疫力や抵抗力、疲労回復能力がこの防衛体力に該当します。風邪をひきにくかったり、疲労から回復する力が強い人は、防衛体力が高いと言えます。

体力の衰えを感じる時期

人の体力は20代でピークを迎え、30歳を過ぎると徐々に低下していきます。年齢を重ねるごとに、その衰えは加速し、10年ごとに5〜10%ずつ体力が落ちていくといわれています。30代からは、以前より疲れやすくなったり、回復に時間がかかるといった変化を感じ始める人が多くなります。40代になると、体力の低下がさらに顕著になり、日常生活でも疲れを実感することが増えていきます。

何歳から疲れを感じやすくなるかという点については、調査や研究があるものの、個人差が大きいため一概には言えません。私の周りでは、特に40代から疲労感が顕著になるという意見が多いですが、30代でも少しずつ体力の低下を感じる人が増えていくのは確かです。

体力の衰えの大きな原因は「加齢による筋肉量の減少」

体力の衰えの大きな原因は「加齢による筋肉量の減少」

体力が衰える原因のひとつに、筋肉量の減少が考えられます。筋肉量が減少すると、日常生活で必要な力が出しにくくなり、動作がおぼつかなくなります。また、階段の上り下りや重い荷物を持ち上げることなど、これまで当たり前にできていたことが困難になっていきます。

筋肉量の減少によって、単に力が弱くなるだけでなく、全身の代謝にも影響を与え、さらなる体力の低下を招くことになります。

体力の衰えを防ぐためには筋肉量の維持が重要

筋肉が減ると、なぜ身体がだるくなるのでしょうか。筋肉は、私たちの体を支え、動かすためのエンジンです。筋肉が減ると、階段の上り下りや重い荷物を持つのが辛くなったり、疲れやすくなったりと、日常生活に支障が出てくるかもしれません。

さらに、筋肉は、基礎代謝を上げる働きもしています。基礎代謝が下がると、太りやすくなったり、体温が低くなったりといった問題も引き起こす可能性があります。

筋肉の減少は、老化とともに自然に起こる現象ですが、適切な運動によって、そのスピードを遅らせることができます。特に、筋力トレーニングは、筋肉量を維持・増加させる上で効果的です。運動と聞くと、ハードなイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、たとえば、スクワットや腕立て伏せなど、自分の体力に合わせた軽い運動から始めるだけでも、効果は期待できます。自宅で簡単にできる運動からスタートしてみると良いでしょう。

筋肉量の維持には「バランスの取れた食事」が欠かせない

栄養状態が整っていない場合は、運動の前にまず食生活の見直しが重要です。筋肉を維持し、若々しさを保つためには、運動と同じくらい「バランスの取れた食事」が欠かせません。特に、筋肉の材料となるタンパク質を豊富に含む肉や魚、豆製品を積極的に摂取することが大切です。

また、ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨や筋肉を丈夫にするため、日光浴や魚、きのこなどを摂ることもおすすめです。さらに、炭水化物や脂質もエネルギー源として必要ですので、バランスよく摂取することが健康維持には欠かせません。

現代の女性、特に若い世代は栄養不足が指摘されています。いわゆる低栄養状態にある場合、運動を行うと筋肉を分解してエネルギーとして使います。そのため、この状態で運動すると、動けば動くほど筋肉が減少するという悪循環が生まれます。令和4年国民健康・栄養調査結果の概要によると、BMIが18.5以下の方は、女性で11.3%いると報告されています。特にその方は低栄養の可能性が高いので、まずはしっかりと食事を摂ることが重要です。健康を維持するためには、栄養バランスの取れた食事が大切です。

体力の衰えは「フレイル」のサイン

体力の衰えが進行すると、「フレイル」と呼ばれる状態に陥る危険性が高まります。フレイルとは、高齢者の健康状態を表す概念で、心と体の「虚弱」を意味します。フレイルの状態では、筋力や活動量が低下し、疲れやすくなります。

また、体重が減少したり、歩行速度が遅くなったりするなどの症状が現れます。このような状態が続くと、日常生活に支障をきたし、最終的には要介護状態に陥る可能性が高くなります。しかし、フレイルは運動習慣や、バランスの取れた栄養摂取、社会参加の促進などを通じて、予防・改善することができます。フレイル状態に陥らないためにも、体力の衰えという体のサインに耳を傾けることが大切です。

橋本さん:フレイルは体だけでなく、心の面、つまりメンタルヘルスにも大きな変化をもたらします。ふさぎ込みやすく、不安を感じやすくなることが多いです。社会的な面でも、特に女性は人とのつながりが重要ですが、実は女性よりも男性の方が孤立しやすいとも言われています。社交的な活動が少なくなることで、孤独感がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすため、フレイルには身体的な衰えだけでなく、心理的な要因も関わっています。

自宅で手軽にできる体操で体力を維持!おすすめのエクササイズ

自宅で手軽にできる体操で体力を維持!おすすめのエクササイズ

ここからは、理学療法士として普段から多くの高齢者の方に接している橋本さん監修のもと、自宅で簡単に実践できるエクササイズをご紹介します。実際にデイサービス等でも実際に行われているもので、年齢に関係なくどなたでも取り入れやすいのが特徴です。体力を維持し、健康的なライフスタイルをサポートするための効果的なエクササイズを、ぜひご家庭で取り入れてみてください。

爪先立ち

1. 両足を揃えて立つ

2.かかとを持ち上げ、爪先で立つ

3.ゆっくりとかかとを下ろす

橋本さん:爪先立ちになった際、O脚にならないよう意識しましょう!

片足立ち

1. 片足で立つ 

2.もう片方の足を床から少し持ち上げる 

3.バランスを保ちながら、一定時間保持する

橋本さん:骨盤と両肩が水平となるように意識しましょう。

スクワット

1.肩幅に足を開いて立つ

2.腰を落とし、膝を曲げる(90度程度)

3.背筋を伸ばしたまま、お尻を後ろに突き出す

4.ゆっくりと元の立位に戻る

橋本さん:膝がつま先より前に出ないように!

フロントランジ

1.直立姿勢から片足を前に大きく踏み出す

2.前足の膝が90度になるまで体を沈める

3.後ろ足の膝は地面すれすれまで下げる

4.前足で体を押し上げ、元の姿勢に戻る

橋本さん:足の幅は、最初は小さくてもOK!ご自分の体力に合わせて調整しましょう!

継続は力なり!エクササイズを続けるためのコツ

継続は力なり!エクササイズを続けるためのコツ

「運動を習慣にしたいけど、なかなか続かない…」そんな悩みをお持ちのあなたへ。体力の衰えを止めるためには、定期的な運動習慣が大切です。ここからは、運動を続けるための具体的なコツと、日常生活に取り入れやすい工夫をご紹介します。

日々の生活サイクルの中に取り入れる

なかなか運動の時間を捻出できない、という人は、まずはエレベーターではなく階段を使う、電車の一駅手前で降りて歩くなど、日常生活の中に運動を取り入れてみましょう。猫背など、悪い姿勢は体の負担になります。意識して姿勢を良くすることで、体幹を鍛えられます。

また仕事中や寝る前など、ちょっとした時間にストレッチをすることで、体の柔軟性を高め、筋肉の疲労回復を促します。

小さな目標から無理なく楽しくはじめる

大きな目標を立てると挫折しやすいので、「毎日10分歩く」など、小さな目標から始めましょう。また、好きな音楽を聴きながら運動したり、友達と一緒に運動したりするなど、楽しみながら続けられる方法を見つけることが大切です。モチベーションを維持する

運動記録をつけることで、達成感を感じたり、モチベーションを維持したりすることができます。運動を行う際には、その日の体調に合わせて運動の強度や時間を調整しましょう。無理をして続けると、逆に体を壊してしまう可能性があります。

橋本さん:運動そのものよりも、日常的に体を動かす時間を確保することが大切です。地域の環境整備活動やボランティア活動、草刈りや道路保全、ビーチクリーン、花壇の手入れや保育園の掃除なども良い活動です。さらに、フィットネスクラブやヨガなど、さまざまな体験ができるプログラムに参加するのも効果的です。最近では、YouTubeなどで多くのエクササイズプログラムが視聴でき、中でも10分で全身をしっかり鍛えられるプログラムが人気です。ひとりでは続けられないという人にもおすすめですよ。

老化を防ぎ、体力を維持するために今日からできること

老化を防ぎ、体力を維持するためには、運動だけでなく人との繋がりも重要です。日常生活の中で、意識的に誰かと交流する機会を持つことで、自然と体を動かす機会が増えます。地域活動や友人との約束などを活用し、積極的に社会と関わることが大切です。孤立せず、コミュニケーションを図ることで、心身の健康が保たれ、結果的に体力の維持にも繋がります。今日から、身近な人との交流を大切にし、体を動かす習慣を取り入れてみましょう。

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