高齢になり介護が必要になったとき、どのような施設や住宅に入居するか悩む人も多いでしょう。高齢者向けの施設・住宅にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴や入居条件、費用が異なります。
本記事では、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、グループホームなどの民間施設と、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護医療院など公的施設の種類と特徴を解説します。施設選びの4つのポイントや、入居までの流れ、費用相場についても詳しく紹介します。
(本記事は2024年7月19日時点の情報です)
- 高齢者施設・住宅には、有料老人ホームやサ高住、グループホームなどの民間施設と、特養や老健、介護医療院などの公的施設があり、それぞれ特徴や入居条件が異なる
- 高齢者施設・住宅の費用相場は施設の種類によって異なる
- 高齢者施設・住宅選びでは、必須条件・希望条件の整理、資料請求や施設見学、介護のプロへの相談が大切
- 高齢者施設・住宅選びの4つのポイントは、要介護度への対応、継続的な費用負担の可否、認知症ケアや看取りへの対応の有無
高齢者施設・住宅の種類は?各施設の特徴をチェック!
高齢者が入所する施設は、一般的に「老人ホーム」と総称されることが多いですが、実際にはさまざまな種類の高齢者施設・住宅が存在します。
大きく分けると、民間企業などが運営する「民間施設・住宅」と、国や地方自治体などが運営する「公的施設」の2つに分類できます。
民間施設・住宅は、入居者のニーズに合わせて多種多様なサービスを提供しているのが特徴です。一方、公的施設は、社会福祉の観点から介護度の高い方や低所得者を優先的に受け入れています。以下で、それぞれの施設の特徴を詳しく見ていきましょう。
【民間施設】
民間施設の最大の特徴は、入居者のニーズに合わせて幅広いサービスを提供している点です。介護度が高い方向けの手厚いケアを行っている施設から、アクティブシニア向けの娯楽が充実した施設まで、入居者の希望に沿った選択肢が豊富にあります。
また、比較的すぐに入居できるのもメリットの一つ。待機者が多い公的施設とは異なり、空室があればスムーズに入居手続きを進められます。
ただし、サービスが充実している分、利用料は公的施設と比べると高めに設定されています。入居一時金や月々の家賃、食費などの費用が必要となります。
以下では、代表的な民間施設である有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、グループホーム、シニア向け分譲マンションの概要と特徴を解説します。
有料老人ホーム
有料老人ホームは、次の3種類に分けられます。
- 介護付き有料老人ホーム
- 住宅型有料老人ホーム
- 健康型有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは、施設内で介護サービスを受けられるのが特徴。要介護者向けの設備が整っており、手厚い介護を受けられます。
住宅型有料老人ホームは、基本的に自立した方が入居します。食事や掃除などの生活支援サービスを受けられますが、介護が必要になった場合は外部サービスを利用します。
健康型有料老人ホームは、健康で自立した高齢者のみが入居可能。介護が必要になった場合は退去しなければなりません。その代わり、アクティブシニア向けの設備やサービスが充実しています。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
サ高住は、バリアフリー仕様の賃貸住宅です。60歳以上の比較的元気な高齢者が入居でき、安否確認や生活相談などの基本サービスを受けられます。
介護が必要になった場合は、外部の在宅サービスを利用することになります。ただし、施設によっては特定施設の指定を受けて、施設内で介護サービスを提供しているところもあります。
グループホーム
グループホームは、認知症の高齢者が少人数で共同生活するための施設です。家庭的な雰囲気の中で、認知症ケアの専門スタッフによるサポートを受けながら、できる範囲の役割を持って生活します。
入居対象は原則65歳以上の要支援2以上で、認知症の診断を受けている方。施設のある市区町村に住民票がある方のみ入居可能という地域密着型のサービスです。
シニア向け分譲マンション
シニア向け分譲マンションは、高齢者の暮らしに配慮したバリアフリー設計の分譲マンションです。所有権があるため、売却や賃貸、リフォームなども自由に行えるのが特徴になっています。
娯楽施設の充実したものが多く、富裕層のアクティブシニアの需要が高い住まいの選択肢と言えます。有料老人ホームやサ高住とは異なり、介護サービスは外部のサービスを個人で手配する必要がある点には注意が必要です。
【公的施設】
公的施設の最大のメリットは、民間施設と比べて利用料が比較的安いことです。運営は主に国や地方自治体、社会福祉法人などが担っており、知事の認可を受けた一部の民間企業も含まれます。
入居者は申し込みの順番ではなく、介護度の高さや介護できる家族の有無などの状況を考慮して優先順位が決められるのが特徴です。そのため、費用面でメリットがある一方、入居希望者が多く、待機期間が長くなる傾向にあります。
公的施設には主に以下のようなものがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
特別養護老人ホーム(特養)
特別養護老人ホームは、要介護3以上の高齢者を対象とした介護施設で、食事や入浴、排せつ介助など日常生活全般の介護を受けられます。常に介護士が駐在しているため、夜間の対応も可能です。費用は比較的安く抑えられていますが、その分入居待機者が多いのが課題です。終身利用が可能で、看取りまで対応してくれる施設もあります。
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設は、病状が安定期に入った高齢者が在宅復帰するためのリハビリテーションを集中的に行う施設です。介護に加え、医師や看護師による医療的管理の下でのケアが特徴で、基本的には入所から3ヶ月が目安とされ、家庭や他施設への移行を目指します。費用は特養より若干高めですが、リハビリを重視する人に適しています。
介護医療院(介護療養型医療施設)
2018年に創設された介護医療院は、長期療養と生活支援を必要とする重度の要介護者のための施設です。医師や看護師の配置基準が手厚く、喀痰吸引や経管栄養などの医療処置にも対応可能です。個室はパーテーションなどで仕切られたタイプが主流で、人生の最終段階におけるケアも行われます。介護療養病床の転換先として設けられた経緯があります。
ケアハウス
ケアハウスは、自宅での単身生活に不安のある高齢者向けの施設です。介護が必要ない自立した人から、要介護認定を受けた人まで利用できます。「介護型」では、施設スタッフによる介護サービスを受けられますが、「一般型」の場合は外部のサービスを利用する形となります。費用は比較的安価で、所得に応じて軽減措置が適用されるケースもあります。
高齢者施設・住宅の費用相場
高齢者施設・住宅の種類ごとの入居費用(初期費用)と月額費用の相場は、以下の通りです。
種類 | 初期費用 | 月額費用 |
---|---|---|
特別養護老人ホーム | 0円 | 約6万~15万円 |
介護老人保健施設 | 0円 | 約8万~14万円 |
介護医療院(介護療養型医療施設) | 0円 | 約9万~17万円 |
ケアハウス | 0~数百万円 | 約7万~20万円 |
介護付き有料老人ホーム | 0~数千万円 | 約15万~35万円 |
住宅型有料老人ホーム | 0~数千万円 | 約15万~35万円 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 0~数十万円 | 約10万~30万円 |
グループホーム | 0~数十万円 | 約15万~20万円 |
※上記は目安の金額であり、立地や居室タイプ、提供サービスなどにより異なります。
公的施設の特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護医療院(介護療養型医療施設)は、入居一時金がかからないのが特徴です。
一方、民間施設は入居一時金が必要な場合が多く、特に有料老人ホームでは高額になることもあります。
月額費用は公的施設の方が総じて安めですが、有料老人ホームなどのサービスが充実した民間施設は高めの設定となっています。
以上の費用は目安ですので、気になる施設については直接問い合わせて、詳細な費用と、費用に含まれるサービス内容を確認することをおすすめします。
高齢者施設・住宅の選び方
高齢者施設・住宅は種類が多岐にわたり、それぞれ特徴が異なります。
単に空きがあるから入居するのではなく、ご本人の心身の状態や家族の意向、経済面などを総合的に考慮し、適切な施設を選ぶ必要があります。
ここでは、押さえておきたいポイントとして、以下について説明します。
- 必須条件・希望条件を整理する
- 資料請求・施設見学をする
- 迷ったら介護のプロに相談してみる
必須条件・希望条件を整理する
施設選びでは、まず「絶対に譲れない条件(必須条件)」と「できれば叶えたい条件(希望条件)」に分けて整理することが大切です。
必須条件としては、以下のような項目が考えられます。
- 必要な介護度や医療ケアに対応しているか
- 認知症の受け入れは可能か
- 入居費用・月額費用が予算内に収まるか
一方、希望条件には次のような項目が挙げられます。
- 自宅から近いか、家族の訪問がしやすい立地か
- 個室か相部屋か、居室の広さはどの程度か
- レクリエーションなど、ご本人の趣味嗜好に合った過ごし方ができるか
あらかじめ必須条件と希望条件を明確にしておくことで、数ある選択肢から効率的に絞り込むことができるでしょう。
資料請求・施設見学をする
必須条件と希望条件を整理したら、次は資料請求や施設見学を行います。
多くの施設はホームページ上に資料請求フォームを設けているため、必要事項を入力するだけで簡単に請求できます。
パンフレットなどの資料からは、施設の概要や費用、サービス内容など基本的な情報が得られるでしょう。さらに詳しく施設の様子を知りたい場合は、実際に見学に行くのがおすすめです。
見学では、施設の雰囲気や入居者の過ごし方、スタッフの対応などを直接肌で感じることができます。資料だけではわからない施設の実情を知るよい機会となるため、必ず見学したいものです。
事前に予約が必要な場合もあるので、早めに連絡しましょう。
迷ったら介護のプロに相談してみる
資料請求や見学を行っても、「施設選びに迷っている」という方もいるかもしれません。そんな時は、一人で抱え込まずに介護のプロに相談してみるのもよいでしょう。
介護サービスを既に利用中の方は、担当のケアマネジャーが頼りになります。ケアマネジャーはご本人の心身の状態を理解した上で、適切な施設を提案してくれるはずです。
介護サービスをまだ利用していない方は、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談するのがおすすめです。公的機関が運営しているため、中立的な立場から施設選びをサポートしてくれます。
このほか、民間の介護施設紹介サービスを利用するという選択肢もあります。経験豊富な相談員が、各施設の詳しい情報を持っているため、ニーズに合った施設を見つけ出す手助けをしてくれるでしょう。
高齢者施設・住宅を選ぶときの4つのポイント
高齢者施設・住宅を選ぶ際は、さまざまな観点から慎重に検討する必要があります。特に重要なのが、要介護度に合っているか、費用面、認知症への対応、看取り体制といった4つのポイントです。
これらの観点を踏まえながら、ご本人や家族のニーズに合った施設選びを行いましょう。
要介護度に合っているか
高齢者施設・住宅は入居者の要介護度によって、受け入れ可能な施設の種類が異なります。自立している方や要支援1~2の比較的元気な方は、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームなどが選択肢となるでしょう。
デイサービスなどの通所介護と組み合わせることで、必要なサポートを受けながら自立した生活を送れます。
一方、要介護1~2の方は特別養護老人ホームへの入居は難しいものの、ケアハウスや介護付き有料老人ホームであれば受け入れている施設も多くあります。
また、要介護3~5の中重度の方になると、特別養護老人ホームの入居対象となります。
このように、施設ごとに入居可能な要介護度が定められているため、ご本人の心身の状態に合わせて選ぶことが大切です。
継続して費用が払えるか
高齢者施設・住宅に入居した後は、毎月の利用料や食費、光熱費などの出費が発生します。特に、有料老人ホームの場合は入居一時金が高額になることもあり、支払いの見通しを立てておく必要があります。
年金収入や預貯金など、今後の収支を見据えてシミュレーションを行いましょう。場合によっては、介護保険の補助制度なども活用できる可能性があります。
継続的に費用を払える施設であるかどうかを見極めることは、入居後の生活を安定させるために欠かせないポイントだと言えるでしょう。
認知症に対応している施設かどうか
認知症の方の場合、症状に適したケアが受けられる施設選びがポイントとなります。認知症対応の代表的な施設としては、グループホームが挙げられます。
少人数の家庭的な環境の中で、認知症ケアの専門知識を持ったスタッフによるサポートを受けられます。
一方、介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームでも、認知症の方の受け入れを行っている施設は多くあります。こうした施設では、居室が個室やユニット型(少人数のグループ)に設計されており、プライバシーを確保しつつ安心して過ごせる環境が整っています。
施設見学の際は、認知症ケアの実情について詳しく説明を受け、ご本人に合った環境かどうかを見極めましょう。
看取りに対応している施設かどうか
「最期はなじみの場所で迎えたい」というのは、多くの方の願いではないでしょうか。実は近年、病院だけでなく特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームなどでも、看取りケアに対応する施設が増えています。
看取りを行う上では、医療面のサポート体制が重要になります。医療機関と連携し、24時間看護師が常駐していたり、訪問診療の受け入れ先になっている施設であれば、安心感が高まるでしょう。
また、看取り期に家族が宿泊できる部屋があるかどうかも、確認しておきたい点の一つです。人生の最終章をどこでどのように過ごすかは、入居者本人にとっても家族にとっても大切な問題です。
事前に施設の看取り体制についてしっかり把握し、家族で話し合っておくことが大切だと言えます。
高齢者施設・住宅に入るまでの流れ
高齢者施設・住宅への入居を検討する際、まずは気になる施設の資料請求を行いましょう。資料を取り寄せることで、施設の概要や提供されるサービス、費用などを詳しく知ることができます。
次に、実際に施設を訪問して見学します。施設の雰囲気や設備、スタッフの対応などを直接確かめられるので、より具体的なイメージを持つことができるでしょう。見学の際は、事前に予約を取り、質問事項などをまとめておくとよいでしょう。
気に入った施設があれば、体験入居を検討するのも一つの方法です。短期間でも、実際に施設で生活することで、自分に合っているかどうかを判断できます。ただし、体験入居が可能かどうかは施設によって異なるので、事前に確認が必要です。
入居を決めたら、契約の手続きを進めていきます。この際、入居申込書や診療情報提供書など、さまざまな書類の準備が求められます。特に、診療情報提供書は医療機関で発行してもらう必要があり、時間がかかることもあるので注意しましょう。
また、多くの施設では身元保証人の設定が必要となります。身元保証人は、入居者が施設に対して負う債務などを保証する役割を担います。ご家族や知人に依頼するケースが一般的ですが、個人で引き受けてもらえない場合は、保証会社などのサービスを利用するという選択肢もあります。
以上のように、高齢者施設・住宅への入居までには、いくつかの重要なステップがあります。
おわりに
高齢者施設・住宅にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴や入居条件、費用が異なります。自分や親の要介護度や予算に合った施設を選ぶことが重要ですが、情報が多すぎて判断に迷うこともあるでしょう。
まずは必須条件と希望条件を整理し、資料請求や見学を通じて施設の雰囲気を確かめましょう。また、介護のプロに相談するのもおすすめです。
施設選びの際は、要介護度に合っているか、費用の継続性、認知症ケア、看取り対応の有無がポイントとなります。入居までの流れを把握し、親御さまの入居をサポートしてくれるサービスを活用すれば、安心して高齢者施設・住宅を決められるはずです。