認知症に備える : 40~60代に向けて【介護から得られたこと】

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認知症に備える : 40~60代に向けて【介護から得られたこと】

前回のコラムでは、「認知症に備える : 40〜60代に向けて【介護者の心理を考える】」について書きました。介護をする上での葛藤や負担感などの面に焦点をあてて書きましたが、介護からは得られることもあります。さまざまな介護者からの話や自身や家族の経験を経て、認知症介護には大変なこともあるが、良かったこともある、ということに気付きました。今回は、私が行った研究も紹介しつつ、認知症介護から得られた良かったことについて考えていきたいと思います。 

1.認知症介護から得られた良かったこと 

1-1.自身の経験から  

私の介護経験は小学生〜大学生の頃です。今思い返せば、ヤングケアラーにあたります。主に介護していたのは、介護を受けていた祖父母からすると嫁にあたる、私の母親です。私が小学生のころからの役割としては、学生ではありましたので主に見守りをしていました。遊びたい盛りで、勉強もしなければならない頃でした。当然、大変でした。外出の機会や友人との付き合いも減ります。私が中学生の時に一度、祖母が免許を返納した後に、近所の中古車屋さんに一人で歩いていき、自動車を購入しようとしていたことがありました。中古車屋さんは面識があったので、家まで届けてくれたのですが、無事で良かった・・という場面でした。知らない間に祖母が調理場に立ち、自宅がボヤ騒ぎということもありました。加えて、高校受験もありましたが、集中して勉強できる時間も限られていました。ここまでくると、少し大変そうだな・・・と思いますよね。ただ、見方を変えると良かったこともたくさんありました。 

図1に示しましたが、先ほど紹介した話も、良かった側面があります。確かに介護は大変ではありましたが、現在ここでの執筆や、仕事で活かせています。また、介護者支援の活動も行え、同じような経験をされている方の役に立つことができています。加えて、介護で時間はとられるのですが、一緒に過ごす時間が増えるので、今まで知らなかった一面を知ることができました。免許返納の話に関しては、中古車屋さんに見守りの協力をお願いし、以前にもまして中古車屋さんと仲良くなりました。そして、壮絶ではあったのですが、この経験があったからこそ家族で団結しました。お陰様でとても仲良しです。少し家族がみんな優しくなったような気がします。 

 図1 認知症介護から得た良かったことも多くある 

自身の経験のみならず、他の介護者の話を聞きながらこれらの良かったことが確信に変わりました。ただ、具体的に皆さんどのような良かった経験をされているのか気になり、調査をしました。 

1-2.研究から;介護の良かった面 

認知症の人を介護する家族の、介護における良かった面を調査しました。2013年に調査を始めてから、2021年に「認知症介護肯定感尺度21項目版」という形で集約しました(図2)。具体的には、対象者への恩返しになる・根気強さがついた・対象者の新しい一面を発見できたなどの「介護の意味づけ」、対象者を褒めるようになった・少しでも良い介護ができるように色々と勉強するようになったなどの「介護マスタリー(介護ができる自信がついた)」、対象者の笑顔がみられると嬉しい・対象者が落ち着いていると安心するなどの「介護に対する肯定的感情」、同じ立場の人と話すと気持ちが楽になる・介護サービスを利用することによりゆとりを持てるようになったなどの「周囲の支援」の4つの要素が抽出されました。 

図2 認知症介護肯定感尺度21項目版 

具体的には、自身が行っている介護に意味を見出していたり、介護を行っているうちに上手な対応が分かってきて自信をつけたり、純粋に笑顔などで喜びを感じたり、周囲の支援をありがたみを感じている・・・といったことですね。大変な真っただ中では、なかなかこのような心持ちになるのも難しいと思いますが、ふと、このような良かった面に気付き、大切にすることで、ほっとできるかもしれません。実際に、介護の肯定的な側面は負担感を減らすことに良いとされています。また、この調査票を認知症の人を介護しているご家族が答えることで、認知症の人の介護を通して得られた良かったことに気付き、介護に前向きに取り組めるきっかけになることを願っています。 

参照元:Fuju T, et al. Development of the Dementia Caregiver Positive Feeling Scale 21-item version (DCPFS-21) in Japan to recognise positive feelings about caregiving for people with dementia. Psychogeriatrics 21(4): 650-658, 2021. 

参照元:認知症介護情報ネットワーク(DCnet).認知症介護肯定感尺度21項目版.(2022年2月6日アクセス) 

1-3.研究から;生活全般の良かった面 

さきほどは、介護の中での良かった面を紹介しました。今度は、介護以外の場面も含めて、どんなことを良かったと感じているのかを示します。「気分転換・ポジティブ日記」というその日にあった良かったこと3つとその理由、自分をほめる言葉を書く日記を介護者に書いてもらいました。その書いてある良かったことの内容を分析したところ、家事や仕事といった「日常生活」、友人や家族との交流といった「被介護者以外の他者との交流」、「介護に関する場面」、「趣味・余暇活動」、「日々の努力へのねぎらい」、花が綺麗、良い天気などの「自然や動物などとの関わり」にわかれました(図3)。書いてある内容をみるとほっこりしますね。この良かったことは、介護のことを書いてくださいとはいっていないのですが、「介護に関する場面」についても多くの記載がありました。また、趣味や友人との交流などの記載もあったことから、介護が始まってもそれらは続けていたほうが良いと思われます。また、この日記を書いた人たちは、介護負担感が減り、介護を受けている認知症の人にも良い影響がありました。そのため、このような、生活の中でのふとした幸せへの気付きが、大切かもしれません。 

 図3 介護者の書いた生活の中の良かったこと 

参照元:藤生大我,ほか.認知症家族介護者がポジティブ日記をつけることの効果.日本認知症ケア学会誌16(4):779-790.2018. 

参照元:藤生大我,ほか.認知症家族介護者がつけたポジティブ日記の内容分析;ポジティブな気づきの促進に向けて.日本認知症ケア学会誌17(4):735-741,2019. 

2.バランスが大切 

ここまで良かったことを中心に紹介してきました。いわば、きれいごとです。いやいや、実際は介護休暇の問題、お金の問題、精神的疲労等々・・・大変なことがたくさんあると思われる方もいらっしゃるでしょう。前回のコラムで触れたように、さまざまな思いを抱きますし、根本的なさまざまな課題はあると思います。当然、根本的な部分についても具体的にどのようにしたら良いか考えたり、訴えていく必要もあると思います。ただ、今ある環境でできることをしなければならないのも現状です。今できる範囲で、気休めでも、少しでも気持ちが軽くなるヒントとなればと思い、自身の経験を踏まえて調査をしてきました。 

認知症ポジティブという概念では、「認知症という困難を抱えて生きる本人、そしてそれを支援する介護者に生じる事象を全てポジティブだといっているわけではありません。たくさんのネガティブな事象の中に潜んでいるポジティブな面に気付こう、そして、それを大切にしよう。」としています。 

ものごとの捉え方には、「ネガティブ」と「ポジティブ」の2面性があります。例えば、親の介護を週に3回しているとします。これは誰からみても共通の客観的事実です。ただし、その捉え方はネガティブにもポジティブにもなります(図4)。ポジティブ心理学では、ポジティブな感情を持つほど幸福感などを高められ、心身への良い影響があるとしています。もちろん、全ての出来事をポジティブに!ということではありません。ネガティブな捉え方は危険察知などに大切なものです。 

過剰にネガティブにならぬよう、ポジティブを意識して、ネガティブとポジティブのバランスをとることが大切です。ただでさえ、認知症の人の家族介護者はストレスが高いとされており、さまざまな困難に向き合っているためバランスが崩れやすく、心の健康は意識していく必要があります。「大変なものは大変」という気持ちも大切にしつつ、その一方で「良かったこと」にも気付いていけると良いかもしれません。自身でバランスをとることも必要ではありますが、もし、周囲にそのような方がいるのであれば、まずは「最近どう?」などと話を聞いてみてください。ただ、聞く。それだけでも少しは気持ちが楽になるかもしれません(介護者の心理については、前回のコラムをご参照ください)。 

参照元:山口晴保.認知症ポジティブ~東京センターのめざす道.認知症ケア研究誌 1:11-19, 2017.  

 図4 ものごとの2面性 

おわりに 

今回は介護から得られた良かったことなどポジティブな面に触れてきました。また、それに気付くことが大切と書いてきました。次回は、良かったことに気付くための「気分転換・ポジティブ日記」を紹介します。ご期待くださいませ。