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家族信託はローンの有無で注意が必要?契約違反にならないための対処法についてもご紹介

セゾンのくらし大研究 編集部

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認知症を発症し判断能力が低下してしまうと、ご自身の財産をご自身で収益・管理・処分することが難しくなります。そこで活用したいのが家族信託です。

自由に財産の収益・管理・処分ができる便利な仕組みですが、注意すべき点もあります。そのひとつが「ローンの残っているアパート・マンションを含めるケース」です。このコラムでは、家族信託のメリット・デメリットや活用例とも絡めながら詳しくご紹介します。

この記事を読んでわかること

  • 家族信託は成年後見制度に比べ財産の収益・管理・処分が自由にできるというメリットがある
  • アパート・マンションなどの収益不動産を所有している場合もスムーズな承継が可能
  • ただしローンが残っている場合は債務引受を検討すべき
  • その他にもトラブルは起きうるので、適切な専門家に早い段階から相談を
家族信託サポート
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家族信託とは

家族信託とは

家族信託という言葉自体は聞いたことがあっても、詳しい意味までは知らないという方もいるでしょう。

ここでは、家族信託の仕組みや注目される理由、メリットについて詳しく紹介します。

家族信託の仕組み

家族信託とは、ご自身の財産を運用・管理・処分できる権利を子どもなど信頼できる家族に渡す契約のことです。以下の三者間で契約を締結します。

委託者財産の管理を委託する立場にある者
受託者財産の管理を受託する立場にある者
受益者財産から得られる収益を享受する立場にある者

家族信託が注目される理由

家族信託が注目されている理由のひとつが、認知症により資産が凍結されることです。

認知症を発症し、判断能力が低下してしまったら、銀行口座からお金を引き出したり、証券会社で株式などの金融商品を売買したりすることができなくなります。

そうなる前、つまり、認知症を発症する前に財産管理に関する契約を結び、家族が財産を管理できる体制を整え、認知症になっても資産凍結がされないようにするための仕組みが家族信託と考えましょう。

家族信託のメリット

家族信託には、さまざまなメリットがあります。具体的なメリットは以下の5つです。

認知症による口座凍結に備えられる

ご自身が認知症を発症してしまうと、それが本人のためだったとしても家族が代わりに財産を処分することが難しくなります。しかし、あらかじめ家族信託契約を結んでおけば、認知症を発症したあとでも、受託者にあたる家族が代わりに財産の収益・管理・処分をすることが可能です。

遺言と同様の効果を発揮する

家族信託契約で遺言効果を得ることもできます。つまり、ご自身が亡くなったあとに財産権を継がせる方をあらかじめ定めておけば、その内容が有効になるのです。また、遺言書とは違い、財産権を継がせる方が亡くなった後の扱いを盛り込むこともできます。

相続が発生した際に遺産分割協議をする必要もないため、遺族の負担も軽減できるでしょう。

遺族の不動産共有のリスクを軽減できる

相続財産にアパートなどの収益不動産が入るケースでも、家族信託を使うと共有をせずに収益・管理・処分ができます。

仮に、相続にあたって収益不動産を共有名義にしてしまうと、修繕を行ったり、売却したりする際に名義人のうちひとりでも反対している方がいる場合は修繕も売却もできません。しかし、家族信託を使い、誰かひとりに収益不動産を信託しておくと、信託された方だけで不動産を経営できます。

成年後見制度より財産管理がしやすい

成年後見制度より家族信託の方が財産管理をしやすいです。成年後見制度では、家族が任意後見人となっても家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて初めて任意後見契約の効力が生じるだけでなく、契約内容も限られているため、本人のためであっても、本人の財産を後見人が代わりに資産運用をして増やすことはできません。

一方、家族信託であれば契約内容や受託者を自由に決められるだけでなく、財産の収益・管理・処分も自由にできます。つまり、ご自身や家族の意向を反映しやすい点がメリットです。

障害をもつ子どもの「親亡き後問題」にも有効

障害を持つ子どものいるご家庭の「親亡き後問題」にも、家族信託が有効になります。

両親のうちどちらかが委託者となり、兄弟姉妹や銀行などの第三者機関に財産の収益・管理・処分を依頼し、障害を持つ子どもを受益者に設定します。そうすると、両親が認知症になったり、亡くなったりした後も生活費などの金銭が支払われるため、安心して暮らせます。

どのようなシーンで家族信託が活用できる?

どのようなシーンで家族信託が活用できる?

家族信託はさまざまな用途に活用可能です。ここでは具体的なシーンとして、以下の4つについて紹介します。

施設に入所するため自宅が空き家になる

老人ホームなどの施設に入所するため、自宅が空き家になるケースを考えてみましょう。一度空き家にして、後々売却したり、誰かに貸したりしたいと考えたとしても、万が一認知症を発症してしまうとご自身が売ったり貸したりすることは難しくなります。その際、家族が代わりに売ったり貸したりすることもできません。

そこで、あらかじめ家族信託契約を結んでおくと、受託者となった家族が売却したり、誰かに貸したりすることが可能です。

所有している不動産の管理が難しくなってきた

アパートやマンションなど、収益不動産を所有していたものの、高齢になって管理が難しくなってきた場合も、家族信託を活用することで解決できるでしょう。生前贈与により家族に引き継いでもらうこともできますが、この場合は多額の贈与税が発生します。

しかし、家族と家族信託契約を結び、委託者兼受益者をご自身に、処分権限を含めた権限を有する受託者を家族にしておくと、ご自身で管理する必要はありません。

ひとつの不動産を兄弟姉妹で共有している

アパートやマンションなどの収益不動産を兄弟姉妹で共有していた場合も、家族信託を使うことでトラブルが回避できます。前述したとおり、共有不動産の管理・処分は所有者全員の意見が一致しないとできません。また、ひとりでも認知症などで判断能力が低下した方がいた場合、立替え・売却等もままならなくなります。

そこで、共有の持ち分に信託を設定しておくと、認知症などで判断能力が低下した方がいた場合でも、立替え・売却等に向けて話を進めることが可能です。

相続税対策として利用したい

暦年贈与(毎年110万円ずつ贈与すること)は生前贈与の方法として使われていますが、代わりに生前対策を使うこともできます。例えば、ご自身から孫に毎年110万円を渡すつもりで生前贈与を考えていたとしましょう。

法的には何ら問題はありませんが、孫が若年の場合に金銭を自由に使用できるようにすることは、教育上好ましくありません。

そのような場合は、孫の親にあたる子を受託者、孫には受益権を渡す家族信託契約を結ぶことで解決が可能です。あくまで受託者である子が必要と判断した際にお金を使わせてもらえる権利であるため、浪費の心配がなくなります。

家族信託でトラブルに発展するケース

家族信託でトラブルに発展するケース

家族信託は便利な方法ですが、契約を結ぶ際に注意を払わなければトラブルの元凶になる可能性があるため注意しましょう。ここでは、トラブルに発展しがちなケースについてご紹介します。

無効な契約書で信託を締結した

ご自身および家族だけで契約書を作成すると、法的に無効な内容になりかねません。例えば「信託契約書を締結したけれど、不動産の信託登記ができない内容になっていた」場合、信託契約自体が意味をなさないものになってしまいます。

公正証書を作成していない

信託契約を公正証書に残しておかなかったことがトラブルの原因にもなり得ます。例えば、受託者ではない家族が「うちの親は本当に理解や納得をして契約していたのか」とクレームをつける可能性もゼロではありません。また、内容に納得がいかない他の家族が私文書で作成された信託契約書を勝手に書き換える可能性もあるでしょう。

信託契約にあたって公正証書(信託契約公正証書)を作成すると、公証人が信託契約書の条項等に法令に違反する箇所がないかを確認してくれます。加えて、原本が公証役場で保存されるため、紛失・改ざんのおそれもありません。

理解力・判断力が低下した状態で契約する

理解力・判断力が低下した状態で信託契約を結ぼうとしても、有効な契約にはならないため注意しましょう。形式的に問題がなくても、委託者が内容を理解できなかった時点で法的には無効になります。

信託口口座の開設ができない

家族信託契約を結ぶ場合、委託者から預かった金銭や信託不動産から生じる賃料は、信託口口座という専用口座で分別管理しなくてはいけません。しかし、信託口口座の開設に対応している金融機関は少ないだけでなく、審査に落ちてしまう可能性もあります。

財産を移転して贈与税が発生してしまう

信託の設計においては、財産を所有する方が委託者かつ受益者となるようにしないといけません。この条件を満たせない設計だった場合、受益者へ財産を移転することで贈与税が課税されてしまいます。設計の内容次第では、高額な贈与税を課せられるおそれもあるため注意しましょう。

所得税が高額になってしまう

信託財産に含まれている収益不動産から年間を通じて生じた損失は、不動産所得の計算上は「なかったもの」とみなされます。つまり、信託財産とは別に収益不動産を持っていたとしても、そこから生じた収益と信託財産から生じた損失は損益通算できません。

また、信託財産に複数の収益不動産が含まれていた場合、どれかひとつで損失が生じたとしても、他のものとの損益通算は不可となります。

損益通算ができない以上、所得税が高額になる可能性もある点に注意しましょう。

家族信託を依頼した専門家がイマイチだった

トラブルを回避するためには、早い段階で弁護士・司法書士などの専門家への相談がおすすめです。

しかし、すべての専門家が家族信託に精通しているとは限らない点に注意しましょう。また、昨今は家族信託のサポートを行う民間企業もありますが、質は千差万別です。相談・依頼をする先がイマイチだとトラブルが絶えないため、しっかり見極めましょう。

不動産のローンが残っている

委託者の財産にローンが残っているアパート・マンションなどの収益不動産が混ざっていた場合、信託契約を締結する際は注意が必要です。

金融機関から承諾を得ずに信託契約を締結・登記を行うと、金銭消費貸借契約上の契約違反として扱われる可能性があります。ローン残高の一括返済を求められることもあるため、専門家とも連携し、事前に金融期間にも相談しましょう。

ローンが残っている場合の家族信託における注意点と対処法

ローンが残っている場合の家族信託における注意点と対処法

前述したとおり、ローンが残っているアパート・マンションなどの収益不動産を家族信託における信託財産に含める際は注意が必要です。

事前に取り扱いを決めるべきポイントについてご紹介しましょう。

債務者を誰にするか

まず、債務者を誰にするかが問題になります。信託財産に含まれる不動産のローンの債務者が委託者であった場合、何もせずそのまま信託契約を締結することは理論上可能です。受託者が委託者に返済資金を送金し、毎月返済してもらうことになります。

ただし、この方法で注意すべき点は、委託者の認知症が進み判断能力が衰えた場合、契約変更が難しくなる点です。金融機関から債務者を変更してほしいと言われた場合は、後述する債務引受の手続きを行いましょう。

債務引受契約をするか

家族信託契約の締結にあたって、ローンの債務者を委託者から受託者に変更するように金融機関に求められた場合は、債務引受を行います。

債務引受とは、ある方が負っている債務を別の方が債権者(金融機関)との合意によって承継することです。

信託契約書に委託者から受託者への債務引受を行う内容を盛り込むことで「アパート・マンションの経営」と「ローンの返済」を信託されたのと同じような状況を作ることができます。

なお、債務引受を「元の債務者(=委託者)の責務が免除されるか」によって分類すると、併存的債務引受と免責的債務引受の2種類に分類されます。

免責的債務引受元の債務者は負担から外れ、引受人のみが負担していく
併存的債務引受債権者に対する借金を元の債務者と引受人が一緒に負担する

連帯保証人の取り扱いはどのようにするか

信託財産に含まれているアパート・マンションのローンを契約する際、連帯保証人が設定されているのが一般的です。こちらについても、債務引受により債務者が委託者から受託者に変更されることに伴う変更が必要かは、金融機関にも相談しましょう。

金融機関の承諾があるか

前述したとおり、家族信託契約を結ぶ際の信託財産にローンが残っている不動産があった場合、金融機関に相談せずに進めてはいけません。契約違反として一括返済を求められることもあるため、まずは「承諾を得る」ことを最優先にしましょう。

トラブルを回避するための対策

トラブルを回避するための対策

家族信託のトラブルを回避するためには対策も必要です。基本的な対策についてご紹介します。

信頼できる専門家に依頼する

家族信託について相談できる専門家として考えられるのは、主に司法書士です。しかし、一口に司法書士といっても、手がける分野が非常に幅広いうえ、それぞれに得意な分野とそうでない分野があります。

家族信託の相談をするのであれば、家族信託に長けている司法書士を探しましょう。この分野での経験・知識があまりない司法書士に依頼するとトラブルのもとになりかねません。

判断能力があるうちに契約する

家族信託も契約の一種である以上、委託者となる方に判断能力があるうちに契約しましょう。認知症を発症し、判断能力が著しく低下した場合、契約自体ができなくなります。

判断能力が著しく低下してしまっている場合は、成年後見制度の利用も視野に入れる必要があります。

家族で情報共有を行う

家族信託はお金が絡む契約である以上、家族間のトラブルの引き金にもなりがちです。委託者・受託者となる家族だけで話を進め、受託者にならない家族は蚊帳の外というのは好ましくありません。家族で情報共有を行い「何をどうするか」を伝えておきましょう。

安全な家族信託サポートを選ぶことが大切

安全な家族信託サポートを選ぶことが大切

家族信託の手続きをご自身や家族だけで進めていくのはトラブルのもとになりかねません。トラブルを回避するためにも、安全なサポート先を選びましょう。

契約前に信頼できる専門家に相談する

家族信託を検討するということは、終活や相続、および周辺の手続きも決めていかなくてはいけません。相談するなら、信頼できる専門家=相続・終活のスペシャリストがいる先が最適です。

セゾンの相続 家族信託サポート」では、相続・終活のスペシャリストである専門家と提携し、さまざまな相談を受け付けています。家族信託に強い提携司法書士による無料相談や最適なプランのご提案を行うことも可能です。何も具体的な話を考えていない段階でももちろんご利用いただけますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

「セゾンの相続 家族信託サポート」についての詳細はこちら

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おわりに

ローンが残っているアパート・マンションなどの収益不動産を家族信託の信託財産に含めること自体は不可能ではありません。しかし、金融機関からの承諾を得たうえで、細かい部分にまで配慮して設計しないとトラブルを招く可能性があります。

また、収益不動産の扱い以外にも、家族信託では決めなくてはいけないことが多々あるため、早い段階から専門家に相談しましょう。専門家がイマイチだと家族信託の契約内容も不十分な内容になってしまうため、ここは慎重に進めていきたいところです。

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