昨今の食生活や医療の進歩により、長生きする犬が多くなり、老犬のお世話をする飼い主さんが増えています。 老犬になるとお世話の種類が多岐にわたるため、飼い主さんの負担は大きくなりますが、その一方で老犬には子犬にはない魅力もあります。ここでは、老犬の飼い方のポイントや老犬の魅力について考えていきたいと思います。
老犬とは
一般的に7~8歳になると老犬(シニア犬)といわれます。
歳を重ねた犬たちに敬意と愛情をこめて、シニアわんこ、おじいちゃん犬、おばあちゃん犬、おじいワン、おばあワンなど、さまざまな呼び方がされています。
この頃は年齢を感じさせる様子や大きな見た目の変化もなく、愛犬がシニアの仲間入りをした実感はわかないかもしれません。
実際、老化現象は突然現れるわけではありません。見た目の老犬っぽさが出てくるのは小型犬で10歳前後、大型犬で8歳前後です。
老犬になると訪れる変化
小~中型犬10歳前後、大型犬8歳前後
この頃になると老犬っぽさが出てきて、見た目からもなんとなくシニア犬だとわかり始める年齢といえます。
例えば
- 毛ツヤが悪くなる
- 白髪が増え始める
- 動きがゆっくりになる
といった変化が見られます。
小~中型犬12~15歳前後、大型犬10歳前後
この頃になると、見た目もしぐさも、すっかりおじいちゃん、おばあちゃんになっているといえます。
例えば
- 目が白っぽくなる
- 寝ている時間が長くなる
- 歩いているとふらつくことがある
- 反応が遅い
- 食欲にむらがある、カリカリが食べられなくなる
といった変化が表れはじめます。
小~中型犬16歳以上、大型犬12~13歳以上
この頃になると、誰からも「長生き」とほめられる年齢といっていいでしょう。
なかには介護が必要になるケースもあります。
ご長寿犬ですので、
- 粗相が増える
- 歩行介助が必要になってくる
- 耳が聞こえなくなってくる
- 病気がちになる
など、食事や排せつ、睡眠などのシーンで、飼い主さんのサポートを必要とする子が多くなります。
老犬の飼い方のポイント
若い犬と比較すると、シニア犬は筋力体力ともに低下するため、同じようなペースで遊んだり散歩したりすることが徐々に難しくなります。
とくに犬は後ろ足から衰える子が多く、その場合、筋力低下は顕著に見て取れます。
ここで一番気を付けなければならないのは、運動不足にさせないことです。
しんどそうだからと体を動かす時間を減らすのではなく、適度な運動量を取り入れ、継続するように心がけましょう。歩くこと、体を動かすことは愛犬の心の健康を保つために必要不可欠です。
運動
ゆっくりでも自力で立ち上がれる、ふらつくが自分で歩ける
このような場合はまず、家の中の段差をなくす、家具と家具の隙間を埋めるなど、愛犬の活動スペースを負担がかかりにくいものに作り変えていきます。
環境づくりはできるだけ早いほうがよく、とくに階段の昇り降り、ソファーへの乗り降りなどは、若い頃からなるべくさせない工夫をするのが望ましいです。
大切な運動時間である散歩は、歩くスピードをゆっくりにしたり、散歩コースを短くしたりと、一度の負担を減らす対策をとりましょう。
また、散歩時間やコースの短縮は徐々におこないます。
1回の散歩距離を短くし、1日に1度行っていた場合は2度に、2度行っていた場合には3度にするという方法もおすすめです。
これまでと変わらない散歩コースを行きたがるなら、行きはゆっくり愛犬のペースで歩き、帰りは抱っこやカートに乗せるという方法もいいでしょう。
歩かず、立っているだけでもいい運動になります。
歩く距離が極端に短くなりそうであれば、あえて散歩時間はそのままで、歩いていない時間を含めて「散歩」にしましょう。
自力で立ち上がるのが難しい 、なんとか歩けるが足を引きずる
このような場合でしたら、散歩時は補助用ハーネスや歩行具を活用するとよいでしょう。
後ろ足をサポートするもの、歩行そのものをサポートするものなど、犬の状態に合わせたさまざまなグッズが販売されています。
この先少しでも長く、自力でおこなえるようなサポートをしてあげましょう。そういった面からも介護グッズの活用をおすすめします。
寝たきり
犬の状態が寝たきりになった場合は、床ずれをおこさないよう気を付けることが最も重要です。
定期的に寝返りをさせたり、ときどき立たせたりして、愛犬の体を動かしてあげましょう。
また、寝たきりになっても外気浴や日光浴などはとても大切です。愛犬はもちろん、飼い主さんの気持ちをリフレッシュする効果もあります。
お天気のよい日や調子のよいときにはカートや抱っこ紐で散歩に出かけ、太陽や風、土のにおいを楽しみましょう。
食事
愛犬の健康と体力キープに欠かせない食事の与え方について考えてみましょう。
ドライフードが食べられる
一般的にシニア期といわれる7~8歳頃になったタイミングで、シニア期のフードに切りかえましょう。
フードの切りかえは徐々におこないます。
食事台を用意して首を下げなくても食べられるようにする、水を飲みやすい器に変えるなど、食事環境の見直しもおこないましょう。
やわらかくないと食べられない
ふやかしたドライフードを与えます。
栄養価が落ちたり、やけどの原因になったりすることもあるので、ふやかすときは熱湯を避けてください。ふやかす際はお湯ではなく、犬用ミルクなどを用いるのもよいでしょう。
また、ふやかすことでフードは膨らみ、かさが増すため、量を調節します。ふやけたフードを好まない子もいます。その場合はウェットタイプを試してみましょう。
一度お皿に出したフードは傷みやすいため、食べ残しの放置はしないてください。水の中にフードが落ちていることも多いので、水の取り替えもまめにおこなってください。
液状でないと食べられない
流動食は少量でも高カロリーをとれるものがよいでしょう。
少しずつ与え、嫌がるようであれば無理強いをせず、流し込まないよう十分に注意しましょう。スプーンや専用シリンジを使って与えます。
老犬のお世話におすすめグッズ
スロープやステップで段差対策
家の中の段差にはスロープの設置を検討しましょう。
傾斜角度や幅などサイズ展開も豊富で、多くのなかから選択できます。
ソファーやベッドなど大きな家具への乗り降り対策にはステップがおすすめです。
フロアマットで床対策
フローリングなど滑りやすい床の場合はマットを敷きましょう。
洗えるタイプや、好きな広さや形で使用できるジョイントタイプが人気です。
歩行補助ハーネス
歩行をサポートしてくれるハーネスにはさまざまな種類があります。
後ろ足や腰をサポートするオムツのような形状のハーネスや、胸と前足付け根を抱えこむようなつくりの前足サポート用ハーネス。足を引きずって歩いてしまう子のための専用サポーターや関節ガードなども販売されています。
ハーネスは犬の状態にあったものを選びましょう。装着のしやすさもチェックポイントです。
床ずれ防止グッズ
高反発マット
ウレタンや樹脂でつくられたかたさのあるマットで、体への負担(体圧)を分散する機能があります。
体重を跳ね返す力があるため、体が沈み過ぎず、寝返りも打ちやすくなります。
シニア犬や寝たきりの犬のベッドマットによいといわれています。
低反発マット
高反発以外の一般的なマットのことで、やわらかく、体を包み込んでくれるような心地よさがあります。
体を思うように動かせず手足をバタバタさせてしまう子には、擦れ防止の効果が期待できます。
ドーナツ型クッション、サポーター
頬、肩、腰など、床ずれができやすい部位の下にあてて使用するドーナツ型クッションや、ゴツゴツした手足の関節に巻いて使用するサポータータイプがあり、いずれも床ずれ予防効果があります。
オムツ
足腰が弱りトイレまで行くのが困難になったり、寝たきりになったりしたときに取り入れたいのが犬用オムツ。被毛のもつれやオムツかぶれなどをおこさないよう慣れやまめな交換が必要ですが、活用できれば、愛犬と飼い主さんどちらのストレスも大きく軽減できます。
なかにはどうしてもオムツを嫌がる子もいますので、その場合は無理強いをしないようにしましょう。いつかのときのために女の子であればヒート(生理)時、男の子であればお出かけ時などにマナーパンツを若い頃から使用し、慣れてもらっておくのもいいでしょう。
老犬の魅力
ここでは、かわいい老犬の魅力をたっぷりご紹介します。
顔が優しい
成犬の頃の元気ハツラツなキリッとした表情とは違ったよさがある、シニア犬の顔。落ち着いた雰囲気に加え、目尻が垂れる、顔の毛色が白くなるなど変化により優しい印象になり、見ているだけで癒されます。
動きがゆっくり
せわしなく動きまわっていた頃と違い、ゆっくりとした動きになります。呼んだときにゆっくりとこちらに歩いてきたり、ひざに「よいしょ」と乗ってきたりする姿は、たまらなく愛おしいでしょう。
寝顔がかわいい
寝ている時間が増えるので、熟睡している姿やかわいい寝顔をたくさん見られるようになります。
安心しきって熟睡している姿を見ることができるのは、飼い主だけの特権です。
散歩中に休憩する
体力が落ちたことにより、散歩中に立ち止まり休憩することがあります。「ふぅ」とひといきつくような、なんともかわいい様子が見られます。
ほかにも、動くのが億劫になるのか飼い主の外出にすっかり慣れてしまったのか、玄関へのお見送りやお迎えに出てこないというかわいいエピソードも「老犬あるある」です。
予定より早く帰ったときなどは熟睡中で飼い主の帰宅に気付かない、なんて若い頃には考えられなかったかわいい姿も楽しめます。
老犬を引き取るのも選択肢のひとつ
シニア犬には、子犬にはない魅力がたくさんあります。
気性は落ち着き、新しいことも学習できるため、パワーあふれる子犬を飼育するよりもラクだといえます。
穏やかな犬との生活を望んでいらっしゃる方には、特にシニア犬はおすすめです。
子犬のように長く一緒にはいられないかもしれないけれど、覚悟が必要なほどは短くはなく、ともに過ごす時間はかけがえのないものになるでしょう。
老犬介護経験者の声
犬種:シェルティ、介護が必要になった年齢:13歳、介護期間:4ヵ月
ある日、居間からすごい音がして駆けつけてみると、愛犬が倒れていました。
受診して分かったのはこれが初めての転倒はなかったであろうということ。すぐに転倒・ケガ防止対策をおこないました。
発作前後の様子はできるだけ動画におさめ、獣医師に報告しました。これから使うことになるであろう介護グッズもたくさん買いそろえましたが、残念ながら使用することなく突然旅立ってしまいました。
介護をさせてもらえるのは幸せなことなのだと思った、介護をできなかった体験談です。もう少し早く発作に気付いていればという可能性を考えると、留守番中の愛犬の様子がわかるペットカメラの設置をおすすめしたいです。
犬種:シェルティ、介護が必要になった年齢:9歳、介護期間:2年(リハビリ後に回復)
ソファーがお気に入りだった愛犬は毎日ソファーへの上り下りを繰り返していました。ある日ソファーから降りた瞬間「キャン」と鳴いたかと思うと、ほふく前進のような歩きかたしかできなくなってしまいました。
診断は神経障害、いわゆる重度の椎間板ヘルニアです。注意したのは寝たきりにならないようにすること。ナックルサポーター、犬用ソックス、歩行介助ハーネスなどを活用し、なるべく散歩に連れて行きました。同時に、かろうじて痛覚は残っているとの担当医の話からリハビリも始めています。
一時は下半身が完全にマヒし、床ずれ防止に数時間ごとに寝返りをうたせる日々が数ヵ月ありましたが、まるで赤ちゃんのようにかわいく、愛おしいと感じた時期でもありました。このときは介護をする私の体力と気力、それから経済力にも余裕があったと思います。
おわりに
老犬を飼うときにはさまざまな配慮が必要となりますが、老犬には子犬にはない魅力がたくさん詰まっています。いつか介護が必要となるかもしれませんが、シニアになっても寝たきりになっても、犬が飼い主さんを思う気持に変わりはありません。
声をかけたり、体をなでたりスキンシップを通して、飼い主さんからの愛情も伝えてあげてください。もし介護で疲れたら、ご家族や病院の先生、いつも通っているサロンやランのスタッフさん、お友だちなどと、つらい話題も楽しい話題も共有しましょう。