コロナ禍において「ゼロゼロ融資」によって倒産せずに済み、救われた企業も多いです。しかし、経済活動が再開され本格的な返済が始まった現在、返済できずに再び倒産の危機に直面しています。この記事では、ゼロゼロ融資の返済危機に直面している、あるいは可能性のある経営者の方に向けて、要因とともに問題点、対処方法を解説します。
※なお、実質無利子・無担保での融資であることから「ゼロゼロ融資」と呼ばれ、コロナ禍に苦しむ中小企業の資金繰りを支援する融資であることから「コロナ融資」とも呼ばれます。いずれも同じ融資ですので注意してください。
(本記事は2023年12月27日時点の情報です)
- ゼロゼロ融資の据置期間が終了し、本格的な返済が始まったものの、回収困難なケースが増加
- 借り過ぎや貸し過ぎ、スピードを重視した融資が返済困難に陥る要因
- 返済が難しい場合でも、訴訟や財産差押えの可能性もあるため、放置してはいけない
- 返済が難しい場合には、専門家と相談のうえ対処することが大切
ゼロゼロ融資返済の現状
新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの生活は大きな影響を受けました。企業経営においても例外ではなく、外出自粛などによる経済的な打撃は深刻です。そうした中、実質無利子・無担保での融資、いわゆる「ゼロゼロ融資(コロナ融資)」に救われた企業は数知れません。経済活動が再開し、本格的な返済がスタートした今、返済困難な企業が多く存在します。
まずは、ゼロゼロ融資の現状について見ていきましょう。
ゼロゼロ融資19.4兆円のうち1兆円が回収困難
ゼロゼロ融資では、利息は最大3年間、元金は最大5年間猶予されます。据え置き期間3年で融資を受けた企業が多く、2023年7月頃から本格的な返済がスタートしました。
ゼロゼロ融資はコロナ禍で困窮する企業への特別融資であり、救われた企業も多いですが予想以上にコロナ禍が長引いたこと、ここに来て原材料費の高騰や円安の影響もあり、資金繰りが苦しくなったため返済困難事例が相次いでいます。結果的に倒産してしまう企業も出てきました。
会計検査院「令和4年度決算検査報告の概要」によれば、政府系金融機関が実施した中小企業者へのゼロゼロ融資約19兆円(約118万件)のうち約1兆円が回収不能または回収困難なリスク債権(不良債権)、697億円(7291件)が回収不能としてすでに償却されています。
東京商工リサーチによると、「ゼロゼロ融資」利用後、2023年10月の倒産は51件(2023年10月)で、2020年7月からの累計件数は、1,130件に達しました。
参照元:東京商工リサーチ|「ゼロゼロ融資」利用後の倒産 2023年10月は51件 6カ月連続で50件超、累計1,130件に達する | TSRデータインサイト
倒産は一時減ったが融資終了後は増加に転じる
コロナ融資は、企業倒産だけでなく、倒産に伴う失業者の急増という危機的状況の回避という効果を発揮したことは確かです。ただし、実際には延命措置に過ぎず、コロナ禍を経て、新しい展開によりV字回復する企業と経営危機に直面する企業との二極化が明確になりつつあることが現状です。
帝国データバンクによると、2023年度上半期報(2023年4月から9月)において、倒産件数は4208件(前年3123件 前年比+34.7%)と4年ぶりの4,000件超で増加局面です。また、同調査において、ゼロゼロ融資を受けた後に倒産した企業は324件(2021年同期80件、2022年同期205件)と年度半期ベースでも着実に増えています。
参照元:帝国データバンク|全国企業倒産集計 2023年度上半期報(2023年4月から9月)
ゼロゼロ融資で返済困難に陥る企業が多い要因
経済活動が再開し、コロナ禍からの回復に向けて事業活動を活性化させるべきこの時期において、ゼロゼロ融資が負担となり返済できない企業が多く見られます。何が要因なのか考えていきましょう。
【要因1】借り過ぎや貸し過ぎ
無利息・無担保という通常では考えられない融資施策であったため、借りられるだけ借りてしまう企業、貸し過ぎてしまう銀行が多かったのが要因のひとつです。
ゼロゼロ融資は、無利子・無担保とはいえ実際には都道府県が据置期間中の利子を負担し、信用保証協会が保証をする仕組みです。金融機関(銀行)にとっては、リスクを負うことなく融資できる機会であったため、貸し過ぎることに躊躇はなく、貸し過ぎも多く見られました。
【要因3】本来融資できないゾンビ企業にも融資をしてしまった
緊急支援策としてスピードを重視した結果、延命措置に過ぎず、融資にあたっての審査も簡便的でかつ企業実態を把握できていませんでした。もともと経営が行き詰まっていた企業に対しても融資されていた点も要因だといわれています。
【要因3】借り入れ後3年で無利息期間が終わる
2020年に融資を受けた企業のうち、据え置き期間の3年が経過した2023年に本格的な返済が始まりました。折しも原材料やガソリンの高騰や円安が続き、中小零細企業の資金繰りに大きな重荷となっています。
ゼロゼロ融資を返済しないとどうなるのか
借りたお金は、当然ながら返さなければなりません。返済の請求を無視すれば対応や措置が厳しくなります。取引先や従業員からの信用失墜に繋がり、ますます状況は悪くなってしまいかねません。
ゼロゼロ融資を返済しないと陥る事態は以下のとおりです。
- 支払督促を受ける
- 保証会社により代位弁済が行われる
- 訴訟や財産差し押さえの可能性もある
支払督促を受ける
金融機関からの支払い請求は、事務的で感情や例外はないと考えておいた方が良いでしょう。最初は担当者からの電話連絡で「いかがでしょうか」といった内容ですが、連絡手段が郵送になり、それでも放置しておくと内容証明郵便へ移行します。
返済できない状態が継続すると、記載されている文面も今後の取引に対する制限や心理的にプレッシャーを与える厳しい内容となります。最終的には、簡易裁判所による「支払督促」の手続きに発展しかねないため注意しなければなりません。
保証会社により代位弁済が行われる
ゼロゼロ融資は、無担保で借り入れができるのが魅力のひとつでしたが、返済が苦しい状態においては裏目に出ます。
返済の滞納が続くと、返済不能と判断した銀行(貸し手)は、融資を保証している信用保証協会に対して返済を請求します。信用保証協会は契約に従い、債務者に代わって銀行に借入額を返済しますが、この返済が「代位弁済」です。
ただし、代位弁済により借金が消滅するわけではありません。債権が銀行から保証会社(信用保証協会)に移っただけなので、以降は信用保証協会から返済を迫られます。返済方法も、月々の返済でなく一括返済が求められるのが一般的です。
訴訟や財産差し押さえの可能性も
裁判所からの「支払督促」は、法的手段です。自宅のポストには入れず、必ず手渡しでの特別送達で届きます。開封して「支払督促申立書」が入っていたら、すぐに対応しましょう。放置すると訴訟や財産差し押さえに発展する可能性があります。
ゼロゼロ融資が返済できないときの対処法
ここでは、ゼロゼロ融資の返済が難しい、もしくはできない場合の対処法についてご紹介します。
【ゼロゼロ融資が返済できないときの対処法】
- コロナ借換保証を利用する
- 事業性構築補助金の支援を活用する
- 金融機関に借り換えや条件変更を相談する
- 弁護士など専門家へ相談する
くれぐれも放置することなく、可能な選択肢の中から最適な方法を選んで対処する必要があります。
コロナ借換保証を利用する
「コロナ借換保証」は、民間金融機関で返済しているゼロゼロ融資を信用保証協会の保証付融資で借り換えができる制度です。
この制度の利用をすると、例えば以下のメリットが得られます。
- 元金の返済額を減額
- 据置期間を設定すれば、一定期間の元金返済を止められる
- あくまでも借り換えであるため、金融機関の評価に影響しない
- 増額もしくは複数の融資をまとめることも可能
金融機関および信用保証協会は、これまでの画一的な融資体制を見直し、中小企業庁が推進する「経営力再構築伴走支援ガイドライン」に基づいた経営支援を行うことを目指しています。
コロナ借換保証の利用にあたっては、金融機関と話し合いのうえ「経営行動計画書」を作成することが前提です。アクションプランに取り組んだうえで、進捗も報告しなければなりません。
事業再構築補助金の支援を活用する
コロナ禍において、これまでどおりの事業活動が停滞する中、事業転換や新規事業、異業種への進出などの取り組みを後押しする施策として「事業再構築補助金」があります。もともとはコロナ禍における中小企業支援でした。現在は、事業再構築は事業継続もしくは事業発展をめざす企業への支援として、申請に必要な要件や枠組みが都度変更されるものの継続しています。
必須要件として、以下の点を満たさなければなりません。
- 事業計画について認定経営革新等支援機関(税理士、中小企業診断士)や金融機関の確認を受ける
- 補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3~5%(申請枠による)以上増加、または、従業員ひとりあたりの付加価値額の年率平均3~5%(申請枠による)以上増加
また、申請枠によって、さらに要件を満たす必要があります。
どの申請枠を選択するかによって、申請要件や補助率、補助上限額が異なります。事業再構築補助金はいずれも一定の資本投入が必要ですが、補助額については返済の必要がないため、活用したい支援制度です。ただし、採択のハードルは決して低くはありません。
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金融機関に条件変更を相談する
経営の状態が思わしくなく、返済が難しい場合には、まずは金融機関に据置期間や返済期間の延長を相談してみましょう。
国からも金融機関に対し、据置期間・返済期間の延長や条件変更などの継続的な金融支援を行うよう要請がされています。ただし、相談しても審査に落ちてしまう可能性はあります。
ビジネスローンはリスクや金利が高いことがネックですが、不動産担保ローンであれば担保となる不動産の評価額によって金利や借入額が決まるため、比較的低い金利で資金を借りることができます。また、急な運転資金や差し迫った納税資金の確保にも役立ちます。
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弁護士など専門家へ相談する
それでも返済の見込みが立たない場合には、法的整理を検討することになるでしょう。法的整理には「民事再生」「会社更生」「特定調停」「法人破産」などがあります。それぞれの概要は以下のとおりです。
事業再生を目指した民事再生
民事再生は、民事再生法に基づく裁判手続です。債権者等の利害関係者の同意のもと、再生計画を策定し、事業を継続できるのがメリットであり特徴です。
民事再生の申立てをしたことを金融機関に通知することにより、通知後にその金融機関の口座に入金された預金については金融機関による相殺が禁止されます。そのため、債務の返済に追われることなく、資金繰りに利用することが可能です。
更生管財人による会社更生
会社更生は、裁判所が選任した更生管財人により、財産・債務を管理・処理する手続きです。更生管財人が立案した更生計画案が裁判所によって認可されると、その更生計画に従って債務を弁済することになります。
民事再生よりも厳しいルールが定められており、手続きも複雑です。主に大企業が利用することを想定している手続きです。
裁判所が間に入る特定調停
特定調停は、裁判所の調停委員が仲介役として、債務者と債権者の金銭債務にかかる利害関係の調整を図る手続きです。取引先に事業再生を実行していることを知られずに手続きを進めることができます。
会社を清算する法人破産
支払不能や債務超過となった会社について、裁判所によって選任された破産管財人が法人の財産を処分し、法人の債権者に配当することで会社を清算する手続きです。資金繰りの悩みや債権者からの取り立てから解放され、平穏な日常を取り戻せるかもしれません。再生が難しい状況であれば、借入れによる資金調達よりも、早い段階で事業を清算するのもひとつの方法です。
法的整理の必要性やどの手続きが適切なのかは個別の事情によるため、弁護士など法律の専門家に相談のうえ、具体的に検討することをおすすめします。
おわりに
予想以上にコロナ禍が長引いたことで、経済活動の再開と据置期間の終了が同じ時期に重なってしまいました。飲食店などでは、日常生活は戻ったとしてもコロナ前の顧客が戻ってくるまでにはまだ時間がかかりそうです。
ゼロゼロ融資はコロナ禍に苦しむ中小企業の資金繰りを支援するための融資でしたが、返済できずに倒産の危機にある中小企業も多いのが現状です。返済を放置するのではなくできる対策を模索し、場合によっては専門家の手を借りることも視野に入れてください。