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土用の日に身体に良い薬膳

土用の日に良いモノ
瀬戸 佳子 国際中医薬膳師・登録販売者

執筆者
瀬戸 佳子 国際中医薬膳師・登録販売者

早稲田大学理工学部卒、同大学院理工学研究科修了。北京中医薬大学日本校(現・日本中医学院)薬膳科卒業。会社員を経て、東京・表参道の「源保堂鍼灸院」併設の薬戸金堂で、漢方相談を行いながら東洋医学に基付いた食養生のアドバイスを行う。雑誌やWEBセミナーの講演などでも幅広く活躍。 『1週間で必ず体がラクになる お手軽気血ごはん』『季節の不調が必ずラク~になる本』(共に文化出版局)が好評発売中。

土用の丑の日といえば、うなぎですね。夏バテ対策にうなぎを召し上がる方も多いでしょう。しかし、土用というのは18日間あり、どの季節にも土用があることをご存じない方も多いのではないでしょうか。体調を整えて辛い残暑を乗り切るために、土用はとても良い時期です。土用に良いモノを取り入れて夏バテと熱中症を予防しましょう。

「土用」とは?

「土用」とは、春・夏・秋・冬の最後の18日間(立春・立夏・立秋・立冬の前の各18日間、ということもできます)に存在し、その季節を完成させ、次の季節にバトンタッチする準備期間です。

例えば今年の夏の土用は、7月20日から立秋の前日、8月7日までを指します。この時期に夏という季節を完成させ、次の季節である秋への準備をするのです。

土用とは何か、というお話をする場合少し難しくなりますが、「陰陽五行」をいう東洋医学で大切にしている考え方が基本となります。

陰陽五行_陰陽四時五行

「陰陽五行」というと一般的に五角形の形をイメージしますが、もうひとつ、五行の関係を示すもので「陰陽四時五行」というものがあります。これは四角形・菱形になっており、「土」が中心にきます。キトラ古墳で示されているのもこちらの「陰陽四時五行」です。

春(=木)→土用(土)→夏(=火)→土用(土)→秋(=金)→土用(土)→冬(=水)→…

と季節は進んでいきますので、その真ん中の「土」が非常に重要とされています。

とりわけ夏と秋の間の土用は重要視されます。というのも、陰陽五行(五角形の図を参照)では、火(夏)と金(秋)の関係は相克(そうこく)関係と言って、互いに抑制する関係になりますので、夏から秋への季節の巡行はスムーズにいかない、と考えられています。したがって、一年の土用の中でも夏の土用は古来より大事にされてきました。

「土用」の日には胃腸を労わる

「土用」の日には胃腸を労わる

また、土用という期間が胃腸が弱くなる期間でもあります。

「土」は、五行において「脾」という臓器が配当されています。西洋医学でいうところの脾臓ではなく、東洋医学では消化器官全般を指しています。土用は季節の変わり目ですから、その季節の疲れが溜まりやすく、消化器官も同じく疲れが出やすくなります。

夏の土用の時期は二十四節気でいうところの小暑から大暑にかけての期間で、一年で最も暑い時期となります。暑さにより身体の疲れも溜まってきている頃で、体力を補うことが何よりも大切です。

体力の元は食べ物です。胃腸の調子が良ければその体力をしっかり補うことができます。しかし、暑さで疲れていたり、暑いからといって冷たいものばかり取っていると胃腸が疲れてしまい、悪循環に陥ってしまいます。

この時期に胃腸の調子を整えることは夏バテ予防・熱中症予防においても重要なことなのです。土用に入ったら、いつも以上に胃腸を労わり、残暑を乗り切れるように体調を整えるよう心掛けてみてください。

「土用」の丑の日にうなぎを食べる理由

「土用」の丑の日にうなぎを食べる理由

「土用の丑の日にうなぎを食べる」というのは、平賀源内の宣伝戦略により江戸時代に広まったものです。夏場に売り上げの落ちる鰻屋が平賀源内に相談したところ、土用の丑の日まで「あと○日」とカウントダウンした、といわれています。

土用の丑の日を重視するわけは、暑さの盛りであるこの時期に、「火」(=夏のこと)の勢いを「水」で抑えるため、という陰陽五行思想によるところでもあります。この丑の日に、牛を食べるというのが本来の意味ですが、当時は四つ足のものを食べたり、農業の担い手でもあった牛を食べたりすることは避けられていましたので、その「水」を体現するうなぎを食べた、ともいわれています。

うなぎは夏痩せに良く、万葉集にもその記述があります。大伴家持が吉田連石麿のひどく痩せているのを見て、夏痩せに良いからうなぎを取って食べるように詠んだとあります。

石麻呂に われ物申す 夏やせに よしというものぞ 鰻とりめせ

土用に食べたい「う」のつく食材とその理由

丑の日に、「う」のつくものを食べると夏バテしない、といいますが、「う」のつく食材には薬膳的にみても夏バテ予防に効能のあるものが多いです。

とはいえ、土用に良い「う」のつく食べ物、といっても全てが同じ効能ではありません。

  • うなぎ・牛:夏の栄養補給
  • 瓜:暑気あたり予防
  • 梅:暑気あたりや解毒、胃腸の働きの調整
  • うどん:食欲がないときでも食べられる消化の良いもの

ぜひ体調に合わせて「う」のつく食材を取り入れてみてください。

うなぎ

うなぎ

腰を温め、精をつけ、痔を治す、とされます。元気をつけて、夏痩せを防いでくれるものです。ただし、脂が多いのでたくさん食べたり、常に食すにはおすすめできません。江戸時代の書物『本朝食鑑』にも、小児の疳疾を治すといわれるから常食したら腹下しを起こしたと質問され、「脾弱(ひよわ、ここでは胃腸が弱いこと)の人は無理に用いてはいけない」とあります。つまり、あまりに消化力を落ちていると胃腸の負担になるので、その場合はあまり食べない方が良いです。この時期の魚は脂が多いものが少なく、栄養がしっかり摂れるうなぎは貴重な栄養源であったと思います。

うし

牛肉

牛=丑ですので、本来土用の丑の日に食すのは牛となります。牛は土畜ともいい、脾胃を養う食べ物で、気血を補うとされ、やはり胃腸が疲れ、体力が落ちている時に用いると良い食べ物です。

なお、牛肉を食べる場合は、脂身が少なく、さっぱりとした調理法を選ぶようにしましょう。日本でよく食べられる牛は脂ののったものが多いですが、先のうなぎと同じく、脂っこいものは胃腸があまりに弱っている方には負担になってしまいます。

瓜

瓜、というと最近はピンときませんが、夏場に旬を迎えるウリ科のものはたくさんあります。多くは身体の余分な熱と湿気を取り除いてくれるもので、暑気あたりの予防に良いものです。また、水分バランスの調整を行なってくれる作用もあります。

どれも身体を冷やす作用が強いので、胃腸が冷えている方やあまりに消化力が落ちている方は加熱したり、たくさん食べ過ぎないように気をつけると良いです。

瓜などの食材

  • きゅうり - 身体の熱を取る、利尿する、身体を潤す。
  • 冬瓜 - 身体の熱を取る、渇きを癒す、利尿する。
  • 苦瓜 - 熱中症を予防する、目のできものなどの熱毒を取る。
     ※冷やす作用が非常に強い
  • かんぴょう(夕顔) - 利尿作用がある、熱を取る、身体を潤す。
  • スイカ - 熱中症を予防する、利尿する、渇きを癒す。
     ※天然の「白虎湯」といわれ、身体を冷やす作用が非常に強い
  • メロン - 熱中症を予防する、利尿する、渇きを癒す。

他に、ズッキーニ、かぼちゃ、白瓜などがあります。

梅干し

梅干し

食欲不振、喉の渇き、解毒作用(酒・魚・肉など)、熱を取る、といった作用があります。「梅はその日の一日の難のがれ」といったり、「梅干しの七徳」(飲膳摘要)があったりしますが、それほどに効用の高いものです。

土用の時期は夏も盛りで、疲れている時期です。消化機能も落ちていますので、その胃腸の調子を整えるのに優れたものです。また、暑さによる食中毒の予防にも役立つものです。

また、梅干しを漬ける場合は、梅雨明けの時期と重なるこの時期に天日干ししますが、それを「土用干し」と言います。もちろん、梅雨が明けて太陽が力強く晴れる時期であることもありますが、東洋医学独特の考えとして「木火土金水」全ての気を入れるためにこの土用の時期に干すとも考えるのです。

うどん

うどん

江戸時代の書物、『本朝食鑑』によると、うどんは「温飩」と書き、「温かいうちに食べる」とあり、冬に食べるのがうどんで、夏に食べるのがひやむぎとされています。

うどんやひやむぎは粉になっている分、米よりも消化が早いので、消化力が落ちても消化しやすいので、夏バテしているときにも良い食材です。

しかし、噛まずに食べれば胃腸の負担にもなります。しっかり噛んで食べるようにしましょう。また、麺だけの食事では栄養のバランスが偏るので、タンパク質や野菜なども一緒に食べるようにすれば夏バテ予防になります。

なお、ひやむぎやうどん、そうめんなどは、食べ過ぎると「気が塞ぎ痰になる」とあり、それを予防するには、山楂(さんざし)・麦芽・大根おろしが良いとあります。麺類を食べるときは大根おろしなどを添えて、消化不良を予防すると良いです。

ちなみに、「う」のつく食べ物を食べるという習慣の他に、土用しじみ、土用餅、土用卵などもあります。他に、土用灸という習慣もあり、土用の時期に灸治を行うと良いとされています。他にも、土用の虫干し、丑湯などがあります。このように、古くから土用を大事にすることで健康管理をしていたのです。長い残暑を乗り切るためにも、土用を大事に過ごしていきましょう。

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