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認知症予防に運動が効果的?まずはウォーキングからはじめてみませんか?

認知症予防に運動が効果的?
矢島隆二 医師・医学博士

執筆者

医師・医学博士

矢島隆二

新潟大学医学部卒業後、幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症研究を行い医学博士となった。現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点をおいた医療を担っている。神経内科専門医・指導医、総合内科専門医、認知症専門医・指導医、認知症サポート医、日本医師会認定産業医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医。医学博士。講演や執筆の依頼も積極的に受けている。法曹の方々からの依頼で遺言能力を鑑定し、遺言書の有効性についての鑑定書作成もしている。https://yajima-brain-clinic.com/

認知症予防のためには、運動が良いということを聞いたことがある方もいるでしょうか?これまでに多くの研究で、適度な運動によって、認知機能の改善や認知症の発症リスクを低下させる可能性があることが示されています。今回のお話は、認知症を予防するために、本当に運動が効果的なのか、またどのような運動が良いのかを探っていきます。

運動は認知症の発症を予防することができるか

運動は認知症の発症を予防することができるか

まず、中高齢者の歩行スピードの低下や握力の低下は、認知機能低下に関連しているという研究結果があります。

そこで世界保健機関(WHO)は、2019年に「認知機能低下および認知症のリスク低減のためのガイドライン」を公表しています。このガイドラインでは、「身体活動」、「禁煙」、「栄養」、「適正飲酒」、「認知トレーニング」、「社会活動」、「体重の管理」、「高血圧症の管理」、「糖尿病の管理」、「脂質異常症の管理」、「うつ病の管理」、「難聴の管理」として、大きく12の項目に分けて推奨する対策が述べられています。

その中でも、特に介入を強く推奨されている項目のひとつとして、「身体活動」が挙げられています。つまり、適度な運動によって、認知機能の低下を予防することが期待できます。そのため、早い段階からの運動習慣の形成が重要であり、生涯を通じて継続することが望ましいということが示されています。

なお、このWHOのガイドラインでも触れられていますが、運動は単独でなく、他の健康的な生活習慣(バランスの取れた食事、禁煙、節酒、体重管理、認知トレーニング、社交的な活動、生活習慣病の是正、難聴対策など)と組み合わせることで、認知症予防の効果がより高まると考えられています。

また、少数例の検討ですが、運動介入はすでに発症したアルツハイマー型認知症の認知機能を改善する効果も報告されています。そのため、どのようなタイミングであっても、運動習慣を生活に取り入れることが遅過ぎるという事はありません。

認知症予防にはどのような運動をすれば良いか

認知症予防にはどのような運動をすれば良いか

具体的には、有酸素運動(例:ウォーキング、ジョギング、サイクリング)や筋力トレーニング、バランス運動などが推奨されています。これらの運動は、認知機能の維持や改善、記憶力の向上、注意力の集中、情報処理の速度向上などに寄与することが示されています。「高い強度で高頻度に行うレジスタンス運動」という報告もありますが、多くの研究では、有酸素トレーニングの方がより効果の程度は大きいという結果が示されています。なによりも大事なことは、習慣として運動を続けることにありそうです。

また、ここでいう運動とは、通勤などの移動 ( 徒歩、自転車 )、仕事、家事、遊び、ゲーム、スポーツなどをすべて含みますので、日常生活に無理なく運動を取り込んでいくことも大切です。ただし、人それぞれの状況によって適切な運動量や種類は異なる場合がありますので、医師や専門家の指導を受けることをおすすめします。

さきほどのWHOのガイドラインでは、推奨される運動について、具体的な記載があります。

  1. 65 歳以上の成人は、週あたり 150 分の中強度有酸素運動、週あたり 75 分の高強度有酸素運動、または、同等の中~高強度の運動を組み合わせた身体活動を行うこと
  2. 有酸素運動は 1 回につき、少なくとも 10 分以上続けること
  3. さらなる健康効果のため、中強度有酸素運動を週 300 分に増やすこと。または週 150 分の身体活動を高強
  4. 度の有酸素運動にすること。または、同等の中~高強度の身体活動を組み合わせて行うこと
  5. この年齢群に属する高齢者で運動制限を設ける場合には、バランス能力を向上させ転倒を防ぐための身体活動を週 3 日以上行うこと
  6. 筋力トレーニングは週 2 回以上、主要な筋肉群を使うトレーニングをすること
  7. 健康状態によって、高齢者がこれらの推奨する身体活動を実施できない場合は、身体能力や健康状態の許容範囲で可能な限り活動的でいること

ここでいう“中強度の運動”については、日本の厚生労働省が具体的な程度を例示しています。だいたい、自転車に乗ったり、早歩きをする程度を想定いただければちょうど良い程度です。

近年は、身体運動と注意や記憶を刺激する認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせたコグニサイズも注目されています。コグニサイズとは、認知症予防を目的とした取り組みを意味する総称で、国立長寿医療研究センターで開発されたものです。認知を意味するcognition(コグニション)と、運動を意味するexercise(エクササイズ)を組み合わせた造語です。具体的な内容は動画で公開されているため、興味のある方は検索されてみると良いでしょう。

なぜ認知症予防には運動が効果があるとされているのか

なぜ認知症予防には運動が効果があるとされているのか

運動によって認知機能が保たれやすくなる理由について、解明されていない部分が多いものの、いくつかの可能性が指摘されています。代表的な研究報告をいくつか示していきます。

1つ目は、脳の血流と栄養供給を促進することです。運動は心拍数を上げ、血流を増加させるため、脳に酸素や栄養素をより多く供給します。これにより、脳の機能を維持し、神経細胞の成長やシナプスの形成を促進することができると考えられています。

2つ目は、ストレスとうつの軽減です。運動はストレスホルモンの分泌を減少させ、エンドルフィンと呼ばれる快感をもたらす物質の放出を促進します。これにより、運動はストレスやうつの軽減につながり、これらの心理的な要因が認知症の発症リスクに関与する可能性を低下させると考えられています。

3つ目は、アルツハイマー型認知症の発症に深く関わるアミロイドβの除去や、神経成長因子の分泌です。運動は、アミロイドβの分解に作用するネプリライシンというタンパクを活性化させるといわれているほか、脳由来神経成長因子を増やすことで、認知症に対して効果があるという報告があります。

また、運動が認知症予防のために強く推奨されているのは、運動そのものの効果だけではなく、認知症予防への間接的な影響もあるといわれています。具体的には、定期的な身体運動が、高血圧や糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病に対しても良い影響を与えることが考えられます。また、身体活動を通じて、日課や家庭・地域社会と結びついたレクリエーションを行うことで、社交的な活動にもつながっていくでしょう。そして、余暇を使って身体を動かすことはうつの軽減にもつながることも期待できます。

さらに、身体活動の実施は、高齢期に認知症とともに問題となりやすい、“フレイル”の予防にも効果が期待できます。“フレイル”とは、加齢に伴って、心身が弱ってきている状態を指す用語です。身体活動は、認知機能、身体機能、いずれにも良い効果が期待できるといえます。

おわりに

今回は、認知症を予防するために、運動がすすめられることを解説いたしました。特にすすめられる運動の内容や程度についても、効果が見られる理由についても触れながら説明しています。運動以外にも、喫煙や飲酒などの生活習慣の是正、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病の管理、栄養や体重への配慮、うつ病や難聴への対応なども複合的に行うことで、心身ともに健全な状態を維持することが期待できます。皆さまの生活の中に、無理なく上手に運動習慣を取り入れていただければ幸いです。

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