暗号資産(仮想通貨)を売買している方は、自分が亡くなった後の相続について考えたことがあるのではないでしょうか。暗号資産の所得税率が高いことから、相続税も高額になるのではないかと不安を抱いているかもしれません。
実際に暗号資産の相続が発生した際は、合計すると110%もの税金がかかる可能性があります。自分の投資のせいで、遺された家族に大きな負担を押し付けてしまいかねません。
そこで、本記事では暗号資産を相続した際に係る税金について、詳しく解説します。税金対策や相続の流れについても説明しているので、今後も暗号資産を安心して取引するために、ご参考ください。
なお、暗号資産に関する税制は2024年7月時点の情報で執筆しており、今後変更される可能性があります。暗号資産を相続する際は、最新の情報をご確認ください。
(本記事は2024年8月9日時点の情報です)
暗号資産(仮想通貨)の税金は最大で110%かかる
「暗号資産の税金は最大で110%かかる」と言われる理由は、暗号資産(仮想通貨)の相続にあたって、相続税・所得税・住民税の3つの税金がかかるからです。
相続税は最大55%、所得税は最大45%かかり、さらに住民税10%が加わって最大で110%となります。以下の表は相続税と所得税の速算表です。
【相続税の速算表】
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
【所得税の速算表】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
上記の表からわかるように、相続額が6億円超でかつ所得額が4,000万円以上の場合に、2つの税率が最大となります。相続税・所得税ともに相当額でなければ最大税率がかかることはありません。そのため、実際に110%もの税金を支払うことになるケースは少ないと言えるでしょう。
とはいえ、暗号資産は値動きが非常に大きいので、巨額の利益を得ている方であれば相続時に110%の税金がかかる可能性は十分にあります。
暗号資産特有の相続税・所得税の計算方法と注意点
暗号資産の相続税と所得税の計算には、いくつかの特有の要素があります。以下に詳細を説明します。
1. 相続税の計算
暗号資産の相続税評価額は、原則として相続時の時価(相続開始時の取引所価格)で計算されます。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 取引所ごとに価格が異なる場合、国税庁が認める主要な取引所の価格を使用する
- 相続開始時に取引が停止されていた場合、直近の取引価格を使用することがある
計算例:
相続時のビットコイン価格が500万円/BTCで、2BTCを相続した場合
相続税評価額 = 500万円 × 2 = 1,000万円
2. 所得税の計算
暗号資産を相続後に売却した場合、所得税が課税されます。計算方法は以下の通りです。
譲渡所得 = 売却価格 – (取得価額 + 譲渡に要した費用)
ここで重要なのは、「取得価額」が相続時の時価となることです。これにより、相続時から売却時までの値上がり分にのみ課税されます。
計算例:
相続時の評価額(取得価額) | 1,000万円 |
売却価格 | 1,200万円 |
譲渡に要した費用 | 10万円と仮定 |
譲渡所得 | 190万円 {=1,200万円 – (1,000万円 + 10万円) } |
上記の例では、譲渡所得190万円に対して所得税・住民税が課税されます。
暗号資産(仮想通貨)の税率が110%になる条件
暗号資産の税率が110%になるのは、以下2つの条件に当てはまったときです。
- 暗号資産を含めた相続資産の合計額が6億円超
- かつ暗号資産による利益を含めた所得額が4,000万円以上
例えば、法定相続人が1人で暗号資産を含めた相続額が5,000万円とすると、相続税は以下のようになります。なお、相続税の控除額は1人のため、基礎控除3,000万円+1人あたり600万円の合計3,600万円です。
「(5,000万円-3,600万円)×15%-50万円=160万円」
もし、相続税を支払えずに暗号資産を売却する場合は、所得額に応じた所得税がさらに課せられます。相続税を支払うために500万円の暗号資産を売却した場合の所得税額は、以下のとおりです。
「500万円×20%-427,500円=572,500円」
さらに「500万円×10%」の住民税50万円が加わり、3つの税金を合わせて約260万円となります。このように、巨額の相続が発生しないのであれば、実際には110%もの税金がかかることを心配する必要はありません。
暗号資産(仮想通貨)には取得費加算の特例を使えない
暗号資産の相続時の税率が高い理由は、「取得費加算の特例」が使えないためです。取得費加算の特例とは、一定期間内に相続財産を売却した場合に、支払った相続税額を取得費として加算できるという制度です。
例えば、相続で得た資産を1,000万円で売却し、取得費として加算できるのが150万円の場合、所得額は「1,000万円-150万円=850万円」となります。「850万円×23%-636,000円」で、所得税額は1,319,000円です。
この特例が暗号資産に適用されれば、税負担は小さくなります。しかし、取得費加算の特例は暗号資産には適用されません。そのため、このケースでの所得税は「1,000万円×33%-1,536,000円」で1,764,000円かかり、約50万円の差が発生します。
このように、取得費加算の特例を使えないこともあり、暗号資産の税負担が大きくなってしまうのです。
参照元:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁
暗号資産(仮想通貨)相続にあたっての課税所得額の計算方法
暗号資産を相続する際は、課税される所得額を計算しなければなりません。所得税額をシミュレーションする際は、まず暗号資産の税金を考えるうえで基本となる以下の項目を押さえておきましょう。
- 利益は雑所得に分類される
- 損益通算は原則不可
ひとつずつ解説します。
利益は雑所得に分類される
暗号資産の利益は、雑所得に分類されます。雑所得とは、以下のいずれにも当てはまらない所得のことです。
・配当所得
・不動産所得
・事業所得
・給与所得
・退職所得
・山林所得
・譲渡所得
・一時所得
また、雑所得は各種の所得金額を合計して所得金額を算出する総合課税の対象です。上記の各所得も総合課税の対象のため、税額を計算する際は、暗号資産の利益と上記に該当する所得の合計を算出した金額に応じた税率を乗ずる必要があります。
参照元:No.1500 雑所得|国税庁
No.2220 総合課税制度|国税庁
損益通算は原則不可
暗号資産の損益通算は原則不可であることも、押さえておきましょう。
損益通算とは、損失が発生した際に他の種類の所得金額から控除することです。課税所得額を小さくできるので、課税額が小さくなります。
例えば、不動産で100万円の損失が発生した場合、500万円の利益が出ている事業所得と相殺することで課税対象額を400万円にできます。
しかし、損益通算ができるのは以下4つの所得のみです。
- 不動産所得
- 事業所得
- 譲渡所得
- 山林所得
雑所得に分類される暗号資産は、損益通算はできません。
参照元:No.2250 損益通算|国税庁
ただし、暗号資産で損失を出したとしても雑所得の範囲内であれば損益通算は可能です。例えば、ビットコインで利益が出ていてイーサリアムで損失が出ている場合は、両者の損益通算ができます。
暗号資産(仮想通貨)を相続した時の納税額シミュレーション
暗号資産を相続した際に発生する納税額について、以下のパターンで検証します。
【シミュレーションの前提】
・基礎控除額は3,000万円+600万円×1人=3,600万円
・雑損控除や医療費控除といったその他の所得控除については考慮しない
・相続したのはビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)
- 相続資産額が6.5億円、課税所得額が4,000万円の場合
- 相続資産額6.5億円、課税所得額が150万円
ひとつずつ見ていきましょう。
パターン①高額な相続資産と高所得の場合
相続資産:
- 現金・不動産等:5億円
- ビットコイン:100BTC(1BTC = 500万円として)
- イーサリアム:1000ETH(1ETH = 30万円として)
計算:
相続税 | 総資産額 = 5億円 + (100 × 500万円) + (1,000 × 30万円) = 8.5億円 課税対象額 = 8.5億円 – 3,600万円 = 8.14億円 相続税額 = (8.14億円 × 55%) – 7,200万円 = 3.78億円 |
所得税 | 0円 |
住民税 | 0円 |
合計 | 3.78億円 |
パターン②相続後に暗号資産の価格が上昇した場合
相続資産:
- 現金・不動産等:2億円
- ビットコイン:10BTC(相続時1BTC = 500万円、売却時1BTC = 600万円)
- イーサリアム:100ETH(相続時1ETH = 30万円、売却時1ETH = 40万円)
計算:
相続税 | 総資産額 = 2億円 + (10 × 500万円) + (100 × 30万円) = 3億円 課税対象額 = 3億円 – 3,600万円 = 2.64億円 相続税額 = (2.64億円 × 50%) – 4,200万円 = 9,000万円 |
所得税 | 売却額 = (10 × 600万円) + (100 × 40万円) = 1億円 取得価額(相続時評価額) = (10 × 500万円) + (100 × 30万円) = 8,000万円 譲渡所得 = 1億円 – 8,000万円 = 2,000万円 所得税(税率33%と仮定) = 2,000万円 × 33% = 660万円 |
住民税 | 住民税 = 2,000万円 × 10% = 200万円 |
合計 | 9,860万円 (=9,000万円 + 660万円 + 200万円) |
暗号資産(仮想通貨)の納税額を計算する際の注意点
暗号資産の評価額は相続時の時価を使用します。取引所によって価格が異なる場合は、国税庁が認める主要な取引所の価格を参考にします。
相続後に暗号資産を売却する際、相続時の評価額が取得費となります
暗号資産(仮想通貨)の相続対策
上述のシミュレーションより、暗号資産の相続額が大きいと税率が高くなり、納税額が高額になります。あまりにも高額だと税金を支払えず、追徴課税をはじめとしたペナルティを科せられる恐れがあります。
高額な暗号資産を相続したとしても問題なく納税できるように、以下の対策を取りましょう。
- 現金化しておく
- 生前贈与をする
- 相続を放棄する
ひとつずつ解説します。
現金化しておく
暗号資産を売却して現金化しておくのが、最も簡単な相続対策です。売却時の所得税は暗号資産を取引している本人が払うため、家族に負担がかかることはありません。
自分が取引したものは自分で処分しておけば家族に迷惑がかからず、相続時のトラブルを避けられるでしょう。
生前贈与をする
生前贈与を行えば非課税、もしくは課税対象額を抑えられる可能性があります。生前贈与には大きく分けて暦年課税と相続時精算課税の2種類があり、それぞれの特徴は以下のとおりです。
暦年課税 | 相続時精算課税 |
---|---|
1年間に110万円以内の贈与であれば非課税になる。 | 贈与額2,500万円まで非課税。超えた部分に対して20%の贈与税が課される。 |
相続する金額が比較的少額な場合は、暦年課税を選ぶとよいでしょう。一方で、高額な場合は2,500万円までが非課税となる相続時精算課税制度がおすすめです。
なお、相続時精算課税制度を利用する際は、贈与時点の価格で課税される点に注意が必要です。
参照元:No.4402 贈与税がかかる場合|国税庁
令和5年分贈与税の申告のしかた-贈与税の計算方法等の概要|国税庁
相続を放棄する
被相続人が亡くなり多額の相続税が発生したものの、支払うのが困難な場合は相続放棄も選択肢に入れましょう。相続を放棄すれば資産を引き継がないため、相続税を支払う必要がありません。
ただし、相続放棄を選択すると暗号資産に限らず、他の資産の相続権も放棄することになる点に注意が必要です。他の資産を手放しても支障はないと判断した場合にのみ、選択すべき方法と言えます。
参照元:相続の放棄の申述|裁判所
暗号資産(仮想通貨)を相続するときの手順
暗号資産を相続するときの手順は、以下の3ステップです。
- 被相続人はメモや記録を残しておく
- 相続人は速やかに取引所に連絡する
- 取引所から暗号資産(仮想通貨)が払い戻される
相続方法がわからない方は、ぜひ参考にしてみてください。
被相続人はメモや記録を残しておく
暗号資産の売買をしている方は、取引の事実や取引記録などを残しておきましょう。そもそも暗号資産を取引していたという事実が見つからなければ、家族は申告のしようがありません。
申告漏れが発覚すると追徴課税となる恐れがあるため、取引の事実を明らかにしておくのは重要です。また、相続した資産の過少申告もしくは無申告だった場合も、過少申告加算税や無申告加算税といった罰則が科されます。
罰則が科されると本来支払うべき税金に加えて、さらに罰則分も支払わなければいけないため、暗号資産の利益が大きいと相当な負担となってしまいます。
正確に申告して正しく納税できるように、取引所や相続時の手続きについて記録しておきましょう。
参照元:加算税の概要|財務省
相続人は速やかに取引所に連絡する
被相続人が暗号資産を取引しているとわかったら、相続人は死亡の事実を取引所に伝え、相続手続きを始めます。取引所から相続のための必要書類を通知されるため、指示のとおりに書類を準備して手続きを進めます。
取引所から暗号資産(仮想通貨)が払い戻される
手続きが終わると相続人に暗号資産が払い戻されます。日本円に換金して銀行口座に振り込まれるか、暗号資産がそのまま相続人の暗号資産の口座に移管されるかは、取引所によって異なります。
ここまでで、暗号資産の相続手続きは終了です。
なお、相続手続きが完了した時点で被相続人の口座は解約されます。
暗号資産(仮想通貨)の相続税対策について具体的なアドバイスと注意点
1. 資産の分散と多様化
暗号資産は価格変動が大きいため、全資産を暗号資産に集中させるのはリスクが高いです。資産を分散させ、株式、債券、不動産など他の資産クラスとバランスを取ることをお勧めします。これにより、相続時の税負担リスクを軽減できる可能性があります。
2. 定期的な資産評価と記録
暗号資産の価値は日々変動するため、定期的(例:月次や四半期ごと)に資産評価を行い、記録を残すことが重要です。これにより、相続が発生した際の資産評価がスムーズになり、適切な相続税申告ができます。
3. 専門家との連携
暗号資産の税制は複雑で、頻繁に変更される可能性があります。税理士や弁護士など、暗号資産に詳しい専門家と定期的に相談し、最新の法制度や税制に基づいた対策を立てることをお勧めします。
4. 生前贈与の活用
相続税の基礎控除額を超える資産がある場合、生前贈与を活用することで相続税を軽減できる可能性があります。ただし、暗号資産の贈与は、贈与時の時価で評価されるため、市場価格が高騰している時期の贈与は避けるなど、タイミングに注意が必要です。
5. 相続人への教育と情報共有
暗号資産の管理や取引の仕組みは複雑です。相続人に対して、暗号資産の基本的な知識や管理方法を教育し、情報を共有しておくことが重要です。これにより、突然の相続時にも混乱を最小限に抑えられます。
6. ウォレットと秘密鍵の管理
暗号資産の相続において最も重要なのは、ウォレットと秘密鍵の管理です。これらの情報を安全に保管し、かつ相続人が必要時に確実にアクセスできる方法を確立しておく必要があります。例えば、公証役場に遺言書と共に秘密鍵を預けるなどの方法があります。
7. 定期的な見直しと更新
暗号資産市場は急速に変化します。相続対策も定期的(例:年1回)に見直し、必要に応じて更新することが大切です。市場動向、税制改正、家族構成の変化などを考慮し、常に最適な対策を取れるようにしましょう。
注意点
暗号資産の相続税評価額は相続発生時の市場価格が高騰している場合、予想以上に高額な相続税が課される可能性があります。
取引所に預けている暗号資産と、自己管理している暗号資産では、相続手続きが異なる場合があります。それぞれの管理方法に応じた対策が必要です。
国際的な相続の場合、居住地や市民権によって適用される法律や税制が異なる可能性があります。相続が発生した際は個々の状況に応じて対策を立てることに加え、グローバルな視点も求められる場合があります。
不安な点がある場合は、必ず専門家に相談しておきましょう。
FPが見た暗号資産(仮想通貨)の相続税対策
被相続人が暗号資産を保有している場合、評価額によっては高額な税金が課せられます。相続額が6億円超で、かつ他の所得が4,000万円を超えていると相続税・所得税でそれぞれ最高税率が課され、住民税と合わせて110%の税率となります。
滅多にない事例と思われる方も多いでしょうが、暗号資産は変動が大きい資産であるため、対策しておかないと遺族に迷惑をかけることになりかねません。
迷惑をかけないようにするために、早い段階から現金化したり取引内容を記録したりと、相続対策をすることが重要です。
なお、本記事で紹介したのは一般的なケースのため、個々の状況に応じて税理士や弁護士などの専門家に相談してください。