親の介護は、誰もが直面する可能性のある人生の大きな課題です。介護をする側には、体力的・精神的な負担、兄弟姉妹間のトラブル、経済的な困窮など、さまざまな問題が降りかかります。しかし、事前の備えと適切な対策を行うことで、介護者自身の生活を守りながら、親孝行を果たすことができます。
この記事では、親の介護で起こり得るトラブルとその対処法、介護への備え、介護をしながら自分の生活を守る方法について、詳しく解説します。介護の負担を軽減するためのヒントが満載ですので、ぜひ参考にしてください。
(本記事は2024年7月18日時点の情報です)
- 親の介護では、体力的・精神的な負担、兄弟姉妹間のトラブル、経済的な困窮など、さまざまな問題が起こり得る
- 事前に家族間で役割分担について話し合い、親の希望や経済的状況を確認し、必要に応じて介護費用を確保しておくことが重要
- 介護をしながら自分の生活を守るためには、家族・親族の協力を得ることや、相談先を見つけることが大切
- 公的制度や介護保険サービスを利用することで、金銭的負担や身体的・精神的負担を軽減できる
親の介護で起こり得るトラブル
親の介護に関わっていると、さまざまな問題が起こる可能性があります。体力的な負担から精神的なストレス、兄弟姉妹間のトラブル、経済的な困窮など、1つの家庭で複数の問題を抱えてしまうこともあるのです。
ここでは、親の介護で起こり得る代表的なトラブルについて見ていきましょう。
体力的な負担により疲弊する
親の介護では、食事や排泄などの身体的な介助が必要になるだけでなく、買い物や掃除などの家事の負担も大きくなります。
親の身体機能は加齢とともに低下していくことが多いため、介護期間が長引くにつれて介護者の負担も徐々に増えていくことになります。
さらに、介護をしながら仕事をしたり子育てをしたりしているとより負担が大きくなり、自分の時間を持つことすら難しくなってしまうこともあります。
ストレスが溜まる・うつになる
介護は肉体的にも精神的にも負担が大きい行為です。頑張りすぎてしまったり、いつまで続くのか終わりが見えない介護に疲弊してしまったりすることで、精神状態が不安定になることもあります。
「介護うつ」になってしまうと、介護する人も介護される人も、結果的につらい思いをすることになりかねません。
特に一人っ子の場合は、「親の介護はすべて自分がやらなければ」というプレッシャーから、大きなストレスを感じてしまいがちです。
兄弟姉妹間でトラブルに発展する
親の介護を巡っては、兄弟姉妹間で誰が中心になって介護をするのかという点で対立が生じることも少なくありません。独身の兄弟姉妹に介護を任せきりにしてしまうケースもあるようです。
また、「長男だから」「長男の嫁だから」といった昔ながらの価値観を一方的に押し付けて介護を依頼することもトラブルのもとになります。
経済的に困窮する
親の介護には、当然のことながらお金もかかります。
介護保険が適用されるサービスであれば利用者の負担額は軽減されますが、それでも一定の金額は自己負担しなければなりません。
介護付き有料老人ホームなどに入居させたい場合は、さらに大きな費用がかかります。「施設に入れてあげたいが、お金がない」というジレンマを抱える家庭も多いのが実情です。
虐待の可能性も
介護者が過度なストレスを抱え込んでしまうと、介護している親に対して暴言を吐いたり、暴力をふるったりといった虐待行為に発展してしまう恐れもあります。
事前にできる親の介護への備え
親の介護が必要になったとき、いきなり大変な状況に直面してしまうと、冷静な判断ができなくなってしまうこともあります。親が元気なうちから、介護について家族みんなで考え、できる準備をしておくことが大切です。
ここでは、親の介護に備えて事前に準備しておきたいポイントを見ていきましょう。
家族間で役割分担について話し合っておく
親の介護が必要になったとき、誰が中心となって介護をするのか、家族みんなで話し合っておくことが大切です。
家族にはそれぞれの生活があり、仕事や育児で忙しかったり、遠方に住んでいたりと、状況は人それぞれです。介護に協力できないこともあるでしょう。
お互いの状況や気持ちを思いやりながら、それぞれ何ができるのか、具体的に話し合いましょう。その際のポイントは以下の通りです。
- 主たる介護者(キーパーソン)を決める
- それ以外の家族は、キーパーソンの負担を減らせるよう、できる範囲で役割を担う
- 介護で必要になりそうな費用を算出し、費用負担についても話し合う
話し合いは、親の介護が必要になる前の早い段階から始めておくのが理想的です。
親の希望や経済的状況を確認しておく
介護が必要になった場合、在宅介護を希望するのか、施設介護を希望するのか、事前に本人の意向を確認しておくことが大切です。
また、介護にはお金もかかるため、親が介護費用をどのくらい備えているのかを把握しておくことも重要です。必要な費用を算出し、親の預貯金などの状況を確認しておきましょう。
必要に応じて介護費用を確保しておく
親が介護費用の備えを十分にできていない場合は、家族で費用を負担する必要が出てきます。
家族みんなで、それぞれどのくらいの金額を負担できそうか話し合っておきましょう。それでも不足するようであれば、民間の介護保険への加入も検討しておくとよいでしょう。
【参考】介護費用はいくらかかる?
一般的な介護費用の目安は以下の通りです。
【月々の費用】
平均:約8.3万円
【一時的な費用の合計】
平均:約74万円
介護にかかる総費用は平均約579万円という調査結果もありますが、介護が長期化すれば、この金額よりもさらに多くの費用がかかることになるでしょう。計画的な備えが大切だと言えます。
親の介護をしながら自分の生活を守るためには
親の介護をしていると、介護者自身の生活が疎かになりがちです。しかし、介護を続けていくためには、介護者自身の心身の健康も大切にしなければなりません。ここでは、親の介護をしながら自分の生活を守るための方法を見ていきましょう。
家族・親族の協力を得る
民法では、要介護者の配偶者や子だけでなく、兄弟姉妹や孫にも扶養義務があるとされています。
親の介護を1人で抱え込まず、協力してくれそうな家族や親族がいれば、ぜひ巻き込んでみんなで介護に取り組めるよう話し合いをしてみましょう。
介護は長期戦です。1人で頑張りすぎないことが大切です。
相談先を見つける
親の介護について1人で悩まずに、周りの人に相談することも大切です。知人以外にも、例えば行政では以下のような相談先があります。
- 民生委員:地域の福祉に関する相談支援を行っている。必要に応じて介護サービスの情報提供をしてくれる。
- 地域包括支援センター:介護についての総合的な相談を受け付けている。介護サービスの利用や申請の仕方など、介護に関するあらゆる相談ができる。
- 自治体の介護相談窓口:介護保険に関する情報提供や、介護サービス利用についての不安や悩みの相談を行っている。
困ったときは1人で抱え込まずに、地域の相談窓口を利用しましょう。
公的制度を利用して金銭的負担を減らす
親の介護にはお金がかかります。しかし、以下のような公的制度を利用することで、金銭的な負担を減らすことができます。
- 医療費控除:医療費が一定額を超えたときに、所得税が控除される制度
- 高額介護サービス費制度:1ヶ月の介護サービス利用料が上限額を超えた場合、超えた分が後から払い戻される制度
また、市区町村が独自に行っている助成制度もあります。おむつ代の補助、配食サービス、福祉用具の貸し出しなど、低額または無料で利用できるサービスがあります。
市区町村の窓口や地域包括支援センターに問い合わせて、活用できそうな制度やサービスを探してみるのもよいでしょう。
介護保険サービスを利用して身体的・精神的負担を減らす
介護保険サービスを上手に活用することで、介護の負担を減らすこともできます。状況に応じて、以下のようなサービスを組み合わせるとよいでしょう。
居宅介護サービス
訪問介護(ホームヘルプ)、デイサービス、ショートステイなど、自宅に住みながら受けられる介護サービスです。身体介護や生活援助、リハビリや入浴などを自宅で受けられるので、比較的介護度が低い方に向いています。
地域密着型サービス
定期巡回・随時対応型訪問介護看護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)など、住み慣れた地域で、訪問や通所、宿泊を組み合わせて利用できるサービスです。
顔なじみのスタッフによるケアが受けられ、状況に合わせて柔軟にサービスを利用できるのが特徴です。
施設サービス
特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護医療院などの介護保険施設です。
施設に入所することになるため、常に介護を受けられる環境が整っています。特に、介護度が高く、常時の介護が必要な方に適しているサービスです。
民間の介護保険外サービスなら要介護認定がなくても利用可能
介護保険サービスを利用するためには、要介護認定を受ける必要がありますが、民間の介護保険外サービスであれば、要介護認定を受けていなくても利用することができます。
介護保険外サービスの例としては、以下のようなものがあります。
- 配食サービス:コンビニ、生協、弁当チェーンなどが行う。手渡しが原則なので安否確認も兼ねる
- 家事代行サービス:清掃会社、警備会社、家事代行サービス会社など、様々な企業が参入。定期的な利用や単発利用も可能
- 移送サービス:介護タクシーを利用し、通院、転院、買い物、観光、イベント参加などに利用可能。寝台車両の使用や看護師・ヘルパーの同乗、緊急時対応なども可能
民間企業のサービスは、市区町村などが提供するサービスに比べると費用は高くなりますが、介護保険サービスにはないサービスの提供や、緊急時の対応などのメリットがあります。利用者に合ったサービスを選ぶことが大切です。
おわりに
親の介護は誰もが直面する可能性のある課題ですが、適切な備えと対策を行うことで、介護者自身の生活を守りながら親孝行を果たすことができます。介護保険サービスや公的制度、民間サービスを上手に活用し、家族や親族の協力を得ることで、介護の負担を軽減できます。事前の準備と柔軟な対応により、親の介護と自分の人生を両立させ、充実した日々を送ることが可能となるでしょう。